(原題:Une vie toute neuve )正直、それほど良い映画とは思えない。昨年度(2010年)のキネマ旬報誌のベストテンに入った作品群の特集上映の一つで、私は見逃していた映画だし、ちょうどいい機会だと思って鑑賞したのだが、何とも不満の残る結果となってしまった。
確かに冒頭部分は印象的だ。1975年、全州に住む9歳のジニ(キム・セロン)は父親に連れられて旅行に出掛けたつもりだった。しかし着いたところはソウル郊外のカソリックの児童養護施設。お土産の大きなケーキを所員に渡した父はさっさと出て行く。ジニは捨てられたのだ。
映画は父親の顔をハッキリとは映さない。ただ、久々の父親との遠出に無邪気にはしゃいでいたジニの姿を丹念に追うのみである。どういう事情があるのか知らないが、可愛い子を犬や猫を捨てるかのごとく放り出すこの父親に対しては、怒りしか感じない。しかも、ジニを預けた後にすぐさま転居し、完全に親子の縁を切ってしまうという徹底ぶり。
この映画は韓国からフランス人の養子になった女流脚本家のウニー・ルコントの自伝的作品だ。つまりは描かれていることは事実に則している。演出もルコント自身であり、父親の描写は人間ここまで冷酷になれるものかという絶望感が横溢している。画面の緊張感も高い。
しかし、ジニが養護施設で過ごす日々には、別に特筆すべきエピソードはない。上級生のスッキ(パク・ドヨン)をはじめとする他の児童との関係は、丁寧に撮られてはいるが、ありがちな描写に終始している。
ケガをした小鳥をめぐるくだりも、何やら「禁じられた遊び」や「ポネット」などからの借用じゃないかと思ってしまった(ルコントがフランスで育ったことも、ひょっとしたら関係しているのかもしれない)。もっとドラマティックなシークエンスを用意してもよかったのではないか。フィルム撮りではないせいか、画面が平板であるのも気になった。
資料によると、韓国からの海外養子縁組は朝鮮戦争の際に養護施設を通じて行われたらしい。総計20万人とも言われる子供が見知らぬ異国での生活を強いられることになったと聞く。国情が不安定になると、その歪みは子供などの弱い者達を直撃するのだ。実に理不尽なことである。