玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

帰らぬ兎

2006年04月02日 | 日記
 おコツになって帰ってきた。立派な骨箱に入ってテレビの上に置かれている。仏壇に置くのがはばかられるからだ。この欄に何度か登場した我が家のウサギがついに“帰らぬ兎”となってしまった。
 一週間前に横たわったまま痙攣を繰り返すようになったため、“いよいよだな”と思った。家人が動物病院に連れて行った。動物病院はペットの犬と飼い主で満員だったという。
 中には若い夫婦連れもいて、「この人たち、会社を休んで犬を病院に連れてくるんだろうか」と疑問を感じたというが、とにかくペットブームで、何があってもおかしくはない。ペットの葬儀用の観音像まであるそうだから……。
 手当をほどこされ注射を打たれてウサギは帰ってきたが、横になったきり動かない。動物病院では「回復しなかったら、もっと強いのを打つから、連れてきなさい」と言ったとのことだが、横になって痙攣している姿は見るに忍びない。延命をはかることで苦しみを長引かせることはないと判断し、動物病院には連れていかずに成り行きを見守ることにした。
 翌日の夕刻、ウサギは息を引き取った。庭に穴を掘って埋めることを主張したが、家人はペット葬儀業者に頼むと言って、ちゃんと人間並みの祭壇をつくって蝋燭を灯し、線香を焚いて通夜を執り行った。
 葬儀業者が翌朝やってきて、遺骸を運んで行った。聞けばお寺でお経を詠んでもらい、高温で焼いて、おコツにして持ってくるとのこと。ほとんど人間並みの扱いである。
 葬儀業者はその日の夕方、立派な骨箱に入ったおコツを持って現れた。料金は一万五千七百五十円也。安いのか高いのか分からないが、その業者は自分で採ったというフキノトウを持ってきてくれた。ウサギのお陰で今年初めてフキノトウを口にすることができた。ところで、亡くなった一週間後、しめやかに初七日の儀も執り行われた。一周忌はどうなるのだろう。

越後タイムス3月24日「週末点描」より)