同僚の若いMが今、公共工事の現場監督をやっている。彼は経験があまり無いので苦労している。私は週に三日しか出勤せず、また、書類作りや図面書きなど内勤の仕事があるので、一緒に行動できることが少なくて、あまり助けになってやれない。現場作業においては私よりずっと頼りになるBは去年、同じく頼りになるTは今年、相次いでリストラされているので、若いMが相談できるのは私を除くと社長しかいない。
「相談に行っても社長はすぐ怒鳴るんですよ。静かに話せば互いに何を言っているか解るし、解決策も見つかると思うんですけど、何でですかねー。」と先週、現場から帰ってきたMが、疲れた表情を見せながら私に愚痴をこぼす。
工事自体面倒な工事であると、図面の多少読める私はある程度予想していたが、社長はそうは思わなかったみたいで、次から次へと起こる問題をMに報告されて、「そんなことじゃあ、仕事が思うように進まないじゃないか!」と、苛立っているのかもしれない。そういう社長の気持ちも解らないではないが、私は若いMに同情する。
「怒鳴れば、言うことをきくと思ってるんだろうよ。気にするな。」と慰める。
そのM、一昨年も一つ、現場監督をやっている。その時の彼に比べるとずいぶん逞しくなった。頼りになるBとTがいないので、自分で何とかせねばという気持ちが出てきたのだと思う。社長に対する愚痴は言うけれど、その数が格段に減った。愚痴を言うより先に仕事を進めなくちゃ、問題を解決しなくちゃあ、との思いであろう。
役所や下請け業者との話し合いで問題が出てきて、頭の痛い思いをする。社長には怒鳴られる。「大丈夫か?十円禿げはできてないか?胃潰瘍にはなってないか?」と心配になる。だけど、この仕事を無事成し終えることができたら、Mはさらに大きくなるに違いない。これも修行だと思って、ここは一つ、踏ん張ってもらいたい。
で、先週土曜日、Mを励ます意味も込めて飲み会をやった。Mが頼りにしていた元同僚のTにセッティングしてもらった。Mが頼りにしていたもう一人のB、Bよりも数年前にリストラされたKも参加。もちろん、現役同僚のSさんも参加。Sさんは穏やかで、黙々と仕事をこなす人。交渉ごとは苦手だが、腕の確かな職人。皆に愛されている。
参加者はもう一人、数年前にアルバイトで現場仕事を手伝ってもらったOさん。Oさんは私やベテラン職人のSさんよりはいくつか若いが、親分肌で、貫禄があり、リーダーシップがある。アルバイトの立場でありながら、「飲みに行こうぜ。」とはたいてい彼から号令がかかり、概ね彼が日時、場所などのセッティングをした。
Oさんは苦労人である。家庭の事情もあって定職に就けない期間が長かったようだ。Oさんはしかし、人望があり、顔が広い。一緒に飲みに行くとあちこちから彼は声を掛けられる。苦労を重ね、乗り越えてきた人の人望なんだと思う。
若いMは、彼が慕っている元同僚のTやBを前に、その夜は当然ながら甘えた。日頃の鬱憤をぶちまけた。そして、月曜日からはまた、目の前の仕事を必死にこなしている。おそらく、その苦労は将来、人望ある人という成果を彼にもたらすはず。頑張ってね。
記:2008.11.22 島乃ガジ丸