(原題:Norma Rae )79年作品。サリー・フィールドにアカデミー主演女優賞をもたらした映画で、出来自体も申し分ない。思えば70年代後半に“女性映画”のブームがあったのだが、別に明確なコンセプトに則ったムーブメントだったわけではなく、日本の関係会社が勝手に命名したものだったようだ。本作もその流れで公開されたようなものだが、若干の“トレンディっぽさ”や“アート系”などの趣を纏っていた他の作品群とは違い、正面からの社会派であったことは当時としては特徴的だったと思われる。
アメリカ南部の田舎町(ロケ地はアラバマ州東部のオペライカ)に暮らすノーマ・レイは、2人の子供を育てながら紡績工場で働シングルマザーだ。両親も同居しており、余裕のある生活とは言えないが、それなりに平凡で大過ない日々を送っているつもりだった。あるとき、彼女は全米繊維産業労働組合から派遣されてきたルーベン・ワショフスキーと出会う。各地を訪問し、工場に労働組合を結成しようとするルーベンの主義主張に興味を持ったノーマは、自分や仲間が今置かれている状況が決して恵まれたものではないことに気付いてゆく。やがてルーベンと共に労働組合結成に向けて動き出す彼女だったが、会社側は露骨な妨害工作を仕掛けてくる。
原作ものではなく、実録映画でもない。完全なオリジナル脚本による作品ながら訴求力がとても高いのは、ヒロインの環境が普遍的だからだ。アメリカのこの時代だけの話ではなく、現在のあらゆる地域に通じる構図が提示されている。それは、無自覚な一般ピープルが強者に搾取されているという、身も蓋もない事実だ。皮肉なことに、この光景は今ではアメリカよりも日本の方が顕著に見られるのだ。バブル崩壊以後、経済が上向かない原因の一つがそれである。
さて、本作ではノーマの人物像と生活様式の描写に浮ついたところが無く、どこでもいそうな女性が思いがけない邂逅により社会性に目覚めていく様子が、丹念に綴られている。彼女が工場内で捨て身の行動を起こす場面は感動的だ。また、ノーマはルーベンと仲良くなりながら、互いに男女の関係にならないところが秀逸で、純粋な“同士”という間柄は納得出来る。彼女は意気投合したソニーと再婚するのだが、この相手も一見ガサツでありながら、実は付き合うに値するような人物としてクローズアップされるのも気分が良い。
監督のマーティン・リットは元々リベラルなスタンスの作家らしく、この映画でもそれは窺えるが、決してイデオロギー先行の姿勢ではなく、的確にプロットを積み上げているあたりは好感が持てる。サリー・フィールドは万全の演技。ロン・リーブマンにボー・ブリッジス、パット・ヒングル、バーバラ・バクスレーなど脇の面子も言うことなし。ジョン・A・アロンゾのカメラによる美しい映像、ジェニファー・ウォーンズの主題歌も心にしみる。