『大原御幸』 能楽BASARA 第二章-Ⅲ 平家物語
2016年9月18日 国立能楽堂
番組
●解説 「まのあたりに平家物語を」 林 望
●仕舞 「屋島」 観世喜之
●狂言 「奈須与市語」 野村萬斎
●能 「大原御幸」
女院:駒瀬直也 大納言局:坂真太郎 阿波内侍:永島充
法皇:観世喜正 萬里小路中納言:森常好 大臣:工藤和哉 輿昇:森常太郎 高井松男
後見:奥川恒治 遠藤喜久 間:中村修一
大鼓:佃 良勝 小鼓:鵜沢洋太郎 笛:松田弘之
地謡:関根知孝 桑田貴志 小島英明 佐久間二郎 鈴木啓吾 中所宜夫 弘田裕一 中森貫太
平家一門を滅亡に追いやり自らの院政を獲得した後白河法皇。一方平家方にあって壇ノ浦で入水するが、海より引き上げられ生きざるを得なくなった建礼門院徳子。草深い大原の奥の寂光院で、静に平家一門の供養をしてひっそりと暮らしているある日、法皇が訪れ、地獄を生きながらえたその様を語ってほしいという、とんでもなくものすごい曲「大原御幸」。
お調べのあと囃子方、地謡と着座。次いで後見が引廻しをかけた大藁屋の作物を大小前に据えて退場。舞台が整う。しばらくしてワキヅレの大臣と狂言方が登場。大臣は常座を過ぎたあたりで名ノリ。法皇の大原御幸のため道を清めるよう告げる。ひそひそとお囃子が始まり、大藁屋の引廻しがとりはずされると、女院を真ん中にして3人の尼が姿を現し、場面は大原の寂光院になる。「山里は・・・」とシテが謡い出す。静かな山あいにサラサラと流れる渓流の音と共に流れてゆくかのような風情を感じる。「山にシキミを摘みに行こう」と女院と大納言局が幕に消える。ワキの一声があり法皇の登場。「ヤマホトトギス・・・・」と謡いあげた亡き閑さんを思い出す。再会する二人。二人は身内のようなものなのだ。「なかなかになほ妄執の閻浮の世を・・・・」とシテのクドキ。名文句、名調子が続く。法皇は女院にいう。「六道の有様正に御覧じけるとかや・・・」と催促。女院は合戦の様を語る。それを聞いて法皇は「まことにありがたき事どもかな」という。良く解らない。次いで孫、安徳天皇の最後の有様を語ってほしいという。仏に帰依した二人にとっては淡々としたことなのかもしれない。女院の語り「その時の有様申すにつけて恨めしや・・・・」。曲のクライマックス。シテの一セイ「今ぞ知るミモスソ川の流には波の底にも都ありとは」と建礼門院の絶唱なのだ。「不覚の涙に袖を志をるぞ恥ずかしき」で打切。還幸する法皇。見送る三人の尼。ほんとにこんなことがあったのだろうかと思う。ワルの後白河法皇。手折れそうな建礼門院。しかしロマンに溢れた曲と思う。舞台から誰も居なくなる直前まで静まり返っていた見所から、しめやかな拍手が沸き起こる。2時間近い大曲だけれど、想像に溢れたインパクトのある舞台だった。