ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版103 恋愛至難

2009年12月25日 | ユクレー瓦版

 ユーナが帰って来た。クリスマスの日に帰って来た。たまたまクリスマスが金曜日にあたったということもあろうが、クリスマスといえば恋人達にとっては大きなイベントだ。その日に帰って来たということは、どうやらユーナにはまだ恋人はいないようだ。ガサツなケダマンなら「クリスマスだってのに女一人帰って来たか、寂しい青春だな。」なんて言うところだが、私は遠回しに訊く。私は、そんな性格。
 「昨日のクリスマスイブはジラースーの家?なにかやった?」
 「うん、5人でパーティー、ささやかだけど、あったかいパーティーだったさあ。子供達ね、ずいぶん大きくなったよ。来週には1歳になるんだよ。」とのこと。子供達の話でニコニコしている。恋人のコの字も出てこないところをみると、やはり・・・、と思うが詳細は不明。それ以上の追求はしない。私は、そんな性格。ところが、

 夜になって、いつものようにガジ丸一行(ガジ丸、勝さん、新さん、太郎さん、ジラースー)がやってきて、彼らの席、ユクレー島運営会議のテーブルに酒と食い物を一通りセットした後、カウンターに戻ってきたユーナが、頬杖をつき、溜息もついて、
 「はーーあ、どうしようかねぇ私、21歳になったっていうのに恋人ができないさあ、何でかねぇ、見た目が悪いのかなぁ、性格の問題かなぁ。」と、ボソッと言う。

 そう深刻な顔をされての問いには、元ネズミの私は答えきれない。人間の恋愛のことなんて私たち元動物のマジムンにはほとんど想像つかないこと。我々の場合は本能だけの問題だが、人間の恋愛はそれだけでは無いように思われる。それでも、
 「ユーナは見た目も可愛いし、性格も良いと思うよ。」と、いちおう慰める。
 「アリガト・・・。」と小さな声。
 「お世辞じゃないよ、本当だよ。といって、恋愛の話を僕に相談されても答えられないけどね。ただ、ユーナはけして不幸な星の下の人ではないよ。」と言いつつ、幼い頃に母親を亡くし、父親は失踪中の人に「不幸な星の下の人ではないよ」もないもんだと思いながら、ユーナのオーラには、今も未来も暗い影は見えない、と私は確信している。
 「ガジ丸に相談してみようかなぁ。」と訊くユーナに、
 「そうだな、最近恋の唄を作っるしね。でも、ガジ丸も僕と同じマジムンだし、若い頃モテたかもしれないけど、それは猫だった頃の話だから、彼も人間の恋愛については知らないと思うよ。恋愛のことならマナに指南を受けた方がいいと思うよ。」
 「うん、私もそう思うけど、でも、マナと私じゃ、条件が違うよ。マナは美人だし、なんか性格も可愛いし。私とは全然違うと思う。」
 そう言われれば確かに、マナは男に好かれる雰囲気を持っている。ユーナにはそれがあまり無い。「でも、・・・」と、何か慰める言葉を探しているちょうどその時、ガジ丸がカウンターにやってきた。で、ガジ丸に話を振った。

 「恋愛?ユーナの恋愛の相談か?指南ってか?それはちょっと乗れねぇな。」
 「最近恋の唄を作っているって聞いたけど。」(ユーナ)
 「俺が作ってるのは年取ってからの恋だ。その人そのものを深く愛するって唄だ。俺も人間だったわけじゃないのでよく分らんが、人間の若い頃の恋愛は一種の病気だ。その病気はなかなか厄介でな、他人がどうこうできるもんじゃない。治すのも面倒なんだが、ユーナのような色気不足の女は特に、恋愛に罹るのも至難かもしれないな。」
  私が感じていた「マナにはあってユーナには無い雰囲気」、それは色気であるとガジ丸ははっきり言う。確かにその通りだと思う。ユーナも肯いている。
 「うー、色気不足かぁ、自覚はしているけど。」
 「あー、それはもうしょうがない、持って生まれたもんだ。まあ、しかし、病気に罹らなかったからって心配するな。その内、大人の恋をするだろうさ。」
 「大人の恋って?」(ユーナ)
 「うん、そうだな、相手の体をふかーく愛するってことかな。」
 「うーん、何かよく分らないさあ、私には。」(ユーナ)
 「ユーナはこの島で育ったからそういう情報が足りないんだ。まあ、いずれそのうち俺が案内してやるよ、未知の世界へ。・・・さて、」と、ここでガジ丸が話を変える。
     

 「さて、今日も新曲がある。」
 「今日も新曲があるんだ、今回も恋の唄か?年寄りの恋か?」
 「いや、今回は違う。トリオG3がオキナワで稼げるようにって、前に島ドーフの唄を作っただろ?あれが全然反響無いんでな、今回はラフテーの唄を作った。」
 「ラフテー?って、あの料理のラフテー?」(ユーナ)
 「そう、オキナワラフテー協会から『CMソングに』とオファーがあれば、トリオG3もオキナワで稼げるってわけだ。」と言って、ガジ丸はピアノを弾き、歌った。
 唄のタイトルは『ラフテーの秘密』、オキナワラフテー協会なる協会があるかどうかも不明だが、唄の内容がCMになるかどうかも不明で、ラフテーの秘密は何だ?と問いながら、ラフテーの秘密が何なのかも不明なままで終わる唄であった。
 「秘密が不明のままなんだけど?」
 「あー、それは、判る奴には判る。音楽を知ってる奴なら判る。」とのこと。

 記:ゑんちゅ小僧 2009.12.25 →音楽(ラフテーの秘密)


免疫力の老化

2009年12月25日 | 通信-科学・空想

 ビール、泡盛、日本酒、ウィスキーなどを飲んでも起こらないことが、ワイン(酸化防止剤含む)を飲むとしばしば、私の肉体に現れる現象がある。耳の下が腫れる。
 耳の下はリンパ腺とばかり思っていたが、正確には扁桃(扁桃腺)のようである。広辞苑に「細菌の侵入に対する防御器官の一で、しばしば炎症をおこす」とある。私の現象はそこが腫れて肥大するので、扁桃肥大(扁桃腺肥大)ということになる。扁桃肥大は「扁桃の両側または片側が潮紅・肥大し、結合組織の増加により周囲と癒着する症状」(広辞苑)とのこと。体に細菌などが入った場合、そうなるらしい。
 私の扁桃肥大はワインを飲んだ時だけに限らない。臨床的確認はしていないが、何か傷んだものを口にした際にも起きるようだ。ワインの場合は、ワインに含まれる物質の何かに私の免疫細胞が反応していることによるものと素人判断している。
 扁桃肥大は数年前からのことで、ここ数年で十回以上は経験している。ワインなんて若い頃には今よりずっと多く飲んでいる。にもかかわらずその頃、扁桃肥大なんてことはほとんど無かった。つまり、私の免疫細胞たちが老化し、弱体化しているということなのであろう。扁桃が腫れるほど一所懸命戦わないと、毒に勝てなくなっているのだろう。

 私にはまた、口唇ヘルペスという現象もしばしば現れる。ヘルペスが初めて現われたのは40歳前後の頃のこと。それ以前は全く無かったのだが、それ以降は何度も経験している。初めてのヘルペスは風邪をひいて、それが治りかけた頃に出たが、以後、風邪をひくとほぼ決まってヘルペスが出るようになった。
 風邪以外にも出る場合がある。「臨床的確認はしていないが、何か傷んだものを口にした際にも起きる」のだが、これは扁桃肥大と同じ原因となる。つまり私の場合、痛んだものを食べた後、扁桃肥大になるかヘルペスになるかどっちかみたいである。
 ヘルペスの原因はもう一つ、疲れが溜まった後にも出るようだ。大東島の旅、その最終日は疲労困憊したが、翌日からヘルペスが出た。

 扁桃肥大はたいてい朝発症し、時間が経つにつれてしだいにしぼんでいき、夕方には治っている。扁桃肥大はまた、腫れるだけで、患部が痛いとか痒いとかも無い。で、あまり気にしないでいられる。薬を飲んだり、塗ったりなんてこともしない。
 しかし、ヘルペスはそうはいかない。ちょっと痒いし、違和感があって鬱陶しい。しかも長く続く、完治するまでに1週間くらいはかかる。患部を傷付けると痛むので、髭(ヘルペスは概ね鼻の下、上唇の上に出る)が剃れない。従姉によると、私の顔は1週間髭を剃らないと浮浪者に見えるらしい。なので、薬嫌いの私だが、これには薬を塗る。

  11月下旬に突然ヘルペスが出た。思い当たる節はあった。その少し前、冷蔵庫を整理していたら奥からピーナッツバターの瓶詰めが出てきた。まだ七割がた残っている。賞味期限が三年以上過ぎていたが、私は自分の味覚を信じているので、賞味期限が過ぎたものでも、見て、カビが生えていなければ、匂いを嗅いで、腐臭がしなければ、食べてみて、食えるか食えないかを判断している。で、ピーナッツバターは安全と判断し、食べた。しかし、安全ではなかったようだ。私の味覚も、どうやら老化しているみたいである。
          

 記:2009.12.25 島乃ガジ丸


瓦版102 空を超え、時を超え

2009年12月18日 | ユクレー瓦版

 いつもの週末、いつものユクレー屋。今日は夕方の早い時間からガジ丸がいる。さっきまでピアノを弾いていたが、今はカウンターで一緒に飲んでいる。少し前まで前田さん夫婦がテーブル席にいたが、暗くならないうちにと帰っていった。
 「前田さん夫婦はあの歳で自殺しようとしていたらしいね。その直前にガジ丸がたまたま見つけて、理由は聞かずに、とりあえずこの島にと連れて来たんだってね。自殺したくなった理由はまだ訊いていないの?たぶん悲しい話だろうけど。」(私)
 「理由?・・・どうでもいいと思って訊いていない。この島にしばらく留まって、元気になって、生きる意欲を取り戻したらそれで良いことだ。」(ガジ丸)
 「この島に来る人たちは皆悲しみを背負っている人たちばかりだからねぇ。私もだけどさあ、身の上話を聞くと悲しくなるからねぇ。」(マミナ)
 「おー、こういう身の上話もあるぞ。ユイ姉から聞いた話なんだがな、ユイ姉のごく親しい友人カップルの話だ。」と、ここからはガジ丸の語り。

 二人は若い頃、お互い好きだったのにそれを打ち明けられずに、それぞれ違う道を歩いていった。それから30年も経ったある日、何の前触れも無く偶然、二人は再会した。その時、男は54歳、女は53歳。その歳になると若い頃の臆病は消えている。
 「じつは、好きだったんだ。」と男はすぐに打ち明ける。
 「私は、・・・そう言ってくれるのをずっと待っていた。」と女も言う。
 「なーんだ、相思相愛だったのか、ちくしょう。」と男は残念がる。が、女は違った。穏やかな口調ではあったが、男の、昔の所業を糾弾し始めた。
 「ちくしょうって、あなたにはその時の1ページかもしれないけど、私は17から25まで待ち続けたんです。もう捨ててしまったけど、何ページにもなりました。」
 「えっ、だって君は、突然いなくなったじゃないか。」
 「ねぇ、私がどんなに傷ついたと思うですか?あなたは年に1回か2回、私をデートに誘ってくれました。『今日こそちゃんと交際を申し込んでくれる』って私は期待して、のこのこ付いて行きました。だけどあなたは何も言わず、私の体に触れもしませんでした。そんなことしている間も、あなたは別の女の人と付き合っていましたよね。」
 「うっ、あっ、いや、その頃は男の欲望がピークだったんだ。その欲望を満たしてくれる手っ取り早い相手が必要だったんだ。」
 「欲望を満たすのに私ではダメだったんですね。」
 「うー、何故だか、君には手が出せなかった。」
 「あなたは忘れたかもしれないけど、私が25歳の時、街中で偶然会いました。あなたはその時、私が知る限り3人目の女の人と一緒でした。その時、諦めたの。」
 「うーん、そうだったのか、いや、覚えているよ。『あ、しまった』と思ったよ。だから、久々だったのにろくに話もせず、逃げるようにその場から去ったんだ。」

 そんな昔話をしていると、しだいに気分も昔に帰るのか、初めはいくらか余所余所しい感じだったのが、ごく親しい友人、あるいは、恋人同士の雰囲気になっていった。

 「それから1年くらい経ってから君の家に電話したら、お母さんが出て、『彼女は結婚して今ヨコハマに住んでいます。』ということだったんだ。『あ、そうですか』と電話を切ったんだが、しばらくしてから失敗したと思ったよ。大事な人を失くしたかもしれないという思いが、時が経つにつれて強くなったよ。」
 「そういうことに関して、あなたは鈍感なのだと思う。私は、あなたが運命の人なのかもしれないと感じていたわ。前世から定められた人かもしれないって。」
 「うん、君がいなくなってから5、6年も経ってからだけど、俺もそう感じるようになった。大事な人だから簡単には手を出せない人だったんだ。ひどく後悔したよ。」
 「本当に後悔してる?反省してる?なら、今からでも遅くないですよ。私、今別居中なんですよ。親の面倒を見るために実家に帰っているんだけど。子供達はみな独立しているし、両親の世話以外は、私は自由ですよ。昔私が泣いた分を弁償してくれますか?私の本当の過去と現在と未来を見せてくれますか?」
 「うん、今、俺の耳に空の声、時の声が聞こえた。女房に離婚を申し出よう。彼女も前から離婚したがっていたみたいだから、大丈夫だと思う。」

  以上で、悲しくない身の上話はお終い。場面はユクレー屋に戻る。
 「年寄りの恋話だから、色気が無いのが残念だがな。まあ、こういう恋愛もあるってことだ。年取っても、空を超え、時を超えた恋愛があるってことだ。」(ガジ丸)
 マミナが質問する。
 「で、二人は今どうしているの?離婚できたの?結婚したの?幸せなの?」
 「ただいまのところ、二人は逃避行中って感じだ。現在の潜伏先はユイ姉の家。そのうちそれぞれの連れ合いが離婚に応じると思うがな。たぶん。」とのこと。
 その後、その話を題材にした唄をガジ丸が歌った。夕方ピアノを弾いていたのはこの曲を練習していたんだと判った。新曲だ。題は『長い滑り台』。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2009.12.18 →音楽(長い滑り台)


苦労不要論

2009年12月18日 | 通信-社会・生活

 先週金曜日、会社が請け負っていた公共工事の検査があった。その工事の現場監督は若いM、彼にとってはまだ二度目でしかない現場監督という仕事、それに加え、仕事内容はこれまでに経験したことが無いもの。検査官の質問に答えられるかどうか、検査に合格するかどうか、不安でたまらなかったようだ。前日、
 「お願いします。明日一緒に行ってください。最後のお願いです。」と何度も私に頭を下げた。泣きそうな顔をしているMを見て、可哀想だとは思ったが断る。

 これまでに経験したことが無い仕事は、私を含め会社にとっても同じ。それでも、ベテランオジサンの私は、それがどれほど面倒であるかは想像できた。ゆえに、現場が始まる前から口が酸っぱくなるほど「利用できる人は誰でも利用して、早め早めに進めろ。」とMにアドバイスし、耳にタコができるほど「慣れた人を臨時にでも雇って、現場のMの補佐役にして、書類は早め早めに準備してください。」と社長に進言した。

 やったことの無い仕事、知らないがゆえにMは多少甘くみていたのかもしれない。「社長はあてにしないで、二人でがんばりましょう。」などと私に言う。二人で頑張ったってどうにかなるものではないと私は思ったのだが、彼の言うとおり、社長はあてにならないのであった。耳にタコができたであろう私の進言は無視されていた。
 初めの頃は「何とかなるさ」という気分が多少あったかもしれないMだが、「何とかしないと何とかならない」と分かり始めた二ヶ月前からは毎日胃の痛い思いをしていたようだ。彼にとっては全く、嵐のような二ヶ月だったに違いない。
 そんな哀れな若者を私は突き放していた。残業を概ね断り、休日出勤も概ね断った。私には正当な言い分がある。「社長のせいで遅れているのを、何で俺が尻拭いをしなきゃあならないんだ!頼むなら社長に頼め」という言い分。さらに私は、書類のデータを家に持ち帰ってやっていた。給料に反映されない就業時間は少なくとも20時間を越えている。夜、パソコン画面を見ながら「今頃社長は寝てるんだろうな」と、一人腹を立てていた。そんな私が社長の尻拭いなんて、できるわきゃ無いのだよ、M君。

  検査は金曜日の午前中にあった。午後、Mに電話した。
 「どうだった?」と訊く。実は、ベテランオジサンの私は、書類に多少不備はあっても現場は上出来なので、あまり心配はしていなかった。で、その通り、
 「無事終わりました。合格しました。」と、昨日まではか細い声しか出なかったMが、電話の向うでいくらか笑みを浮かべたような余裕のある声で答えた。
 「おめでとう、お疲れさんでした。」と、ねぎらいの言葉をかける。
          

 Mは仕事を成し遂げた。嵐を乗り越えた若者は間違いなく成長している。その苦労はきっと、何らかの形で報われることであろう。でも、実を言うと私は、「若い時の苦労は買ってでもしろ」という意見には賛成していない。実は私は、Mに不満を持っていた。「仕事を楽しめ、知らないことを知るようになることを楽しめ!」と言いたかった。そうすると、それは苦労ではなくなる。スキルアップのための努力となる。

 記:2009.12.18 島乃ガジ丸


瓦版101 クジラの憂鬱

2009年12月11日 | ユクレー瓦版

 12月になった。といっても、一般的にマジムン(魔物)にとっては12月だろうが1月だろうが日々の暮らしに特に変わり(新月と満月は多少関わりがある)は無い。ただ、人間との付き合いがある私にとっては、人間に近い気分になる。正月は少しウキウキ気分になるし、年末は慌しい気分になり、クリスマスは恋したくなる気分になる。
 といっても、ユクレー島にいる限りではそういった気分もあまり起こらない。ユクレー島に喧騒は無い。子供達がちょっとはしゃぐくらいだ。しかし、この時期オキナワへ行ったりすると気分はパッと変わる。ナハにあるユイ姉の店なんかは年末忙しいし、クリスマスになると、恋したくなっている大人たちで賑やかになる。

 そんな12月、年末の気分、クリスマスの気分が控えめなユクレー島は今日もよく晴れていて、気分爽やか。散歩を終えての夕方、いつものようにユクレー屋へ。 
 カウンターにはマミナ、厨房にはウフオバー、店内は特にいつもと変わりは無い。もうすぐクリスマスだけど、それらしい飾りつけは無い。

 そんな景色を見渡して、
 「うん、やっぱりだね。」と、カウンターに腰掛けながら感想を述べた。
 「何がやっぱりなの?」とマミナが応じる。
 「クリスマスって感じじゃないよね、ユクレー屋は。」
 「クリスマスかぁ、そうだねぇ、別にめでたいってことも無いからねぇ。子供達が遊びに来るんならちょっと考えてもいいんだけどねぇ、ここは大人しか来ないし。」
 「オキナワのユイ姉の店も大人しか来ないけどクリスマスやってるよ。」
 「うたかたの恋を求める大人たちがいるからね、ここにはそんなのいないし。」
 確かに、この島にはそういうのを求める人はいない。さらに言えば、恋とは無縁のマミナと、恋とは、ということさえ憚れるウフオバーでは、クリスマスも無縁だ。
 「キリスト教徒でも無いしねぇ、私は。」とオバーが決定打を放つ。

 「あっ、・・・」と、マミナがカレンダーを見ながら、「今年のクリスマスは金曜日に当たるんだ。じゃあ、宴会になるね。」と続けた。
 「金曜日ならいつもと変わらない、いつもの宴会だよ。」(私)
 「あい、そうねぇ、金曜日になるのねぇ、だったら少しは飾ってみようかねぇ。」とオバーが厨房から出てきて、カレンダーを確認する。
 「ユーナが帰ってくるって言ってたさあ、この日。」
 「ユーナ?そうか、ユーナは恋したい若者だからってことか。」(私)
 「クリスマスの飾りか、そういえば、マナがいる頃はちょっとクリスマス気分を出していたね。彼女は恋する女だったからねぇ。」(マミナ)

 などとユンタク(おしゃべり)している間に夜になって、いつものようにガジ丸一行がやってきて、ユクレー島運営会議が終わって、ガジ丸がカウンター席に座った。オバー、マミナ、私の三人で語ったことをかいつまんでガジ丸に聞かせ、意見を訊いた。すると、ガジ丸はそれに答えること無く、話を始めた。ここからガジ丸の語り、その要約。

 このあいだ、ある島で物思いに耽っているクジラに会った。オジサンクジラだ、人間で言うと四十代、分別の十分備わっている歳だ。わけを聞くと、
 「生きている意味を見失った。」と言う。
 「生きていることに意味があると思うが。」
  「いや、俺は毎日たくさんの小さな命を食べて生きている。たくさんの小さな命を犠牲にしてまで俺一人の命に生きている価値があるのだろうかと・・・。」
 「ほう、そんなでっかい図体をしていて、自分が取るに足りないちっぽけなものに見えたか。ふんふん、お前、ひょっとして、振られたな?」と言うと、クジラはゆっくりと俺に目をやって、ゆっくりと目を逸らし、しばらく黙っていたが、
 「あー、」と小さく答えた。そして続けた。
 「恋などしなければ良かった。するだけ損だ。この歳になって馬鹿だ。」
 「その歳になって恋をしたってことは、たとえ振られたとしてもだな、天晴れなことだと思うぜ。人間も動物もおよそ恋をするために生きているといって過言では無い。お前は動物として正しい生き方をしてるんだ。まあ、ただ、普通はそろそろ、女では無く、花鳥風月に恋をする歳だがな。いずれにせよ、何かに恋するってことは大事だぜ。」
 「そんなもんかなぁ・・・、」とクジラは言って、空を見上げた。夜空だ。十三夜の月がそこにあり、煌々と明りを照らしていた。
     

 「というわけだ。」とガジ丸の話はここで終わった。「まあ、つまりだな、何かに恋をするということは、そこに夢とか希望とかワクワクとかドキドキとかの、生きるのに必要な要素が詰まっているんだ。だから大事だよって話だ。」とのこと。その後、そんなことをテーマにしたっていう新曲をガジ丸は披露した。題は『クジラの憂鬱』。

 記:ゑんちゅ小僧 2009.12.11 →音楽(クジラの憂鬱)