(原題:The Runaways)映画の出来がどうだと言うよりも、扱われている題材がとても懐かしくて、それだけでも観て良かったと思った。ランナウェイズとは、70年代半ばのアメリカ西海岸で結成されたメジャーレーベル史上初の“女の子ばかりのロックバンド”のことである。ちょうど私が洋楽ロックにどっぷりとハマっていた頃に、このグループは一世を風靡していた。
当時はロックを女性がやるという例は、世界中探しても数えるほどしかなかったのだ。特にアメリカでは70年代初頭から活躍していたスージー・クアトロの他は、パンク・ムーヴメントに乗って売り出したパティ・スミスとプロンディぐらいしか思い付かない。
ランナウェイズが世に出たのはパンク・ニューウェイヴの勃興が切っ掛けとなっていたのは言うまでもないだろう。彼女たちの楽曲は特別なテクニックを要求するようなものではなく、限られたコード展開しか提示されていないのだが、勢いとパワーで聴き手を離さない。まさにパンク・ロックの方法論だ。
実を言うと、ランナウェイズは本国よりも日本で人気があった。この頃は日本のポップス・ファンのレベルは高く、クイーンもチープ・トリックもその真価を最初に見抜いたのは日本のリスナーだった。ランナウェイズも大物バンドになる可能性を秘めていたが、内紛により2年で消滅してしまった。解散後にリーダーのジョーン・ジェットが結成したザ・ブラックハーツはランナウェイズのサウンドを継承するものであったが、ブラックハーツが世界的にブレイクするのは80年代に入ってからで、このことからも日本のファンの先見性が光っていたと言える。
さて、本作はランナウェイズの結成から終焉までを追った実録もので、逆境にめげずに夢を追いかけた少女たちを描く青春映画でもある。ただしフローリア・シジスモンティの演出をはじめ、全体的にあまり深みはない。まあ、現役で活躍しているJ・ジェットをはじめ当事者たちの大半が健在なので(ドラムス担当のサンディ・ウエストだけはすでに故人だが)、突っ込んだ描写や思い切った解釈は難しいのだと思う。
それでも、純粋に音楽が好きだったJ・ジェットと基本的に跳ねっ返りの不良少女に過ぎなかったヴォーカルのシェリー・カーリーとの、性格の違いによる確執は面白く示されていた。特にシェリーのシビアな家庭環境は良く描けている。演奏シーンは申し分なく、日本公演の場面もそれほどヘンな描写は出てこないので安心して観ていられる。
主演のクリステン・スチュワートは快演で、顔つきや身のこなしなど本物のJ・ジェットにそっくりだ。「トワイライト」シリーズなどよりこっちの方が良い(笑)。シェリーに扮しているのはダコタ・ファニングだが、ついこの前まで子供だと思っていたらいつの間にか高校生の年代になっていたのには(←当たり前だが ^^;)驚いた。下着姿で大胆演技に挑んでいるが、今後も役柄を広げて欲しい。プロデューサーのキム・フォーリーを演じるのマイケル・シャノンも好調。さらにはシェリーの母親役にテイタム・オニールまで出てくるのだから、かつての青春映画のファンには喜ばれよう。