元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ベトナムを懐(おも)う」

2017-10-01 06:51:10 | 映画の感想(は行)
 (英題:Hello Vietnam )アジアフォーカス福岡国際映画祭2017出品作品。2017年製作のベトナム映画である。序盤は小規模なホームドラマと思わせて、次第に舞台が広がり、終わり近くには堂々たる大河ドラマの様相を呈してくる。しかも、わずか88分の上映時間の中に多角的な視点を取り入れながら、分かりやすく重層的なストーリーを展開している巧みさに感心した。

 95年、真冬のニューヨーク。老人ホームに入所しているベトナム人のトゥーは、亡き妻の命日を過ごすため勝手に外出し、難民として米国に渡った息子とアメリカで生まれた孫娘の暮らすアパートに向かう。雪の中を延々歩いてやっとたどり着いてみると、孫娘はボーイフレンドとイチャついている真っ最中。しかも息子は理不尽な残業を強いられ、まだ帰宅していない。戸惑う孫娘に構わずトゥーは勝手に友人と法事を始めてしまう。彼氏との時間を台無しにされた孫娘は憮然とするが、祖父は彼女に自分の若い頃を語って聞かせる。



 寒々としたニューヨークの風景から、天国的に美しいベトナムの田園地帯に移行する、そのコントラストが素晴らしく効果的だ。トゥーは金持ちの友人と恋人を奪い合い、やっと彼女との結婚にこぎつけるが、生まれた長男が家を出て妻も病死すると、一人になってしまう。その長男はボートピープルになって辛酸を嘗め、九死に一生を得てアメリカに行き着く。老父をアメリカに呼び寄せるが、そのために家庭は崩壊。生活も楽ではない。孫娘は父や祖父とのカルチャーギャップに悩んでいる。どうして上の世代と分かり合えないのか、まるで理解できない。

 そんな彼らがそれぞれの心情を吐露し、衝突しながら、何とか折り合いを付けていこうという終盤の展開は実に見応えがある。そして、親子三代の物語がベトナムの苦難の歴史とシンクロし、映画は奥行きを増していく。逆境にあえぎながら、必死に自分たちのアイデンティティを模索する登場人物達の姿は、観る者の胸を打つ。

 愁嘆場から再びベトナムの地にカメラが向かうラストは、素晴らしい開放感と浮遊感を醸し出して絶品だ。グエン・クアン・ズンの演出は粘り強く、序盤こそまどろっこしい部分があるが、ここ一番の集中力には瞠目させられる。一般公開を強く望みたい秀作だ。
コメント
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