隠遁中の松永に対し
僧侶:
「世の中を、つまり他人をはなれて、自分を完成するということはありませんよ」
「世の中のため、他人のためにいかに役に立つか。そういう考えのもとに働くとき、そこに人間の完成があるのです」
と説得したが、
松永の考えは
「・・・相当力のある人が、その十分の一を他に用いるというような場合は別であるが、
われわれのような、
自分自身、非常に欠陥をもち、
力が足りず、
いかにして、自分を満たすかということに努力しているものは、
いわば人間の不具者である。
その不具者の自分が、
十全の人間にならぬうちに でしゃばっていろいろなことをするのは、
いわゆるおっちょこちょいであり、
でしゃばりであり、また功名心である。
あるいは欲望というものが、そういうところから発するのかもしれない。
その本をはっきり断たない間は、世の中にでしゃばるべきではない・・・」
「隠居日描」