昨年(2010年)に設立されたばかりの国内ガレージメーカー、SPECのプリメインアンプも試聴することが出来た。RSA-F1とRSA-V1の2台だが、どちらも大手メーカー品と見まごうばかりの立派な外観だ。しかも両方ともデジタルアンプで、図体が大きい割に発熱も消費電力も少ない。
ただしRSA-F1は120万円を超え、RSA-V1でも50万円近い。いわゆるデジタル臭さのない、フラットで高駆動力の機器だということは分かるが、同価格帯の他社製品と聴き比べてみないとユーザーサイドとしては購入対象にするわけにはいかないだろう。
会場ではオーディオ機器に加えてAVシステムのデモンストレーションも行われていた。今回の目玉は3D仕様をフィーチャーしたプロジェクターで、VICTORと三菱、そしてSONYの製品がエントリーされていたが、3D映像は予想以上にアピール度が高いので驚いた。近くで見ればヘタな映画館を上回るクォリティだ。
プロジェクターの機種ごとに偏光メガネの規格が違うので、プログラムが進むたびに掛け替えなければならなかったが、将来は統一される動きがあるという。そしてそれは映画館での映写システムをもカバーできるということで、自分用の偏光メガネを所有して家庭でも劇場でも使えるような時代が来るかもしれない。
最後に印象に残ったことを二つ挙げたい。一つ目は、中古品コーナーに置かれていた80年代後半の国産スピーカーである。30センチのウーファーを搭載し、サイズはデカくて死ぬほど重い。あの頃はこういう仕様の製品を(どのメーカーも)一本59,800円で売っていたのだ。
今から見ればとても採算が取れないような物量投入だが、十分ペイするだけの需要があった。しかし、音色の多様性や使う者の住宅事情を考えない大型機種の氾濫は、景気が悪くなると共に多くのオーディオブランドもろとも消え失せる背景をも形成していた。まるでバブル期の“夢のあと”を感じさせる出で立ちでそのスピーカーは会場の片隅に鎮座していたが、また誰かの部屋で鳴る日が来るのだろうか。
もう一つは、TRIODE社のブースに展示してあった真空管アンプである。上面に傷が付いているために、おそらくは定価よりもずっと安い値札が貼られていた。説明書きを読むと、東北地方のショップで“被災”したのだそうだ。震災は人的被害と共に莫大な物的損傷も引き起こしているが、(キズ物の電化製品を目にしたぐらいで何だそりゃと言われそうだが)その片鱗を見てしまったようで慄然とする思いがした。一刻も早い復興を願わずには居られない。なお、そのアンプには売却済のレッテルが付けられていた。新しい持ち主のもとで元気な音を聴かせてくれることだろう。
(この項おわり)