玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

吉本隆明が亡くなった

2012年04月27日 | 日記
 思想家・吉本隆明が死去した。八十七歳であった。八十七歳といえば「やまとめ」さんの山田博さんより一歳年下である。死んだ父も山田さんと同じ歳だから、吉本隆明は私どもの父親世代にあたり、言うまでもなく“戦中派”であった。
 大学に入るとすぐに先輩達から「吉本を読め」と言われた。当時吉本は大学生にとって最もカリスマ的な思想家であった。吉本の言葉をオウムのように繰り返す、ほとんど信者のような先輩もいたことを思い出す。
 山田さんが『ある戦中派の思想遍歴』で書いているように、戦中派は彼らより上の世代、戦中は軍国主義に追随し、戦後になると民主主義に鞍替えして平気だった世代を本質的に信じない。吉本もまた戦中派として既成左翼に対する徹底した批判を行った。
 その頃の著作『擬制の終焉』や「戦後文学はどこへ行ったか」等を読み、かなり影響を受けたが、代表作である『共同幻想論』や『言語にとって美とはなにか』は、読んでも理解できなかったために、深入りすることはなかった。
 昭和五十九年に吉本は『マス・イメージ論』を書いたが、そこで彼が高度資本主義社会における大衆文化について肯定的に論じているのを読んで、以降彼の著作に触れるのをやめた。その後、オウム真理教事件に際し、麻原彰晃を積極的に評価していることなどを伝え聞いて、「ついにボケたか」と思ったことを思い出す。
 ボケたのではなく、もとから吉本の思想はおかしかったのだと言う論者もいるが、きっとそうなのだと思う。一人の思想家がカリスマ的な影響力を持つ時代は八十年代に終わっている。吉本は少し長く頑張りすぎて、信者らに対する影響力を行使しすぎた。

越後タイムス3月23日「週末点描」より)


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