相場英雄「みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き因習の殺意」小学館文庫2009年刊
著者といい、出版社といい、題名といい期待させるに充分な出で立ちである。登場人物も宮沢賢治の姻戚を思わせる主人公、美人のアシスタント、偉丈夫の警視、政治家、秘書、地方下請け業者などなど、こうしてあげるだけで粗筋が見えてきそうである。
加えて喜多方ラーメン、蕎麦の産地に近い舞台設定だが、どうも要素が多すぎるせいか触れ方が通り一遍のような気がする。それなりに何かありそうだという気は起きるのだが、そうかそんなつながりか、という納得性に欠ける。
ただ中央政界の圧力がこんなに隅々まで及ぶという点は、すごい筆致である。現実の森友、加計問題を見ても、一度権力側に傾くと、その動きはとどまることを知らない事がわかる。ただくどいようだが、麺喰記者、とか三泣き、の看板はそれほど本筋に効いていない。
前に読んだこの著者の力量を十分知っているだけに、この本はちょっと間口を広げ過ぎたように思う。