福田村事件

2023年の日本映画「福田村事件」を観に行った。

1923年、澤田智一(井浦新)は教師をしていた日本統治下の京城
(現・ソウル)を離れ、妻の静子(田中麗奈)と共に故郷の千葉県福
田村に帰ってくる。澤田は日本軍が朝鮮で犯した虐殺事件の目撃
者であったが、静子にもその事実を隠していた。その年の9月1日、
関東地方を大地震が襲う。多くの人々が大混乱となり、流言飛語
が飛び交う。不安にかられる人々は自警団を結成し朝鮮人と見な
した人を殺害するようになる。そんな中、9月6日、香川から関東
へやってきた沼部新助(永山瑛太)率いる薬の行商団15名は些細な
トラブルから自警団に取り囲まれてしまう。

関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件、福田村事
件を描く。監督は森達也。日本統治下の朝鮮で日本軍による虐殺
事件を目撃した澤田智一は、教師を辞めて妻の静子と共に故郷の
千葉県福田村に帰っていた。同じ頃、沼部新助率いる薬売りの行
商団15人は香川から関東地方に向けて出発していた。9月1日、
空前絶後の地震により家屋は倒壊し火災が発生、多くの犠牲者が
出た。震災による混乱と朝鮮独立運動が起きてからマスコミが政
府指導の元「朝鮮人が略奪や放火をした」「朝鮮人が集団で襲っ
てくる」といったデマを流す。
不安にかられる人々は自警団を結成し、朝鮮人と見なした人を殺
害するようになる。澤田は村長の田向(豊原功補)から「子供たち
のためにもう1度教師をやってくれないか」と頼まれるが、「教
師はもうやらない。百姓になる」と言う。しかし澤田は農作業に
はまるで向いていなかった。妻の静子はお嬢様育ちで教養があっ
て上品だが、それ故村では浮いた存在だった。そして澤田は4年
前から性的不能になり、夫婦の関係は壊れかけていた。
関東大震災の直後の混乱の中で、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込ん
だ」といったデマが流れ、多くの朝鮮人が殺害されたというのは
聞いたことがある。井戸に毒などというのはもちろんデマだろう
が、混乱の中で朝鮮人が略奪や強姦を行った、というのもまた事
実のようである(というのも聞いたことがある)。そんな中で新助
たち薬売りの行商団は、讃岐弁で話していたために「言葉が違う
」と自警団や村人たちに目をつけられ、朝鮮人ではないかと思わ
れてしまう。
そして新助と舟の渡し守の小さな口論に端を発した行き違いによ
り、興奮した村民の集団心理に火がつき、後に歴史に葬られる虐
殺が起こってしまう。行商団15人のうち、妊婦や子供など9人が
殺されてしまったという。彼らが持っていた鑑札を警察が調べて
いたが、日本人だと証明される前に自警団や村人たちに朝鮮人だ
と誤解されて殺害されたのである。「日本人だったらどうするん
だ」と止める者もいたが、人々が冷静になることはなかった。
行商団はどうやら被差別部落の人たちだったようで、自分たちの
ことを「エタ」と呼んでいた。印象的だったのは行商団の中で1
番若い13歳の少年が、「エタと朝鮮人ってどっちが下なんやろ
か」と無邪気に言っていたシーンだ。そして、エタは死んでもエ
タなのだと。虐殺のシーンはそんなに目を背けたくなるようには
描かれていない。けれどもすごい映画を観た、という気持ちにな
った。これは日本人は観るべき映画なのではないかと思った。ま
さに歴史の闇である。ラストシーンの少年の顔が忘れられない。




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