オキナワに帰ったユイ姉と入れ替わるようにしてユーナがやって来た。春休みの間、2週間ばかりはいる予定とのこと。ユクレー屋を手伝うとのこと。
夕方になって、ゑんちゅ小僧が来て、いつものように俺と並んでカウンターに座って、その相手をユーナがする。マナが来る前は、これがいつものユクレー屋の光景だった。その頃はユーナもまだ高校生で、生意気なガキであったが、女子大生を一年経験した今は、どこか落ち着いている。大人の女に近付きつつあるってことだろう。
と思っていたら、ユーナの奴、ビールの入ったジョッキ2つを俺とゑんちゅの前に置いた後、もう1つジョッキを出し、それにビールを注いで、それを手に持って、
「かんぱーい。」と、自分のジョッキを俺たちのジョッキにそれぞれ当てて、そして、ジョッキを口に持っていき、グビグビ音を立てて、三口、四口飲んだ。
「おい、オメエ、酒を飲むのは別にちっとも構わないが、ここには警察もいないから補導される心配も無いが、それにしても、ずいぶん慣れた飲みっぷりだなあ。」
「そりゃあ慣れてるさあ。コンパなんかで飲むからね。」
「そうか、・・・まあ、そういやぁそうだな。酒の無いコンパなんてつまらないだろうしな。未成年でも大学生なら酒も許されるだろうしな。」
「未成年って、私もう大人だよ。今年、成人式だったさあ。」
「成人式?って、あー、そうか、人間にはそういうのあったね。」(ゑんちゅ)
「ほー、であったか。しかし、お祝い事じゃないか、誰も知らなかったのか?」
「私もうっかりしてたさあ。ジラースーに言われて気付いたんだよ。ウフオバーもマミナ先生も知ってたよ。三人からはお祝いも貰ったよ。」
「ふーん、知ってる奴は知ってたんだな。三人は、・・・って、お前が成人なのはシバイサー博士やガジ丸も当然知っているだろう。お前を育てた二匹だ。あいつらからは何のお祝いも無かったのか?薄情な奴らだな。お前の大好きなガジ丸なのにな。」
「薄情ってわけじゃないよ。元ネコだったから、成人っていう概念が無いんだよ彼らには。元ネズミの僕もそうだけどね。だから、大好きなガジ丸からお祝いされなかったとしても、ちっとも淋しがることはないよ。」(ゑんちゅ)
「だよね。何かあっても、何も無くても、ガジ丸はいつも優しいし。」
「だけど、同じマジムン(魔物)でも元人間だったケダは成人式っていうものを理解できるよな。」なんて、ゑんちゅが余計なことを言う。案の定、
「あっ、そうだよ。ケダ、あんたこそ薄情者さあ。」となってしまった。
「俺は忘れっぽいんだよ。それに、ずっとこの島にいたわけじゃないから、誰がいくつなんて、いちいち記憶しちゃあいねぇんだよ。」と、何とか言い訳する。
「それにしても、少女からは卒業しているかもしらんが、大人っていうにはまだ少し幼い気がするなぁ。大人少女ってとこかな。大人少女ユーナだ。」
「大人少女かぁ、私も何かそんな気分だよ。恋人いないし・・・。」
「恋人の問題でもないが、・・・あっ、そうだ、大人少女で思い出した。」
というわけで、ケダマン見聞録その28『大人少年コカン』の始まり。紙数も少ないので短く語る、っていうか、元々短い話。
ある星のある国に、難病を持った少年がいた。心臓や肝臓やその他の臓器が時々、代わる代わるその機能を失うという病気だった。しかし、その星は地球より科学も医療も発達していた。少年はそのお陰で生き延びることができた。
主電源が消えた時に動く予備の発電機みたいに、少年の体の中に別の内臓器官が予備としてあって、彼の心臓や肝臓がその機能を失った時に、それらが働き、心臓や肝臓が再生するまでの数日間、あるいは数ヶ月の間、代わりの役目を果たしてくれていた。
内臓の働いている時間が普通の人より短いため、彼の体は歳を取るのが遅かった。二十歳になっても彼の肉体は、ただ一箇所だけを除いて、十歳の少年のままであった。
順調に生育した、ただ一箇所の臓器というのは彼の生殖器、そこだけは既に大人の大きさ、むしろ、平均よりずっと立派な大きさであった。そんなことから、彼は大人少年と呼ばれ、小さな体に、大きく肥大した股間ということで、またの名はコカン。
「もういいよ。助平な話なんでしょ、どうせ。聞きたくないよ。」とユーナ。ここで、場面はユクレー屋に戻る。
「未来少年コナンのパロディーかと思ったら、サイボーグの話なんだ。」(ゑん)
「どちらも残念。聞きたくなくても話はこれでお終い。また、未来少年コナンのパロディーでもサイボーグの話でも無い。股の名は股間ってオチだ。ハッ、ハッ、ハッ。」と、俺はシバイサー博士が駄洒落を言う時のような大得意の気分であったが、
「人の話をけなすのは好きじゃないけど、ケダ、それはちょっと下らなさ過ぎる。」とゑんちゅが言い、ユーナは蔑む目で俺を見ていた。何で?
語り:ケダマン 2009.3.27