玄文社主人の書斎

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ベス・ハート、ライブ(5)

2018年12月19日 | 日記

 ついにベス・ハートのライブが始まった。1曲目は何か? ということは大変気になるところで、固唾をのんで待っていると、始まったのはBaby Shot Me Downであった。この曲は彼女のオリジナル・アルバムとしては最も新しいFire on the Floor(2016)の9番目の曲で、1曲目のJazz Manなどと同様ジャズのテイストの強い曲である。私はベス・ハートのブルースが好きなので、ジャズっぽい曲はそれほど好きではない。そこには魂を揺さぶるような暗さも恐ろしさもないからである。

アルバム Fire on the Floor

 Fire on the Floorは極めつけのブルースの名曲、Love is a LieとFire on the Floorを中心としながらも、ジャズへの志向を強く持ったアルバムで、バラード調の名曲とともに全体としてよくバランスの取れたアルバムだと思う。
 Jazz Manなどは何度も聞いているうちにその良さが分かってくるが、Baby Shot Me Downの方はリズムが軽く、滑稽な味があって真剣味に欠ける。だからこの曲をオープニンングに持ってきたことに若干の不満は残った。
 今年5月のパリPalais des Congrèsでのライブでは、オープニングにLove Gangsterを持ってきている。彼女のライブのオープニングは、大きな会場では暗闇の観客席の中から彼女が歌いながら現れるという趣向をとることが多いが、Love Gangsterもそのようにして始まっている。


Palais des Congrèsでのオープニング

 またこの日の2日後にトゥールで開かれたコンサートでは、オリジナル曲ではないがI Love You More Than You'll Ever Knowを暗闇の中からのオープニングに使っている。ブルースは彼女の代名詞なのだから、そんな選曲にして欲しかった。デュマ劇場は小さい会場だから、暗闇からの登場といったような演出はできなかったにしても。
 ちなみにLove GangsterはFire on the Floorの2番目の曲で、ブルースのカバー曲かと思うような名曲である。この曲ではリード・ギターのジョン・ニコルズとベースのボブ・マリネリの掛け合いと、そこに絡んでくるベス・ハートの絶妙なヴォーカルが聴きどころである。今年のツアーなら、スイス、バーゼルのBaloise Sessionでの演奏は必聴と言える。
 1曲目の途中から私はこの日の曲目をメモすることに決めた。客席の暗がりでメモをとるのも大変で、ライブを聴く集中力を殺いでしまう結果になったかも知れない。でも全曲知らない曲はなかった。
 2曲目はClose to My Fire。この曲はジョー・ボナマッサとの共作カバー・アルバム の2枚目See Sawの2曲目に入っている曲だ。タイトルからも想像できるように、非常に色っぽい曲で、ボナマッサとのアムステルダムでのライブでは"This song is about sex"などと彼女自身が紹介している。ボナマッサとの共演で聴かれるのはブルースの名曲ばかりで、この曲も例外ではないが、これほどエロチックな曲はない。いわば官能をくすぐるので、子どもに聴かせる曲ではない。

アルバム See Saw

 しかし、ギターはジョー・ボナマッサではなく、ジョン・ニコルズである。ボナマッサとの共演で聴かれる曲を、ベス・ハート・バンドでもやっているのは何曲もあるが、この曲は初めて聴いた。オープニングの特徴的なギター・リフはボナマッサのをなぞっているが、ジョン・ニコルズは間奏部分では独自のフレーズを聴かせている。
 この日のコンサートで、ジョー・ボナマッサとの共演で録音された曲は、この曲を入れて4曲もあった。一部のベス・ハートファンはジョー・ボナマッサとの共演を至上のものとし、ジョン・ニコルズのギターをないがしろにする傾向がある。ジョンのギターを〝アマチュア並み〟などとこき下ろす人もいるが、本当にそうなのか?
 私はそのことを確かめてみたかった。Youtubeの粗悪な録音で聴くと、ジョンのギターは本当に下手で、アマチュア並みに聞こえることもある。しかし、Youtubeでもちゃんとした録音で聴けば、決してそんなことはないと分かる。
 ベス・ハートを有名にしたI'd Rather Go Blindの最も感動的な演奏は、ボナマッサとのものでもなければ、ジェフ・ベックとのものでもない。ジョン・ニコルズのギターで聴かせるベス・ハートの歌が最高だと私は思う。

 


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