ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ルース・エドガー

2020-06-04 23:53:07 | ら行

警官による

悲しい、黒人男性殺害事件も沸騰しているいま、

より、深く考えさせる内容になった。

 


「ルース・エドガー」72点★★★★

 


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米バージニア州の高校に通う

アフリカ系アメリカ人のルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソン・Jr.)は

文武両道の優等生だ。

 

ルースは戦火のエリトリアで生まれ、

7歳のとき母(ナオミ・ワッツ)、父(ティム・ロス)の養子となり

アメリカにやってきた。

 

そして両親の期待に応え

いまや「高校一の優等生」と期待の星だった。

 

だが、そんなある日。

母は高校の教師(オクタヴィア・スペンサー)に呼び出される。

ルースがある論文で革命家を取り上げ

そこに過激な思想の片鱗をみた、というのだ。

 

「はあ?(何言ってるの?この人?)」と息子をかばう母だが

教師に、ある「証拠」を突きつけられ――――?!

 

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人と人の関係や心理が

実にデリケートに描き込まれ、

監督が物語に込めた深さに驚かれる映画でした。

 

まず、どこかバラク・オバマを彷彿させる

利発な優等生ルース・エドガー。

演じるケルヴィン・ハリソン・Jrがすごーくいい!

 

でも、登場のときから

「ん?」と、やっぱり、どこか観客はひっかかるはず。

それは彼の両親が、母(ナオミ・ワッツ)&父(ティム・ロス)、という

" 白人"だからなんですね。

 

いやいや

アメリカには養子が多いし、そういう事情なのだろうな、とすぐに思うけど

やっぱりそこには「肌の色」という

ファクター(要因)の存在は否めない。

それは我々、日本島の人間だけでなく

やっぱりアメリカにもあるんだ、と、映画を見てるとよくわかります。

 

 

しかし、単にそれは「違い」であって

顔が一人一人違うのと、まったく同じこと。

「差別」の要因になるものではないし、なっていいはずがない。

・・・なのですが

でも、ファクターは、受け取る側の感覚でフィルター(=いわゆる、色めがね)になってもしまう。

その難しさを、まずこの映画は描いているんだと思います。

 

 

で、

戦火のアフリカに生まれたルースは白人夫妻の養子になり、

いまや

クレバーな青年に成長し、

周囲の期待に応え、うまくやってきた。

 

同時に白人を両親に持つ彼は

それだけである種「特権」を持っている。

そこにも複雑なものがあります。

 

で、そんなルースが

ある論文で過激な思想家を取り上げたことで、

教師から「危険人物では?」という疑いを持たれてしまう。

 

その教師が黒人であるオクタヴィア・スペンサーだから

味方してくれそうなもんですが

逆に、彼女は優秀なルースに期待をかけつつ、

複雑な感情を抱いてるようなんです。

 

そしてルースのほうも

そんな教師を

「薄っぺらい」人物だと、冷静に見分けているんですね。

 

でも、ルースが実際、何を考えているのか?はわからない。

 

ルースを信じていいのか?

悲しくも、息子への信頼を揺らがせていく父。

でも絶対に息子を信じてる母。

そこに生まれる夫婦間の微妙な温度差――――などなど

この映画は、とにかく、人間と人間の関係とその心理のさまざまを

繊細にリアルに

ある意味、こちらにも刃を突きつけてくる鋭さをもって描いている。

 

果たして、ルースは聖人なのか、それとも狂信者なのか?

 

観客にもそれが試される感じです。

 

監督のジュリアス・オナーは1983年生まれ。

ナイジェリア生まれで、外交官の父とともに渡米していて

自分自身もルース・エドガーのように

「特権的な黒人」の立場にあり

「黒人の優等生」という役割を背負わされたよう。

 

ゆえに、非常に深い考察を持って本作を描いている。

 

結末もいろいろ考えさせられるんですが

結局、人は多少なりとも

「演技」をして人生を生きているんだ、ということは

よくわかりました。

 

★6/5(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開

「ルース・エドガー」公式サイト


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