いつもの週末、いつものユクレー屋、カウンターにはマミナ先生が立っている。
「さっき、マナと電話で話していたんだけどね、この島は晴れた日が多くて、そう寒くもないんだけどさ、オキナワは寒いんだってよ、今年は特別寒いんだって、地球温暖化はどこへ行ったんだろう、なんて言ってたよ。」
「あー、このあいだガジ丸と二人でユイ姉のところへ遊びに行ったら、ユイ姉もそんなこと言ってたな。この冬は12月から寒い日が多かったんだってさ。温暖化も進んでいるようだけど、地球は氷河期に向かってるって話もあるよ。」
「氷河期ねぇ、マンモスはそれで絶滅したんだってね。」
「氷河期に進むけど、温暖化も進んでいるからプラスマイナスゼロとなって、地球にとってはちょうどいい気候になるかもしれないよ。」
「そんな上手くいくかねぇ。」
「まあね、環境破壊というマイナスは、それなりの結果になるだろうけどね。」
「あっ、環境破壊といえばさ、正月にマナが話してたんだけど、ヤンバルの森に縦断道ができるんだって、あの深い森が真っ二つにされるんだって。」
「縦断道は今でもあったんじゃないか?」
「それがさあ、もっと奥まで進むんだってさ。今ある道だけでも森の生き物達には大いに迷惑なのに、これ以上環境を破壊されたら森の危機だよね。」
なんて話をしているうちに夜になって、ガジ丸一行がやってきた。その日、ユクレー島運営会議ではたいした議題が無かったのか、ガジ丸は会議をやるテーブルへは行かず、すぐにカウンター席に座って、そして、我々の話に加わった。
「俺も地球の将来がどうなっているか分らんが、氷河期の大寒波は突然やってくるらしいな。生きたまま冷凍保存されたような状態のマンモスが発見されたらしいぜ。南へ逃げる暇どころか、『あれっ?』と思う間もなく急速冷凍されたんだぜ。」
「そりゃあ、なんか恐いね。」(マミナ)
「でも、そんなに急速だったら、恐がる暇も無いだろうね。」(私)
「俺が思うに、地球温暖化だって臨界点があってな、そのラインを超えると気温が急激に高くなって、暑さで動植物が死に絶え、磁場が乱れ、天変地異が頻発し、なんてことがあるかもしれないぜ。その後に氷河期がきたら泣きっ面に蜂だな。」
「死ぬほど暑い日が続いたかと思うと、急に死ぬほど寒い日になるわけだ。」
「でもねぇ、クーラーとか暖房器具とか人間はいろいろ持ってるさあ、これからもっと科学は発達するするさあね、何とかなるんじゃないの?」(マミナ)
「それはどうだろうね、科学が間に合うかどうか怪しいよ。」(私)
「科学の力で人類を守る、そうだな、それはやはり限界があるだろうな。生命の持続は技術では無く、精神の力が大きく作用すると思うぜ。科学でもある程度の安全をは得られるが、精神の力が高まれば、もっと確かな安全が得られると思うぜ。」
「それよりもさあ、温暖化も氷河期もまだ先の話でしょ、さっき話していた森の危機がずっと近い将来の、身近な話さあ、それ、ガジ丸はどう思う?」
「あー、ヤンバルの森に縦断道ができるって話か。人類の耳に自然の声が聞こえるといいんだがな、海には海の、森には森のようせいがある。それを聞かないとな。」
「森の妖精?ピーターパンに出てくるティンカーベルみたいのがいるの?」(私)
「妖精じゃない、森の要請だ。人間の要請だけを取り入れて地球を動かしてはいけないという話だ。自然の声が聞こえるようになるには高い精神力を必要とするんだ。」
「森の要請が耳に届くほどの高い精神力ってさ、今の人類には、それを得るのは相当難しそうだね。氷河期が来るのと同じくらいずっと先にことになりそうだね。」(マミナ)
「森の要請かぁ、分断されそうになって森は今、何て言ってるんだろうね?」(私)
「お前達だけが地球の住人ではないぞ!とでも言ってるんじゃないか、たぶん。」とガジ丸が答えて、久々の真面目な話は終わった。
その後、ガジ丸の新曲がトリオG3の演奏で披露された。曲はどこかで聞いたことがあると思ったら、琉球民謡の『ましゅんく節』。唄が終わって、
「前の『ラフテーの秘密』が分かりにくいと評判が悪かったので、今回は分かりやすい唄にした。どうだ、分かりやすいだろ?」とガジ丸。確かに分かりやすい唄、しかし、きれいなメロディーにはふさわしくない歌詞だと思った。しかも、それまでの話とは何の関係も無い、ふざけたような内容だ。そう感想を述べると、
「祈ることが大事、ってことだ。自分以外の何かを敬うってことだな。それが精神を高めることに繋がる。それと、きれいなメロディーにふざけた歌詞っていうが、『ましゅんく節』だって女の品定めの唄だ。ちょっとふざけた内容なんだぜ。」とのこと。
記:ゑんちゅ小僧 2010.1.15 →音楽(リョーテ)