猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

人間の境界

2024-05-24 21:49:00 | 日記
2023年のポーランド・フランス・チェコ・ベルギー合作映画「人間
の境界」を観に行った。

幼い子供を連れたあるシリア人家族は、ベラルーシを経由してポーラ
ンド国境を越えれば、ヨーロッパに入ることができるという情報を信
じて祖国を脱出する。しかし亡命を求めてポーランド国境の森まで辿
り着いた彼らを待ち受けていたのは、武装した国境警備隊だった。一
家は国境警備隊に非人道的な扱いを受けてベラルーシへと送り返され、
更にベラルーシではポーランドに向けて再び強制移送される。

シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点か
ら描き出す群像劇。監督はポーランドの名匠アグニエシュカ・ホラン
ド。ポーランド政府は2021年9月、EU諸国への亡命を求める人々で
あふれるベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。ベラルーシ
から移送される難民を受け入れ拒否した上強制的に送り返し、ジャー
ナリスト、医師、人道支援団体らの立ち入りも禁止した。入国を拒絶
された難民たちは国境で立ち往生し、極寒の森をさまよい、死の恐怖
にさらされた。
こういうことが行われていたのは知らなかった。難民の問題は世界で
大きな問題となっているが、具体的なことは知らない。この映画では
数組のシリア人家族やアフガン女性などが亡命を求めてポーランド国
境を訪れる。ところがそこにいたのは武装した国境警備隊だった。ど
んなに怖かっただろうかと思う。国境警備隊は彼らに暴行し、迫害を
し、非人間的な扱いをし、笑っている。どうしてこんな人たちがいる
のだろうか。同じ人間だと思えないのだろうか。
子供たちを連れたシリア人のバシール(ジャラル・アルタウィル)は父
親(モハマド・アル・ラシ)と違って神に祈ることもしない。森に残さ
れて絶望しているのだ。子供たちは無邪気にアフガン女性から英語を
習ったりしているが、こういう環境下では大人の方が辛いだろう。人
道支援団体のユリア(マヤ・オスタシェフスカ)たちも命がけである。
ユリアは1度警察に捕まり、裸にされて検査されるという非人道的な
扱いを受ける。そして支援団体が頑張っても、人は死んでいく。彼ら
にはどうにもできない日常的な死がそこにはある。
国境警備隊のヤン(トマシュ・ヴウォソク)は任務に誇りを持っている
が、一方で辞めたいという気持ちもある。彼の妊娠中の妻も辞めて欲
しいと思っている。しかし結局は自分の任務を全うするしかできない。
ヤンのもどかしさも痛いほどわかる。寒さに凍え暴行され死んでいく
人々の姿を見るのは本当に辛い。何故彼らがそんな目に遭わなければ
ならないのだろう。悲しいシーンは胃が痛くなる。平和な国に生まれ
たことを心から感謝したくなる。アグニエシュカ・ホランド監督は女
性ながら骨太の社会派作品を撮る人だ。今観るべき1本だと思う。


良かったらこちらもどうぞ。アグニエシュカ・ホランド監督作品です。
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コメント (2)
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