第8話
『世界に誇る自然遺産を守れ!!
住民訴訟驚きの真実』
『その森はこの星に残された奇跡だという。
僅かな面積の中にこれほど多くの希少種が
共生する地は世界に例を見ない。
“おざおざ” それは“神の息吹”という意味だ。
彼らは電気も極力使わない。
森の薪で炊いた米の方がウマく、
森から吹く風の方が涼しく暖かいからだ。
森に恵みを受け森を守り森と調和する。
世界天然財産おざおざの森と奥蟹頭集落。』
古美門事務所に黛と羽生が来ていた。
奥蟹頭でちょっとした裁判があるから、
古美門も一緒にどうかと誘いに来たのだ。
観光を兼ねての共同弁護。
勿論、古美門は拒否。
しかし服部が行く気満々になっていて
古美門に休暇を申し出る。
仕方なく古美門も行くことに。
蟹頭郡奥蟹頭に着くと村人が出迎えてくれた。
訛りがキツくて理解出来ない古美門。
ご飯の支度をするために水汲みに行かされる古美門と黛。
その後は薪拾い。
『拝啓 貴和さん
僕は今、大自然の中に来ています。
ここでは何もかも自分でやらなければならない訳で、
僕には奥蟹頭は向いてないと思われ、
やはり僕には都会の5つ星ホテルが合っていると思われ。』
「分っかりやすく申すっとざにこん集落ぬ反自然派ぬ
どぐざれ者どもがおってざに世界財産ぬ
滅ぼしぬる仕業ぬして手つかれねざによって―」
『誰も理解出来なかった訳で―
翻訳するとどうやらこういうことらしく、
一部の住人に集落の決まりを守らず
自然と景観を破壊する「反自然派」と呼ばれる者たちがおり、
世界財産審査会から問題視されている訳で、
次回の審査までに改善されなければ登録抹消になりかねず、
やむなく裁判所に訴え明日調停が開かれる訳で。』
反対派リーダーのどぐざれ女・赤松麻里奈のあじとに
案内された黛たち。
そこにはド派手にライトアップされたスナックが・・・
中へ入る面々。
「なんの用ざね。」
「我々は東京から来た弁護士です。
この店は条例に違反してますので―」
「ぬしらに申すことなど何にもねざに。 去れ去れ!!」
「無礼ざに! このどぐざれ者が!!」
「どぐざれ者はそっちざね! 営業妨害しぐさって!!」
「麻里奈さん、僕らは話し合いに来たんです。
これは裁判沙汰にするまでもないことです。
この店をこの集落に相応しい雰囲気にすることは充分―」
「話ならこっちぬ弁護士来るまで待つざね。」
「そちらにも弁護士が?」
「東京の先生ざに。 日本一の先生ざに!」
「まさか・・・」
そのまさかの古美門が登場。
「赤松麻里奈さんの代理人を務めさせていただきます
日本一の弁護士こと古美門研介です。」
「やっぱり。」
「あんたが! やんでふね、やんでふね。」
「“やんでふね”は“ようこそ”って意味ざね。」
「ああ、そうですか。 服部さんこっち。」
「あっ、そうでした。 あっ、失礼。」
『拝啓 貴和さん。 ハッキリ言って―』
「世界財産なんてどぐざれもんだざね~。」
「初めからそのつもりでここに来たんですね。」
「義憤に駆られたんだよ。
『森の民としての心得』は住民たちが独自に作った
身内のルールであり正規の条例ではない。
にも関わらずこの店の営業停止を請求するなど
理不尽もいいところだ。」
「嘘ですね。
あなたがお金にならない依頼を引き受けるはずがない。
鈴子さん、この辺に開発計画はありませんでしたか?」
「あったざね。 燃料廃棄物処理場と高速道路の建設ざね。」
「その計画が世界財産登録によって頓挫した。
そこであなたは麻里奈さんたち反自然派と結託して
開発業者に売り込み開発の再開を大金で請け負った。
どうだ! 図星でしょうが金の亡者!!」
「ブハハハハッ!!」
「さすがに長い付き合いの黛先生でいらっしゃる。」
「あなたはお金のためにおざおざの森を売ったのよ!!」
「何が悪い? 儲け話の一つもなければ
こんな未開の地に来る訳がないだろう。
宣言しよう!!
私は必ずやこの地を世界財産から登録抹消させ、
このクソ田舎に最新型燃料廃棄物処理場を建設させる。
高速道路も造る!
NHK以外も見られるようにする!
コンビニもファミレスもカフェもアウトレットも造る!
キャバクラもおっぱいパブも造ろうじゃないか!」
「バカげてる! 世界財産は世界の宝です。
お金儲けのために破壊してはならない!!」
「その通り。 そっちに勝ち目はないんじゃない?」
「どんな判事だって古美門先生の言い分は通りませんよ。」
「どうだろうね。 裁判所で会おう。」
「古美門先生、僕も宣言させてもらいます。
世界財産とこの集落の人々の繋がりを守ります。」
「実現出来ない宣言など無意味だよ。」
「僕もそう思います。」
見事に決裂。
「だからあの人なんか誘うべきじゃなかったのよ。
完全に裏目に出た。 もう滅茶苦茶こじれるわよ!!」
「こうなることも予想してなかった訳じゃないよ。」
「えっ?」
「分かってて誘ったのか?」
「僕は古美門先生に変わって欲しいんだ。」
「変わる?」
「人間の心の美しさ繋がりの大切さを分かって欲しい。
そして誤った道を正してあげたい。」
「無理無理無理。」
「彼を変えることも出来ないのに
世界を変えるなんて出来る訳ないだろう。」
「世界が変わったとしても彼だけは変わらないわ。」
「変わらない人間なんていないよ。」
「さすがだね、晴樹は。
おざおざの森は心の汚れも浄化するっていうしね。」
「That’s right!」
「よし、東京の仕事は私に任せて。
思う存分コミッチを導いてあげて。」
「ありがとう。」
「あの人の心の汚れっぷりは
そんなものじゃ浄化されないと思うけど。」
そして調停の日が来た。
そこへやって来たのは別府だった!!
驚きの面々。
「裁判官の別府です。
村の将来を決める大事な調停なので私が同席します。
申立人、赤松鈴子さん他は
相手方、赤松麻里奈さんの経営するスナック
六本木ナイトの営業停止を―
どうかしましたか? 何か質問でも?」
「双子でしょうか?」
「いいえ。」
「別府さん、何故ここに?」
「ですから村の将来を決める大事な―」
「いえ、何故ここの裁判所に?」
「先月こちらに異動になりました。」
「田舎に飛ばされた訳だ。」
「定例の異動です。」
「飛ばされたんでしょ?
とうとうこの人飛ばされちゃったんだ!!」
大笑いする古美門。
「今笑った人はあちらの壁際に立っていなさい。」
「もう笑いません。」
「早く!」
「はい。」
「そちらの3名も笑いましたね?」
「私・・・私は笑ってません。」
「心の中で笑いました。 立ちなさい。」
全員立たされた(笑)
「4人は私が許可するまで発言を禁じます。」
「裁判官、さすがにそれは行き過ぎじゃありませんか?
法廷ではありませんしあなたには権限がないです。」
「それにこの2人だけで喋ったら
何を言ってるのか理解出来ない!」
「心配は無用です。」
鈴子と麻里奈の言い合いに普通に混ざって話す別府。
「何故ぺらっぺらなんでしょう?」
「知るか。」
「代理人の皆さん、今の結論でよろしいですか?」
「は? は? は?」
「えっ? あっ、もう結論出たんですか?」
「聞いてなかったんですか?」
「聞いていたけど分からなかったんですよ!!
なんで奥蟹頭弁をマスターしてるんですか?」
「難しい方言ではありません。 すぐに覚えられるはずです。」
「あ~そうですか。 で、結論は?」
「現地の実情を正確に把握する必要があるため
現場調査を行います。」
「またか。」
「調停で現場調査なんて聞いたことありませんが。」
「あの女はなんでもありなんだ。」
別府が大好きな現地調査開始。
やりたい放題、自由な別府。
そしてお昼御飯休憩に。
「あの素晴らしい森を見て、
なんとしても守らなければならない。
改めてそう思いました。
燃料廃棄物処理場の誘致などあってはならないことです。」
「建設予定地は森から充分離れてます。」
「遠因によって必ず生態系が破壊されます!」
「科学的根拠がない。」
「壊れてしまってからでは遅いんです!!
あの森は二度と蘇らない。
どんぐりとっちゃ(森の妖精)もいなくなります。」
「どんぐりとっちゃなんて最初っから いない!!」
「双方とも落ち着きましょう。 これ美味しいですね。」
「蟹頭ワラビのぜんざいざに。」
「偶に食べるからウマいんです。
毎日そんな物ばっかりじゃ嫌になりますよ。
住民はクレープもジェラートもハンバーガーも食べたいんです。」
「おざおざの森は今やこの集落のものじゃありません。
世界の財産、全人類の宝なんです。
多少生活が窮屈になろうが守ってゆく義務があります。
議論の余地はないと思いますが、別府裁判官。」
「ごちそうさまでした。 では次の調査場所に移りましょう。」
どこまでも自由。
今度は麻里奈の店に行く。
「なんでか森っこ来なかったざに。」
「あんな蛇っこばっかりぬとこ行く訳ねえざに。」
「賢明な判断ですね。」
「ボンゴレビアンコとナタデココ。 反自然的メニューですね。
世界財産から抹消されても仕方ないでしょう。」
「何故そうなるんだ。 普通のメニューでしょう。」
「まっだくみっどもねえ店ざに。」
「あんただって常連だったざに!!」
「われは己ぬ過ちに気がづいたざに。」
「シュッとした役人にコロッと騙されただけざに。」
「何を言うかどぐざれ者!!」
「シュッとした役人とは?」
「シュッとした役人にポ~っとなっで―」
「麻里奈さん、そこまでです。
その先はこの私だけにじっくり話していただきたい。
別府裁判官、六本木ナイトの調査はここまでです。
よろしいですね?」
「いいでしょう。 ただしその前にボンゴレビアンコとナタデココを。」
「よく食べますね。」
奥蟹頭の人々は元来都会への憧れが強く、
嘗てはコンビニっぽい店もあったし、
ハンバーガーショップもあったし、
某ファッシ ョンビルのような店もあった。
六本木ナイトも連日賑わっていて鈴子たちも常連だった。
でもある日、新聞におざおざの森の
特殊な生態系が取り上げられ、そこに役人が目をつけた。
「ご存じの通り、国は世界財産を増やすことを
国家プロジェクトにしています。
都会から来たシュッとした役人の提案に
集落の人々は歓喜しました。
かくしておざおざの森を
世界財産にしようという運動が始まったのです。
しかし事態は難航します。
おざおざの森には確かに希少種が多く生息していますが、
規模も小さくこれという決め手に欠けていました。
そこでこうしたのです。
日本古来の生態系を残存させる奇跡の森と
自然と共生する民の暮らし。
集落自体がまるで文明から隔絶した
マチュピチュであるかのように装って
世界財産を勝ち取ったのです。
住居も生活もごく普通なのに。 全く詐欺に等しい!!」
「悪意のある言い方です。
彼らはおざおざの森の重要さに気づき、
それを守るために自然と共に暮らす生き方を自ら選んだ。
素晴らしい選択じゃありませんか。」
「その通り。 世界財産になったことで
集落全体の収入も増え経済も活性化してるんです。」
「収入が増えたところで使うところがなければ無意味だ。」
「都会にあるものはなくても都会にないものがあるんです。
その証拠に人々の幸福度は都会よりもはるかに高いですよ。」
「幸福度が高いのは不幸であることを自覚してないか
不幸であると口に出せない統制国家のどちらかだ。
みんな本音は世界財産なんかより
便利で贅沢な暮らしがしたいんだよ。」
「先生、便利で贅沢な暮らしより大切なものがあるんです。
尊厳です。 みんな誇りある生き方がしたいんです。
世界財産は誇りなんですよ。」
「全住民にアンケートを取ってみるか?」
「構いませんよ。」
「バカなこと言ってないで真面目に協議しましょう。」
「いえ、それは妙案かもしれません。」
「はっ?」
「世界財産の保持か破棄か
どちらが住民の総意なのか署名を以って決定する。
奥蟹頭集落全人口148人。
そのうちの1人でも多くの署名を集めた方を
住民の総意と見なしその主張を双方が受け入れる。」
「冗談ですよね?
裁判所が多数決を勧めるなんてあり得ません。
それでは司法の否定です。」
「調停の目的は双方の合意です。
双方がそれで納得するのであれば結構なことです。
何か問題があるでしょうか?」
「絶対あると思います。」
「裁判所が勧めてるんだ。 私は構いません。」
「私も構いませんよ。」
「では期限は次回調停期日とします。」
「マジですか?」
早速双方で署名集めが始まった。
羽生・黛側は順調に署名が集まっていた。
一方、古美門側はイマイチ。
その頃、蘭丸が村人に近づき、今夜六本木ナイトに来るようにと・・・
夜、賑わう六本木ナイト。
「やあ、みんな楽しんでる?
今日はみんなに聞いて欲しいことがあるんだ。
これなんだか分かるよね?
そう。 みんなの元に配られたテキスト『基礎からの奥蟹頭弁』。
ネーティブな奥蟹頭弁を話す人などもう殆どいないのに、
もっと訛って喋るように指導されている。
ホントは恥ずかしかったんだよね? そうでしょ?」
「はい。」
「どうもありがとう。
おざおざの森の“おざおざ”。
その本当の意味をみんな分かってる?
神の息吹? とんでもない。
僕は文献を紐解いて研究したんだ。
本来の奥蟹頭弁では“神”は“かんぬ”、“息吹”は“ぜろぜろ”だ。
“かんぬぜろぜろの森”でなければならない。
“おざおざ”、その本当の意味をお教えしましょう。
嘗てこの集落の若い男女は皆あの森で逢引をしたそうです。
そう! “おざおざ”とは男女のあれのことなんです!!
それを“神の息吹”などと
鈴子さんたちがでっち上げたんです!」
「私たちは騙されてたざに!」
「もうこんな茶番はおしまいざね!」
「はい、皆さん。 署名しましょうね~。」
「みんな破棄って方に丸つけてね。」
署名の破棄に丸をつける村人たち。
その様子を見ていた保持側の村人が報告。
「転びやがった!」
「どぐざれ者が~!!」
「落ち着いて。 ほんの一握りです。
見回りを強化しましょう。 そして監視し合うんです。
これ以上、道を踏み外す仲間が増えないように。」
監視して防ごうとする保持派。
そんな様子をちょっと疑問に思っている風の黛。
黛は古美門のところへ。
「相変わらずバカやってますね。」
「君もそろそろこちらでバカをやりたくなったか?」
「まさか。」
「気づき始めてるんじゃないのか? 王子様の危うさに。」
「危うさ? 何言ってるんですか。 羽生くんは素晴らしいですよ。
先生と違って汚らわしいところなんて一つもないんですから。」
「だから危険なんだよ。」
「言ってることが分からんざに!!」
「さて、取り締まりが強化されましたかな。」
「いかにKGBが戒厳令を敷こうとも
一度堰を切った水の流れは止められませんよ。」
魔女狩りみたいになっていた・・・
羽生の元へ連れて行かれる破棄派。
自分が話をするから奥へ連れて行くよう言う。
「羽生くん、あんまり強制的なやり方は逆効果じゃないかな?
あなたらしくないし。」
「みんなの幸せのためにはやむを得ないよ。
『ラクダは鞭を入れなければ歩かない』
サウジアラビアの諺だ。」
「人間はラクダじゃないわ。」
「勿論、分かってる。」
保持派と破棄派が双方演説。
大分保持派から抜けたようで・・・
黛と羽生が戻ると服部がいた。
壁の写真を見ていて、ある男性を指し見たことがないと。
黛たちは早速その男性を調べに。
すると、鈴子の息子・恒夫で麻里奈の婚約者だったそう。
窮屈な暮らしに嫌気が差して鈴子と麻里奈を捨てて
東京に逃げて行ったとのこと。
東京では女といかがわしい店をやってるらしい。
調停の日。
「では署名を拝見します。 ―集計が終わりました。
世界天然財産維持を支持する者73。 反対する者74。
僅か1票差ではありますが、
世界財産登録抹消を希望する住民の方が多いようです。」
その結果に「待って下さい」と黛。
羽生が出て行き恒夫を連れて来る。
「どなたですか?」
「鈴子さんの息子さんで
麻里奈さんの元婚約者・赤松恒夫さんです。
住民票は奥蟹頭にあり署名がまだなので許可して下さい。」
「いいでしょう。」
「かっちゃ、俺がバカだった。
東京なんてなんにもいいごとなかった。
もし許されるならもう一度集落に戻りてえ。
森と共に生きる生活がしたいざに。」
「森は・・・来るものを拒まずざに。」
署名する恒夫。 74対74になった。
恒夫の署名の裏では羽生が汚いことをやっていた。
「麻里奈さん、恒夫さんは今でもあなたを愛しています。」
「麻里奈。 虫のいい言い分だっでことは分かってる。
だっふん俺はお前と一緒に森を守りてえざに。
2人でもう一度おざおざの森の民に戻ろう。
俺にとって世界財産はお前ざに。 お前が世界財産ざに。」
麻里奈は恒夫の元へ。
「75対73。 こちらの勝ちです。
古美門先生、僕があなたに勝ったとは思っていません。
集落の人々の気高い心が世界財産を守ったんです。」
「そろそろデリバリーが届くころだ。」
「チ~ッス! あ~遅れてすいません。
ちゃりんこパンクしちゃって。 はいこれ。 じゃ、確かに。」
「それは?」
「奥蟹頭の不自由な生活に嫌気が差し集落を出た
嘗ての住民はじめ集落外の者29名の署名です。」
「集落外の署名など無意味ですよ。」
「住民票の写しです。
全員奥蟹頭への変更が完了しています。
れっきとした奥蟹頭の住民です。」
「75対102。」
「圧勝のようだね。」
「 先生、そのやり方はズル過ぎます。」
「ルールは破ってない。」
「どんな卑劣な取引をしたんですか?」
「集落を開発し便利にすると言っただけだよ。
みんな喜んで署名してくれた。
という訳なので別府裁判官、調停成立ということで。」
「別府さん?」
「双方が合意しない限り調停成立はありません。」
「えっ? 何を言ってるんでしょう。
多数決の結果に従おうと決めましたよね?」
「裁判所が多数決を認めることはありません。」
「あんたが認めるっつったんだろうが!!」
「それでは司法の否定です。」
「それ私が言いました。」
「申立人、納得出来ないのであれば
調停は不調として訴訟提起することが出来ます。」
「勿論提訴します。 鈴子さん、裁判を戦いましょう。」
「え・・・ええ。」
「鈴子さん、恒夫さんがあなたの元を去ったのは何故ですか?
窮屈な暮らしが嫌で都会に憧れたからです。
ならばまたいずれ逃げ出しますよ。」
「そんなことありません。 彼は改心したんです。」
「へえ。 なら提訴すればいい。
自然と共に禁欲生活をしながら何年でも戦って下さい。
鈴子さん、あなたも息子を失った反動で
意固地になって運動を続けてきた。
しかし恒夫さんは帰って来たんだ。
もういいじゃありませんか。
恒夫さんを繋ぎ留めておく唯一の方法をお教えします。
麻里奈さんと共に六本木ナイトを盛り上げさせることですよ。」
「鈴子さん、騙されてはいけません!」
「どんどん開発しどんどん賑やかにし
都会みたいにしてあげることです。
それが二度と家族が壊れない秘訣です。 提訴しますか?」
「世界財産が抹消されたら世界中の恥さらしですよ!!」
「燃料廃棄物処理場だって国民のためになる立派な施設だ。
100年後には世界財産かもしれない。」
提訴はしないと鈴子が言った。
「バカげてる! こんな決断は絶対に間違ってる!!」
「羽生くん!」
「みんなが不幸になる決断だ! 何故分からない!!」
「落ち着いて!!」
「分かってないのは君だよ。
崇高な理念など欲望の前では無力だ。
所詮人間は欲望の生き物なのだよ。
それを否定する生き方など出来はしないし
その欲望こそが文明を進化させてきたんだ。
これからも進化し続け決して後戻りはしない!
燃料廃棄物処理場を造り高速道路を造り
ショッピングモールが出来森が減り希少種がいなくなり
いずれどこにでもある普通の町になるだろう!!
そして失った昔を思って嘆くだろう!!
だがみんなそうしたいんだよ!! 素晴らしいじゃないか!!」
「愚かだ。」
「それが人間だ。」
「申立人、提訴はせず本調停の結論を以って
最終合意とすることを受け入れますか?」
「はい。」
「では双方が合意に達したので調停成立とします。
鈴子さん、麻里奈さん、恒夫さん、奥蟹頭の住民はあなた方です。
世界の誰に笑われようと関係ありません。
蟹頭ワラビもボンゴレビアンコも大変美味しゅうございました。 以上。」
「ではお元気で!
こんな田舎に飛ばされたんでは
もう二度とお会いすることはないでしょうから。」
「いえ、また辞令が下り異動になりました。」
「また飛ばされるの?」
「定例の異動です。」
「サイクル早過ぎます。」
「今度は無人島ですか?」
「あなた方には関係ありません。」
「たらい回しにされてまで何故そんな職にしがみつくんです?」
「あなたが弁護士を続けている理由と同じだと思いますが。
私はこの黒い法服が世界の誰よりも似合うと自負しています。 では。」
「意外と名判事になるのかもしれませんね。」
「あり得ない。」
村人は元の生活に戻りつつあった。
古美門たちを見送る村人たち。
「別府裁判官の言う通り、世界財産であろうがなかろうが
故郷を愛する心に変わりはありません。
みなさんずっとそうだったんですから。」
「その通り。
あなたたちが誇りに思っているのならそれでいい。
余所者が勝手に作ったバッジなど必要ない!!」
「はい。」
ずっと忘れられていた磯貝・・・
「どんぐりとっちゃを見つけようとして
我々とはぐれ遭難してただと?」
「ちょっと栄養失調気味でしたけど無事でした。」
「どこまで存在感がないんだ。
仲間との繋がりが聞いて呆れる。」
「それは返す言葉もないですけど。」
「いい加減思い知ったか、あのニヤケ顔の薄ら寒さを。」
服部が古美門父?に電話していた。
「先生の思惑通り、羽生先生はご子息の増長を抑える
好敵手になりつつあります。
ただ、若干予想外の方向に歩み始めてるような気配も。」
貴和との面会に来ていた古美門と黛。
「まっ、ゆとりの国が居心地いいならずっといればいい。」
「いよいよ最高裁で公判が開かれます。」
「安心したまえ。
必ず死刑判決を破棄させ無罪を勝ち取る。
私の勝率も100%に戻り不敗神話の復活だ。」
「あなたたちには事実を知っておいてもらった方がいいわよね。
ホントのことを打ち明けるわ。 私がやったの。
私が徳永光一郎を殺し、娘も殺そうとした。 私が犯人。」
「最初からずっとそう思ってるよ。」
「でも吊るされるのは嫌。
死刑制度なんて非人道的よ。 そう思わない?」
「本当に君はどぐざれ者だな。」
「どういう意味?」
「知るか!」
羽生が段々危ない人になって来た。
ホントあんな思想じゃ宗教だよ(-_-;)
いよいよ貴和の公判が始まるのね。
自分がやったって言ったけど・・・未だ半信半疑。
どんな結果になるのか楽しみだわ♪
【リーガル・ハイ】
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
第8話 第9話 第10話 最終話
スペシャルドラマ リーガル・ハイ
【リーガルハイ】
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話