ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

川の底からこんにちは

2010-03-21 02:38:17 | か行
いま「将来なりたい職業がある」子が
小・中・高で50%ほどしかいないそうな。

この閉塞感のなかじゃあ
無理もないよねえ。


そんななかで
ちょっと評判になってるのがこの映画。


「川の底からこんにちは」69点★★☆


不況、逆境、低迷
ドン詰まりにある現代社会を

半ばやけっぱちながら
「えいやっ」と
なんとかブレイクスルーしようとする

若いパワーを感じるコメディです。


23歳の派遣OL佐和子(満島ひかり)
田舎から上京して5年。

世の中サイアクの不況だし
付き合う彼氏はつまんないやつばっか。


あまりにもパッとしない人生に対し
「でも自分だってたいした女じゃないし」
「しょうがないっすよ」的な態度で
生き延びてきた彼女は

父が倒れたことで
実家のしじみ工場を継ぐことになる。

だが、工場のオバチャンたちはくせ者揃い
しかも工場の売り上げは落ち込む一途

果たして佐和子の運命は・・・?!というお話。


監督は若干26歳。

その彼が描く世界には
「もう、生まれたときから、あきらめてますから」的な
冷めた感覚と
半ばヤケクソ、開き直りからくる
ミョーな笑いのテンションがあって

これがけっこう新鮮。


しかもちゃんと異世代にも共有できるユーモアで
実際、かなり笑えました。


ただ、その笑いもリズムが読めてくると
やや単調に感じるのも事実。

それと
「しょせん世の中なんて
男と女のパッコンパッコンでなりたっとんじゃ~」みたいな

いかにも田舎の(すみません)
おっちゃんおばちゃんが言いそうな
プリミティブな世界観が
それはそれでリアルでおもしろいんだけど

まわりの男性たちがあまりに
大ウケするもんで

ちょっとひいてしまいました。

それでも
主人公の叔父役の
岩松了さんがサイコーにいい味でしたね。

朝○新聞社のAE○Aの
担当デスクに似てるんだなーこれが!


★GW、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「川の底からこんにちは」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アリス・イン・ワンダーランド

2010-03-19 23:39:12 | あ行
これは文句なしに
当たりでした。


「アリス・イン・ワンダーランド」80点★★★

ティム・バートン監督が
ジョニー・デップ×ヘレナ・ボナム=カーターの最強コンビと
タッグを組んで作り上げた

「不思議の国のアリス」。


とにかくもう
画面の隅々にまで
かんっぺきに神経を行き渡らせて
作り上げられた
ファンタジー世界が素晴らしいの一言です。


「不思議~」と「鏡の国のアリス」から
もろもろエッセンスを抽出した
オリジナルストーリーで

アリスを19歳に設定し
依存を前提にした結婚をためらい

自立を模索する
とても共感しやすい
キャラクターにしたのもよかった。


アリスを演じる新星ミア・ワシコウスカも
19歳にしてどこか
子どもっぽい「そっけなさ」「無愛想感」を併せ持っており
ティム・バートンの世界観にピッタリ。


ルックスも本当にキュートで
巻き毛のクリクリ具合まで
パーフェクトですよ。



登場人物たちや美術セット
アリスの衣装の数々、

そう淡いブルーのドレスの
色合いやデザインひとつとっても

本当にセンスよく
オリジナルをリ・デザインしてる。


普通、リスペクトしすぎてるものって
思い入れが先走るのか
失敗しがちだけど、
ティム・バートンは違いましたねー。


「誰もが知ってるアリス」でありながら
誰も見たことのない
超独創的なアリスであり得たことに
大拍手です。


それに
ヘレナ・ボナム=カーターの
キャラ、大ウケです!注目です!


チェシャ猫もふわっふわで
カワイイですよー。


・・・一見、そう見えないかもしれないけど。


★4/17から全国で公開。

「アリス・イン・ワンダーランド」公式サイト
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブルーノ

2010-03-18 03:05:08 | は行
これはね~
さすがにダメでした。


「ブルーノ」3点


前作「ボラット」で
カザフスタン人レポーターに扮して
アメリカ人たちを突撃取材し

人の差別意識や本音を
生々しくあぶりだして評価された

ユダヤ系イギリス人のコメディアン
サシャ・バロン・コーエン。


今回は彼の持ちネタのひとつ
ゲイのファッション・レポーター、ブルーノに扮して
突撃&潜入取材を敢行し

またまた世間をお騒がせ
という作品なんですが・・・


こりゃダメでしょう。

あまりにもネタが単純すぎ。

ほとんどぜんぶ、ゲイの差別ネタ・オンリーで

全然、笑えない。



サシャ・バロン・コーエンという人は
名門ケンブリッジ大学出のエリートで
挑発的な態度やギャグが
イギリスでは大ウケなんだそうな。

そんなもんで
前作「ボラット」はまだ
ハチャメチャのなかに
「これって、笑っていいの?」と観客に葛藤や
知的ゲームをしかけるような
考え込ませる笑いがあった。


しかし今回の映画は
もう
イヤなものに直面した人間の
“ナマの不快感”を
撮影するためだけのものと言えるでしょう。


そんなもん、見たないわ!って。


だってやることといったら
くだらないことして
本物のファッションショーを台無しにしたり(最低・・・

本物の米大統領候補を
偽インタビューで誘い出し
隠しカメラを仕込んだベッドルームで
腰を振りながらパンツを脱いだり(最悪・・・


セレブたちがなぜかこぞって
アフリカ系の養子を取ることへの揶揄くらいは
まあわからなくもないけど
(このネタでいままで味方してくれてた
 マドンナを激怒させたそうだが)

あとはもう
ただただ悪ふざけを見せられて
不愉快なだけ。

80分であっさり撤収したことだけは
正解ですな。


ただね、ムカつきながらも
彼のあまりにも無謀な行いの数々を前に
「どこまでが本当なの?」と
見入ってしまうのも
困った事実ではあるんです。


ヤラセではない「本気の怒り」に対する
怖いモノ見たさ、というのでしょうか。

イヤですね、自分。


資料によると
すべての突撃が本物らしいですが
いやいや
どこまでが本物なのか?
疑ってしまったりもして。


まあ
同性愛者団体も怒らせ
マドンナも怒らせ
パレスチナ過激派も怒らせ
誰からも嫌われちゃったのは事実でしょう。

この人、なんのために
こんなことするんでしょうかねえ。

あ、実生活では
女優アイラ・フィッシャー(「お買いもの中毒な私!」主演)


との間に女児がいるそうです。
なーんか、フツー・・・?(苦笑)

★3/20から新宿バルト9ほか全国公開。

「ブルーノ」公式サイト
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファンボーイズ

2010-03-17 02:42:59 | は行
ハハハ。笑っちゃった。

「ファンボーイズ」67点★★☆


「スター・ウォーズ」(以下SW)ファンを自認する
スタッフとキャストが作った
愛に満ちたコメディです。


ときは1998年。
前作「ジェダイの復讐」から16年ぶりに
新作「エピソード1」が制作されるとあって

全世界のSWファンたちの
ボルテージがガンガン上がっていたそのとき。

幼なじみのSWオタク青年4人組は
仲間のひとりが
末期がんで余命わずかであること知る。

「彼が死ぬ前にエピソード1を見せてやろう!」

4人は公開前のフィルムを盗み出すべく
ジョージ・ルーカスの本拠地を目指して
おんぼろのバンで
アメリカ横断の旅に出る。

しかし途中で
対立するトレッキー(「スター・トレック」のファンね)
との対決など
様々な苦難が待ち受けていて・・・?!


いやー、ウケました。

ジャック・ブラックが出ているような
あえてB級路線を狙った
コメディ映画のノリ。


「スター・ウォーズ」の知識あるナシに関わらず
なにかに夢中になる楽しさを描いた“青春の書”として
万人に楽しめるんじゃないでしょうか。

敵対する(?)トレッキーとやり合うとこなんて
大爆笑ですよ。


もちろん
「スター・ウォーズ検定」(あるのか?)まがいの
知識の応酬シーンもあり

あのレイア姫
キャリー・フィッシャー(本物!スゲエ!)や
「スター・トレック」のカーク船長役の
俳優なんかもカメオ出演しており

この愛とオマージュに充ち満ちた感じ
ファンにはたまんないでしょうね。


なお、この作品
日本のSWファンの署名活動によって
日本での公開が実現したそうです。

オタクってさ、愛だよね!
あったかいよね!


★4/24~5/7 渋谷シアターTUTAYAでレイトショー公開。
 (5/12からTUTAYAでDVD独占レンタル開始、だそうです)

「ファンボーイズ」公式サイト
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソラニン

2010-03-13 18:48:27 | さ行
なんだろう
見終わってから、じわじわこみ上げてきましたよ・・・


「ソラニン」71点★★★


OLを2年で辞めた
主人公・芽衣子(宮あおい)

彼女は大学時代からバンドを続けている
恋人の種田(高良健吾)
「ちゃんと音楽やってみたら」とすすめる。

しかしその後、種田は事故で死んでしまう。

残された芽衣子
彼の志を継ぐべくギターを手に取り・・・という話。


話だけ聞くと、“いかにも”な感動話っぽいでしょう。
だから正直、食指がわかなかった。


しかし。
あんまりそういうところが
映画のポイントではなかったんです。

これはひたすら
学生時代~20代前半の
「モヤモヤ」した時間と空間を
再現しようと試みた映画だったんですよ。


見ていて
若いころぼんやり見ていたアパートの日の光や

二度と同じものを見ることができない
あの空気を
もう一度感じることができたんです。

それで
じわじわ何かがこみ上げてきたのかもしれない。


さらに
号泣シーンをあえてハズしてみたり
感動を煽るような音楽を流さなかったり


泣けそうな話をいかに「ちがう手で」みせるかという
作り手の挑戦と熱い試行錯誤も
伝わってきました。

舞台となる多摩川河川敷周辺の
のーんびり感もまた
心地よいですよ。


いま閉塞感のなかでもがいている若者にも

かつてその時代を過ごし
いまだ「何ものでもない」オトナたちにも
共鳴を与える映画だと思います。


それにしても
主人公をはじめ


いい味だしてる友人役も(サンボマスターの近藤洋一氏)も


原作者も


監督も

みんなメガネ男子ってのがえらく気になります・・・


★3/3から全国で公開。

「ソラニン」公式サイト
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする