元・副会長のCinema Days

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「ヒトラーの忘れもの」

2017-01-23 06:38:36 | 映画の感想(は行)

 (原題:LAND OF MINE)乱暴な言い方かもしれないが、本作に似ている映画を挙げるとすれば、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の「恐怖の報酬」(53年)だと思う。いつ地雷が爆発するか分からない恐怖そして緊迫感が全編に横溢しており、ハイレベルのサスペンス空間を創出する。とにかく、見応えたっぷりの秀作だと思う。

 1945年5月にナチス・ドイツが降伏し、ヨーロッパでは第二次大戦は終わりを告げた。しかし、戦争中にドイツ軍はデンマークの西海岸に200万個もの地雷を埋めていた。その撤去に駆り出されたのが捕虜のドイツ兵たちだった。大半が10代の少年兵であり、申し訳程度の爆弾処理訓練を受けた後、ただちに命がけの作業に当たらねばならなかった。

 海沿いのある村で指揮を執っていたデンマーク軍の軍曹ラスムスンは、戦時中のドイツ軍の狼藉を忘れてはいない。いくら少年兵といっても、相手はかつてのドイツ軍の一員だ。ロクに食事も与えないまま毎日浜に向かわせ、辛く当たる。作業が進む中、地雷の暴発や撤去失敗により、少年たちは次々と命を落としていく。彼らのそんな不憫な姿を見るうちに、ラスムスンは頑なな自身の態度を改めるようになる。だが、彼のそんな思いとは裏腹に、事態は逼迫していくのだった。実話に基づいており、第89回米アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表に選出されている。

 とにかく、不運にも地雷が爆発してしまうタイミングと段取りが“絶妙”だ。序盤の、訓練時の暴発の場面は(予想は付いていても)かなりの衝撃。ドイツ軍も地雷を通り一遍に設置したわけではなく、除去作業の裏をかくようなトラップも仕掛けられており、それが発動するシーンのショックは筆舌に尽くしがたい。

 さらに、少年兵の一人が窮地に陥っていても(周りに地雷が埋まっているため)別の者が容易に助けに行けない掻痒感は、観る者の心胆を寒からしめる。また、少年兵は作業に入る前から空腹と絶望と望郷に苛まれており、そのシビアな境遇の描出は身を切られるようだ。

 軍曹は非道でもなく、少年兵たちが悪いわけでもない。デンマーク軍の上官たちが特別阿漕なことをしているのでもない。本来平和に大過なく暮らしていけたはずの彼らの人生を、容赦なくねじ曲げる戦争という名の不条理。その歴史の真実が、重くのしかかっていく。それだけに、ラストの扱いは御都合主義的に見えようとも、違和感が無くスッと受け入れられる。

 マーチン・ピータ・サンフリトの演出は余計なケレンに走らず、対象を冷静に見つめるスタンスに好感が持てる。第28回東京国際映画祭に出品され、ラスムスンを演じたローラン・モラーと、少年兵の一人を演じたルイス・ホフマンが最優秀男優賞を受賞しているが、それも頷けるほどの好演だ。カミラ・イェルム・クヌーセンのカメラによる、北欧の海辺の茫洋とした風景。スーネ・マーチンの音楽も印象的だ。
コメント
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