原題:THE WHITE CROW 製作国:イギリス 127分
ヌレエフの自伝的な映画とともに旧ソ連国家の管理体制をうかがえる作品。
彼は幼少のころから踊ることが好きだった。長じて国立のバレー学校に経費入学。厳しいレッスンに励むが先生が気に入らず辞めるとまで言い出す。彼は自分の考えに忠実、自己中なのだ。新しい教師は言う「バレーは技術だけではない。バレーには物語が必要なのだ」と。この教師の下で彼は上達してゆく。やがて西側の国でバレーを披露することになり、彼も参加を許される。パリでの公演はソ連国家にとっても緊張する公演であったに違いない。大切に育て上げた団員に逃亡されでもしたら、目も当てられない。バレー団には厳重な監視員が同行し、西側の人間と話すだけで注意した。
大切に育てた人間は人民たちに公開し、国家の威信を高めるため国が管理してゆき、個人の希望・自由はないのだった。しかし彼はそんな政治的なことはお構いなしで、西側の人達と話し、おまけに彼のバレーに何かを感じた女性と共に夜のパリを楽しむ。また一人美術館で作品群に見入ったりして自由にふるまった。当然監視員には目を付けられ、さらに厳重に監視され幾度となく注意された。
やがてバレー団が帰国する時になったが空港でヌレエフ一人だけ、他のダンサー仲間と引き離されモスクワに戻ることを当局の監視員から告げられた。彼はソ連に連れ戻された後、薬物によって廃人同様にさせられてしまうことを直感する。彼の周りを取り囲む監視員。このどうにも逃亡できそうもないところを手助けしたのは、パリで知り合った女性ファン、パリで知り合ったばかりの友人、亡命実行に適切にアドバイスし、身を張って職務を実行した、空港警察のメンバー達だった。彼はただ踊りたかったのだ。政治的な思惑に捕らわれずにもっとバレーを追求したかったのだ。しかしソ連にはソ連のやりかたがあって、それはそれで意味があるのだけれど、ヌレエフは西側のバレーの雰囲気に自分の可能性を見つけ出し強く興味を持ったに違いない。しかし空港で予感した恐怖は祖国を捨てるということだった。祖国に居る、家族・恩師友人たちを犠牲にしてまでも自分を優先させたのだ。身勝手かもしれない。「白いカラス」とはそういう意味があるらしい。
バレーのシーンはそんなに多くはないけれど、素晴らしい。本物のヌレエフではないけれど、素晴らしい。本物の映像はエンドロールでフラッシュバックされる。面白かった。