マナの故郷は確か、オキナワではなく倭国だったと覚えているが、気分的にはユクレー島が彼女の故郷のようで、島にやってくると、
「帰ってきたよー。」と言い、「何しに来た?」と問えば、
「里帰りさあ。」と答える。彼女の実家はユクレー屋のようである。
で、そのマナが今朝、里帰りしてきた。双子の子連れだが、ユクレー屋のカウンター係りがいないと聞いて、子守しながら、夕方からカウンターに立っている。
「久々だね、マナのママさん。」
「だね。何だか懐かしい感じ。それにしても目の前にあんた一人というのがね、ちょっと・・・。いると煩いけど、いないと寂しいもんだね、ケダも。」
「うん、ケダが旅に出てもう二週間過ぎたよ。今頃どこかの空をふわふわ漂っているんだろうな。まあ、そのうちまた、ぶらっと顔を見せると思うけどね。」
そんなこんなの近況報告をしているうちに、ガジ丸一行(ジラースー、トシさん、テツさん)がやってきた。いつもよりだいぶ速い時間だ。「早いね」と訊くと、
「マナを遅くまで働かすわけにはいかないと、この愛妻家が言うんでな。仕事を急いで済ませてきた。」とガジ丸は言って、ジラースーを見る。ジラースーはガジ丸を睨み返しながら、マナには優しい目を向けながら、トシさん、テツさんと共に奥のテーブルへ向かった。ガジ丸もその後に続こうとしたが、マナに呼び止められた。
「このあいださ、ユイ姉の店に行ったんだ。そしたらさ、その数日前にガジ丸もゑんも行ってたんだってね、マミナ先生から聞いたよ。」
「あー、トリオG3のライブを覗きにな。」
「私達もそれが目的。でさ、ガジ丸の作った『新月の宴』を聴いてさ、マジムンたちも祭りがあるんだと知ったさあ。ガジ丸みたいな猫、この世にいっぱいいるの?」
「化け猫がいっぱいいるかどうかってか?」
「化け猫なんて言ってないよ、私。」
「構わんよ、化け猫で。・・・猫には限らないが、いっぱいっていうか、まあまあいるな。たまに集まってもいるぞ。集まってお祭りやってる。」
「でも、闇夜の祭りって、何か不気味な感じ。」
「そうでもないぜ。飲めや歌えや、食えや踊れやの楽しい祭りだ。現代は、マジムンたちにとっては生き難い世の中になっているから、祭りでは大はしゃぎだよ。」
「そういえばさ、」と私が口を挟む。「あの後、ガジ丸と二人で、何人かの人間と話をしたんだ。この不況の時代は、お父さんたちも生き難い世の中みたいだったよ。」
「おー、それそれ、その時聞いた話を唄にしたんだ。後で披露する。」とガジ丸は言って、ユクレー島運営会議に加わり、それが終わった後、ピアノを弾き、歌った。
唄は2曲だった。どちらもユイ姉の店で聞いたオヤジ達の愚痴を歌ったもの。『ないないないばー』と『金稼げ虫』。勝ち組になれなくて開き直ったオヤジ達の歌。