平成二十八年十月九日 矢来能楽堂 午後一時始
番組
●能 「芭蕉」
シテ 弘田裕一 後見 遠藤和久 永島忠侈
ワキ 森常好
間 能村晶人
太鼓 國川 純 小鼓 田邊 恭資 笛 寺井 宏明
地謡 長山禮三郎 観世喜正 五木田三郎 中所宜夫 鈴木啓吾 永島充 佐久間二郎 中森健之介
●狂言 「附子」
シテ 野村万蔵 後見 小笠原匡
アド 河野佑紀
小アド 野村虎之介
●仕舞
「生田敦盛」 観世喜正
「梅 枝」 五木田三郎
「大瓶猩々」 観世喜之
●能 「女郎花」
シテ 遠藤喜久 後見 観世喜 之 鈴木啓吾
ツレ 新井麻衣子
ワキ 館田善博
間 小笠原 匡
太鼓 徳田宗久 大鼓 亀井実 小鼓 幸正昭 笛 藤田貴寛
地謡 駒瀬直也 奥川恒治 中森貫太 佐久間二郎 小島英明 坂真太郎 桑田貴志 河井美紀
「芭蕉」と「女郎花」。秋の訪れに相応しい曲。芭蕉葉は夏にこそ、その大きな緑の葉が印象的。しかしやがて虫に食べられたりして枯れ始めたり、松の落ち葉にも穴を開けられ朽ちて行く。その移ろいは有情非情の区別なくおなじではないのかと問う。月明かりの明るい一夜、芭蕉の精は女人の姿となり、庵に住まう僧の前に現れる。そして草木をも人間同様に成仏できるという法華経の功徳を讃え、さびさびと序の舞を舞う。やがて風が吹き、庭の草花は散り落ち、破れた芭蕉の葉のみが残っている。なんとも幻想的な曲だ。ワキ僧と間語りは歯切れよく聞きやすかった。しかしシテと地謡は地中から生じている音のよいうで、言葉というより一連の音のうねりのように聞こえ、内容を理解しながら観るというより、ボーっと入り混じった音の世界に浸っているような印象が残った。
「女郎花」は有情の曲。かってあった男女の哀しい出来事を残すかのような二つの塚。そのあたり一面に女郎花が咲きほこっており、その花を旅の僧が手折ろうとし、物語は展開する。ささいな行き違いから入水し、空しくなった女。それを知り、悲しみ、後追い入水した男。.小野頼風。頼風は邪淫の罪で地獄の責めを負っている様を舞い、僧に回向を頼むのだ。ツレの姿・装束が美しかった。