元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幼な子われらに生まれ」

2017-10-07 06:29:56 | 映画の感想(あ行)

 原作者である重松清の著作、及びその映画化作品に感心したことは一度も無い。本作の元ネタの小説は未読だが、出来上がった映画はやっぱりつまらない。とにかく、掘り下げが不足しており底が浅い。わざとらしい御膳立てを、さもリアルな一大事の如く演出してみせるだけだ。キャストの熱心な仕事ぶりが印象的なだけに、鑑賞後の脱力感は大きい。

 中年サラリーマンの信と妻の奈苗はそれぞれ離婚歴があるが、奈苗の連れ子である2人の娘と共に取り敢えずは平穏に暮らしていた。そんな中、奈苗の妊娠が発覚。すると小学校6年生の長女・薫が“本当のパパに会いたい”と言い始め、信は困惑する。奈苗の前の夫の沢田は乱暴者で、彼女は苦労の末にやっと別れたのだった。一方、信の前の妻・友佳の夫が難病で余命幾ばくも無いことを彼は知ることになる。友佳との間に出来た娘・沙織にもあまり会えなくなり、信の心労は増すばかりであった。

 沢田は絵に描いたようなDV野郎で、友佳は信に何の相談もせずに勝手に子供を堕ろし、挙げ句の果ては“あなたは私に理由ばかり聞くけど、私の気持ちをちっとも察してくれない”などという無茶苦茶な言い訳を平気で口にする困った女だ。つまりは主人公達の前の配偶者はロクでもない人間だったわけだが、そんな極端な設定で今の信と奈苗の関係を相対化して何とかマトモに見せようという、その安易な姿勢が気に入らない。まるで昔の昼メロみたいな、複雑なヨソの家庭事情を興味本位で覗くような下世話なシチュエーションではないか。

 加えて、やたら粘着質な奈苗の態度や、ゴネて周囲を嫌な気分にさせる薫の存在も、正直鬱陶しい。そんな環境の中、一人でオロオロする信の立場には同情はするが共感はしない。結局、真人間は寝たきりで言葉を発しない友佳の再婚相手だけだったという、憮然とするようなオチが待っている。何となくまとめてしまおうという、ラストの処理にもウンザリした。

 監督の三島有紀子は「しあわせのパン」(2012年)のようなノホホンとした映画はこなせても、本作のような(一見)ハードな題材に合っている人材とは思えない。信を演じる浅野忠信をはじめ、田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶ等、顔ぶれは多彩でそれぞれ頑張ってはいるのだが、筋書き自体が斯様に低レベルでは評価出来ない。

 それにしても、舞台が東京(およびその周辺)であるにも関わらず、信と奈苗が住む団地は西宮市の名塩ニュータウンでロケされているというのは、どうも違和感がある。斜行エレベーターの映像的効果を狙ったと思われるが、これも作為的に過ぎる。
コメント
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