1月10日 スペイン

2009年01月10日 | 風の旅人日乗
[photo: Volvo Ocean Race]

開発費を除いた船価だけで5億円(現在の為替レートだと4億円弱)もする
ボルボオープン70クラスをステアリングしたときの印象を報告します。
これは2か月ほど前にヨット専門誌KAZIに書いたものに、
このブログ用に手を加えたものです、あしからず。

ボルボオープン70クラスをステアリングするのは、
前回のレースで優勝した〈ABNアムロ1〉 にメルボルンで乗って以来。
今回は、ブルース・ファー設計事務所設計のスペイン艇〈テレフォニカブルー〉。ブルース・ファー設計。
かつての日本やハワイでのレースのライバルであり友人であるバウエ・ベッキンがスキッパーであるため、
スペインのアリカンテでのプロアマレースで舵を持たせてもらった。

前回のボルボ・オーシャンレース2005-06で、
参加した7隻の半分以上に当たる4隻を占めたファー・デザインは、
気鋭のデザイナー、ワン・クームジアンが設計した〈ABNアムロ1〉の圧倒的なスピードの前に完敗した。
ファー事務所が設計した4隻のうち1隻では、
カンティングキールのトラブルのために北大西洋で船体放棄、その後沈没、
という事故まで発生した。

外洋レーシングヨットの設計分野で、
長く世界ナンバーワンを自他共に認めてきたファー事務所だが、
ここのところ、マルセリーノ・ボティンや前述のワンなどの才能あふれる若手デザイナー、
そしてライケル&ピューやユーデル/フローリックなどのベテラン勢に押されて、
IMOCAオープン60クラスを除けば、
アメリカズカップや最近のIMS、IRC、TP52など、
ほとんどすべての大型艇レース分野でその名が色あせ始めている。

世界の第一線に留まるための土俵際に追い詰められた大横綱ファー事務所が、
渾身の力を振り絞って開発したVO70クラス第2世代が〈テレフォニカブルー〉だ。
〈テレフォニカブルー〉は第3レグを終えた時点で総合2位。
1位はワン・クームジアン設計の〈エリクソン4〉。ポイント差は4.5ポイント。
今日シンガポールで行なわれるインポートレースで、
このポイント差をどこまで縮めることができるか、
それとも逆に引き離されてしまうのか。
ファー・デザインは、
今回のボルボ・オーシャンレースで復活することができるのか。

2008年10月5日。スペインのアリカンテ。
ボルボ・オーシャンレース2008-09の緒戦となったインポートレース翌日のプロアマレース。
プロアマレースとは言え、各チームのスポンサーたちやメディアが観戦艇で見守る中でのレースだ。
各艇のスキッパーとも、みっともないレースはできないという理由と、
大事な第1レグを前に艇を壊すわけにはいかないという理由で、
自分自身でヘルムを持っている。

[photo: Rick Tomlinson/VOR]

第1レース。下有利のスタートライン。
スキッパーのバウワーに突然指名されて
ぼくがステアリングする〈テレフォニカブルー〉は、
副スキッパーのイッケル・マルチネス(49erクラスアテネオリンピック金メダル、北京オリンピック銀メダル)
のアドバイスで、
アグレッシブではないものの、スタートラインの下寄りでスタート。
ちょっとアグレッシブに行けば一番風下の位置を取れそうだったが、
初めて運転する艇だし、壊してはいけない艇だし、
安全なスタートを示唆していたイッケルとも仲良くやりたかったし、
ということもあり、遠慮して、
イアン・ウォーカーの〈グリーン・ドラゴン〉に一番風下の位置を譲る。

スタート後、風下少し前に〈グリーン・ドラゴン〉がいてちょっと走りにくいが、
すぐ風上後ろにはケン・リードの〈イル・モストロ〉がいるため
タックして逃げることができない。

スピードをつけては上り、スピードが落ちきる前に加速し、
上下2隻の間でゲージを確保しつつ、しかも頭も凹まさないよう、
息を詰めるようにステアリングして、なんとかその位置をキープする。

二回り近く年下のイッケルが、「おまえ、けっこう上手じゃん。完璧!」と褒めてくれる。
ありがと。
(続く)