久しぶりにケダマンがユクレー島にやって来た。約五ヶ月ぶり。久しぶりなんだけど、特にみんなで歓迎パーティーをするということも無く、マナなんかは、
「ケダ?久しぶりだね、だけど今、ちょっと忙しくてね、そっちには行けないさあ、よろしく言っといて。」ということで、顔を見に来ることもなかった。
で、これまで概ねそうであったように、カウンターでケダと私と並んで、静かに飲む。ウフオバーも我々の相手はしない。「勝手にやっておいてね。」とだけ。なわけで、久しぶりのケダマンだが、ここで書くような出来事は何もなかった。で、今回は、先日、ケダマンとユイ姉の店に行った時の、話の続き。
ユイ姉の店には予め連絡していて、ユイ姉からユーナにも声を掛けて貰い、ユーナも来てくれた。「ケダ?久しぶりだね、行くよ。」との返事だったらしい。マナよりユーナの方が優しい・・・というわけでは無い。子育てに忙しい人と暇のある人との違い。
まだ二十歳になってから一年に満たないユーナだが、噂では飲兵衛とのこと。その噂が本当であるということは、飲み始めてから30分で確認できた。
「オメエ、いい飲みっぷりだなあ。」とケダ。
「強いのかどうかよく知らないけどさ、あんまり酔わないさあ。」
「強いんだよ。勉強はそっちのけで飲んでばかりいるんじゃないか?」
「何言ってるのさ、これでも優秀な方なんだよ。」
「ほう、ところでお前、大学では何勉強してんだ?」
「今は教育学科にいるんだけど、農業に移ろうかと思っている。」
「農業か、将来は百姓になるつもりか?」
「それもいいけどね、農業や農作物の研究家になりたいと思っている。」
「ほう、それはまた、なかなか良い志だが、何でまた、そう思うんだ?」
「地球温暖化でさ、将来、世界規模の環境変化が起きる可能性があるでしょ、環境変化が起きてもそれに素早く対応できる農業が必要だなと思ったわけ。」
「それはそれは、真面目なこって。だがよ、今の、先進国の飽食を反省しない限り、科学の力であれこれやったって焼け石に水だと思うぜ。食い過ぎの上、大量の残飯を出している。それは勿体無いと気付いて、改めることが先だな。」
「そうなんだよね、食べ過ぎて、捨て過ぎなんだよね。」
そんな会話からケダマンが思い出して、語ってくれた話、その要約。
ある星の話だ。その星にも地球と同じく、草食動物、肉食動物、雑食動物がいた。
この中で、生きるのに有利なのは当然、何でも食える雑食動物だ。よって、雑食動物は繁栄した。そんな中でもより早く知性という武器を手に入れた一種が、他の全ての動物を押さえて、数を増やし、力を付け、世界を支配するようになった。
その雑食動物は、栄養価が高く、美味い動物達をむさぼり食った。そうして、やがていくつかの種類の動物が絶滅した。その雑食動物は知らなかった。ある種の動物の絶滅が別の種の、小さな昆虫などに影響を及ぼし、それらを絶滅させ、その昆虫の絶滅がある種の植物を絶滅させ、その植物の絶滅がまた別の昆虫を絶滅させ、その昆虫の絶滅が別の動物を絶滅させ、・・・と続いていくことを。そして、ある種の動物や植物が絶滅することによって、今まで眠っていた病原菌が復活し、自分達を襲うってことを。
というわけで、結局、その星を支配していた雑食動物も絶滅したってわけだ。俺達は何でも食えるから死ぬ心配は無いという、雑食の奢りだったんだな。
ケダマンの話は概ね以上。場面は元に戻って、ユーナ、
「ふーん、草食動物は肉食動物に襲われるし、肉食動物は草食動物がいないと困るし、だから、雑食動物が有利って訳だ。だけど、その雑食動物も、欲望のままにむさぼり食っていたら、やがて、その報いは我が身に及ぶってことだね。」
「まあ、概ねはそういうことだが、草食がいないと肉食は滅びる、かというと、そうでもないぜ。パンダは元々肉食だったが、今は笹の葉を食っている。雑食性の人間なんかは草食動物がいなくても肉食動物を代わりにすればいいし、肉が無くても野菜だけで全然構わない。つまりだな、環境適応能力ってのも生きる力になるんだ。」
「なら、人間は雑食だし、科学って、言い換えれば環境適応能力ってことでしょ。人間は両方備えているから強いってことになるね?」と今度はユイ姉が訊く。
「基本的にはそうだが、あいにく人間は精神的発達が遅れている。さっきも言ったように片方では飢えに苦しみ、片方では大量の食糧を捨てている、それが変だと気付かない。弱肉強食は武力とは限らない、今の社会はお金の力による弱肉強食だ。」
武力にしろお金の力にしろ、弱肉強食が当然だと思っている人間が多くいるから、この世に争いは絶えない。弱肉強食はあってもいいのだが、それだけでは実は、社会は成り立っていかないということに人間は気付いていない、と元ネズミの私は思った。
記:ゑんちゅ小僧 2009.10.30