goo blog サービス終了のお知らせ 

元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

真山仁「マグマ」

2011-04-26 06:38:16 | 読書感想文
 原子力発電の危険性が取り沙汰されている現在であるからこそ、是非ともチェックしたい本だ。外資系投資ファンドに勤める若手キャリアウーマンが、某特殊法人の再生を命じられる。その会社は、地熱発電のデベロッパーだった。太陽光や風力といった新エネルギーの陰で無視されてきた地熱発電のリエンジニアリングに、なぜ今取り組むのか。やがて彼女の前に、政財官の思惑が錯綜する重い現実が立ちふさがる。

 地熱発電の欠点は、せっかくスイートスポットを掘り当ててもバルブがすぐに詰まってしまうこと、そして立地候補のほとんどが国立公園内にあるため、環境アセスメントの策定が困難を極めること・・・・という事実ぐらいは私も知っていたが、本名ではさらに突っ込んだ説明が成されている。

 さらに、海外の投資銀行がどのようにして“カネの臭いがする場所”を探り当て、収益をかすめ取っていくかも具体的に知ることが出来る。外資系企業の人事メソッドが説明されているのも興味深い。

 だが、それ以前に本書が魅力的なのは、新エネルギーの開発に邁進する人々の矜持が鮮やかに描かれている点である。我が国は原発に簡単にダメージを与える地震の巣であると共に、世界有数の火山国でもある。私達の足の下には、無尽蔵のエネルギーが存在しているのだ。もちろん題名の「マグマ」とは、日本の産業界のあるべき姿を追い求める登場人物たちの熱い心の象徴でもある。やがてヒロインが“公”に目覚め、地熱の開発に一生を捧げようと決心するくだりは感動的だ。

 「ハゲタカ」や「ベイジン」で知られる真山仁の筆致は達者そのもので、ぐいぐいと引き込まれていくパワーがある。それほどの長編ではないので終盤が若干駆け足になってしまうのは仕方がないが、脱原発が叫ばれる今、次世代エネルギーを考える上で読む価値は十分にある力作である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする