ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アンダー・コントロール

2011-11-11 20:18:44 | あ行

この監督、
多分に「工場萌え」の気があるようで。(同類。笑)。

「アンダー・コントロール」67点★★★☆


2022年までに
原発を全廃することを決めたドイツ。

現地の原発内部や、廃炉になった原発の現状を
3年にわたって追ったドキュメンタリーです。


この映画
ちょっとおもしろいのが
“原発”と言われて
思い浮かぶタイプの作品じゃないところ。

監督は
核燃料棒やら、核燃料を冷やす巨大プールなど
よくこんなもの写せたなあという
内部にまで潜入しているのですが、

それが何かという説明はなく、
ナレーションもなく

ひたすら人工物の
左右対称の美しさとか巨大さとかを

静かに完璧に画角に納めているんです。


その映像は
ほとんどアートの域。

もちろん
原発に推進か反対か、などの立場や、
個人的見解も徹底、排除。

その
距離感と冷静さから
ここまでシュールさや、怖さが立ち現れてくるという
おもしろいアプローチです。

「原発、反対!」とか叫ぶよりも
こっちのほうが断然COOLに決まってる。

なんですが、
正直、もう少し緩急と説明がないと
退屈な面もあります。


それを補うために、
やっぱりプラス資料が必要だと思う。

600円(税込み)のパンフレットが
非常によくできているので、
ぜひ購入をおすすめします。
よりおもしろさが増すと思います。


まあしかし、
詳しいことがわからなくても、

一見して
原発ってホントに効率悪いなあ、ムダだなあって
思いますよ。


稼働中の原発が出す廃棄物はもちろん、

廃炉が決まって、壊されたとしても、
そのがれきやゴミを洗って、
その洗った水までドラム缶に詰めて、
それらをまた地下深く潜って、捨てるわけですよ。

サイアクに面倒ですよね!

どんだけ無駄なことしてるか、
しかもリスクが高いなんて、
ホントにうんざりしました。


番長は何も主張していない
この映画を観て、
さらに断然、脱原発派になりました。

電気代、少しぐらい
高くしてもいいですよもう。

★11/12からシアターイメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「アンダー・コントロール」公式サイト
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恋の罪

2011-11-10 23:22:29 | か行

主演女優との結婚も話題になりました
園子温監督。トバしてますね。

「恋の罪」58点★★☆


90年代、渋谷・円山町。

ラブホテル街の一角にあるアパートで
女の変死体が発見された。

刑事・和子(水野美紀)は
捜査を進めるうちに、
二人の女性に行き着く。

人気作家を夫に持つ
清楚で献身的な妻(神楽坂恵)と、

エリート大学助教授(富樫真)。

なんの接点もないような二人が、
なぜ事件の捜査線上に浮上したのか――?

そして事件は思わぬ展開を見せてゆき――?!



「冷たい熱帯魚」のヒットのせいか、
はたまた
題材となった東電OL事件に新展開があった
タイミングだからか、

試写室は連日、立ち見なほどの超満員!


で、映画はというと、
まさに東電OL殺人事件に
インスパイアされた話ですね。

ただ
「冷たい熱帯魚」よりも
暴力描写は抑えめなので、
その点はご心配なく。


お堅そうで実は秘密を持つ女刑事と、
有名作家の“お飾り的”満たされない妻。

そして
彼女を目覚めと開放に誘う女が主人公で、


刑事役の水野美紀の体当たり芝居は確かに
「おっ」と見応えあります。
(初っぱなからエロいシーンで、
「え?これ誰だっけ・・・?」くらいのインパクトが。笑)


ただ、映画としての密度はあるんですが、
内容の充実度が「冷たい熱帯魚」ほどでない、というのが
正直なところ。


“満たされない主婦”といった
ありがちな日常の枠をはめながら、
芝居が日常に降りてないんですよね・・・。

エロも衝動も想定内で
想像を超えてないっていうか。


詩をあちこちで象徴的に使いながら、
「言葉」と「肉体」の同調を説く
その意図は悪くないと思うんですが、

わざとそう演出してるのだとは思いつつ、
大げさで演劇っぽい会話に
少々、辟易。


売春をする女(富樫真)に、
「弟子にしてください!」とすがる
主婦(神楽坂恵)とのやりとりなんて


かなりスパルタ指導で、
北島マヤと月影千草の如し、と笑っちゃいました。


ただ
震災後を舞台にした
「ヒミズ」よりは、いいとは思いました。


★11/12(土)からテアトル新宿ほかで公開。

「恋の罪」公式サイト
コメント (3)
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コンテイジョン

2011-11-08 22:55:25 | か行

見に行くときは、
マスク必携!


「コンテイジョン」78点★★★★


スティーブン・ソダーバーグ監督、最新作です。

香港出張からアメリカに帰国した
ベス(グウィネス・パルトロウ)は

突然体調を崩し、
2日後に亡くなってしまった。

夫(マット・デイモン)は
まるで訳が分からない。

が、同じころ
香港である青年が、ロンドンであるモデルが
突然体調を崩し、亡くなっていた。

それは驚異的な速度で広がる
新型ウィルスの仕業だったのだ――!

果たして人類は
ウィルスに立ち向かうことができるのか――?



未知のウイルス感染の恐怖を描く、
「感染列島」全世界版です。


しかしそこは
天下のソダーバーグ。


一切の装飾を排した
シンプルでリアリティある演出と、

抜群の緊張感を持続させる筆力で

そこらのパニック映画と一線を画しており
見応えあります。


そして言うまでもなく
豪華すぎる(笑)キャストが見どころでしょうね。

なんたってグウィネスを
のっけから殺しちゃうんですから!

マリオン・コティヤールにケイト・ウィンスレット、
ジュード・ロウにローレンス・フィッシュバーン……。

主役級、しかもアカデミー俳優を
ザクザク使い倒していくのを観るのって
ちょっと快感でもありますよ(笑)

パニックに逃げ惑う人々ではなく、
無人の街を映し、

登場人物の内面描写などすっ飛ばし、
事象だけを羅列していく、

この乾いた手法の怖さったらもう!


特に見えない恐怖が蔓延する
いまの日本には
別のリアリズムを感じさせるというか、
キツい一本だと思います。

観れば必ずのどがイガイガしてくるし、
咳のひとつでもしようものなら、
強烈に冷たい視線にさらされること、間違いなし。

マスク必携でご覧ください!

それにしても。

来年公開の
ユアン・マクレガー主演の「パーフェクト・センス」(1月公開)、
ラース・フォン・トリアーの
超ビッグ・バン作品「メランコリア」(2月公開)といい、

ホントに最近、パニックとかディザスター系ではなく
あちこちで静かに
世界が終わっていっているようで、
うすら寒く、コワイす。

★11/12(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「コンテイジョン」公式サイト
コメント (3)
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インモータルズ

2011-11-07 18:56:27 | あ行

好きな話じゃなくても
映像にねじ伏せられるってのは
こういうことですなあ。

「インモータルズ」2D版 70点★★★☆

「落下の王国」ターセム・シン監督が
「300」の製作スタッフと組んだ
“最強”の映像世界です。


神々の戦いのあとの世界。

残忍な王ハイペリオン(ミッキー・ローク)は
世界征服を実現するため、

かつて神の武器だった
「エピロスの弓」を手に入れようとする。

天空からすべてを見ていた
神ゼウス(ルーク・エヴァンス)は

人類の未来を
若者テセウス(ヘンリー・カヴィル)に託すことにする。

テセウスはハイペリオンの恐ろしい計画を
阻止することができるのか――?!


まさにターセムワールドと「300」、
互いのいいところ取りをし、
それぞれのバージョンアップを果たした感じで

想像どおりであり
想像を越えてもいました。

戦いの凄まじさは「300」を
やはり越えてキタキタ。

人間串刺しやド頭カチ割りの
連続技にあ然(苦笑)。

こんなの全然、好みじゃないんだけど、
でも、しかし
美しいのですよ…「絵」が。


絵画のような神々しい光や、色の使い方。
構図の見事さ、驚きのカメラワーク。
ギリシャ彫刻そのまんまの
俳優の肉体美!

主演のヘンリー・カヴィルの
腹筋もすごいけど

個人的には
ゼウス役のルーク・エヴァンスが好み(笑)。
「三銃士」のアラミス役でもあります。

まあともあれ、
映像的にも、肉体として

現時点での人間の能力を
最上級に示し、極めた作品だといえるでしょう。

「落下の王国」でもタッグを組んだ
石岡瑛子さんが衣装を担当。

これまた美しく、最強でした。

ターセムの美学は心底凄い。

願わくはこんな残忍でない話で
この世界を堪能したかったけどねえ。

それでも、内容を了承のうえ、
観る価値はあると思います。

番長は2D版で観ましたが、十分美しかった。
画面が明るいし。

3D版もちょっと試してみたいけど
逆にしんどいかも…飛び出す串刺しは(笑)

★11/11(金)から全国で公開。

「インモータルズ」公式サイト
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マネーボール

2011-11-06 13:52:22 | ま行

超スター役者に
おもしろい脚本。優れた手さばき。

鉄板、ってこういうことすかね。

「マネーボール」83点★★★★

ブラピ主演、
「ソーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキン脚本、
「カポ―ティー」のベネット・ミラー監督による
実話の映画化です。


貧乏球団アスレチックスの
ゼネラルマネージャー、ビリー(ブラッド・ピット)。

チーム成績はいまひとつで
クサり気味の毎日。

そんなとき彼は
そこにイエール大経済学科卒の
青年ピーター(ジョナ・ヒル)に出会う。

ピーターは野球のことは何も知らないが
いままで誰もやらなかった方法で
野球を“理論的”に考えていた。

その発想を買ったビリーは
いままでの常識を越える方法で
選手獲得に乗り出すが――?!


この映画、
「ソーシャル~」によく似たスタイルで
最初の20分くらいは
何をやってるかよくわからない。

でも30分経つと、ズップリ
ハマってるんですねえ。

野球のことはよく知らなくとも
ハマってるんですねえ。


うまいですねえ。


予算3800万ドルの貧乏アスレチックス
      VS
1億2000万ドルのヤンキース

どんなにいい選手を育てても
金持ち球団にどんどん引き抜かれ、

「うちは選手育成のファームかよ!」と
怒るGMのブラピ。

日本の球団でも聞く話ですよねえ。


そこに
野球をデータ分析し、理論的に考える
青年が現れる。

果たしてその新発想で、
チームを勝利に導けるのか?!という展開。


これって、もしや
「もしドラ」の元ネタなんですかね(笑)

もちろんスポーツとしての勝ち負けや、
不可能に挑んでいく
ドラマも盛り上がるんだけど、

この映画には

野球に限らず
慣習化し、硬直した物事を動かす
“変革”のドラマチックさが、
よく描かれていると思います。

だから、どんな人にも
共感を呼びやすい。

それが“鉄板”のゆえんであります。


ブラピ演じるGMが逃れられない“あるジンクス”が
まるっきり自分と同じなのには
びっくりして、笑っちゃいましたが

これも
マーフィーの法則的に
実は数値的に分析できるものなんでしょうね。

そういう糸の張り方も上手ですよ。


それにしても。

脚本家アーロン・ソーキンって人は
数学的な話を難しくなく万人に翻訳し、
テクニカル方面の実話を
ドラマにする術に長けている。

スティーブ・ジョブズの映画化は
やっぱり「ソーシャル~」チームが適任かなあ。

権利も「ソーシャル~」やこの「マネーボール」の
ソニー・ピクチャーズが買ったというし。

そんで監督は
ソダーバーグがいいなあと
ぽつおプロデューサーは妄想するのでした。


★11/11(金)から丸の内ピカデリーほか全国で公開。

「マネーボール」公式サイト
コメント (7)
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