演出ダメ、脚本ダメ、演技もダメ、まさに三拍子揃った駄作である。1967年の小学館の入社式を描く冒頭、看板作家の赤塚不二夫が「おそ松くん」のイヤミの姿で現われ、社員全員に“シェー!”のポーズをさせようとするが、その強引さにブチ切れた新入社員の初美が赤塚の顔面にパンチをお見舞いしてしまうあたりまでは良かったが、その後は完全に腰砕けになる。
少女漫画雑誌の編集部勤務を希望していた初美だが、何の因果か少年サンデーのスタッフとして赤塚の相手をさせられてしまう。赤塚をはじめとするフジオプロの変態どもに手を焼きながらも、やがて彼女は次第にギャグ漫画の“真髄”を理解するようになる・・・・と書けば面白そうだが、実際はまるで映画になっていない。
赤塚がどういう人間で、なぜヒロインがそれに惹かれていったのか、全然描写されていないのだ。相手がただの変態だったら初美の側からすれば面白がっているだけで良いのかもしれないが、いちおうこれはビジネスの場だ。天才肌の作家とカタギの勤め人とが、対立と妥協を繰り返してギリギリのところで歩み寄る姿をシビアに映し出さないでどうするのか。変態ごっこに付き合っていたら何となく共感し合えるようになりました・・・・という安易な筋書きを提示してもらっては困る。
さらに、赤塚の母親と女房との関係性を描くパートは完全な“説明過多”の状態で、観ていて鼻白むばかり。もちろん、赤塚の作品に掛ける想いも御題目だけを並べるばかりで何らこちらに迫ってくるものがない。
さらに、大々的に挿入される変態プレイの数々も、段取りとリズムが悪くて全然笑えない。テレビのお笑い番組にも劣るレベルだ。クライマックス(?)の温泉宿での大乱闘シーンも、作者一人が楽しんでいるだけで、画面には隙間風が吹きまくっている。この監督(佐藤英明)は無能だ。
赤塚に扮する浅野忠信はフ○チンで頑張ってはいるが(笑)、演出がダサいので奮闘も空回りするばかり。初美に扮する堀北真希は、ハッキリ言って最悪だ。彼女はまったく演技が出来ない。表情が硬く、身体も硬い。セリフは上滑りで、完全に浮いている。いくら見かけが可愛くても、このままでは女優生命は長くないだろう。
そもそも小学館の赤塚の担当は男性だったのだ。どうして役柄を女に設定したのか分からない。木村多江もいしだあゆみも手持ち無沙汰の様子だったし、まあまあ良かったのは無手勝流の編集長を演じた佐藤浩市ぐらいだ。
当時の少年漫画を取り巻く状況や、全共闘の動きなどの時代背景も取って付けたような感じだし、ライバルの講談社との確執も通り一遍の描き方しかされていない。とにかく、どこをどう見ても鑑賞する価値はまったくない映画であり(客の入りもサッパリだ)、製作にゴーサインを出した映画会社は猛省すべきである。