元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「トゥルー・クライム」

2017-01-14 06:30:31 | 映画の感想(た行)
 (原題:True Crime)98年作品。2016年のキネマ旬報ベスト・テンの外国映画第一位はクリント・イーストウッド監督の「ハドソン川の奇跡」だったが、私は観ていないし観る気もない。個人的には同監督の生温くて隔靴掻痒な演出タッチ(ごく一部の作品は除く)には共感するところが無く、数年前から観るだけ損だと見切っているからだ。本作も評判は良かったが、実際観てみるとイーストウッド作品への忌避感が増加するだけだった。

 カリフォルニア州オークランドの地元新聞に勤めるベテラン記者スティーヴ・エヴェレット(イーストウッド)は、昔は敏腕だったが今は酒癖と女癖の悪さで社内でも煙たがられている。ある日、彼は編集長から翌日に刑執行が決まった死刑囚フランクの取材を命じられる。もっともこれはエヴェレットを見込んでのことではなく、不慮の事故で急死した担当者の代役に過ぎなかった。



 気乗りしなかった彼が事件の詳細を調べると、証拠と証言に重大な誤りがあるのを発見。しかも事件のカギを握る証人は出廷していない。無罪を確信したエヴェレットは久しぶりに記者魂が燃え上がるのを感じ、デスク相手に逆転無罪のスクープをモノにすると大見得を切る。だが、処刑の時刻は迫るばかり。果たしてエヴェレットはフランクの命を救うことができるのか。

 話の前提に無理がある。今まで何も知らなかった記者が、たった一日で死刑囚を救うというのは噴飯物だ。窓際記者が簡単に見破るような証拠の不備を、正規の担当記者やデスクが察知出来ないはずがない。そもそも、それまでいい加減な生活を送っていた男が簡単に熱血ジャーナリストに転身するという筋書きがおかしい。

 当時すでにかなりの年輩であったイーストウッドが女たらしというのも、違和感が満載。劇中では主人公の幼い娘も出てくるが、どう見ても子供ではなく孫である(笑)。同僚や上司との駆け引きも表面的で鼻白むばかり。とにかく“自己陶酔型(精神的)マッチョおやじ”(?)の面目躍如ってとこで、手垢にまみれたネタを得々と自己満足風に綴るのみだ。

 演出のキレは最悪で、始まって5分で退屈してしまう。イサイア・ワシントンやリサ・ゲイ・ハミルトンといった脇の顔ぶれもパッとせず、脱力感しか残らない。話は戻るが、今やイーストウッド監督作を評価しているのは日本だけではないのか。「ハドソン川の奇跡」なんかアチラでは賞レースの末尾にも引っ掛かっていない。映画の好みは人それぞれだが、ドラマの構築力に瑕疵のある作家が持ち上げられているという現状は、何とも釈然としない気分になる。
コメント
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