元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドリーム」

2017-10-16 06:31:31 | 映画の感想(た行)

 (原題:HIDDEN FIGURES)とても面白かった。人種問題に代表される時代の一断面を鋭く描きながらも、語り口は明るく、娯楽性たっぷりだ。取り上げられた題材もすこぶる興味深く、退屈するヒマもなくスクリーンに向き合える。本年度のアメリカ映画の収穫であると思う。

 1960年代初頭、アメリカとソ連は冷戦状態の中、熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた。ヴァージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究所の計算センターに勤務するキャサリンは、天才的な数学の才能を持っていたが、黒人であるため出世の道は閉ざされていた。しかし、ひょんなことから働きを認められた彼女は、黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に配属される。だが、そこに待っていたのは同僚達の冷たい視線とあからさまな差別だった。一方、計算センターの管理職を目指すドロシーとエンジニアを志すメアリーも、理不尽な環境にもめげずに夢を追い続けていた。やがて3人はその才覚で逆境を跳ね返し、NASAにとって重要な人材になってゆく。マーキュリー有人飛行計画に関与した黒人女性たちの功績を追った実録物だ。

 当時の人種偏見の実態は、かなりヴィヴィッドに描かれる。宇宙特別研究本部には有色人種用のトイレは無く、キャサリンは用を足すため遠く離れた敷地内の別棟まで走らなければならない。職場内のコーヒーカップは同僚と明確に“区分け”され、せっかく資料を作っても手柄は白人の若造が横取りしてしまう。もっとも、当時のNASAは実際それほど酷い差別は存在しなかったようだが、時代の“空気”を再現する意味ではモチーフとして有用で、これらの描写はさほど問題にはならないと思う。

 本作の美点は、これほどまでにシビアなネタを扱っていながら、作風がとことんポジティヴであることだ。彼女たちは、何があってもめげない。逆風なんかユーモアとウィットで笑い飛ばし、生きることを楽しもうとしている。

 序盤、車がエンストして定時に職場に着くことが難しくなった3人を手助けしたのは、彼女たちがNASAに勤務していることを知った白人の警官であった。いくら差別が蔓延っていても、物事の本質を見ている人間は少なからず存在し、努力は必ず報われるというスタンスを作者は全く崩していない。

 キャサリンは夫を亡くし幼い子供を抱えて苦労しているが、やがてそんな頑張り屋の彼女を見初めた素敵な恋人が現れる。ドロシーやメアリーも、家族や仲間に恵まれて心置きなく目標に向かって邁進してゆく。それらが単なる御都合主義ではなく、主人公たちにとって“必然”であるかのように観る者に納得させる求心力が全編にみなぎっている。

 セオドア・メルフィの演出は堅実で、ドラマ運びに淀みがない。主人公を演じるタラジ・P・ヘンソンやオクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイの3人のパフォーマンスは実に達者で、脇を固めるケヴィン・コスナーやキルステン・ダンスト、マハーシャラ・アリらも良い味を出している。マンディ・ウォーカーのカメラによる南部らしいこってりとした色遣いが印象的な映像、そしてハンス・ジマーと共に音楽を担当するファレル・ウィリアムスとベンジャミン・ウォルフィッシュがナイスな楽曲を提供している。

 人を外観や出自だけで判断してしまうと、彼女たちのような優秀な人材を見い出せず、結局は業務に支障を来してしまうのだ。差別は道徳的にはもちろん、ビジネス面・経済面でも有害であることを改めて痛感する。
コメント
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