平成27年3月27日 観世能楽堂 午後5時半~午後10時
番組
● 舞囃子 『巻絹 (神楽留)』 寺井栄
太鼓 大川典良 大鼓 原岡一之 小鼓 森澤勇司 笛 藤田朝太郎
地謡 木原康之 岡庭祥大 高橋弘 角寛次郎 今井泰介
● 能 『井筒 (物着)』 シテ 野村四郎 ワキ 宝生閑 後見 野村昌司 観世恭秀
大鼓 柿原崇志 小鼓 観世新九郎 笛 一噌庸二
地謡 清水義也 阿部信之 木月孚行 武田志房 津田和忠 坂口貴信 金子聡哉 高梨万里
● 狂言 『梟山伏』 シテ 三宅右近 三宅右矩 三宅近成
● 仕舞 『難波』 浅井文義 地謡 :木原康之 谷村一太郎 中島志津夫 武田宗典
『夕顔』 大槻文蔵
『鐘之段』 関根祥六
『山姥(キリ)』 浅見真州
『船弁慶(キリ)』 宝生和英 地謡 :田崎甫 辰巳満次郎 武田孝史 小倉伸二郎
● 舞囃子 『高砂 (八段之舞)』 観世清和
太鼓 観世元伯 大鼓 柿原弘和 小鼓 観世新九郎 笛 松田弘之
地謡 角幸二郎 木月宜行 津田和忠 山階彌右衛門 上田公威
● 能 『安宅 (勧進帳 瀧流之伝)』
シテ 観世銕之丞 ワキ 森常好 後見 大槻文蔵 観世芳伸 藤波重彦 子方 武田章志
同山 岡久広 武田尚浩 藤波重孝 関根知孝 浅見重義 坂井音晴 間瀬敦夫 坂井音隆 武田友志
間 高澤祐介 前田晃一
大鼓 曽和正博 小鼓 守家由訓 笛 杉市和
地謡 北浪貴裕 坂井音雅 武田文志 佐川勝貴 浅井文義 浅見真州 武田宗和 小川博久
観世能楽堂が銀座に移転することになった。渋谷の松濤では43年あまりになり、老朽化してきて抜本的に検討した結果であるという。 観世は徳川家光から今の銀座1、2丁目に500坪のを拝領したが、明治政府に返上した経緯があったとのこと。いまどき更地に新築というわけにもゆかず、複合ビルの地下3階にということらしい。
それで4日間にわたり「さよなら公演」。日程表によると能だけでも、「井筒」を皮切りに「安宅」、「羽衣」、「正尊」、「松風」、「土蜘蛛」、「道成寺」、「石橋」、「鶴亀」、「猩々」そして「翁」。観世ゆかりの能楽師が連日演じ、一つの節目を過ごすということなのだろう。
その初回。「井筒」。寂びサビとした囃子が沁みこんでくるなか、ワキが音もなく橋掛かりを歩んでくる。名ノリは終始静かで、むしろ透明感を感じる。良く通る声だ。無名の旅僧。姿も小さく肩の丸くなった、現世の無常を知り尽くした年を重ねた僧侶という印象がする。荒涼とした荒れ地を、胸に佛への怒りを込めて、そういう思いの籠った凄みのある名ノリを期待したが違った。今回は座席がワキ柱のすぐ前で、ワキをこんなに近くで見るのは初めてだ。ワキが定位置に座ると柱の影になってしまい、装束とワキの鼻の頭しか見えないのだが、装束に香が炊き込めてあるのかほのかに香ってくる。やがてまた時の流れを感じさせる囃子のあと、シテの登場。「暁毎の閼伽の水 ・・」と謡い出す。昔別れ惚れ抜いた男を寝ても覚めても思い募る女が謡う。「シットリと哀れ深く謡う」と謡本に書いてある・・のだが実際には年相応のダミ声は仕方のないところだ。玉三郎ならどう謡うだろうなどと思ったりした。女と僧の会話に地謡が絡まり、物語は秋の風に吹かれているかのように展開される。 「井筒の陰にかくれけり」のあと、後見のところで業平の装束への着替える。そして女は井戸の周りで狂乱するのだ。「井づつにかけしまろがたけ・・」。女の哀しい思いは、年老いた旅僧が尋ねた在原寺でのつかのまの夢の中に展開されたのだったのだ。
観世の仕舞が4番。皆さん重鎮。ガッツリと貫録の舞を披露。で宝生の御曹司が舞う。地をガッチリ固めてと思うけど、「弁慶」ではない演目の方がよかったかも。でも薙刀捌きも鮮やかに軽やかに舞っていただけました。
舞囃子「高砂」。チケ購入の時は知らなかったので、この演目は嬉しかった。観世家元が八段の舞で披露。力強い「高砂や~」の謡にはじまり、切れの良い舞を展開する。溌剌さを求めるのが無理か。
能「安宅」。銕之丞師の弁慶はいかにもそれらしさを感じて納得。子方の義経役はポッペも赤くかわいらしい。でも詞章はバッチリで立派でした。弁慶、勧進帳を読み上げてる時一瞬喉の調子がおかしくなったのか詰まってしまいゴホンと咳払い、見所もエッと思ってどうなるかというふうだったけど、途中から復調。舞台の上は装束着けた大の大人が30人近く出ていて壮観。押し合いへし合いする。ワキの鋭い追及を苦しくかわし、潮が引くように同山たちが幕に吸い込まれ、しんがりを弁慶がシッカリと務め幕へ消える。でも見送ったワキの心境というのはどうなのだろう。「してやられた」、「さすがは源氏の強者」・・見破ってはいたのだろうけど。
ずっしり見ごたえのある一夕でした。