ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

シャトーブリアンからの手紙

2014-10-23 00:14:18 | さ行

「ブリキの太鼓」の監督、13年ぶりの日本公開作。


「シャトーブリアンからの手紙」68点★★★☆


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1941年、ナチ占領下のフランスで
一人のドイツ人将校が暗殺される。

怒ったヒトラーは報復として
「150人のフランス人を殺せ」と命令する。

処刑の対象になったのは
反ドイツな言動をしたとして逮捕された
シャトーブリアン刑務所にいる人々。

「それは・・・あんまりでは?」と誰もが思うなか
あれよあれよと準備は進み――?

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ナチスドイツ映画は確かにお腹いっぱいではあるんですが
これは、またちょっと違う
「いまどき」感がある。

1人のドイツ将校の死の報復に
150人のフランス人を殺せというヒトラーの無茶苦茶な命令。

しかも、たかだが映画館で反ドイツなビラを配った
17歳の少年までもが、処刑の対象にされたという
実話を基にしています。

「なんでこうなるのか、ワケがわからない」
劇中でも誰かが言うように、

命令を受けたドイツ軍の官僚たちも
それを実行しなければならないフランスの役人たちも
誰もが「……え?」と思うのに、

しかし
誰も止めることの出来ぬまま
スルスルと悲劇へと突き進んでしまう。

何のとがもない人々が、
無意味な死を強いられ
しかし静かに気高く、誇り高く受け入れようとする様が、
静かに描かれる。

国民誰もが「なんで?」と思っているのに、
いつの間にかおかしなことが
するする進んでいるような
いまの日本の世の中に不気味にリンクしており

本気で「ゾッ」とする映画でした。

悲劇とわかっていて
見るのは辛いけどね。

ただ刺激的な映像もなく
淡々と、とにかく静かです。

知らなかったのですが
このフォルカー・シュレンドルフ監督って
映画「ハンナ・アーレント」を撮ったマルガレーテ・フォン・トロッタ監督と
1970年代に結婚し、90年くらいまで夫婦だったんですって。
それを知ると、よりへえ~~です

★10/25(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「シャトーブリアンからの手紙」公式サイト
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小野寺の弟 小野寺の姉

2014-10-21 23:32:54 | あ行

片桐はいりさんのエッセイっておもしろいよね~。
え?いまは関係ない?


「小野寺の弟 小野寺の姉」60点★★★


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小野寺進(向井理)と姉のより子(片桐はいり)
古い一軒家で二人暮らしをしている。

イケメンながら内気な進は、いつまでも昔の恋人が忘れられず
グズグズと日々を送っていた。

そんなある日、二人は
配達ミスで届いた手紙を相手に届けに行く。

届け先のマンションから出てきたのは
可愛らしい女性(山本美月)。

一目惚れをしたらしい進の背中を
懸命に押すより子だったが――?


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「怪物くん」「妖怪人間ベム」などの脚本家、
西田征史氏の原作&初監督作。
舞台にもなっているそうで。

まずは
片桐はいり氏と向井理氏が姉弟という
あり得ないだろ?な設定のおかしさ

顔かたちだけでなく
いい歳して姉弟仲良しとか、あまりに純情とか

いろいろ規格外な姉弟の(笑)ほんわか話として
まずまず期待は裏切らないと思います。

キャストのコンビもとてもいい。


ただ
もっとひねりがあってもなあ、と思う。

全体に演出やオチが初級っぽく
これは別に経験値の少なさとかでないと思う。
日常のささやかなお話だけに、物足りなさが大きい。


ただ、はいりさんの
“良識あるおかしみ”みたいなものが炸裂で、
それを見守る向井氏のあきれ顔にブッと何回か吹きました。

あと、
エンドロールの後のあのカット。
「あ、これが話のモデルなのか?!」と膝を打った。

全体、こういう感じがもっともっとあればなー。

これ
続きあったりして(笑)。


★10/25(土)から全国で公開。

「小野寺の弟 小野寺の姉」公式サイト
コメント (2)
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やさしい人

2014-10-20 23:37:52 | や行

かなりギョっとしましたよ?(笑)


「やさしい人」72点★★★★


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フランス、ブルゴーニュ地方の町。

30代の独身男マクシム(ヴァンサン・マケーニュ)は
実家のあるこの町に帰り、父親と暮らし始めた。

パリでは少し名の知れたミュージシャンだったマクシムだが
いまや先行きは不透明。

そんなある日、マクシムは
若く魅力的な女性メロディ(ソレーヌ・リゴ)に出会い――?!


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「女っ気なし」ギヨーム・ブラックの長編第一作目。

前作(&その前の短編「遭難者」も)に続いて
ヴァンサン・マケーニュを主人公にしています。
この方、36歳にして頭髪寂しげで
それが哀愁と味わいになってるんだよねー。

とまあ、前作好きだったので、期待大。

本作も冒頭から日常の一コマや男女の機微を
心地よい軽さとドキリとする観察眼、ユーモアで描いている。

んで
フンフン~♪と中盤までクスクス笑いながら、見ていたんです。

が、これがですね・・・
いきなり「ギョッ」とする展開になってびっくり。
短編からその先に行くと、
やっぱりこういう話になっちゃうの・・・?と。

「女っ気あり」になると、悲劇も起こるわあ・・・という(苦笑)。

と、
まあちゃんと持ち直しはしますが
かなり予想を裏切ってくれる作品ではありました。


しかし主人公、今回はまずまずのモテ役なはずで、
若い彼女ともうまくいくのに
どうしても最初から“必死さ”が哀愁で。

結果、空気読めず、
彼女を追いかけ回し、残念なことになっていく。

ただね
最初から「悲恋の予感」はバリバリなんですが
おもしろかったのは
どう見たって上位にいるだろう若くて魅力的な彼女が

「あなたは、どうせ、私を捨てるんでしょ?」と言うところ。
しかもかなり本気で言ってるっぽい。

えええ?どう考えたらそうなるん?
マジでそんな自信ないの?と。

男も女も“自分”を掴みにくい世の中。
相手に自分を投影することで、自分を見ようとしても

その相手が不安定なんで

映る像はより不安定になってしまう・・・という
ことなんでしょうか。


★10/25(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「やさしい人」公式サイト
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マルタのことづけ

2014-10-16 23:09:50 | ま行

なんかですね
木皿泉さんの小説『昨夜のカレー、明日のパン』を思い出したんですよ。


「マルタのことづけ」74点★★★★


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メキシコの都市。

スーパーの販売員・クラウディア(ヒメナ・アヤラ)は
突然の腹痛で入院する。

隣りのベッドにいたのは
4人の子どもを持つ40代のシングルマザー、マルタ(リサ・オーウェン)。

不治の病に侵されつつも、明るいマルタは
退院の日、ひとりぼっちで家に帰ろうとするクラウディアを
自分の家に招待する。

そしてクラウディアは次第に
マルタの家族の一員のようになっていき――?

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HIV末期患者のマルタと、孤独な少女クラウディア。
偶然出会った二人がお互いを補完し合い、
家族のようになっていく・・・というお話。

お涙っぽいおとぎ話?と、一瞬思うかもしれませんが、
なんと32歳のクラウディア・サント=リュス監督の実体験を
基にしているんだそう。

うーん、これはかなわん!

敬遠するのはもったいない。
すごくいいです。


最初は、ひどくぶっきらぼうな演出に戸惑うんですが、
メキシコの風土でもあるのかな
登場人物たちのざっくりした温かさ、大らかさが
どんどん、こちらの気持ちをほぐしていくんですねえ。


特にすごくうまいなあと感心したのが
ファブリック(布地)の使いかた。

冒頭、クラウディアが一人ぼっちで部屋で目覚めるシーンから
マルタの娘たちが席を奪い合うソファや、
マルタとクラウディアの距離が近づくのがベッドの上だったり、

不安な時に抱きしめたい枕、
くるまれると安心するシーツなどなど
体や心が触れ合う象徴として“布”を効果的に使ってる。

それにマルタの病室が
クラウディアとマルタの一家との接点になっていく様子にも、
ハッとしました。


病室は、もちろんつらい場ではあるのだけど
実は常に開かれた“集いの場”でもあるんだなあと。

死を前にした人は
意外に自分を開き、他人を招き入れるものなのかもしれない。
それによってクラウディアのような誰かを、救ったりしてるのかもしれない。

なんでもない日常の、そこに死が身近にあっても
それでこそ人がつながったり、生きてたりするんだな・・・と再確認する。
そんなところが
先日、取材でお目にかかった
木皿泉さんの世界に似ている気がした次第でございます。


★10/18(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「マルタのことづけ」公式サイト
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まほろ駅前狂騒曲

2014-10-15 23:15:42 | ま行

一番驚いたのは・・・あの役が、あの人だったこと!


「まほろ駅前狂騒曲」67点★★★☆


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まほろ駅前で便利屋を営む
多田(瑛太)と行天(松田龍平)。

ある日、多田のもとに面倒な依頼が舞い込む。

行天の別れた妻・凪子(本上まなみ)が
行天との間に生まれた娘を預かってほしいというのだ。

子どもに会ったこともなく
ましてや
大の子ども嫌いの行天にとてもそんなこと言い出せないと
必死に断る多田だったが――?!

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三浦しをん氏原作の
人気シリーズ第二弾。

役者のキャラ自体が役柄に
命を吹き込んでいるなと感じさせるハマりっぷりで
今回も魅せます。


いい加減お人好しを通り越している瑛太氏と
あり得ないほどマイペースで
しかし不敵っぷり満々な松田龍平氏。

セリフのセンスと
それを生かす間合いのうまさに笑い、
二人のやりとりを見ているだけでおおかた面白い。

のですが、
無農薬野菜を作る宗教団体、
そしてバスジャックと
事件らしい事件が起こると、逆になんだか失速。
全体、ちょっと長かったな……というのが惜しい。

しかしですねえ・・・
一番の衝撃は最後にやってきました。

エンドロールで仰天しましたよワシ。
あれが永瀬正敏氏だとは思わなかった!

にしても。
松田龍平氏の行天って
「探偵はBARにいる」の高田と
基本、あんま変わらないよね(笑)。
バディものの、最高の相方っていうか受け手っていうか。
次は「相棒」にぜひ!←願望。


★10/18(土)から全国で公開。

「まほろ駅前狂騒曲」公式サイト
コメント (2)
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