元・副会長のCinema Days

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「対外秘」

2024-12-09 06:30:15 | 映画の感想(た行)
 (英題:THE DEVIL'S DEAL)イ・ウォンテ監督の前作「悪人伝」(2019年)ほどバイオレンス場面は多くはないが、この新作もヴォルテージは高い。作劇には荒っぽいところも見受けられるものの、展開は予測不能で緊迫感があり、エンドマークが出るまで引き込まれてしまう。こういうネタを扱えば、最近の韓国映画は無類の強さを発揮するようだ。

 92年、釜山の地方議員のヘウンは次期総選挙での大手政党の公認を約束され、出馬を決意する。しかし土壇場になって、フィクサーとして裏で権力を振るうスンテが自分の言うことを聞きそうな別の男に公認候補を変えてしまう。激怒したヘウンは、スンテのそれまでの悪行を記した極秘文書を手に入れて反転攻勢に打って出ると共に、ヤクザのボスであるピルドから選挙資金を得て無所属で出馬。スンテも黙ってはおらず、仁義なき選挙戦は果てしなく続く。



 とにかく、出てくるキャラクターが濃い。ヘウンは党公認を期待していた序盤こそコメディ的で軽量級の扱いだが、スンテに正面から対峙する中盤からは腹黒さがクローズアップ。悪徳政治家としての凄みが出てくる。スンテも目的のためならば人の命など屁とも思わない悪党で、この2人に比べればヤクザのピルドは青臭く見えるが、それでも凶暴さは遺憾なく描かれる。報道倫理など完全無視のマスコミ連中も含め、全員がワルだ。最後まで正義が反映される局面は無い。

 くだんの極秘文書をめぐるやり取りはあまりスマートとは言えず、後半のバタバタした展開は気になるが、それでも本作の吸引力は大したものだ。ストーリー自体はフィクションだが、92年といえば韓国で初めて大統領選挙と総選挙が同時に行われた年ということで、軍人出身ではない金泳三大統領が誕生したことも含めて、激動の時期であったらしい。映画で描かれたことが絵空事とは思えないのも、時代設定を吟味したイ・ウォンテ(脚本も担当)の手柄だろう。

 へウンに扮するチョ・ジヌンは、いかにも抜け目のない俗物を上手く演じている。スンテ役のイ・ソンミン、ピルドを演じるキム・ムヨル、いずれも満足出来るパフォーマンスだ。余談だが、今でこそ釜山広域市は韓国第2の大都市として知られているものの、90年代前半まではオリンピックを開催したソウルに随分後れを取っていたらしい。本作は釜山の発展前夜を取り上げたということで、その混沌とした状況も映画のアクセントになっていると思う。

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