週末の夕方、ユクレー屋を訪ねると、マナがいた。
「あれ、マナ、帰ってくるのは毎月第一の週末じゃなかったっけ?」
「ウフオバーから電話があってね、・・・」と言うマナの横から
「はい、別に、おいでって行ったわけじゃないけどねぇ。」とオバー。
「ジーマーミドーフ作るからジラースーに持たそうねぇって言うからさ、ジーマーミドーフを作るんだったら、その作り方知りたいと思って、飛んできたさあ。」とのこと。そういえば、裏の畑にジーマーミ(落花生)がたくさん植えられていた。
「で、できたの?」
「はい、これ、食べてみて、私の作。」とマナは言って、小皿に乗ったジーマーミドーフを出した。ジーマーミドーフとはゴマ豆腐の落花生版といったもの。そのもの自体の色は真っ白だが、砂糖醤油ベースの黒いタレがかかっている。食べてみる。
「うん、マナ、上出来だよ、美味しいよ。」
「えーい、まあね、教えた人が達人だからね。当たり前だね。」
その後、村の人たちの何人かが客としてやってきて、夜になるといつものようにガジ丸一行(ガジ丸、ジラースー、勝さん、新さん、太郎さん)もやってきて、マナ作ジーマーミドーフはみんなに振舞われた。100%の好評であった。
「マナ、料理も上手なんだね。」と太郎さんが褒める。「料理も」の「も」が、他に何が上手なんだろうと私は疑問に思った。ケダマンならすぐに突っ込むところだ。が、私はそれを口にしない。わざわざ女性の機嫌を損ねるようなことはしない。ところが、
「あー、何だってー、料理も上手だってー、他に何が上手なんだ?マナは?」と、店の入口のドアが開いて、店内に大きな声が響いた。ケダでは無い、シバイサー博士。博士もまた、わざわざ女性の機嫌を損ねるようなことをするケダマンみたいな性格であった。マナが「なにさ!」と文句を言う前に、話を逸らす。私はそういう性格。
「おや、博士、こんな夜遅くに珍しいですね。」(私)
「あー、そういう君が最近『博士、何か新しい発明はないですかー?』と聞きに来ないもんだからな、自らわざわざ出向いてきた。」
「そういえば最近、ご無沙汰していました。で、何かあるんですか?」
「あー、前にな、ジラースーがブツブツ言ってたのをヒントにしてな、・・・」と言い終わらない内に、ちょうど傍を通りかかったジラースーが、
「ん?俺が?俺が何か言ったか?」と博士を見る。
「最近、野良猫が増えて、干してあった魚を盗られると言っただろう?」
「あーそれか、うん、言った、言った、今でも多いな。」
「猫が寄ってこないような機械を作ったってことですか?」(私)
「その通り、その名もネココナーズと言う。猫が寄ってこないからネココナーズだ。カッ、カッ、カッ。ついでに、見えないフェンスというキャッチフレーズも考えた。どうだ面白かろう。カッ、カッ、カッ。」と博士はさも得意気に高笑いする。
「見えないフェンス、ネココナーズ?それってパクリじゃない。見えない網戸ムシコナーズの。」とマナ、「相変わらず、しょうもない」といった表情。
「名前は変えればいいんです。問題は中身です。どのようなものですか?」(私)
「名前は、しかし、私としてはそれが大事だったんだが、まあ、いいか。私の作ったものは薬剤ではない。電磁波によって猫を近寄らせないもの、ほら、これだ。」と博士は言って、首に下げていたロープを外し、我々の目の前に置いた。ロープの直径は2センチほど、長さは2メートルほど。博士はその端と端を繋げ、円状にした。
「このロープから猫の嫌う電磁波が出て、この円の中には入れない。」とのこと。
「魚を軒下に吊るしてあるって言ってたな、吊るしてある魚の真下、魚を囲むようにしてこのロープを床に置いておけば猫は近寄れない。」
「そりゃあいいな、しかしそれ、人間には害は無いのか?」(ジラースー)
「無い。それに、人間なら円の中に入らずとも手を伸ばせば魚は取れる。」
「円の中に入らなければいいんだったら、猫だってジャンプするさあ。」(マナ)
「ジャンプしても届かない高さに魚を吊るせばいいんだ。」
「猫は屋根からだってやってくるんじゃないの?」(マナ)
「えっ?猫は屋根に上るのか?」と、博士が1+1=2なの?みたいなことを訊く。それには誰も敢えて答えず、ジラースーがテーブル席に戻りながら言った「せっかくだが、それ、要らないぜ。アリガトよ。」との言葉で、博士の新発明ネココナーズの話はお終いとなった。博士はいつものように黙って帰っていった。少し寂しげであった。
「自分も元ネコのくせに、ネコの習性がわからないのかしら。」とマナが言う通りのことを私も感じた。それにはガジ丸が答えてくれた。
「ネコだった頃のことはとうの昔に忘れちまっているんだろうよ。」とのこと。
記:ゑんちゅ小僧 2009.11.27 →今週の画像(ジーマーミドーフ)