ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明026 くっつくつ

2008年05月30日 | 博士の発明

 先週、ユクレー屋一帯に大雨が降った。元々、ユクレー島には定期的に、日常生活の邪魔にならないよう概ね夜中という時間帯だが、十分な量の雨が柔らかく降っている。シバイサー博士がそのようなプログラムを組んでいるのだ。が、先週、ユクレー屋近辺に降った雨は、スコールのような土砂降りであり、また、夕方という時間帯であった。マナがそうするよう博士に頼んだのであった。ケダマンの体を洗濯するためだそうだ。そして、これからも毎月第四金曜日には同じような雨が降るとのことであった。

 雨から一週間が経った今日、久々にシバイサー博士の研究所を訪ねようと昼間、ユクレー屋の前を通ったら、庭にケダマンがいた。先週、その雨で体を洗ったせいか、何となく小奇麗に見える。さっぱりとした感じ。で、庭に入って声をかけた。
 「良かったじゃないか、月1回は体が洗えるようになって。」と言うと、
 「おー。」とケダマンは応え、少々憮然とした表情になって、
 「俺の洗濯は俺の問題であり、他人にとやかく言われることでは無い。大きなお世話なのだ。だが、それはまあ、いい。洗濯することは面倒だが、悪いことでは無い。やってみれば、思いの外さっぱりして、その後気分良く酒が飲めたしな。だがよ、大雨のせいで、雨漏りがしたからって、何で俺が修理しなきゃいけないんだ。」
 先週の雨はほんの15分ほどであったが、酷い土砂降りだった。それで、ユクレー屋に雨漏りがするということが判明した。その修理を、マナがケダマンに命じたらしい。 
 「まあ、しかし、しょうがないじゃないか。ウフオバーやマナにできる仕事じゃない。彼女達には屋根に上ることだって難しいよ。ケダマンならそれは簡単だろ?」
 「まあ、そりゃあ確かにそうだが、人間もよ、スパイダーマンみたいに壁をひょいひょいと歩けるようになればいいんだ。そういう機械を作りゃあいいんだ。」
 ということで、思いがけず、博士に会う明確な目的ができた。

 博士は研究所にいた。一人だった。ゴリコとガジポは浜辺で遊んでいるらしい。
 「おー、新しい発明は何も無いぞ。」と、博士は私の顔を見るなり言う。
 「あっ、そうですか。いえ、違うんです。今日は、じつは、」と、私はユクレー屋でのケダマンとのやり取りをかい摘んで話し、単刀直入に訊いた。
 「ということで、壁を歩けるような機械はないですか?」
 「壁を歩く?」と博士は言い、「フッ、フッ、フッ、」と笑う。・・・あるのだ。
 「壁を歩きたいんだな、ヘッ、ヘッ、それならいいのがあるぞ。」
 「やはり、あるんですか。それはどういったものですか?」
 「うん、百聞は一見にしかずだ。付いて来なさい。」

 研究所の裏庭に出た。私をそこで待たせて、博士は倉庫に行って、そして、すぐに戻ってきた。手にはテレビの時代劇で見る草鞋(わらじ)のようなものを持っていた。
 「これを履いてみなさい。」と、それを手渡す。私の小さな足には大き過ぎるように見えたが、草鞋みたいなものなので、紐を結ぶと、足をしっかりと包んでくれた。
 「そのまま地面を歩くように壁を歩いてみなさい。」と言うので、研究所の壁に右足を置いた。くっついた。左足も置いた。くっついた。しかし、くっついたまま離れない。
 「博士、これ以上動かせませんが?」
 「足裏の前半分が壁にくっつく。踵を上げると前半分も剥がれる。」と言う。言われた通りにすると簡単に剥がれた。そして、壁をひょいひょいと歩くことができた。
 「博士、これ、いいですよ。完璧ですよ。」
 「ふむ、ふむ、ふむ、そうであろう。」と博士は大きく胸を張る。どうせまた、くだらない駄洒落であろうとは思ったが、いちおう訊いてみた。
 「博士、これ、名前は何て言うんですか?」と。すると案の定、よくぞ訊いてくれた、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべて、
 「名前か、それは『くっつくつ』と言う。」と、さらに胸を張る。名前も気に入っているみたいである。まあ、悪くは無い。前のバーキヤロウよりはマシだ。
 「博士、これ、ちょっとお借りしていいですか?」
 「おう、構わんぞ。ユクレー屋の屋根修理に役立てたらいいさ。」

 というわけで、壁をスタスタ歩くことのできる博士の発明『くっつくつ』を持って、私はユクレー屋に向かった。別れ際、「マナに使わせてみよう」と私が独り言のように言ったのを聞いて、「マナに?・・・それはちょっと・・・」と、博士が不安げな表情を見せたのが少し気になったが、役に立ちそうなものと確信した私は、先を急いだ。
  ユクレー屋に着いて、マナを外に呼び出して、早速試す。先ずは私が壁をスタスタ歩いて見せた。マナは大喜びだった。で、マナもやってみる。『くっつくつ』はマナの足にもピッタリ収まった。そして、マナは高く足を上げて、ユクレー屋の壁に右足を置いた。くっついた。左足も置いた。くっついた。それと同時にドスンという音がして、マナの悲鳴があがった。両足を壁にくっつけたまま後頭部を地面に打ち付けたのだ。
 私は背が低く、マジムンなので体も軽いが、マナは人間であった。重くて、体を地面と平行に保つことができないのであった。「マナに?・・・それはちょっと・・・」と博士が言っていた理由はこれだったのだ。どうりで、倉庫に仕舞われていたわけだ。『くっつくつ』もやはり、人間には役に立たない発明だったのだ。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.30


5月のクーラー

2008年05月30日 | 通信-環境・自然

 私の住まいは2階建て4世帯のアパートの2階にあり、階段を上がって奥側の部屋となっている。階段を上がりきると隣の部屋のトイレ兼シャワー室の窓がほぼ正面にある。隣室は20代前半の若い女性だが、その窓がいつも全開であった。瞬間湯沸かし器が外についているので、その音と、シャワーの水音で、今、シャワーを浴びているんだなということが判る。窓は目の高さのちょっと上にあり、普通に立つと見えないが、ちょいと背伸びをすれば覗くことができる。だが、もちろん、私はそういうことをしない。

 隣室の住人は1年ちょっと前に越してきているが、私はまだ彼女の名前を知らない。そして、彼女の顔も知らない。生活のサイクルが違うみたいで顔を合わすことが無いのだ。後姿を2、3度目撃して、若い女性であることを確認している。
 1年ちょっと前まで、その部屋には別の若い女性が住んでいた。彼女とは何度か声を交わし、名前も出身地も聞いていた。その彼女がまた、今の住人に輪をかけて大らかな人であった。シャワー室の窓はいつも半分開いていたし、台所の窓も、時には玄関のドアも全開にしていた。さらに、洗濯物を、階段を上がる私の目に入る位置に干していた。パンティーもブラジャーもである。私は、別に知りたいとは思っていなかったが、お陰で、彼女がどんなパンティーやブラジャーを身に着けているか知ることができた。盗ろうと思えば盗れる所に若い女性の下着がある。だが、もちろん、私はそういうことをしない。
 「よれよれのオジサンが私のようなピチピチギャルにちょっかいを出すはずが無い。隣のオジサンは安全パイだ。」と思われていたのなら、それは概ね正しい。今時の若い女性はこういった下着なんだと知れただけでも、オジサンは十分満足している。

 ともあれ、安全パイのオジサンという情報が今の住人にも伝わったのかどうか知らないが、隣人の妙齢は窓を全開にしたままシャワーを浴びている。シャワーを浴びている時だけで無く、その窓は台風や大雨などの時以外はほぼ常に全開であった。
 ところが、一ヶ月ほど前からその窓が閉められた。その窓の隣、寝室と思われる窓には今まで無かったカーテンが設置された。何故そうなったかについて確かなことは言えないが、じつは、一ヶ月ほど前から「安全パイのオジサン」が今までに無い行動をとるようになった。隣人の若い女性はそれに気付いたのかもしれない。
 階段を上りきって、首を右5度位に動かすと、シャワー室の全開の窓が正面になる。一ヶ月ほど前の数日間、「安全パイのオジサン」は階段を上るたんびに首を右5度に振っていた。しかも、手には電源をオンにしたカメラを持ち、写真を撮る体勢でいた。
  だが、もちろん、シャワーを浴びる若い女性の姿を撮ろうとしたのでは無い。じつはその頃、その窓の縁にネコの姿を見たのであった。前に、私のベランダに侵入して、追い出されたネコだ。隣人が飼い始めたようであった。その姿をカメラに収めようと思って、カメラを手にし、階段を上りきるたんびに首を右5度に振って、シャワー室の窓を見ていたのであった。カメラを構えるとネコは逃げたので、写真は撮れなかった。

 隣室のクーラーの室外機は私の部屋との境界近くにある。一週間前から室外機のブーンという音が聞こえた。隣人は窓を閉め切って、クーラーを使っている。窓を開ければ5月の爽やかな風が入ってきて十分涼しいのに、クーラーを使うなんて勿体無いと私は思う。5月のクーラーは無駄な電気消費である。地球環境に良くない。「貴方に興味があるのでは無い。猫の写真を撮ろうとしているだけだ。」と伝えた方が良いか、どうか?
          

 記:2008.5.30 島乃ガジ丸


瓦版059 雨が酒なら

2008年05月23日 | ユクレー瓦版

 5月の爽やかな気候が続いている、はずの週末の夕方、ユクレー屋の一帯は大雨になっていた。「なんだ、どーしたんだ、博士の機械が壊れたか?」と思って、雨の前で立ち止まる。ユクレー屋の天気はシバイサー博士が操作している。人家の無い山や森の近辺はしょちゅう雨が降っているが、人が普段生活している一帯は、冬場は週に1回、夏場は週に2、3回、田畑や、草木を潤すための雨が夜中の数時間に降っているだけで、それ以外の日、時間にはほとんど雨は降らないようになっている。
 ということなので、傘なんてもちろん、私は持っていない。で、近くにあったクワズイモの大きな葉を一枚拝借して、それを傘代わりにし、ユクレー屋に向かう。
 門の前で、私と同じようにクワズイモの大きな葉を傘代わりにして、向こうから歩いてくる人影が見えた。人影じゃなくてマジムン影だ。ガジ丸だった。
 「おー、何でこの辺りだけ雨が降ってんだ。いや、そもそも、何でこの島にこんな時間に雨が降ってんだ?」と顔を合わすなり、ガジ丸が訊いてきた。
 「俺に訊かれても分らないよ。それより、とにかく中へ入ろうよ。」

 ドアを開けると、中はいつもの光景。カウンターの向こうにマナが立っていて、こちら側にケダマンが座っている。カウンターへ向かいながら、
 「やー、ひでぇ雨だな。・・・なんてセリフ、この島では初じゃ無いのか?いったい、何がどーなってんだ?」とガジ丸が誰にとも無く訊く。
 「温暖化の影響で、この島にも異常気象が来たってことさ。」と言うケダマンに、
 「いや、この島の天気は博士の管轄だ。博士の機械が故障したか、博士が操作ミスをしたかだな。あるいは、もしかしたら、博士の気まぐれで、今年はこの島もオキナワ並に梅雨にしてやろうってことかもしれないな?」と私が応じていると、
 「違うよ。私がそうするよう博士に頼んだのさ。」と、マナが真相を語ってくれた。
 「ケダマンがさ、1年以上も体を洗っていないって言うから汚いと思ってさ、また、体は雨に打たれながら洗うって言うからさ、雨を降らせて貰ったのさ。」
 「そうか、そういうことか。で、洗ったの?」と言って、私はケダマンを見る。
 「まだだよ。こいつ、洗うのを面倒臭がっているんだよ。」とマナが答える。それと同時にガジ丸が立ち上がって、ケダマンの首の辺りの毛を掴んでドアに向かう。
 「せっかくのマナの好意だぜ。ありがたく受け取ってやれ。」と言いながら、ドアを開けて、ケダマンを土砂降りの雨の中へ放り投げた。

 ケダマンが消えて静かになったユクレー屋、雨のせいもあって、何だかしっとりとした雰囲気になった。普通の話ができる雰囲気ということだ。で、マナに、
 「どうだい、オキナワの暮らしは?」と訊いてみた。
 「うん、楽しいよ。近所の人とも知り合いができてさ、一緒にお茶飲みに行ったりしてるよ。このあいだはさ、ガジ丸が遊びに来てくれたよ。」
 「へーえ、新婚生活にお邪魔したのか?ガジ丸が。」と、ガジ丸を見る。
 「このあいだ、ユイ姉を送った帰りに寄ったんだ。お邪魔ってほどでも無いぞ。ちょっと寄って、酒を付き合っただけだ。・・・おー、そういえば思い出した。今日ここに早く来たのはよ、唄を歌うためだったんだ。」と言って、ギターを取り、歌った。

 その唄、「雨が酒なら」と始まって何となく愉快、テンポは軽快で、メロディーも明るい。なのだが、歌詞には悲惨な感じのする箇所もある。歌い終わったガジ丸に、
 「何て唄だい?負け犬の唄みたいにも聞こえるけど。」
 「タイトルは『石ころの唄』、サブタイトルを『戦いに疲れたオジサンたちの唄』、あるいは、『負けっぱなしの人生でもさ』って言う。負け犬ってちゃあ負け犬だが、負けたっていいさ、のんびり生きていこうぜっていう負け犬達への応援歌だ。」
 「何でまた、そんな唄作ったの?」とマナが訊く。
 「このあいだ、ユイ姉を送ってからナハの街をちょっとブラブラしたんだ。そしたら、あちこちの公園に浮浪者風の人が多くいたんだ。ひと昔前から比べるとずいぶん増えていたんだな。ニホンも自由競争社会になって負け組みが増えたということだな。で、彼らを見ていたら、ちょっと励ましてやりたくなってな。この唄ができた。」
 「でもさ、雨が酒ならってさ、何か飲兵衛の唄みたいでもあるね。」(マナ)

 と、ここでドアが開いて、ケダマンが入ってきた。濡れた犬がその毛を乾かすように、入口で体をブルンブルンと数回揺らしてから、
 「雨が酒ならって、何て夢のある言葉なんだ!」と目を輝かせながら、
 「雨が酒なら、そりゃあもう、幸せになる人が多くいるぞ。」と続けた。
 「いや、雨が酒なら、飲めない人は嫌だろうし、飲める人だって、酒に溺れてアル中になる人が多くなるよ。不幸になる人が増えると思うな。」(私)
 「いやさ、いくら飲兵衛でも、毎度毎度の雨が酒じゃなくてもいいんだ。たまにでいいんだ。ある時はビール、ある時は泡盛、稀には大吟醸が降ったりするんだ。するとよ、今日は曇りのち雨、時々酒が降るでしょう、なんて天気予報になるぜ。」と言いながら、それを想像したのか、ケダマンはニタニタ笑いながら、口から大量の涎を滴らせた。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.23 →音楽(石ころの唄)


タテタカコ、厳格な唄

2008年05月23日 | 通信-音楽・映画

 先週土曜日、久々にライブを聴きに行った。去年(2007年)8月のEPO以来、9ヶ月ぶり。会場は9ヶ月前と同じ桜坂劇場のCホール。
 桜坂劇場には3つのホールがあるが、Cホールはその中で最も広いホール。EPOは有名人なので、広いホールでも十分集客できるであろうが、今回の演者は、少なくとも私はテレビ、ラジオなどのマスコミからその名前を聞いたことが無い。たぶん、誰もが聞いたことのあるようなヒット曲も無いはず。それでも、広いCホール。
 演者はタテタカコ。シンガーソングライターでピアノ弾き語り。館田加子なのか、縦高子なのか漢字は不明だが、それにしても、早口言葉みたいな名前だ。「竹薮に竹立て掛けたのはタテタカコ」なんて、私は引っかかり無しに言うことはできない。
 タテタカコはしかし、まあまあ有名なようであった。広いCホールが7分の入りとなっていた。20代、30代の若者が多いが、それより上の中年層も少なくない。客の年齢層が幅広いということは、私が知らないだけで、テレビやラジオに出演しているのかもしれない。あるいは、多くの人が知っているヒット曲があるのかもしれない。

  私は知らなかったが、一部では有名であるらしいタテタカコが舞台に上がった。その姿を見て、私は「ほう」とちょっと驚いた。名前からして女性である。服装も女性である。驚いたのはその頭、髪の毛が短い。ほぼ丸刈りに近い。昔の仁侠映画の高倉健みたいな角刈りと言っても良い。何か罪を犯して、最近まで刑務所暮らしだったのか、脳の病気で最近手術でもしたのかと思ってしまう。もしかしたらお笑い芸人かもしれない、滑稽な唄を歌って人を楽しませるのかもしれないとも思ったが、顔は整っているので、そんなヘアースタイルでも笑える顔にはなっていない。「何て女だ」と興味が湧く。

 唄は、滑稽な唄とはまるっきり違っていた。たった1度聴いただけで彼女の唄を一言で表現するのは安易だと思うが、敢えて言うなら、彼女の唄は厳格な唄であった。
 厳格は「きびしくただしいこと。」(広辞苑)とある。確かに彼女の唄は、感性を表現する上で、その言葉にも曲にも厳しさが感じられた。表現したいことを正しく表現できているのだろうと感じられた。そして、表現したいことが明確なのであろう。
 タテタカコのピアノはクラシックであった。クラシックで自分の感性を表現している。ある曲なんかは、まるで、シューベルトの『魔笛』を聴いているようであった。時には強く、時には弱く、時には速く、時にはゆっくりと、言葉が曲に乗って語られた。
 私は、感情を込めて情熱的に歌う唄があまり好きでは無い。鬱陶しく感じる。その曲と詩を聴いて、何を感じるかは聴く方に任せてもらいたいと思っている。だから、演歌なんかも好きでない。なので、タテタカコの唄は、私の苦手なタイプである。ところが、しだいに私は彼女の世界へ引き込まれていった。厳格な唄には、人を引き込む強い力があるようだ。2時間ほどの演奏、私は十分に楽しむことができた。
 
 タテタカコは29歳とのこと。私より20歳ほども若い。私も唄を作っているが、私の唄は軽い。テキトーな所で妥協する暢気な唄となっている。暢気なオジサンは、彼女のように厳しくはなれないのだ。おそらく、人生に対する姿勢が違うのであろう。
          

 記:2008.5.23 島乃ガジ丸


発明025 バーキヤロウ

2008年05月16日 | 博士の発明

 穏やかな気候の週末、浜辺を散歩していたらシバイサー博士に会った。例の如く、とろーんとした目をしていた。で、酒の話を思い出して、先日、「誰が一番酒に強いか」っていう話題で盛り上がったという話をする。博士はちょっと興味があるようで、
 「誰が一番酒に強いかは判らんが、誰が一番大酒飲みかは判っている。」と、口の辺りを手で摩りながら博士は言った。博士がその名を出す前に、私が答えた。
 「それは私も判っています。大酒飲みは間違いなく博士です。」
 「んだ、その通り。だが、私よりもっと大酒飲みがいる。これは、マジムンでも人間でも無いので『誰が』という範疇には入らないと思うが、まあ、あえて含めてもらえれば、そいつが断トツに一番大酒飲みだな。何しろ、酒を飲むために作ったからな。」
 「作ったということは、それはロボットですか?」
 「んだ。名前をバーキヤロウという。バーキは知ってるな?ウチナーグチでザルのことだ。その名の通り、酒に対してバーキということだ。」
 「はあ、それは判りますが、そんなロボットがいったい何の役に立つんですか?」
 「酒に溺れる人間のために作った。アル中防止ロボットと言っても良い。」
 「ほほう、それは良いですね。大いに役に立ちそうですね。」
 「飲みに行く際、これを携帯していく。20センチほどの高さしかないので、テーブルの上、膝の上、足元などに置いても邪魔にならない。そして、バーキヤロウはその人間の酔い加減をセンサーで感知して、飲みすぎると注意してくれるというわけだ。」
 「博士、でも、たぶん、注意するだけでは飲兵衛は止まらないでしょう?」
 「その通り。そこで、その人間が限界を超えそうになると、バーキヤロウの最終システムが起動する。人が酒を飲もうとすると、横からその酒をスップ(吸取)って奪い取るのだ。酒を奪い取って、その代わりに酒の味がするアルコール成分ゼロの特別な液体をグラスに入れる。人間はいくらグラスを口に運んでも、もうそれ以上アルコールを飲まなくて済むわけだ。また、バーキヤロウのお腹は異次元世界に繋がっていて、どんなに大量の酒でも平気なのだ。だから、飲むのを諦めるまでそれを続けることができる。」

  そこまで聞いて、これは、博士にしては珍しく役に立ちそうなロボットだと思った。需要は多いに違いない。たくさん売れるかもしれない。
 「で、博士、それは実用化されたのですか?使った人間はいるのですか?」
 「実用化っていえば実用化できないこともないが、前に、ジラースーの友達でひどく酒に溺れる男がいてな、彼に1度使わせたことがある。」
 「ほほう、で、その実験結果はどうでした。」
 「いやー、私も酒飲みのくせして、酒飲みの気持ちを甘く見てたよ。」

 その結末についての博士の話を要約すると、ジラースーの友達がバーキヤロウを携帯して飲みに行った。ジラースーも同席していて、話はジラースーからの情報である。
 いくら飲んでも酔いが深くならない男は、しまいには怒って、『バーキャヤロウ』と大声で怒鳴りながら、バーキヤロウを叩き潰したとのことであった。バーキヤロウ、最初の名前はバーキダヨーンだったらしいが、そのエピソードの後にバーキヤロウと改名したということである。どうせ役に立たないんだったら、改名する必要も無かろうと私は思ったのだが、博士は、その名前にだけは満足しているみたいであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.16