エピローグ

終楽日に向かう日々を、新鮮な感動と限りない憧憬をもって綴る
四季それぞれの徒然の記。

北の李徴へ

2014年03月06日 | ポエム
中島敦の山月記。
この作家、大好きである。

「隴西の李徴は博学才頴、天宝の末年、若くして虎榜に連ね、ついで江南尉に補されたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賎吏に甘んずるを潔しとしなかった。」

この韻の良さが、敦の真骨頂である。

虎になって、草叢に飛び込む彼の心情は、察して余りある。
友に食いつかなくて良かった!
と安堵の嘆息をつく。
李徴の悲しみは深い。

科挙という、時代の落とし物がこの作品を貫く。
けれど、落とし物がいまこそ問われてもいる。


小説の〆は、以下である。
「虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。」


朗読「山月記」中島 敦



官僚制度と言う妖怪である。
官僚の資質・・・それが制度下の重要な課題となっている。
白蟻とまで云われる、現在の官僚。

国民の痛痒を感じない官僚の厚顔無恥。
隔靴掻痒のぼくたち国民である。
翻って、かくいうぼくもまた、その官僚サイドに身を置いた。
その官僚制度を守ろうとした一人であった。

中島敦の云わんとした事は、何だったのか。
今こそ、自身に問わんとする。

虎となって自らを問え。
虎となって振り返れよ。
虎となって躍り出せよ。
虎は、答えるだろうか。




「寒戻る風吹き荒れて痛々し」


山月に吠えよ。
敦のごとく、あるいはまた朔太郎のごとく。


        荒 野人