自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「3・11」 あれから8年

2019年03月11日 | ⇒ドキュメント回廊

   「3・11」の被災現場を初めて訪れたのは、2ヵ月後の2011年5月11日だった。3日間、宮城県の仙台市と気仙沼市を中心に回った。目的は2つあった。一つは「森は海の恋人運動」を進めていた畠山重篤氏に会うため、もう一つは「震災とマスメディア」をテーマにした取材だった。

   気仙沼市役所にほど近い公園では、数多くの大漁旗を掲げた慰霊祭が営まれていた。気仙沼は漁師町。津波で漁船もろとも大漁旗も多く流されドロまみれになっていた。それを市民の有志が拾い集め、何度も洗濯して慰霊祭で掲げた。この日は曇天だったが、色とりどりの大漁旗は大空に映えていた。その旗には「祝 大漁」の「祝」の文字を別の布で覆い、「祈」を書き入れたものも数枚あった。漁船は使えず、漁に出たくとも出れない、せめて祈るしかない、あるいは亡き漁師仲間の冥福を祈ったのかもしれない。午後2時46分に黙とうが始まり、一瞬の静けさの中で、祈る人々、すすり泣く人々の姿が今でも忘れられない=写真・上=。
   
   公園から港方向に緩い坂を下り、カーブを曲がると焼野原の光景が広がっていた。気仙沼は震災と津波、そして火災に見舞われた。漁船が焼け、町が燃え、津波に洗われガレキと化した街だった。数百㌧はあろうトロール漁船が陸に押し上げられていて=写真・下=、津波のすさまじさを目の当たりにした。

   入り江の小高い丘にある畠山氏の自宅を訪れると「さきほど東京に向かった」とのこと。行き違いになった。ご家族の方にアポをとっていただき、翌12日午前中に仙台駅から新幹線で東京駅に行き、畠山氏と二男の耕氏と会った。畠山氏が中心となって、カキの養殖業者が気仙沼湾に注ぐ大川の上流で植林活動を20年余り続けていた。森の養分が湾に注ぎ込むことで、カキを育てる運動の先駆者だった。

   コーヒーを飲みながら被災後の近況を尋ねると、間伐もされないまま放置されている山林の木をどう復興に活用すればよいか、どう住宅材として活かすか、まずはカキ筏(いかだ)に木材を使いたいと、長く伸びたあごひげをなでながら語っておられた。津波で母を亡くし、カキ漁場も失った。それでも、森は海の恋人運動を震災復興にどう役立てるかと一途に想う姿には敬服した。75歳の畠山氏は今もカキ養殖のかたわら講演や執筆活動を通じて運動の広がりに熱意を注がれている。

   同日午後に仙台に戻り、KHB東日本放送を訪ねた。私のテレビ局時代、よく語り合った記者仲間が同社にいて、震災当時の様子を聞かせてもらった。局内の部屋を案内されると天井からボードが落ちていて、当時の揺れの激しさを目の当たりにした。東日本大地震では「地元マスメディアも被災者」ということを実感した。

   震災直後の報道現場の様子を生々しく語ってくれた。余震が続く中、14時53分に特番を始めた。それ以降4日間、15日深夜まで緊急マナ対応を継続した。空からの取材をするため、14時49分に契約している航空会社にヘリコプターを要請したがヘリは破損していた。空撮ができなければ被害全体を掌握でききない。さらに、21時19分、テレビ朝日からのニュース速報で「福島原発周辺住民に避難要請」のテロップを流した。震災、津波、火災、そして原発の未曽有の災害の輪郭が徐々に浮き彫りになってきた。

   同社の社長は社員を集め指示した。「万人単位の犠牲者が出る。長期戦になるだろうが、報道部門だけでなく全社一丸となって震災報道にあたる」と、報道最優先の方針を明確に打ち出した。それは、命を救うための情報発信に専念せよとの指示だった。また、甚大な被害を全国に向けて発信し、中央政府を動かして一刻も早く救援を呼ぶことも当面の方針だった。全国へは「被災の詳報」、そして宮城県の放送エリアへは「安否情報」「ライフライン情報」を最優先した。カメラ用の収録用テープの確保を最優先した。持久戦を戦うために、ロジスティックス(補給管理活動)を手厚くした。

   避難所や被災家屋周辺での取材で「見世物にするのか」と怒鳴られること多数回あった。耳障りの良い美談、一部の前向きの事象に偏っていないかという厳しい意見もあった。家族が死亡・行方不明の場合、信頼関係が構築できていないと取材を拒まれることも。「3年後、5年後、10年後を視野に入れた長期戦で臨む。被災地に寄り添うメディアでありたと心がけている」と当時語ってくれた。

   あれから8年、彼は定年で報道現場を退いた。自ら被災者であり、そして取材者として、かけがえのない人生経験をした友として尊敬している。

⇒11日(月)朝・金沢の天気     あめ

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☆北の動向に敏感な株

2019年03月09日 | ⇒ニュース走査

   このところ相次ぐ世界経済の見通しの下方修正、そして中国の2月の輸出額の大幅減少などが報じられ日経平均株価は続落、8日の終値は2万1025円、前日比-430 (-2.0%)、一時2万1000円を割り込んだ。そんな中で防衛関連株として値動きが注目されているのが東証一部の石川製作所(本社・石川県白山市)だ。8日の終値は1655円、前日比+255(+18.2%)だった。同社株で特徴的なのは北朝鮮の動向とリンクしていることだ。

   2017年9月にアメリカのトランプ大統領が国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、北が「頭のおかしい老いぼれ」とののしるなど
言葉の応酬が過熱した10月にかけては最高値4205円(10月16日)を記録した。平昌オリンピックへの北朝鮮の参加による平和ムードが広がり、徐々に株価は下がり、2018年3月29日に韓国と北朝鮮による南北首脳会談(4月27日)が決定すると1943円に落ち、第1回米朝首脳会談(6月12日)以降は軟調続き、年末には一時1000円を割り込んだ。ことし2月27、28日の第2回米朝首脳会談では初日が1209円、物別れが伝えられると1243円に反転、それ以降は上昇している。

   冒頭で述べた防衛関連株というのは、同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産し、追尾型の機雷を製造している。8日に買いが入るきっかけが、北の核・ミサイル拠点「西海衛星発射場」で関連施設の復旧しているとアメリカのシンクタンクや北朝鮮分析サイト「38ノース」が相次いで公表したことだった。38ノースが「North Korea’s Sohae Satellite Launch Facility: Normal Operations May Have Resumed」(北朝鮮の西海衛星発射場:通常の運用が再開される可能性がある)との見出しで公表した7日付の記事=写真=で、予想外だったのはレール式の移送施設やエンジン燃焼実験場の復旧作業が行われたのはことし2月16日から3月2日までに始まった模様だと記載されていることだ。

   この記事に投資家は愕然としただろう。ハノイでの首脳会談の最中に核実験施設の復旧作業が始まっていた可能性も十分にあり、金委員長は初日の会談で核・ミサイル実験を行わないと改めて明言したが、これと矛盾するのだ。2日目の会談で、この情報を事前に得ていたトランプ大統領が覚書を交わす前に、金委員長にこの情報の事実確認をして、明確な返事が得らなかったとしたら、大統領が席を立った理由は理解できる。「君は言うことと、やっていることが違うではないか」と一喝したに違いない。交渉再会の目途が立たなければ、北が核・ミサイル実験を再開する可能性も視野に入ってくる。そこで買いが入った、と読む。

    防衛関連株が次に動くとしたら、今月中に予定にされる、国連安全保障理事会で対北朝鮮制裁の履行状況を調査する報告書が発表されるタイミングだ。核・ミサイル関連施設の動きのほか、問題となっている洋上での荷の積み替え貿易「瀬取り」や仮想通貨を狙ったサイバー攻撃による外貨獲得などの実態が公表されることで、マーケットはどのように反応するのか。

⇒9日(土)夜・金沢の天気    はれ

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★「平成」 一場の夢~下

2019年03月07日 | ⇒ドキュメント回廊

         けさ(7日)新聞を眺めて、「ひょっとしたらこれは平成最後の不思議、かもしれない」と言葉が浮かんだ。保釈されたカルロス・ゴーン氏の写真である。青い帽子に作業服姿で、顔の半分以上はマスクで隠している。なぜ、このような姿で東京拘置所から出てくる必要性があったのだろうか。この作業服を着せた意味は何か、本人の希望だったとは思えない。これまで日産で着ていたスーツ姿、あるいは普段着でよかったのではないか。保釈金10億円を納付したのだから堂々と出てくればよいのではないか。写真を見て、おかしく、心は和むのだが。

   前回の続き。平成の30年はさまざまな新語や流行語が飛び交い、政治や経済、社会が動いた。政治の世界でも言葉が続々と生まれた。「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞から引用させていただく。年間大賞の言葉は、平成7年『無党派』(青島幸男)、平成8年『友愛/排除の論理』(鳩山由紀夫)、平成10年『凡人・軍人・変人』(田中真紀子)、平成11年『ブッチホン』(小渕恵三)、平成13年『米百俵/聖域なき改革/恐れず怯まず捉われず/骨太の方針/ワイドショー内閣/改革の痛み』(小泉純一郎)、平成15年『毒まんじゅう』(野中広務)と『マニフェスト』(北川正恭)、平成17年『小泉劇場』(武部勤ほか)、平成19年『どげんかせんといかん』(東国原英夫)、平成21年『政権交代』(鳩山由紀夫)、平成26年『集団的自衛権』(※受賞者辞退)、平成29年『忖度』(稲本ミノル)だ。平成7年から21年まで政治にまつわる新語・流行語の受賞頻度が高いことが分かる。

     「地盤・看板・カバン」選挙を変えた消費税ポピュリズム

   今こうして見てみると、政治は平成の世から日本版ポピュリズムの時代に入ったのではないかと思う。キーワードは消費税。平成元年4月に竹下内閣のもとで消費税3%が導入された。それ以降、税率引き上げにピリピリと過敏に反応する民衆の気持ちを推し測る、あるいは政治利用する、「消費税ポピュリズム」に政治は陥っているのではないかと思えてならない。

   いくつか事例を上げてみる。平成7年の『無党派』は、東京都と大阪府の知事選挙でそれぞれ無党派の青島幸男、横山ノックが政党推薦の候補を破ってことから一躍広がった。その前年の平成6年、自民・社会・さきがけ連立政権の村山内閣が消費税率を3%から5%に引き上げる税制改革関連法を成立させた。これを機に、数合わせの政党連合に対する嫌気ムードが大都市圏で一気に醸成され、無党派候補を支持する有権者層が政治パワーとして台頭、青島幸男、横山ノックを押し上げ、メディアも「無党派層」と呼ぶようになった。これ以降、無党派層をどう取り込むかが政治の命題となり、平成15年の『マニフェスト』はこれまでの「地盤・看板・カバン」の選挙の在り様を問いかけた。

    平成21年の『政権交代』は、民主党が衆院選挙で「国民の生活が第一」のマニフェストを掲げ、消費税率は4年間上げないと明言して勝利し政権交代を実現させた。しかし、翌年の参院選挙では菅内閣が消費税率10%に言及し選挙は惨敗。続く野田内閣では消費税率を「2014年に8%、15年に10%」に引き上げる法案を成立させ、「国民の信を問う」とした衆院選挙は新党乱立もあって大敗を喫した。社会保障と税の一体改革は民主、自民、公明の三党合意でもあったので、安倍内閣は8%の引き上げを実施したが、10%はこれまで2度見送り、ことし10月に軽減税率と抱き合わせで税率引き上げの方針を打ち出し、今まさに正念場を迎えている。

    いくつかの課題を積み残しながら、次なる時代に入る。

⇒7日(木)夜・金沢の天気      くもり

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☆「平成」 一場の夢~上

2019年03月05日 | ⇒ドキュメント回廊

      最近、知人から勧められて円相(えんそう)の掛け軸を購入した。円相は禅の書画の一つで、円形を一筆で描いたもの。その横に「人間万事 一場 夢(じんかんばんじ いちじょうのゆめ)」と。掛け軸と向きあって、解釈を試みる。世の中に起きる良し悪し全ては、はかない夢であり、動じることはない。そんな意味だろうか。作者は曹洞宗管長を務めた板橋興宗氏。「大乗七十世」と書いてあるので金沢市の大乗寺の住職を務めておられたころの作だ。92歳の板橋氏は今も現役で、「猫寺」で知られる御誕生寺(福井県越前市)の住職をされている。この掛け軸を眺めながら、平成の世を振り返ってみたい。

   平成を言葉で振り返ると面白い。平成という元号が始まった1989年1月8日、私は34歳の新聞記者だった。当時の小渕恵三官房長官が記者会見で「平成」のニ文字を掲げる様子をテレビ中継で見て、その意味や意義、この二文字に至った経緯について取材に回った。ある大学の国文学者は名前の由来は『史記』五帝本紀にある「内平外成」(内平かに外成る)が元ではないかと教えてくれた。国内が平和であってこそ、他国との関係も成立する。軍部の台頭から大戦を招いた昭和の経験を平成の世に活かそうという意義が二文字に込められていたに違いない。平成の言葉は毎年12月に発表される「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞から引用させていただく。審査員は学者のほか歌人の俵万智ら7人で多彩な目線で構成されている。 

              元年の「セクハラ」から「#Me Too」まで30年

   平成元年の新語部門金賞(平成3年から年間大賞)は「セクシャル・ハラスメント」(河本和子)だった。深夜のJRホームで、酔っ払った高校の男性教師がヌードダンサーにしつこく絡んで、女性から突き飛ばされ、線路上に転落し、電車とホームの間に挟まれ即死した西船橋駅教師転落事件(1986年1月)。翌年9月の判決で、女性の行為は正当防衛とされ無罪、検察も控訴を断念した。法廷でセクハラという言葉が飛び交ったわけではないが、男性にある女性軽視の発想が問われた。この判決がきっかけで、2年後の平成元年に慰謝料などの損害賠償を求めた福岡セクハラ民事訴訟が起こされるなど、セクハラという言葉が社会的認知を得ることになった。受賞者の河本和子氏はダンサーの弁護団長だった。

   平成30年新語・流行語大賞で年間大賞には選ばれなかったが、トップテンに「#Me Too」が入った。財務次官による女性記者へのセクハラ問題がきっかけだが、男と女のセクハラに対する意識の違いは30年経っても浮き彫りになったままである。

⇒5日(火)夜・金沢の天気   あめ

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★地域課題のキーワード「継業」と「就域」

2019年03月03日 | ⇒キャンパス見聞

   きのう(2日)金沢大学能登学舎(石川県珠洲市)で人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」の卒業課題研究の報告会があった。審査員を依頼され、受講生の発表を終日聞くことができた。受講生は1年間の研究成果を発表12分・質疑8分で発表し審査を受ける。主査、副査、外部評価員の3人が(1)着眼点・問題設定力、(2)論理性・説得力、(3)具体性・実現可能性、(4)プレゼンテーション力(発表のわかりやすさ)、(5)質疑に対する対応力、(6)地域振興における意義の6つ評価項目でチェックをする。

   能登里山里海マイスター育成プログラムは45歳以下の社会人が講義、実習、先進地視察、課題研究に取り組む。ことしは農業者や行政職、地域おこし協力隊、工芸家、鍛冶師、建築家、JICAスタッフなど多彩な人材がそろう。1年かけて自己実現に向けて理論構築、実施プランを発表する。それが近い将来、職場や地域における働き方、新商品開発のイノベーション、創業・起業へとつながっていく。ことし12年目、これまで165人のマイスター修了生を輩出している。昨年2月には、実績が評価され、国が後援する「イノベーションネットアワード2018」において最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。

   話は卒業課題研究に戻る。報告会では、時代のトレンドを読む面白い発想や言葉が飛び出した。いくつか紹介する。自治体の移住コーディネーターとして移住・定住の窓口業務を担っている男性(地域おこし協力隊メンバー)の発表だ。彼は82世帯136人の移住者を担当し、「継業(けいぎょう)」を勧めている。事業継承は身内が生業や事業を引き継ぐことを指すが、継業は第三者(移住者・町民)が継ぐことをいう。「身内が引き継いでくれた方が安心であることは承知の上で、後継者がいなければ、第三者による新たな視点で事業を発展させてくれる可能性があれば継業を経営者に提案していきたい」と熱く語った。

   もう一つ、「就域(しゅういき)」。学生や若者の就職支援センター「ジョブカフェ石川」に勤務する女性が発した言葉だ。地域の中小企業と行政、金融機関などが連携して、地域ぐるみで若者を定着を支援する取り組みのことを意味する。これまで、同じ地域にいても利害が異なるため採用競合の状態だったが、地域振興を図るという共通の目的のために地域ぐるみで採用に取り組む。石川県の求人倍率は1.96倍と人出不足が慢性化し、北陸新幹線による「ストロー現象」も顕在化している。彼女は「とくに能登には就域が必要です。入ってみないと分からないという学生・若者の不安を解消し、お互いのミスマッチを防ぐことができれば彼らは能登に入ってきますよ」と語った。

   「継業」と「就域」、この場で初めて聞いた言葉だが、能登の未来可能性を語る受講生たちの厚い志(こころざし)が伝わってきてた。と同時に、能登をはじめ少子高齢化の地域が課題解決に向きあうキーワードだと察した。

⇒3日(日)夜・金沢の天気    くもり

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☆米朝会談、突然席を立ったのは誰か

2019年03月01日 | ⇒ニュース走査

      米朝首脳会談をニュースを見終えて、印象は「トランプの勝ち」だ。トランプ大統領はきのう(28日)午後2時15分(現地時間)から、ハノイのJWマリオットホテルで開かれた記者会見に臨み、「委員長との対話は建設的だった」「しかし、現時点で合意文書に署名することは適切ではないと考えた」と合意が決裂したことを明言した。金氏が全面的な制裁解除を求めてきたものの、応じなかったと明かした。ポンペオ国務長官は「金氏は準備ができていなかった」「我々が望む成果は結果を引き出せなかった」とフォローした。(写真・上はトランプ大統領のツイッターより)

   トランプ氏の記者会見を受けて、ニューヨーク・タイムズ紙は速報でこう伝えている。President Trump and Kim Jong-un’s summit meeting on the denuclearization of North Korea ended abruptly. Mr. Trump said the U.S. was unwilling to lift all its sanctions without the promise of full denuclearization.(北朝鮮の非核化に関するトランプ大統領と金正恩の首脳会談は突然終わった。トランプ氏は、アメリカは完全な非核化の約束なしにすべての制裁を解除するつもりはないと述べた)

   トランプと金の両氏はこの日午前中、ソフィテル・レジェンド・メトロポールホテルで拡大首脳会談を終えた後、午前11時55分から昼食会を持って午後2時5分に合意文に署名する予定だった。しかし、拡大首脳会談の途中でその後のスケジュールを全面的に中止、それぞれが宿泊先のホテルに戻った。記者会見も当初午後4時から会見の予定だった。

   ニューヨーク・タイムズ紙の速報から察すると、「abruptly(突然)」という単語の意味合いが大きい。では、拡大首脳会談の席上で誰が突然席を立ったのか、席を立つきっかけは何だったのか、それは誰のどのような態度、あるいは発言がきっかけだったのか、などなどである。次の会談の約束も取り付けず、事実上の物別れに終わった会談だが、勝者はトランプ氏だろう。全面的な制裁解除を優先的に求めた金氏は足元を見られた。「完全非核化の進展がなければ、この話はなかったことにしよう」とトランプ氏が勝負に出てた、席を立った。

   ビジネス交渉の中では相手にプレッシャーをかけるために席を立つこともある。先に席を立たれて、次に譲歩の条件を出して席に戻ってもらうよう行動を起こすのは金氏の方である。経済制裁が続いて困るのは金氏なのだ。

   去年2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では韓国の文在寅大統領と金氏との間では「完全な非核化」が明記された=写真・下=。さらに6月12日の第1回の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れている。にもかかわらず、IAEA(国際原子力機関)による査察など非核化へのプロセスはいっこうに見えてこない。

   妥協は一切しないことを、交渉相手に見せつける百戦錬磨のタフニゴシエーター、これがトランプ流なのだろう。ひょっとして、貿易戦争をめぐる中国の対する牽制も意図しているのかもしれない。

⇒1日(金)朝・金沢の天気     くもり

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