横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

低左心機能の弁膜症に対する右小開胸アプローチのリスク

2020-04-17 23:16:36 | 弁膜症
 横須賀市立うわまち病院では弁膜症手術の多くを右小開胸アプローチで行っています。僧帽弁手術は8割以上、大動脈弁手術は5割以上で実施していますが全症例で行っていない理由として、
①冠動脈バイパス術や大動脈の人工血管置換を伴う手術は視野的に不可能
②片肺換気に耐えられない低肺機能患者は適応外
③肺の癒着高度の患者は視野確保できない可能性がある
④動脈硬化が著しく、安全に上行大動脈遮断ができない
⑤低左心機能
などがあげられます。

 特に低左心機能の症例では、万が一手術操作中に血圧が低下して心停止したり、徐脈になったり、また心室細動になったりしたときに、心臓マッサージが出来ません。このため術中に心臓マッサージが必要になる可能性がある症例では危険性が大いに高まる為、通常は適応外とするのが一般的です。
 万が一、その他の方法ではアプローチできず、どうしても右開胸で手術が必要であれば、創部を出来るだけ大きくし、場合によっては肋骨弓を離断して創拡大をはかる、体外式のDC Padを術前から貼付しておく、ペーシング機能付きのスワンガンツカテーテルを留置またが一時的ペーシングカテーテルを留置する、などの事前対策が重要となります。
 こうした症例は小開胸アプローチにこだわる必要はなく、最も安全なアプローチが正中であれば躊躇なく正中アプロ―チを選択すべきです。
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僧帽弁置換術後左室破裂発生時にどうやって救命するか

2020-04-10 05:34:41 | 弁膜症


 僧帽弁置換術に伴う最も恐ろしい合併症は、左室破裂です。僧帽弁置換術の1%で発生、特に小柄な女性、僧房弁狭窄症の手術で発生しやすいとも言われています。左室破裂は外見上その発生部位によってタイプが提唱されていますが、その定義付けは間違っています。というのも左室破裂は、左室心筋が断裂して左室表面に出血を起こす場合は、まるで火山の噴火のように、噴火口が複数になることや、マグマの位置と噴火口の位置が火山のように違うことも少なくないからです。左室破裂を経験している外科医も少ないので仕方ないかもしれません。
 筆者が経験した左室破裂は今まで3例ですが、いずれも全く同じ位置で左室心筋が断裂してものすごい勢いで出血しました。この出血は、左心時のすぐ直下の側壁だったり、心膜横道から左心耳の方向へのぞくと、左房上壁と大動脈壁の間あたりからものすごい拍動性出血をしているようにも見えます。
 僧帽弁置換に伴う左室破裂は、左房から見てP1の位置=時計で言う8時の方向の僧帽弁輪直下の心筋が左室内腔の方から断裂して、それが深く掘られていくように左室表面に達して出血をおこしますが、その過程で左室心筋の繊維の方向にそって裂け目が進展するため出血部位と内腔の断裂位置が異なることも少なくありません。このため教科書などに記載されているように、左室の外表から縫合糸をかけても止血できません。
 最も確実なのは、人工弁を取り外して、左室内腔から断裂している位置にパッチを縫着することです。手技的に左室の内腔にパッチを貼ることは、人工腱索を立てたり、心筋梗塞後心室中隔穿孔の手術でパッチを貼る手技よりもはるかに難しい手技になります。稀に外表からの圧迫のみで止血出来て救命できるケースもあります。まずは出血部位を圧迫して、これで確実に出血が制御でき、その圧迫で血行動態を維持できている場合に限って人工心肺を離脱してカニューレを抜去しプロタミンとFFPや血小板を投与して勝負してみてもいいと思います。
 筆者は今まで3例の左室破裂を経験しました。1例は筆者が執刀した症例で遮断解除直後から出血して、幸い圧迫のみで出血が治まって事なきを得た症例です。その患者さんは今もお元気で、縫着した生体弁も10年以上経過して健在です。
 他2例はいずれも筆者が指導的助手をした症例で、一例は術翌日に突然ICUで心停止し、心肺蘇生して心拍再開後に超音波検査で大量の心嚢液が見つかった症例で、これは左室破裂が先か、心臓マッサージで破裂したのかは判別不能でした。もう一例は遮断解除後に1例目と同じく大量出血が発生した症例です。後者2例は術者を筆者と交代してもらい、僧帽弁を取り外して左室内腔からパッチを縫着して出血が止まりました。

 もっとも遭遇したくない合併症ですが、その発生メカニズムを考察して人工弁を縫着するようになってからは10年以上、遭遇していませんので、現在の人工弁置換のやり方が合っているのかもしれません。
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僧帽弁置換術における左室破裂の予防のための縫合糸結紮の順番

2020-04-10 00:09:15 | 弁膜症
 僧帽弁置換術において最も恐ろしい合併症はなんといっても左室破裂です。これは僧帽弁置換のために縫着した人工弁の固い弁座と、左室心筋の収縮の間で心筋が断裂して発生します。心筋は心室中隔を軸(重心)に動くので、最も心筋の可動性が高い部分は中隔と対側の自由壁です。この部分が最も左室心筋が大きく動く部位になるので、一般にここから左室破裂は発生します。具体的には回旋枝領域で、左房側から左室内腔を観察するとP1の位置、すなわち時計で言うと8時方向の僧帽弁輪よりの左室心筋が断裂します。
 このことから、左室破裂の予防の為にはこの、P1(8時)を中心に先に固定することにより、弁輪の位置と左室心筋の収縮とがひずみを発生することを予防するので、結果的に左室破裂を予防すると考え、後輩医局員にもそのような結ぶ順番を指導してきました。
 左室破裂自体がそれほど遭遇することがない病態ですので、この考えが本当に正しいかどうかはもう少し時間がかかると思いますが、数年経過しているうちに指導内容のコンセプトが間違って伝わっているようだったので、ここでまた記載してみました。
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MICS-AVR:右小開胸の大動脈弁置換術における皮膚切開位置・前方?側方?

2020-02-19 23:21:39 | 弁膜症
 MICS-AVR:右小開胸アプローチによる大動脈弁置換術は、横須賀市立うわまち病院においては右腋窩中線を中心にした約8cmの皮膚切開で実施しています。女性の場合は、乳房の下端の皺に合わせて皮膚切開をおくことで、術後は手術痕が目立たなくなり、術後の乳房変形が起きないように工夫しています。Stonehenge Techniqueでは、胸壁から大動脈弁までの距離が15cm以内であれば確実に、前腋窩線の皮膚切開でも通常の手術器具のみで手術可能で、縫合糸の結紮もKnot Pussureを使わずとも、術者の手で結紮できます。
 主にヨーロッパにおいては、右小開胸アプローチとは言っても、主に第2~3肋間で胸骨有縁を中心に前方の皮膚切開を行っており、前腋窩線の皮膚切開アプローチと同様に通常の手術器具のみで実施可能で、縫合糸の結紮もKnot Pussure不要です。しかし、こうした皮膚切開では術後の手術痕が目立つだけでなく女性の場合は乳房の変形をきたしてしまうマイナス点があります。今回、研究会でこの前方のアプローチで実施している施設の発表を聞き、乳房の変形などのことを質問しましたが、経験した患者さんが男性だけだったこともあり、そうした点までは気にしていないようでした。

 胸骨を切開しないことが最大のメリットであることを考えると、前方の皮膚切開でも十分意味のある手術術式と思いますが、できれば乳房の変形をきたさず、乳房下縁の皺に沿った皮膚切開でほとんど目立たない手術創とすることも重要と考えます。
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ロボット心臓弁膜症手術のラーニングカーブ

2020-02-16 08:01:10 | 弁膜症
 ダビンチ手術支援ロボットを使用した僧帽弁形成術におけるラーニングカーブは、100~150例実施するとようやく安定するとのことです。これまで心臓血管外科でトレーニングされた期間を考えると簡単なことではありません。やはりHigh Volume Centerで実施するほうが有利ということになりますが、外科医の技術を将来ロボットが上回る時代がいつかはくることを考えると、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも可能な範囲で始めておくべきか、迷うところです。まず、今年は施設見学に行くなどして、準備を進めていくことも考える必要があります。施設要件が整ったので、近日中にロボット手術を何施設かに見学に行きます。
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小開胸大動脈弁置換術の臨床経験「MICS-AVR」:第3回心不全パンデミック講演会

2020-01-29 13:42:04 | 弁膜症
高齢者の心臓疾患が増加するなか、低侵襲な心臓手術「MICS」の需要が高まっている
 心不全パンデミックといわれるように、高齢化に伴い心不全の患者さんが激増しています。同時に高齢者に対する心臓手術も増加しています。実際、当院では心臓血管外科で開心術を行う患者さんの30%以上が80歳以上の高齢者です。
 特に、大動脈弁狭窄症は高齢者数に比例して増加する特徴があります。そのため手術の対象患者さんは今後も増加し続け、年齢もますます高齢化していくと考えられます。そこで、「MICS(低侵襲心臓手術)」が、近年徐々に広まりつつあります。MICS(ミックス)とは、「Minimally Invasive Cardiac Surgery」の略で低侵襲心臓手術という意味で

横須賀市立うわまち病院におけるMICS
 当院ではMICSが適応となる患者さんに対しては、以下の手術をMICSで行っています。
大動脈弁置換術
僧帽弁形成術/置換術
三尖弁形成術
冠動脈バイパス術
心内腫瘍・血栓切除術
左心耳切除術
メイズ手術(肺静脈隔離術)
 多くの病院では、冠動脈バイパス術は胸骨正中切開で行われることが多いですが、当院では左小開胸のMICSで行っており、3枝病変まで対応しています。また大動脈弁と僧帽弁疾患の同時手術にもMICSで対応しています。

 2018年に当院で行った全110例の心臓手術のうち41例(37%)はMICSで行っており、大動脈弁置換術は40%、僧帽弁置換術は66%、僧帽弁形成術は57%がMICSによる手術でした。

横須賀市立うわまち病院におけるMICS-AVR−ストーンヘンジテクニック
 それでは、当院におけるMICS-AVRについてご説明します。MICS-AVRとは、小開胸大動脈弁置換術*の略です。
 当院では「ストーンヘンジテクニック」という方法を用いてMICS-AVRを実施しています。術野が、イギリスにあるストーンヘンジという遺跡に似ていることから、このような名称で呼ばれています。
大動脈弁置換術…大動脈弁狭窄症(弁が狭くなること)や大動脈弁閉鎖不全症(弁が閉じにくくなること)に対し、壊れた弁を人工弁に置き換える手術

 ストーンヘンジテクニックは、心膜を糸で吊り上げて、心臓を右胸壁方向へ引き寄せる方法です。大動脈弁はMICSの切開創からは約12〜15cm離れており、そのままでは大動脈弁に手が届きません。そのため、柄の長い特殊な持針器や鑷子
せっし
を用いて行われることが多いです。
 しかし、ストーンヘンジテクニックで心臓を引き寄せることで、そのような特殊な機器を使用する必要がなく、胸骨正中切開と同じようにMICS-AVRを行うことが可能です。
 またMICS-AVRでは、血流が漏れないように糸でしっかりと結ぶことが重要ですが、通常の方法ではノットプッシャーと呼ばれる機器で間接的に糸を結ぶため、感覚が分かりづらいことがあります。しかしストーンヘンジテクニックは、手で直接糸を結ぶことができます。MICS専門の手術器具なくても、糸結びをしっかりとできる点は、大きな特徴といえます。
 右小開胸が難しい場合には、胸骨部分切開のMICS-AVRを行います。最近では、大動脈弁狭窄症の90歳以上の症例に対してもMICS-AVRを行っており、術後およそ1週間後にはご自身で立つことができるまでに回復されています。
 これから先、高齢化がさらに進んでいくことによって、治療法はどんどん低侵襲化していくと考えられます。そのなかで、カテーテル治療であるTAVIが進化していく一方、MICSも今後さらに進化していくことでしょう。
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胸骨部分切開による小開胸の低侵襲大動脈弁置換術

2020-01-09 21:59:07 | 弁膜症
 大動脈弁置換術において横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、右小側方開胸によるアプローチを標準術式として採用し、約8cmの皮膚切開で右前腋窩線を中心において心膜ごと心臓を右胸壁に引き寄せるストーンヘンジ法で行っています。
 しかしながら、右側方開胸ができない症例や上行大動脈の評価が不十分である為、安全にこのストーンヘンジ法が実施できない症例においては胸骨正中切開による従来のアプローチを採用します。
 胸骨正中切開が必要な症例で、大動脈弁単独の手術の場合は可能な限り創を小さくするために、胸骨部分切開によるアプローチとすることで、側方開胸と同じく約8cmの皮膚切開で行うことが可能です。基本的に側方開胸しない単弁置換の場合は、当院ではこの胸骨部分切開を採用しています。胸骨部分切開では、胸骨の上部を逆L字で切開するUpper Partial Sternotomyと、胸骨の下部を逆さL字に切開するLower Partial Sternotomyの二つの切開方があり、CTでどちらが確実に大動脈遮断、大動脈切開、大動脈弁置換が可能かを判断してアプローチを決定しています。
 日本人の場合は体形的にLower Partial Sternotomyのほうがやりやすい患者さんが多く、当院でも多くの症例はLower Partial Sternotomyを採用しています。Lower Partial Sternotomyの場合は、心膜の折り返し地点、腕頭動脈付着部あたりまで胸骨を正中切開し、またUpper Partial Sternotomyの場合は、大動脈弁の位置まで胸骨を切開することになり、どちらが手術操作に有利かによって決定します。
 右側方開胸に比べて胸骨を切開する分、骨髄からの出血が持続しやすいこと、閉胸に時間がかかる、内胸動脈を損傷、出血させるリスクがあるなどの違いがありますが、基本的に大動脈弁の見え方は側方開胸とほぼ同じであり、また、大動脈切開はFullSternotomyと比較して、出血した場合にあとで止血がしやすいような位置、範囲を選択する必要があり、これも側方開胸と同じです。Lower Partial SternotomyではDCパドルが小児用であれば挿入可能なのでDCパッドを事前に貼付する必要はありませんが、Upper Partial SternotomyではDCパドルが入らない可能性が高いので側方開胸と同様にDCパッドを事前に貼付する必要があります。
 上行大動脈置換や冠動脈バイパス術の併施、大動脈基部再建術の場合は、こうした小切開による低侵襲アプローチは採用しておらず、基本的にFull Sternotomyとしています。
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三尖弁逆流のカテーテル治療

2019-12-19 11:51:04 | 弁膜症
 ランセットに発表された論文によると、三尖弁逆流に対するカテーテル治療が試みられており、これによる有効性が十分証明されています。僧帽弁手術に同時に右房も切開して三尖弁輪の縫縮を行うことは、三尖弁逆流のある患者さんにとって予後を改善する、という趣旨で弁輪を作成している業者が宣伝していますが、今後は同時に右房を開けなくともカテーテル治療とハイブリッドで三尖弁逆流を制御する時代になるかもしれません。


Transcatheter edge-to-edge repair for reduction of tricuspid regurgitation: 6-month outcomes of the TRILUMINATE single-arm study

Summary
Background
Tricuspid regurgitation is a prevalent disease associated with high morbidity and mortality, with few treatment options. The aim of the TRILUMINATE trial is to evaluate the safety and effectiveness of TriClip, a minimally invasive transcatheter tricuspid valve repair system, for reducing tricuspid regurgitation.
Methods
The TRILUMINATE trial is a prospective, multicentre, single-arm study in 21 sites in Europe and the USA. Patients with moderate or greater triscuspid regurgitation, New York Heart Association class II or higher, and who were adequately treated per applicable standards were eligible for enrolment. Patients were excluded if they had systolic pulmonary artery pressure of more than 60 mm Hg, a previous tricuspid valve procedure, or a cardiovascular implantable electronic device that would inhibit TriClip placement. Participants were treated using a clip-based edge-to-edge repair technique with the TriClip tricuspid valve repair system. Tricuspid regurgitation was graded using a five-class grading scheme (mild, moderate, severe, massive, and torrential) that expanded on the standard American Society of Echocardiography grading scheme. The primary efficacy endpoint was a reduction in tricuspid regurgitation severity by at least one grade at 30 days post procedure, with a performance goal of 35%, analysed in all patients who had an attempted tricuspid valve repair procedure upon femoral vein puncture. The primary safety endpoint was a composite of major adverse events at 6 months, with a performance goal of 39%. Patients were excluded from the primary safety analysis if they did not reach 6-month follow-up and did not have a major adverse event during previous follow-ups. The trial has completed enrolment and follow-up is ongoing; it is registered with ClinicalTrials.gov , number NCT03227757 .
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右小開胸アプローチでの大動脈弁+僧帽弁同時手術

2019-11-03 23:31:55 | 弁膜症
 今回の胸部外科学会のMICS(低侵襲心臓手術)のセッションで発表した時にも、こうした右開胸アプローチでの大動脈弁+僧帽弁の同時手術の報告はほとんどない、というコメントを頂きました。
 しかしながら、こうした侵襲度の高い手術ほどMICSのメリットがあり、当院で経験した症例はすでに4例ありますが、透析患者や左室機能が低下した患者さんにも適応し、良好な術後経過が得られています。4例中1例は大動脈弁置換+僧帽弁形成+三尖弁輪縫縮の三弁同時手術を右小開胸で行った症例で、年齢は80歳以上と高齢でしたが、術後の経過は良好でした。こうした手術に対応していない病院がほとんどなので、わざわざ県外から横須賀まで手術にいらした甲斐があるというものです。
 今後も、確実かつ安全な手術が大前提ではありますが、適応可能な症例には横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では積極的に低侵襲手術に挑戦していく予定です。

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僧帽弁手術における視野をよくするコツ

2019-10-25 03:10:10 | 弁膜症
 僧帽弁の逆流に関しては現在は9割以上、自己弁を温存する形成術を行っていますが、この形成術を完璧にするためには良好な視野の確保が不可欠です。
 この僧帽弁を観察するための良好な視野確保のためにはいくつかのコツがあります。

 一つはアプローチ:胸骨正中切開か右側方開胸か。角度的には、僧帽弁は右側から見た方が左房から観察する外科医にとっては正面視することになるので観察しやすくなります。そのため、正中切開よりは右側方開胸がベターです。横須賀市立うわまち病院では僧帽弁手術の9割以上(可能であればすべての症例で)の患者さんで右側方開胸での僧帽弁手術を行っており、複数の弁手術が必要な場合も、たとえば大動脈弁+僧帽弁+三尖弁手術においても右小開胸での手術を実施しています。

 一つは左房への到達方法:右側左房切開か、中隔アプローチか、上方アプローチ(Superior Trans-septal approach, Transplantar approachともいう)か。どれも悪くありませんが、一般的には右側左房切開が最も多く採用されています。その他は視野は良好でも修復に時間がかかる難点があります。完全鏡視下手術においてはどのアプローチでもカメラのレンズの位置と向きで決まるので関係ないかもしれません。右側左房切開も胸骨正中切開で視野が悪い場合は、左房上壁を左心時の付け根まで、左房後壁を下大静脈の付近から奥に僧帽弁輪にコの字型に延長して拡大し、Retractorで大きく(力を入れて)押し広げることで視野を改善します。それでも最悪の場合は、奥の奥の手として、上大静脈を右心房から切り離すと右房が良好な視野が得られます。さらにそれでも最悪の場合、それに加えて上行大動脈を一時的に離断してしまえば、かなり改善するはずですが、そこまでした経験はありません。ただ、上行大動脈置換術を併施する場合に、僧帽弁の視野が著しく良好であることはしばしば経験します。

 一つはRetractorの種類、扱い方:複数の方向に左房切開からRetactorを挿入して展開するほうが視野が良好になります。横須賀市立うわまち病院では基本的に2本のRetractorでFibrous Trigonの方向に牽引展開して前尖が広がって全体が見えるように視野出ししています。右小開胸の場合はYozu-Adams開胸器のSをA1側、XSをA3側にかけて展開します。正中切開の場合はCosgrobe開胸器を使用して同方向に牽引します。

 一つは逆行性心筋保護併用の場合のカニューレ、バルーン:これらによって僧帽弁の後交連付近の視野が悪くなることがあり、バルーンを虚脱させたり、カニューレが牽引されているのを戻して位置調整したりすると改善することがあります。

 一つは、左房壁や弁輪に糸かけして、牽引:これによって操作部位を一か所一か所露出させて観察しながら手術します。

 最近、右小開胸で大動脈弁置換+僧帽弁形成術を行った症例で、右房切開して冠静脈洞から挿入した逆行性心筋保護用のカテーテルの為に視野が悪かった患者さんに対して、このカニューレの位置調整によって最終的に視野が改善した症例を経験しました。いわゆるMICS(低侵襲心臓手術)アプローチにおいて大動脈弁+僧帽弁手術を同時に行ったのは、この1年で4例目ですが、他の施設でまだやられていないこの手術、横須賀市立うわまち病院ではほぼ確立した術式という実感があります。
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人工弁の縫着方法Supra? Intra?

2019-07-26 14:01:06 | 弁膜症

人工弁置換術には、弁の留置の仕方によって、Supra-annular position, Intra-annular positionがあります。これらは、より組織が切れにくいマットレス縫合の際の縫着方法で、糸のかけかたが左室側から入れるか、左室側に向かって入れるのかによって、弁輪の上に弁座が乗るのか、弁輪の中に弁輪が反り返るような形態をさせながら逢着するのかの違いがあります。その中間的なポジションとして、単結節の糸で逢着する方法もあります。

 大動脈弁のとくに狭小弁輪には最近は、より大きめの弁が入るSupra-annularの方が多用されます。
 僧帽弁の場合は、日本ではIntra-annularが多く採用されるのに対して、アメリカではSupraがおおいようです。最近の新しい僧帽弁用の生体弁ではSupraに縫着することを前提にデザインされたものもあります。
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透析患者の大動脈弁置換術には生体弁か、それとも機械弁か?最新の論文から~

2019-07-24 01:19:19 | 弁膜症
 透析患者さんに生体弁を移植すると、人工弁の弁葉が早期に石灰化して、そこを起点に亀裂が生じて、早期に弁機能不全(PVF=Prosthetic Valve Failure, SVD=Structural Valve Deteriorationともいう)が生じて、長持ちしない為、機械弁の選択が推奨されてきました。
 しかしながら、最近の考え方として、透析患者さんは長期生存する症例が少ないので、生体弁を移植してたとえ長持ちしなくても寿命自体がもともと短いので、あまり問題にならず、それよりも機械弁を移植したためにワーファリンの管理を厳密に行う必要があり、それによる出血のトラブルの方が多い、との観点から、生体弁が適する、と考える人も少なくない現状です。

 しかしながら、透析患者に生体弁移植した際の長期成績について、まとまった報告は少なく、日本人のデータベースから解析した結果によると、透析患者の平均の術後生存期間は3年ほどで、5年以内に生体弁が壊れる可能性は2-10%程度のようです。しかし、たとえ2%でも早期に壊れてしまう症例があるのも事実で、5年以内に死亡するとは限らない透析患者に積極的に生体弁を選択するというのはいかがなものか、と思います。
 透析患者と言っても全身状態には差が大きく、元気で栄養もいい患者さんは、10年以上生存も期待できるため、元気な患者さんほど機械弁を選択するべきと思います。しかしながら、全体とすると・・・

Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019 Jul 6. doi: 10.1007/s11748-019-01172-w. [Epub ahead of print]
Prosthesis selection for aortic valve replacement in patients on hemodialysis.
Hori D1, Kusadokoro S2, Kitada Y2, Kimura N2, Matsumoto H2, Yuri K2, Yamaguchi A2.

これは、当医局のデータを論文化したものが今月出版されました。透析患者に対する大動脈弁置換における弁の選択に関しては最新のものです。これによると、透析患者の大動脈弁置換術では生体弁と機械弁とでは大きな有意差はなく、機械弁において出血の合併症が高いということ以外の差は認めなかった、ということになり、あとは患者の選択で決定して良い、ということになります。


要旨を要約すると

自治医科大学附属さいたま医療センター(年間500件の心臓大血管手術を行い、大動脈弁置換は年間100件以上実施している国内のハイボリュームセンターの一つ。筆者の前任地でもあり、横須賀着任前はその1/3の症例を筆者が執刀していました)。

この施設において、2008年から2016年の間に76例の透析患者の大動脈弁置換術が実施され、このうち機械弁が移植されたのが30例、生体弁が移植されたのが46例。機械弁が移植された患者が有意に年齢が若いが、手術実施時の在院死亡に機械弁と生体弁では有意差はない。遠隔期には出血の合併症が機械弁患者で高頻度であるが、遠隔死亡や主要合併症には有意差は認めない。3年後の生存は機械弁で56.7%で生体弁で61.2%、5年後の生存率は機械弁で48.6%、生体弁で39.5%。これらの症例の中で生体弁機能不全による再手術症例は1例も無かった。遠隔期に機械弁と生体弁とで遠隔死亡、主要合併症の成績において有意差は無かった。
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食道がん術後(胸骨後再建)の大動脈弁置換術(大動脈弁逆流)

2019-07-20 02:10:12 | 弁膜症
 食道がん術後(胸骨後再建)の大動脈弁置換術について、他病院から相談がありました。大動脈弁逆流の為、カテーテルアプローチによる治療(TAVI)は適応外です。上行大動脈遮断、大動脈切開し、心筋保護をしながらの弁置換術が必要です。



 食道がんに対する食道抜去術後の再建方法として、現在では胃管をつりあげて、もともと食道があった後縦隔経路で再建することが最も多いのですが、他の再建方法として、胸骨後再建、胸骨前再建があります。胸骨前や胸骨後再建は、胃管ではなく横行結腸を使用した再建のことが多いのかもしれません。胸骨前再建は文字通り、胸腔外で皮下の再建ルートとなり、また、胸骨後再建は胸骨の後ろ側で、前縦隔でのルートを通ることになります。胸骨正中切開が不可能であるため、どのようなアプローチで手術するべきなのか、検討が必要です。

 心臓をどうやってよけるかによりますが、右房の前を通って再建されているのか、もしくは心臓のやや左側を通るのかによって全く異なりますが、右房、上行大動脈の右側を通る場合は右胸腔からのアプローチでは、食道の後ろに手術操作対象があるため困難であり、この場合は左側からのアプローチが必要になります。左開胸だけでは、かなり大動脈弁はかなり遠くなるので、左開胸して胸骨の後ろ側をある程度剥離し、胸骨部分切開に延長するいわゆるALPSアプローチであれば大動脈弁置換可能です。胸骨を横断するCramshell(クラムシェル)アプローチは、縦走する食道再建腸管を損傷するリスクがあるため避けるべきと思われます。

 また再建腸管が左側を通る場合は、通常の右開胸アプローチでの大動脈弁置換術が可能と思います。

 いずれにしろ、再建腸管との位置関係をCTで十分検討して、アプローチを決定する必要があります。

https://www.youtube.com/watch?v=9pb0r74ROfA

 上記のユーチューブ画像のような感じでは、どちらのアプローチでも可能と思われますが、やはり再建腸管が視野にどう影響するのか、ということが最も重要です。大動脈弁置換術は心膜の折り返り位置よりも心臓よりのみの操作で完遂可能なことを念頭において決定することも重要です。

ミクスのエキスパートが集まる昨日のカンファレンスで提示して相談したところ、右胸腔内は癒着している場合が多いので、正中切開が無難という意見もありました。ALPSがいいという意見は経験者が他にいなくてありませんでした。
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MICSにおける胸骨椎体間距離の重要性

2019-07-18 04:06:27 | 弁膜症


 右小開胸アプローチによる僧帽弁手術においては、僧帽弁自体は通常、左胸腔内に位置している為、手術創から僧帽弁は胸骨と椎体の間のスペースを通じて観察することになります。そのため、胸骨と椎体の距離が短い体系をしている患者さんの場合は、通常のMICS(低侵襲心臓手術)では僧帽弁が見にくくなります。この見にくい症例の典型が漏斗胸で、胸骨自体が内側に凹んでいるために、著しくこの距離が短くなり、写真のような症例では、ほぼ、右開胸での手術は不可能といえます。すなわち、写真のaの非常に小さい隙間を通して僧帽弁を観察、操作することはほぼ不可能です。
 この漏斗胸ほどではなくとも、この胸骨椎体間距離が小さい患者さんの場合は、胸骨を前上方に機械的に引き上げることで、ある程度(2~3cm)はこの距離が大きくなるために手術が可能になる症例もあります。具体的にはMICS-CABGで開胸器をフックでひっかけて上方に牽引する装置やケント鈎を使用することで視野が改善します。痩せている患者さんは特に肋骨が地面に対して垂直に近い角度を呈している為、これを少しでも水平に近づけることで、この距離を大きくします。
 筆者が経験した今まで最もこの距離が小さい症例は69mmでしたが、今回、59mmの症例に対してCT Retractorという内胸動脈採取の際に胸骨を牽引する装置を使用して良好な視野を得ることが可能でした。MICSをたくさん経験しているExpert Doctor何人かに聞いても有効な方法だということでした。

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僧帽弁後尖のオーグメンテーション

2019-06-24 05:21:54 | 弁膜症


オーグメンテーションとは、増強する、とか、増やすというような意味がありますが、僧帽弁手術におけるオーグメンテーション(Augumentation)とは、自己心膜を使用して、僧帽弁の弁尖の面積を増やすことによって前尖と後尖の接合をしやすくして、僧帽弁逆流を停止させる手術手技です。弁尖には異常がなく、左室拡大によって発生するTetheringの症例で、特に弁輪縫縮だけでは、後尖の左室方向に牽引される角度がより大きくなってしまい逆流が制御できない症例に特に適用されます。

このオーグメンテーション、一般には後尖の高さが低い症例に、その高さを増強するというコンセプトで実施されますが、そもそも僧帽弁後尖とは必要なのか、という議論があり、大きな前尖があれば僧帽弁の後尖は不要という考えもあります。すなわち、後尖にオーグメンテーションするよりも、前尖にオーグメンテーションするようが、確実にTetherinによる僧帽弁逆流は制御しやすいらしいです。学会でのレクチャーや書物には後尖のオーグメンテーションばかり紹介されている印象があり、まだ前尖のオーグメンテーションに関しては、認知度は低いと思います。
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