久しぶりに西鉄バスに乗って帰路に着くと、車内に明るいアナウンスが響き渡りました。
「金木犀の香りが、鈴虫の音色をともなって秋を運んでまいりました。今度のお休みには小さい秋を探しにお出かけになってはいかがでしょうか」
伝説の運転士、鈴木崇弘さんのバスに、ついに乗り合わせることができた幸せをかみしめました。
鈴木さんのアナウンスの名調子は、地元福岡ではつとに知られていて、その語録がいくつも記録されています。
去年の11月、世紀の天体ショーと言われた日には、こんなアナウンスが流れたそうです。
「今夜は皆既月食と天王星食が、実に442年ぶりに起こるそうです。忙しい毎日の中、たまには夜空を眺めて、ゆっくりとした時間をお過ごしになってはいかがでしょうか」
理系の大学を卒業後、一年間ワーキングホリデーで過ごしたオーストラリアで、廃車のバスをリノベーションした部屋に寝泊まりしたことから、鈴木さんはバスとの因縁を感じていたと取材で語っていました。
西鉄バスに就職して、研修センターの講師から「お客さまを感動させる運転士を目指してください」と言われたことが心に残り、思い切って「元気で行ってらっしゃいませ」の一言をかけたことが、鈴木さんが伝説の運転士に踏み出す第一歩だったのだそうです。
今年は残念なことばかりのソフトバンクホークスでしたが、このチームが無敵を誇っていた頃の逸話も振るっています。
ホークスが優勝を決め、試合が終わったあとの臨時便に乗車していた鈴木さんは、こうアナウンスしたのだそうです。
「みなさん、今日は寒いので川には飛び込まず、帰宅されたらそのままお風呂に飛び込んでください」
車内はドッと沸き返り、降車するお客さんは鈴木さんを、口々に褒めたたえたのだそうです。
「おもてなし」について、ずっと考えていたところに、こんな一言が思い浮かびました。
「おもてなしは勇気から」