元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「インソムニア」

2011-05-13 06:04:30 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Insomnia)クリストファー・ノーラン監督が2002年に撮った本作は、彼の他の作品とは違い脚本をノーラン自身が手掛けていない(シナリオは新人のヒラリー・サイツが担当している)。だから彼の資質が十分発揮されていないとの危惧が当然あったのだが、作品を観る限り、それはある程度は杞憂に終わったと言っていいだろう。

 ただし、メジャーデビューで作家性を100%展開させてくれるほどハリウッドは甘くないのも事実である。前二作の「フォロウィング」「メメント」のように作劇を時系列的にバラバラにして観客を幻惑させるというテクニックこそ使っていないが、捜査の過程で誤って同僚を射殺して、それを真犯人に見られてしまうという失態から不眠症に陥るベテラン刑事(アル・パチーノ)は「メメント」でのアイデンティティの喪失に悩む主人公像に通じるものがある。

 全体を覆う不安なムードの造出にも抜かりはない。ただし、活劇場面を伴う終盤のドラマ運びはフツーの刑事物のルーティンでしかなく大いに不満。あと1,2回のヒネリが欲しいところである。

 珍しく悪役に回ったロビン・ウィリアムズは余裕たっぷりだが、サイコ・キラーではないのでイマイチ凄みに欠ける。女刑事を演じるヒラリー・スワンクは別に彼女でなくてもいい役どころ。でも「ボーイズ・ドント・クライ」のエキセントリックな役柄よりは数段好感が持てる。それにしても、白夜が支配するアラスカの夏の風景は実に素晴らしい。これを見るだけでも入場料金のモトは取れるだろう。
コメント
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