ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明039 自信発生機

2010年01月29日 | 博士の発明

 村からユクレー屋は一本道で繋がっている。ユクレー屋から港、及びシバイサー博士の研究所までもその一本道は繋がっている。いつもはその一本道を歩いてユクレー屋へ行くのだが、今日は天気も良かったので海岸に出た。海岸に道は無いが、歩くのに不自由の無い砂浜が続いている。そこを回ってもユクレー屋や港へ行けるのだ。
 で、冬の海風に吹かれながらのんびり歩いて、ユクレー屋の辺りを通り過ぎて、そのままシバイサー博士の研究所へ向かい、夕方前、まだ日の明るいうちに着く。

 話は昨夜のことになるが、ユクレー屋でマミナを相手にガジ丸と飲んでいる時、
 「おー、そういえば、博士から伝言があるぞ、新発明があるから見に来いってゑんちゅ小僧に伝えてくれとのことだった。」
 「新発明?・・・でも、前の『陽気な容器』はほとんど役に立たない発明で、博士もちょっと落ち込んでいるじゃないかと思ったけど、もう新発明なんだ。」
 「あー、前の奴は俺も見たが、確かにその通り役に立たないもんだったな。しかし、今回は自信ありそうだったぜ、何でも、ジシン発生装置とか言ってたな。」
 「地震発生なんて、ちょっと穏やかじゃないねぇ。」(マミナ)
 「俺も見ていないからはっきりしたことは言えないが、その地震じゃないと思うぜ。磁心とか、あるいは、自信とかじゃないかなぁ。」
 「ふーん、地震発生機ならたいした発明だと思ったんだけど。」(私)
 「地震発生機なら、もう既に発明されて、実際に使われてもいる。」(ガジ)
 「えっ、ホント?そんな恐ろしい物、誰が発明したの?」(マミナ)
 「大国の科学者だ、軍の兵器として使われている。」
 「兵器なんだ、それはでも、意図的な攻撃を自然災害に見せかけるってことでしょ、随分卑怯だし、何かとっても非人道的に思えるさあ、私には。」(マミナ)
 「その大国に逆らった国に地震が起きたら、その兵器が使われたかもしれないってことだね。我が国に逆らったら天罰が下るぞ、みたいになるんだ?」(ガジ)
 「まあ、そういうことだな、天のせいにする、マミナの言う通り卑怯だな。」

 なんていう話があって、で、その翌日の今日、私は博士の研究所へ来たのであった。

 今日は外で遊んでいたゴリコとガジポの相手をちょっとやって、研究所の中へ入る。博士は作業場にいた。作業はしていなくて、酒を飲んでいた。
 「博士、こんにちは。何か発明品が完成したと聞きましたが?」
 「あー、よく来た。さっそく紹介しようこれだ。」と博士は言い、博士の後ろ、床の上に置いてある大きな液晶テレビのようなものを指差した。
 「じしん発生機という名前だ。今回は駄洒落は何も無い。」
 「じしんって地震じゃないんですよね、どのじしんですか?」
 「ん?・・・じしんと言ったら自信だ。自信喪失の自信だ。他に何があるんだ?」
 「はぁ、最初に浮かんだのは地震、雷、火事、親父の地震でした。」
 「そうか、その地震か。それはしかし、既にあるし、さほど難しい発明では無い。つまり、私が作るほどのものでは無いってことだ。それに、地震発生機なんて、私の考えでは無意味な発明だ。それによって誰かが幸せになるとは思わない。発明は人の幸せのためにあるもんだ。それに比べ、私の自信発生機は幸せになる機械だぞ。」
 「ですね、名前からすると、自信喪失が自信満々になるってことですよね。」
 「うん、その通り。前ユーナが来た時にだな、恋人ができないのは私に魅力がないからだなんて言って、ずいぶん自信を失くしている風だったからな。そんなユーナのために作ったのだ。自分の姿を画面に映すだけで自信が湧いてくる機械だ。」

 博士は立ち上がって、自信発生機のスイッチを入れ、それのリモコンらしきものを手に持って、「実験しよう」と、私を機械の前に立たせた。機械の画面に私の姿が映った。画面が大きいので、ほぼ等身大の姿だ。

 「さー、君が望むような君にしてみよう。何か要望はあるか?」
 「要望って、若い女性が望むような、例えば細くするとか、小顔にするとか、色白にするとか、おっぱいを大きくするとかですか?」
 「まあ、そういうことだ。その望み通りに画面に映った姿は変わる。」
  「ふーん、でも、私には要望はありません。これで十分です。これが私です。」
 「まあ、そうだな。マジムンともなればそうでなくてはいかん。しかし、ユーナは人間だ。それに女だ。しかも若い女だ。見た目は大いに気になるであろう。この画面で自分の望む姿を映しだし、それを見ればきっと自信がつくはずだ。」
 「博士、でもそれって、ホントの自分の姿じゃないんですよね?」
 「君も長く生きている割にはモノの本質が解ってないなあ。いいか、太った人が痩せて美人になったとしても、その人が『私は美人になった』と思わない限り、それは何の意味も無いのだ。意識が大事なのだ。私は生きている価値があると思うことが大事なのだ。それが自信というものだ。この機械はそれを与えてくれるというわけだ。」
 何かちょっと難しい話になったが、博士の言わんとすることは何となく解った。改めてさすが博士だと思った。たまには良いことも言うのである。
 なお、この機械の効果については、ユーナが帰ってきてからの報告となる。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2010.1.29


発明038 陽気な容器

2010年01月08日 | 博士の発明

 正月も8日となった。ユクレー島は博士の発明した機械のお陰でまずまずの天気だったが、オキナワは違ったようだ。ジラースーによると、正月一日は晴れてぽっかっぽかの陽気だったが、二日以降は雨や曇りの日が多く、しかも冷えたらしい。冷えているのは気温だけで無く、世界的に経済も冷えて、人の心も冷えているらしい。
 心の冷えた人が増えるとユクレー島にやってくる人も増えるのだが、今はまだそのような気配は無い。これからのことなのかもしれない。

 さて、そんな中、シバイサー博士の研究所へ行った。正月はマナもユーナも島に来ていて、ユクレー屋で新年会をやったのだが、その時、博士は顔を見せなかった。その後すぐに、私はガジ丸と一緒にオキナワに遊びに行っていたので、新年になってからまだ博士の顔を見ていなかった。で、今日は博士に新年の挨拶。

 研究所へ着く。今日は寒いからなのか、いつもは外で遊んでいるゴリコとガジポの姿が見えない。いつもは開いているドアも閉まっている。ドアをノックすると、いつもならゴリコとガジポが真っ先に出迎えてくれるのだが、博士が出てきた。
 「あっ、博士、どうも、謹賀新年です。」
 「おー、君か、まあ、中へ入れ、今から一杯やるところだ、君も付き合え。」
 「はいはい、喜んで。あの、ところで、ゴリコとガジポはいないんですか?」
 「ん?途中で会わなかったか?さっき、ガジ丸が連れて行ったぞ、何だったっけ、ウフオバーがぜんざいを作ったからって、ユクレー屋に向かったぞ。」
 「えっ、そうですか。会わなかったですね。浜を通ったんですかね。」
 「まあ、そんなことはどうでもいいさ。それよりも君に見せたいものがある。一杯やる前にちょっとこっちへ来てくれ。」と博士は言って、作業場へ入った。

 「博士、見せたいものというのは新しい発明品ですか?なら、2010年の発明第一号となりますね。」と、博士の後ろに続きながら訊いた。
 「うん、まあそうだな。新年が明けてから完成した。・・・これだ。」と言いながら、博士は作業テーブルの上にある物体を指差した。瓶のようなものがあった。形は泡盛の酒瓶みたいだが、とても大きい。五升くらいは入りそうな大きさ。
 「瓶・・・ですか?ずいぶん大きいですが。」
 「瓶、っていうか、容器だ。」
 「容器?・・・何の容器ですか?酒瓶みたいな形ですが。」
 「あー、酒を入れてもいいが、菓子とか米とか入れてもいい。」
 「酒とか菓子とか入れる容器なら、普通にあるじゃないですか?」
 「いやいや、これの表を見たまえ。」と博士は言って、容器を180度回転させて、向こう側だった面をこちら側に向けた。その面にはラベルが貼られていた。ラベルには絵が描かれてある。大きな口を開けて笑っている絵。
 「何だかとても明るいラベルですね。」
 「先行き不透明な世の中、そんな暗い気分を吹き飛ばそうと思ってな、見るだけで気分が明るくなる容器を作ったのだ。名付けて陽気な容器だ、カッ、カッ、カッ。」
 名前が駄洒落の、ただの瓶のようであった。博士らしいといえば博士らしい。
 「博士、それガジ丸にも見せたんですか?」
 「そりゃあもちろん、しかしあいつはユーモアを解さん奴でな、くすりともせず、何も言わずに帰りやがった。つまらん奴だ。」
 私は、多少はユーモアを解するが、でも、今回はガジ丸に同調する。
 「博士、そろそろおいとまします。私もぜんざいを食べたくなりました。」と言い残して、博士の元を去った。博士は「何で?」というような表情をしていた。
     

 しばらく後、ユクレー屋に着く。ガジ丸とゴリコとガジポはまだいた。マミナもいた。私も早速、ウフオバー手作りのぜんざいを頂く。とても美味しかった。
 そうだ、ガジ丸といえば、このあいだの唄の謎、その答えをまだ聞いていなかった。
 「ガジ丸、そういえば、年末に歌った『ラフテーの秘密』の秘密って何なんだ?」
 「あー、それ、私も解らなかったさあ、ラフテーの秘密って何?」とマミナも訊く。
 「ん?解らなかったか?そうか、マミナでも解らなかったか。ちょっと難しかったかもな、あれはだな、ベース音が鍵だ。イントロ、間奏、エンディングは同じベース音になっている。その音階がヒントだ。ミソラシー、ミソラシーと繰り返されている。」
 「あっ、そうか、ミソラシーか!」と、マミナは解ったみたいだが、私はまだ。
 「ミソラシーがどんなヒントになってるの?」とマミナに訊く。
 「隠し味は何だ?って訊いて、ミソラシーと答えてるさあ。」とのこと。???。

 記:ゑんちゅ小僧 2010.1.8


発明037 ネココナーズ

2009年11月27日 | 博士の発明

 週末の夕方、ユクレー屋を訪ねると、マナがいた。
 「あれ、マナ、帰ってくるのは毎月第一の週末じゃなかったっけ?」
 「ウフオバーから電話があってね、・・・」と言うマナの横から
 「はい、別に、おいでって行ったわけじゃないけどねぇ。」とオバー。
 「ジーマーミドーフ作るからジラースーに持たそうねぇって言うからさ、ジーマーミドーフを作るんだったら、その作り方知りたいと思って、飛んできたさあ。」とのこと。そういえば、裏の畑にジーマーミ(落花生)がたくさん植えられていた。
 「で、できたの?」
  「はい、これ、食べてみて、私の作。」とマナは言って、小皿に乗ったジーマーミドーフを出した。ジーマーミドーフとはゴマ豆腐の落花生版といったもの。そのもの自体の色は真っ白だが、砂糖醤油ベースの黒いタレがかかっている。食べてみる。
 「うん、マナ、上出来だよ、美味しいよ。」
 「えーい、まあね、教えた人が達人だからね。当たり前だね。」
 その後、村の人たちの何人かが客としてやってきて、夜になるといつものようにガジ丸一行(ガジ丸、ジラースー、勝さん、新さん、太郎さん)もやってきて、マナ作ジーマーミドーフはみんなに振舞われた。100%の好評であった。
     

 「マナ、料理も上手なんだね。」と太郎さんが褒める。「料理も」の「も」が、他に何が上手なんだろうと私は疑問に思った。ケダマンならすぐに突っ込むところだ。が、私はそれを口にしない。わざわざ女性の機嫌を損ねるようなことはしない。ところが、
 「あー、何だってー、料理も上手だってー、他に何が上手なんだ?マナは?」と、店の入口のドアが開いて、店内に大きな声が響いた。ケダでは無い、シバイサー博士。博士もまた、わざわざ女性の機嫌を損ねるようなことをするケダマンみたいな性格であった。マナが「なにさ!」と文句を言う前に、話を逸らす。私はそういう性格。

 「おや、博士、こんな夜遅くに珍しいですね。」(私)
 「あー、そういう君が最近『博士、何か新しい発明はないですかー?』と聞きに来ないもんだからな、自らわざわざ出向いてきた。」
 「そういえば最近、ご無沙汰していました。で、何かあるんですか?」
 「あー、前にな、ジラースーがブツブツ言ってたのをヒントにしてな、・・・」と言い終わらない内に、ちょうど傍を通りかかったジラースーが、
 「ん?俺が?俺が何か言ったか?」と博士を見る。
 「最近、野良猫が増えて、干してあった魚を盗られると言っただろう?」
 「あーそれか、うん、言った、言った、今でも多いな。」
 「猫が寄ってこないような機械を作ったってことですか?」(私)
 「その通り、その名もネココナーズと言う。猫が寄ってこないからネココナーズだ。カッ、カッ、カッ。ついでに、見えないフェンスというキャッチフレーズも考えた。どうだ面白かろう。カッ、カッ、カッ。」と博士はさも得意気に高笑いする。

 「見えないフェンス、ネココナーズ?それってパクリじゃない。見えない網戸ムシコナーズの。」とマナ、「相変わらず、しょうもない」といった表情。
 「名前は変えればいいんです。問題は中身です。どのようなものですか?」(私)
 「名前は、しかし、私としてはそれが大事だったんだが、まあ、いいか。私の作ったものは薬剤ではない。電磁波によって猫を近寄らせないもの、ほら、これだ。」と博士は言って、首に下げていたロープを外し、我々の目の前に置いた。ロープの直径は2センチほど、長さは2メートルほど。博士はその端と端を繋げ、円状にした。
 「このロープから猫の嫌う電磁波が出て、この円の中には入れない。」とのこと。

  「魚を軒下に吊るしてあるって言ってたな、吊るしてある魚の真下、魚を囲むようにしてこのロープを床に置いておけば猫は近寄れない。」
 「そりゃあいいな、しかしそれ、人間には害は無いのか?」(ジラースー)
 「無い。それに、人間なら円の中に入らずとも手を伸ばせば魚は取れる。」
 「円の中に入らなければいいんだったら、猫だってジャンプするさあ。」(マナ)
 「ジャンプしても届かない高さに魚を吊るせばいいんだ。」
 「猫は屋根からだってやってくるんじゃないの?」(マナ)
 「えっ?猫は屋根に上るのか?」と、博士が1+1=2なの?みたいなことを訊く。それには誰も敢えて答えず、ジラースーがテーブル席に戻りながら言った「せっかくだが、それ、要らないぜ。アリガトよ。」との言葉で、博士の新発明ネココナーズの話はお終いとなった。博士はいつものように黙って帰っていった。少し寂しげであった。
 「自分も元ネコのくせに、ネコの習性がわからないのかしら。」とマナが言う通りのことを私も感じた。それにはガジ丸が答えてくれた。
 「ネコだった頃のことはとうの昔に忘れちまっているんだろうよ。」とのこと。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.11.27 →今週の画像(ジーマーミドーフ


発明036 カビカビン

2009年07月03日 | 博士の発明

 シバイサー博士の新発明、過美化瓶は、その名の通り「美しく変化させ過ぎた瓶」。そんな瓶がいったい何の役に立つんだろう。

 「瓶そのものに価値があるから中身を問わないのだ。」
 「中身はどうでもいいってことですか、それがどういう意味を持つんですか?」
 「瓶を見て美しいなあと思う。美しいなあと思うと幸せになる。それで十分。それ以上のことは問わなくなる。中身なんてどうでもいいと思うようになる。」
 「それはそうでしょうが、それがどういう意味かと・・・?」
 「解らん奴だなぁ、『美しく変化させ過ぎた』の『過ぎた』を考えろ。ただ、美しい瓶なら『美化瓶』でいい。そこに何故『過』が付いたかだ。」
 「何故『過ぎた』が付いたですか、美し過ぎるってことですよね。うーん、『過ぎたるは尚及ばざるがごとし』と何か関係ありますか?」
 「関係あるも何も、そのことを言うておる。見た目の美しさに心が奪われて、物の本質を見失うことが世の中には多々ある。この瓶はそれを象徴している。」

 「博士、しかし、お言葉を返すようですが、美しい瓶は美しいというだけで、瓶そのものに存在価値があります。瓶そのものが本質と言ってもいいと思います。」
 「君、君の耳は耳糞が詰まっているのか、いいか、よーーーく聞けよ。瓶そのものが本質であって中身は必要無いのであれば、それはもう瓶では無い。オブジェであって、美術品になるかもしれないが、用途としての瓶の存在価値を失っている。『過ぎた』ということがそういう結果を生んでいるということだ。」
 「あー、そういうことですか、何となくですが解ったような気がします。『過ぎ』てしまえば、その本質も変わってしまうってことですね。」
 文明の発展と共に、人間が、その生きる本質を見失っているということを、博士は戒めようとしているのかもしれない。いつもテキトーでやっている博士だが、やはり、心底では真面目に社会のことを考えているのだと、改めて見直した。ところが、

 「さて、このカビカビンの本質なんだが、これは実は、機械なのだ。」
 「機械?」には全然見えない。きれいな花瓶にしか見えない。
 「そう、早く言えば、掃除機だ。」
 「掃除機?・・・には見えませんが、どう使うんですか?」
 「この台の上に乗せて使う。」と博士は言って、4輪の台車の上に花瓶を横にして置いた。すると、台車ごと花瓶は床の上を勝手に動き出した。
 「この掃除機はカビ専用の掃除機だ。カビに敏感に反応してカビを吸取る。」
 「それは、名前はともかく、良いですね、役に立ちますね。」と言いながら、私は花瓶を見ていたのだが、花瓶は棚の隙間のところで止まっている。
  「博士、花瓶の掃除機、棚のところで止まってますね。」
 「きっと棚の下にカビがいっぱい生えている。カビには敏感だからそこに固執する。しかし、図体がでかいのでその隙間に入っていけない。で、立ち往生する。」
 「カビって、だいたい狭いところに多いですよね、そこに入っていけなかったら、ほとんど役に立たないということになりますね。」
 「それは仕方ない。名前が先に浮かんだのだ。花瓶形は必要条件だ。」

 なるほど、と思った。カビに敏感に反応してカビを吸取るのが本質の掃除機、それを駄洒落のために役に立たない形にしてしまう。駄洒落も『過ぎ』てしまえば、ものの本質を見失ってしまうということを、博士は実践しているわけだ。
 「ところで、名前なんだが、じつは、過美化瓶にしようか華美花瓶にしようか迷っている。君ならどっちがいいと思う?」と博士が訊いたのだが、どっちでもいいやと私は思ったので、その返事は濁したまま失礼した。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.7.3


発明035 ほうしぼうしぼうし

2009年06月05日 | 博士の発明

 ケダマンがいなくなって、話し相手がいなくなって、ちょっと寂しい気分だが、まあ、ケダマンがやってくる前の状態に戻っただけのこと。私はいつものように村を散歩して、瓦版のネタ探しをしている日々だ。ただ、週末はちょっと暇になった。
 そんなところへ、「新しい発明が完成した。」とシバイサー博士から連絡があった。早速、研究所へ向かった。博士は在宅、私が来るのを待っていたようだ。

 「今回はどういった発明ですか?」
 「巷では新型インフルエンザなるものが流行っているというのは知っているな?」
 「はい、世界中に広まっているようですね。」
 「春になると花粉症が猛威を振るうってことも知っているな。」
 「はい、倭国の話ですね。オキナワには無いようですが。」
 「新型インフルエンザも新型と名の付くくらいだから、今までに無かったもの。花粉症も昔はあまり聞かなかった。地球環境が変化すると、今までに無かった病気が発生するということだ。それは、これからも増えていくだろう。」
 「そうですね、それは予想できます。」
 「で、私が予見するところ、新型インフルエンザは、新・新型インフルエンザとなり、新・新新インフルエンザとなって、これからも新しいのが出てくるであろう。それはその都度ワクチンを開発して、人類は対処していくことになる。」
 「そうですね。大変ですね人類も。で、博士はそれを助けるつもりで、万能ワクチンでも発明したというわけですか?」
 「そんなもんは発明しない。どんなウィルスが発生するか分からないのに、それを予想して、それに効果のあるワクチンを予め作るのはとても面倒だ。」
 「あー、それじゃあ、花粉症の特効薬ってことですか?」
 「それもそのうち人類自ら作るだろう。私がわざわざやることでは無い。」
 「ん?それじゃあいったい、何なんですか?」

 「花粉症もだな、世間ではスギ花粉がどうのヒノキ花粉がどうのと言われているが、実は、もっとやっかいなアレルギー物質があるのだ。」
 「やっ、それは知らなかったですね。倭国のことですか?」
 「いや、まだ症状となって現れているところは無い。まだ無いが、将来現れる可能性がある。これは、人知れず静かに蔓延するから厄介なのだ。」
 「何なんですか?それ。」
 「シダ植物の胞子だ。これがそのうち突然変異を起こし、空気中にあるさまざまな科学物質と反応して毒性を持つようになる。そうなると厄介なことになる。で、それを見越して、シダの胞子を寄せ付けないものを発明したというわけだ。」
 「はー、それは大発明じゃないですか。」
 「うん、名付けて『ほうしぼうしぼうし』だ。カッ、カッ、カッ。」と博士は高笑いする。胞子防止帽子という語呂合わせのネーミングがきっと自慢なのであろう。

  胞子防止帽子はしかし、帽子というよりは小型扇風機だ。ドラエモンのタケコプターに似ている。帽子としては見た目に格好悪い。需要は少ないのではないかと思って、
 「博士、それを頭に付けるより、マスク型にして、鼻と口の周りだけに風を送って、胞子が近付かないようにした方がいいんじゃないですか?」と率直な意見を言う。
 「あー、それはそうだが、マスクの駄洒落が思い付かんかった。」とのこと。実用性よりは駄洒落を優先するのが博士の発明だ。それはいつものこと。
 「ところで、博士、シダの胞子が毒性を持つようになるのはいつ頃ですか?」
 「それは全くの不明だ。10年後になるか、100年後になるか、あるいはもっとずっと後になるか、もしくは、そういう日は来ないかもしれない。」とのこと。
 あるかないか判らない病気のための機械なんて、と私は思った。博士の発明は今回もまた、とりあえずしばらくは、役に立たないもののようであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.6.5