玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』(2)

2015年02月26日 | ゴシック論
 しかし、ヘンリー・ジェイムズの長編作品を手に入れて読むのはかなり難しい。かつての日本で「世界文学全集」のたぐいがブームであった頃、そこには必ずヘンリー・ジェイムズの長編作品が入っていたのだが、今日では国書刊行会が出している「ヘンリー・ジェイムズ作品集」によるしかない。
 ところがこの作品集が高すぎて買えない。一冊6,000円以上する。『鳩の翼』は最近まで講談社文芸文庫で出ていたのだが、すでに絶版となってしまっている。アマゾンで古書で手に入れることは出来るだろうが、私はこの河の名前の会社にばかり儲けさせることに快い気持ちを持っていない。
 したがって、過去に出た「世界文学全集」に頼るしかない。文学と美術のライブラリー游文舎には「世界文学全集」だけでも、河出書房、講談社、筑摩書房、集英社等々なんでも揃っている。筑摩版には『ある婦人の肖像』が、講談社版には『使者たち』が、別の講談社の「世界文学全集」には『鳩の翼』が入っている。
 この3作が翻訳されているジェイムズの長編としては代表作と言えるだろう。どれを読もうかと考えたが、ストーリーが一番面白そうだったのが『鳩の翼』だったので、まずこれを読むことにした。
 ところが昔の「世界文学全集」のたぐいは8ポ2段組が主流であり、行間も狭く、読みにくいこと甚だしい。とりわけ老眼の進んでいる私のような世代にとっては、苦痛以外の何ものでもない。
 『鳩の翼』は講談社版「世界文学全集 オプション103」の第54巻に納められていて、8ポ2段組で530頁ある。これを今日出ている標準的な文庫本に換算すると1000頁以上にもなる。大長編なのである。講談社文芸文庫版でも上下巻で900頁ある。
 かつての「世界文学全集」は書斎のインテリアとも揶揄されたが、私はあれがなかったら外国文学に親しむことはおそらくなかったと思う。1巻1巻征服していく喜びは何ものにも代え難かった。今日、河出の池澤夏樹個人編集によるもの以外にないということはやはり寂しいことと言わなければならない。
 しかも池澤版は全30巻しかないが、講談社の「世界文学全集」は全103巻もあったのだ。「なんでこんなものまで」と思わせるような作品も収録されていたかも知れないが、世界文学として必読の作品は必ず入っていたから、どんなに役に立ったことか。
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