横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

2020年最後の一日:どんな一年だったでしょうか

2020-12-31 11:41:16 | その他

 2020/12/30の横須賀から見える富士山

2020年はコロナウィルスで始まり、コロナウィルスで終わる一年でした。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では直接新型コロナウィルス診療にかかわることはありませんでしたが、スタッフを横須賀市医師会のPCRセンターに派遣したり、病院の診療抑制に影響されたり、入院患者さんが過去に入院していた病棟で新型コロナウィルス感染者が発生したことで対応したり、また入院患者さんには事前のPCR検査をお願いしたりと、診療に大きく影響されたことは間違いありません。

 新しい生活様式で、自分が濃厚接触者にならないように生活スタイルにも、送別会や忘年会など病院行事もできなくなり、生活が一変しました。2021年はそれぞれの領域でみなさんの生活が改善していくことを期待します。

 
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1/3の単独冠動脈バイパス術をMICS-CABG

2020-12-30 11:34:42 | 心臓病の治療
横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では冠動脈バイパス術においても可能な症例は低侵襲アプローチを優先して採用しています。
 左小開胸アプローチで、人工心肺を使用せず心拍動下に吻合するこの手術は特殊な専用の開胸器、攝子などの手術器具が必要です。最も導入しやすいのは、左冠動脈前下行枝の完全閉塞(CTO)症例に対して、左小開胸で左内胸動脈を吻合するMID-CABですが、特にこれに加えてほかの血行再建をする多枝バイパスを特にMICS-CABGと呼んでいます。二本目の再建枝は右内胸動脈や大伏在静脈、右胃大網動脈を使用します。
 この術式を導入して2年となりますが、可能な症例をすべて小開胸アプローチとすることにして診療してきましたが、そうすると約3分の1の症例で実施可能でした。2020年も1/3の症例に対して実施しました。
 特に感染症が起きやすい糖尿病患者や透析患者さんには術後合併症が少なく回復が速いというメリットがあります。関東でもまだ他枝バイパスを左小開胸アプローチで行っている施設は少ないので、少しでも広まるように他施設にも技術指導に依頼があれば行く方針としており、2020年は3か所の施設に指導に行き、また手術見学も受け入れております。
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Sutureless弁は大動脈弁置換術を大きくかえるきっかけになるか

2020-12-30 11:26:25 | 心臓病の治療
 消化管の手術では現在はほとんどの吻合が自動吻合器を使用して行われています。筆者が消化器外科医であった時代には自動吻合器が出現してもしばらくは手縫いの吻合との使い分けがされていましたが、その進化によりほぼすべてが自動吻合器となり、手縫いをする機会が少なくなっていると聞いています。
 大動脈弁置換術において縫わなくてもよいSutureless弁が出現し、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも今後導入予定ですが、これが今後標準術式になる可能性が十分あると思われます。そうするて、若手医師が最初に執刀する手術がこのSutureless弁という時代がすぐに来るのではないでしょうか。
 手術時間が短くなり、低侵襲性がさらに進化するため、確実に広まると思われます。

 最初の導入は筆者が執刀する必要がありますが、数例の症例を経て、その後は後輩の育成を目的に、指導に回る予定です。手技的に難易度が高いといわれている右小開胸アプローチでの大動脈弁置換術においても、このSutureless弁を使用することによって、確実性があがり、習熟の過程の修練医でも安心して執刀を任せられるようになるのではないかと思います。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では2021年度も新たな修練医が入ってくる予定ですが、より手術執刀のチャンスが増えるように、こうした新しい技術も積極的に導入していく予定です。
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2020年の大動脈弁置換術は45件(心臓手術の4割以上)・半数はMICS(右小開胸アプローチ)

2020-12-30 11:15:45 | 心臓病の治療
 新型コロナウィルスパンデミックの影響で心臓血管外科手術も件数が減少する中、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では大動脈弁置換術のみが大きく件数を増加させました。高齢化による患者数の増加もありますが、本年は特に大動脈弁置換術が増加しております。県内の他病院と違い、基本術式を右小開胸アプローチ(低侵襲心臓手術=MICS)としているため、それを希望してご紹介いただいてる症例が多いことも関係していると思います。

 実際には上行大動脈置換術や冠動脈バイパス術を併施している症例があるため、実際の大動脈弁置換術を行う症例の半数ほどになっておりますが、おそらく神奈川県内のどの施設よりも多く実施しているのではないかと思います。特に大動脈弁置換術の小開胸アプローチは手技的に難しい面もあり、導入している施設が少ないのも現状で、本年は大学病院の教授や施設の部長クラスのドクターが多数見学に見え、その導入のお手伝いをするという貴重な機会もありました。企業企画のオンライン講演会でも、このMICS-AVR(右小開胸アプローチによる大動脈弁置換術)に関する講演の機会をいただき、見学についての問い合わせをさらに複数いただいています。

 2021年もこのMICS-AVRのトレンドはさらに進化し、Sutureless弁の導入によってより確実に短時間で実施できるようになれば、さらに手術の低侵襲化がすすみ、また三次元内視鏡システムの導入によって、さらに小さい皮膚切開で実施できるようになることを当面の目標とする到達点としています。
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2020年の横須賀市立うわまち病院心臓血管外科手術件数は305件

2020-12-30 10:55:20 | 心臓病の治療
 2020年もあと2日で終わりになりました。今年は最初から新型コロナウィルスパンデミックに大きく影響された一年でした。学会などもほぼすべて中止、延期、またはオンライン開催となり、実際に学会らしいものとしては、岩手県雫石市で行われた心臓血管外科ウィンターセミナーが最後で、講演を頼まれていた北九州市で開催予定だった胸部外科教育施設協議会も一年間の延期となりました。最後に12月の胸部外科学会関東甲信越地方会は現地開催となりましたが、今後も学会などはオンラインまたはハイブリッド開催が主流になり、今までのようなお祭り的な意味合いのイベントではなくなってしまっていくのではないかと思います。

 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科の手術件数は305件で、前年から約5%ほどの手術件数の減少でした。多くの施設で1割くらいの件数減少と聞いていますが、当院も院内クラスター発生により大きく影響され、減少に至ったものと思われます。

 まだまだ新型コロナウィルスが猛威をふるっており、この診療抑制はしばらく続くものと思われます。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科2020年手術件数
手術件数 305件 
心臓胸部大血管手術件数 104件 
腹部大動脈瘤(腸骨動脈瘤含む) 41件(EVAR 5)
末梢動脈疾患 15件
下肢静脈瘤 93件 
シャント造設術 35件 
その他 20件
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超短時間で実施できる大動脈弁置換=Sutureless Valve:Rapid Deployment Valve ⇒ 低侵襲大動脈弁置換術へ

2020-12-29 09:40:13 | 心臓病の治療
 高齢化に伴い大動脈弁の病気は増加します。特に動脈硬化によって進行する大動脈弁狭窄症は高齢になるほど発生頻度が増加します。これに伴い、大動脈弁置換術の件数が増加し、より高齢者に対応した経カテーテル大動脈弁設置術=TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)=タビ、もより低侵襲な治療として広まっていますが、まだ制限がありすべての患者さんに適応できるわけではなく、いまだに心停止下に大動脈弁置換術を必要とする患者さんが多いのも事実です。またTAVIの長期耐久性に疑問が持たれている為、まだまだ大動脈弁置換術の重要性は大きいと言えます。
 大動脈弁置換術も、同時に進化しており、より低侵襲な方法が行われるようになっています。特に胸骨正中切開しない側方小開胸で行う低侵襲アプローチは、術後合併症が少なく早期に回復、退院、社会復帰ができる手術方法として、横須賀市立うわまち病院でも約半数の患者さんに実施しています。このアプローチは神奈川県内で実施している施設は少なく、まだまだ普及しているとは言えませんが、これは手技的に側方開胸で大動脈弁尖を切除し、弁輪を削り、糸かけ、弁の縫着のための糸結び、すべての手技が視野確保から実際の手技まで非常に難しく、心臓手術に習熟した医師にか実施できないこと、また教育目的に大動脈弁置換術は多くの大学病院では若手の手術機会を与えるための手術になっているためであると考えられます。
 ここで、今年から新たに始まったSutureless Valveはこのトレンドを大きく変える可能性がある手術方法です。これは文字通り、Sutureless=縫わないために、難しい糸かけ、糸結びが不要になり、この人工弁移植にかかる時間が半分以下になる方法で、Rapid Deployment Valveとも言われます。このRapid Deployment Valveで認可された人工弁にはEdwards社製のIntuityと、LivaNova社製のPercevalがあります。それぞれ特徴がありますが、どちらも人工弁の設置が1分ほどで終わってしまうため、通常60-100分かかる心停止時間が半分以下で終わります。先週、その両者の手術見学に行ってきましたが、通常の半分の時間で終わる手術手技に驚きました。筆者の大動脈弁置換術の最短時間は140分で、国内でも速い方と思いますが、見学した後輩医師が執刀した手術はなんと90分ほどで終わってしまい、驚きました。心停止時間も30分前後と通常の半分以下です。従来の胸骨正中切開でのアプローチでしたが、明らかに時間短縮という意味で低侵襲手術と言っていいと思います。
 これだと縦に一日2~3件の手術実施が可能となります。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも2021年1月からこのRapid Deployment Valveを右小開胸アプローチでの大動脈弁置換術に採用してより低侵襲な手術を進化させていく予定です。
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大動脈解離術後の大動脈基部再建術

2020-12-28 17:03:04 | 心臓病の治療
 急性大動脈解離に対して上行大動脈置換術などの緊急手術を実施され、救命された患者さんが、その後、徐々に大動脈基部が拡大して再手術が必要になることがあります。この場合の多くは大動脈基部再建術が必要になります。大動脈基部再建術は左右冠動脈、大動脈弁をそれぞれ再建する必要があり、万が一出血すると止血が難しい点で初回手術でも非常に難易度の高い手術と言えます。増して、大動脈の手術を以前受けての再手術は更に手術リスクが高まります。
 再手術の際の注意点は、大動脈基部の冠動脈の再建です。冠動脈ボタンが通常の大動脈基部再建術のように作成出来て、移植するバルサルバグラフトに直接確実に吻合出来れば大きな問題なく手術を完遂可能ですが、長さがとどかず、人工血管などでInterposeするなどの工夫が必要な場合は、大動脈遮断解除直後の冠血流に問題が生じる可能性があり、この場合は人工心肺から離脱出来なくなる可能性があるからです。
 他に大動脈弁輪に糸かけをする際に工夫が必要になる場合があり、そのノウハウが重要です。

 筆者の経験では大動脈解離術後の大動脈基部再建術は自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科の成績は良好です。手術時間はかかり、リスクもありますが、幸い、十分な術前計画のもと、習熟した術者が執刀することによって良好な成績が保たれています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも同様の手術を実施しており、関連施設等で同様の手術がある場合も指導に出かけることもあり、2月初旬の同様の手術で都内の病院に指導に行く予定になっています。セカンドオピニオンも受け付けております。
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MMカンファレンス

2020-12-25 06:40:27 | 心臓病の治療
 心臓血管外科領域でいえばMMとはMortality & Mobidity、すなわち手術死亡と合併症の症例で、これに関するカンファレンスを医局内で毎年年末に行っています。
 例年は自治医科大学付属さいたま医療センター内で行っていましたが、今回は新型コロナウィルスパンデミックの影響もあり、関連施設からはZoomでの参加となりました。Zoomのほうがわかりやすいという面もありますが、カンファレンスルーム内でのちょっとした会話はズーム参加者には聞こえにくいというデメリットもあります。横須賀市立うわまち病院が最もさいたま市から遠い関連施設になるので、一番リモートのカンファレンスになって恩恵をうけるとも考えられます。
 各施設の状況も情報交換出来て有意義な会議でした。

 横須賀市立うわまち病院からは年間の手術症例、合併症症例の検討について報告しました。横須賀市立うわまち病院の2020年の症例は、新型コロナウィルスパンデミックの影響があり、実質約2か月近く抑制された感じですが、その割に症例数の減少は5%程度にとどまり、手術症例303例、心臓胸部大血管手術症例104例で、昨年の110例から少し減少しました。しかしながら、大動脈弁置換術が例年の2倍に増加していることが症例数減少に歯止めがかかった一因であり、翌年の分の症例を前借りして手術してしまったとすると2021年の症例数が確保できていけるか不安はあります。
 大動脈弁置換術のうち約半数が右小開胸アプローチで実施しました。
 来年は三次元内視鏡システムの導入により、さらに小開胸アプローチ手術の進化を目指します。
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銃の文化と刀の文化

2020-12-19 07:47:27 | 心臓病の治療
アメリカは銃社会といわれますが、文化も銃と関連して、もののネーミングや言葉遣い等にも銃に関連するものが多い、というのに最近気づきました。最近心臓関連で語源を調べたものとして、ダブルバレルや、フルメタルジャケット、いずれも銃と関連する言葉です。銃に馴染みのない日本人にはピンとこない感じもします。

一方、日本は刀の文化であり、つばぜり合い、元サヤなど、刀に関する言葉か多いですね。胃大網動脈の剥離方法で渡邉剛先生が燕返しと名付けたのも、まさに刀に関連しています。英語ではサムライメソッドとも呼ぶらしいですが、まさに日本人=サムライ⇒刀と繋がります。

未だに自衛隊では銃剣道の訓練がされていたりするそうですが、実践では使えなくとも日本人の刀の精神を継ぐものとも言えます。
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静脈留置カテーテルの動脈への誤挿入

2020-12-17 09:36:40 | その他
 静脈に中心静脈カテーテルを留置しようとして、誤って動脈に留置してしまうという事例は時々見られます。単に抜去して圧迫して止血ができる場合も少なからずありますが、圧迫出来ない場所で不用意に抜去すると大量出血したり仮性動脈瘤を形成したりする危険もあります。場所によっては心臓血管外科医が手術室で抜去、血管修復する必要があります。
 誤挿入を予防するために最近はガイドワイヤーを使用したカテーテル挿入手技が一般的になっていますが、確実な方法としてそのガイドワイヤーが静脈内にあることをエコーで確認するという作業をすることが推奨されています。エコーをしているにも関わらず、動脈への誤挿入が実際に起きている現実として、エコーでの確認が不十分ではないか、という意見もあります。エコーで静脈をガイドワイヤーが貫いているのはわかっても、その先で後壁を貫いていないか、静脈内を確実に連続的に走行していることを確認することが必須ですが、そこを注意深く見ていないのが原因でないか、とも思われます。
 やはりかならずこうしたリスクがある、という危険予知訓練を繰り返すことが最良の予防になると思われます。

 その意味で、毎回の心臓手術でも、この場面ではこうした合併症が起こる可能性がある、と口を酸っぱくして術中に指導するのもこのためです。
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心臓血管外科Zoomカンファランス

2020-12-17 09:25:33 | その他
 心臓血管外科カンファランスを横須賀市立うわまち病院内で毎週木曜日の8時から行っておりますが、昨今の新型コロナウィルスパンデミックを考慮して、12月に入ってからはZoomでのカンファレンスとしています。内容は手術報告、術前症例検討、その他の連絡に関してです。
 Zoomでは、同じ院内にいながら同一箇所に大人数が集まることが避けられるので三密を回避できるという観点から、万が一スタッフにCOVID-19感染者が発生した場合にカンファレンスに参加していたから濃厚接触者と認定され診療をストップさせられるリスクを回避できます。とはいっても、その他の診療中にお互い接触しているため、どこまでこの診療ストップの抑止に貢献出来るかは微妙ですが、少なくともこうした取り組みをしている、という利点はあります。
 その他にも、リモートで参加出来るので、自宅から参加したり、また、院外の関係者にも参加頂くことが可能になります。本日は現在アメリカに留学中で、以前うわまち病院で働いていた医師にも参加してもらいました。外からの参加もあると、スタッフの張り合いにもなるとおもいます。
 Zoomカンファレンスを実施するにあたって、ただ顔を合わせて会話するだけでなく、コンテンツが最も重要です。画面を共有するメリットを生かすためにも極力画像、動画を呈示することで内容が濃いものになりますが、そのためには準備が必要です。先週、今週のカンファレンスのために、それぞれ約30分ほどの準備がかかりましたが、資料の整理や知識の整理などのためにもいい機会になっています。
 本日は、4例の手術報告に動画を3本入れて呈示し、術前検討症例3例を呈示しました。
 また、MICS-AVRの概要についても、講演で使用した動画やスライドを使って短時間で説明し、またMitraclipの適応症例と、その対処についても提言しました。
 次週は今年最後のカンファレンスになるので一年間のまとめ的なスライドを作ろうと思いますが、それが年報の作成、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局のMMカンファレンスに呈示する資料に直結するので、こうした仕事をすることは有用と考えています。
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高齢者に多い慢性下肢浮腫対策−少しの気付きと対策でむくみ予防を

2020-12-17 08:35:41 | 心臓病の治療
https://medicalnote.jp/contents/180904-006-BX

むくみ(浮腫)を主症状に心臓血管外科に紹介されてくる患者さんは少なくありません。
たしかに浮腫の専門家というものがかならずしもいないことが理由とは思います。

むくみの原因となる心臓や腎臓などの基礎疾患がないかどうか、静脈血栓などないかどうか、と検査して対応を検討しますが、それ以外の場合も少なくないのが現実です。


増加する高齢者の慢性下肢浮腫

むくみに気づいて慌てる前に、慢性下肢浮腫について知ってほしい

日本は超高齢化社会に突入し、全人口のうち27.3%1)を65歳以上の高齢者が占めています。そして高齢者の増加に伴って増えているものが、高齢者の慢性下肢浮腫です。慢性下肢浮腫とは、病気によるものではなく、高齢者特有の生活習慣(長時間同じ姿勢をとり続けるなど)によって生じる足のむくみです。

足のむくみが生じる病気には、心不全や腎不全、深部静脈血栓症*などがあり、いずれも命にかかわる病気です。そのため、足のむくみで病院を受診した場合には、これらの病気がないかどうかを調べるために、複数の診療科で全身の検査を行います。

しかし、生活習慣による慢性下肢浮腫の場合、検査を行っても異常はありません。もし、慢性下肢浮腫を知っていて未然に防ぐことができれば、「何か重大な病気ではないか」と不安に感じて慌てる必要はありませんし、不必要な検査を受けることによる負担もかかりません。

残念ながら、日々の暮らしの中で防ぐことができるはずの足のむくみによって、病院を受診する患者さんが増えているのです。

高齢者の慢性下肢浮腫を予防するためには、普段身近にいるご家族やヘルパー、介護福祉士などが慢性下肢浮腫に関する知識を持ち、原因となっている生活習慣を改善に導いていただくことが大切です。

* 心不全…心臓のポンプ機能が低下することで、全身の血液循環がうまくいかなくなる状態

* 腎不全…血液から老廃物や余分な水分をろ過する腎臓の機能が低下する状態

* 深部静脈血栓症…下肢の深部静脈に血栓ができる病気。静脈の血栓が肺動脈に流れて詰まると肺塞栓症を引き起こし、呼吸困難を引き起こしたり、突然死に至ることがある。

慢性下肢浮腫が起こる原因

慢性下肢浮腫を引き起こす生活習慣

高齢者の慢性下肢浮腫は、長時間同じ姿勢で座りっぱなし・立ちっぱなしでいることや、歩いていたとしても十分な歩行ができていないことが原因で起こります。

長時間座り続けている

高齢になると、どうしても椅子や車椅子に座って1日を過ごすことが多くなります。下肢の血流は、ふくらはぎの筋肉が収縮する力によって足首から心臓へと流れるため、足を動かさずにじっとしている状態が続くと、下肢の血流が滞ります。

すると、余分な血液が下肢にたまり、血液中の余分な水分が血管外へ漏れ出すことで、むくみの症状が現れます。

長時間立ち続けている

長い時間足を動かさずに立ちっぱなしでいることもむくみを引き起こし、特に1人暮らしの高齢女性に多くみられます。

高齢者は一つひとつの作業に時間を要してしまうことが多く、料理や洗濯、掃除などの家事全般を終わらせるのに1日かかってしまうこともあります。すると、無意識のうちに立ちっぱなしでいる時間が増えてしまうため、下肢の血流が滞り、むくみを引き起こします。

歩行が十分にできていない

筋力が低下していたり、膝や足首の関節が悪かったり、パーキンソン病*を持っていたりすると、小刻み歩行やすり足歩行になっていたりすることがあります。

このような歩き方では、ふくらはぎの筋肉をしっかりと動かすことができていません。たとえ歩いていたとしても、筋肉によって下肢の血液を押し流すことができておらず、むくみを引き起こす要因となります。

* パーキンソン病…円滑な運動を行うための役割を担う脳の一部に異常が生じる病気

慢性下肢浮腫はひどくなるまで気付かれないことが多い

慢性下肢浮腫の問題点は、むくみが進行して足がパンパンに腫れ上がったり、強い痛みが生じたりするまで、周囲が気づきにくいことにあります。

足のむくみは日々の生活で少しずつ悪化していきますが、痛みがでるまで症状を訴える方は少なく、周囲の方も高齢者の足をみる機会が少ないために、重症化して初めて病院を受診される方が多くいらっしゃいます。

軽度の段階でむくみの症状に気づき、適切な予防を行うことができれば、むくみの進行を食い止めることが可能です。

次章で具体的な予防法についてご紹介します。

慢性下肢浮腫の予防法

慢性下肢浮腫を予防するためには、主に以下のようなことを実践してください。
・日中にむくみ予防の着圧ソックスを履く
・椅子に座るときには、足とお尻を同じ高さにする

予防法① 日中にむくみ予防の着圧ソックスを履く

足のむくみは、夜寝ているときよりも、日中起きているときに悪化していきます。高齢者の慢性下肢浮腫は、むくみが起きることを未然に防ぐ必要があります。そのため、日中起きているときにむくみ予防の着圧ソックスを履いてください。

着圧ソックスは、ドラッグストアなどで購入できる市販のもので構いません。就寝時にむくみを改善する目的のものであっても、高齢者の場合には日中に使用していただきたいと思います。

また、高齢の方は自力での着用が難しい場合がありますので、その場合には周囲の方々が手伝って履かせてあげるようにしてください。

予防法② 椅子に座るときには、足とお尻を同じ高さにする

下肢静脈瘤 1

下肢静脈瘤 2

椅子に座っているときには、足を下ろしたままではなく、お尻と同じくらいの高さに上げておくようにしましょう。

このとき、高さ20㎝ほどの台に足を乗せているだけではむくみを防ぐ効果は期待できません。上図(上)のように、足と同じくらいの高さの椅子などを用意するなどして、日頃から足をあげる工夫をすることが大切です。

しかし、椅子に座るたびにわざわざ足を上げる動作が面倒になったり、腰が痛くなったりして、足をあげることが続かない方も多くいらっしゃいます。

そのため、毎日座る椅子を、上図(下)のようなリクライニングチェアにするなどして、自然と足を上げることができるような生活環境を整えることが理想です。

病気によるむくみの特徴は?

冒頭でもお話ししたように、足のむくみは心不全や腎不全、深部静脈血栓症など重大な病気でも起こることがあり、それぞれ症状の現れ方にはいくつかの特徴があります。

たとえば、心不全や腎不全であれば、足以外にも顔や手など全身にむくみがみられることが多く、息切れや呼吸困難などの症状が現れたりすることもあります。

また、深部静脈血栓症では静脈に血栓が生じるタイミングで足がむくむため、「あのときからいきなりむくんできた」というように、症状発現の時期が明確であることが多いです。

ですから、足のむくみと同時にこれらの症状がある場合には、ためらわずに病院を受診するようにしましょう。

むくみが重症化する前に、日々の対策を

高齢者の慢性下肢浮腫を「ただ足がむくんでいるだけで、病気ではないから大丈夫」と軽視してはいけません。むくみが重症化すると、足が重くなったり、痛くなったりして自力で歩くことが困難になり、皮膚潰瘍(皮膚がえぐれて水が出てくる状態)になったりすることもあります。

最期まで自分の足で歩くことができることは、とても大切なことです。そして、それには家族や周囲の方々のサポートが欠かせません。

ですから、身近の高齢者が「座りっぱなしになっていないか」「家事を頑張りすぎてはいないか」と日頃から気にかけるようにして、慢性下肢浮腫を未然に防ぐようにしましょう。
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腕頭動脈損傷に対する止血処置

2020-12-15 04:23:02 | その他
腕頭動脈損傷はまれな外傷です。というのも、腕頭動脈は胸壁に守られているので、損傷する可能性が低い場所と考えられているからですが、刺創などではまれにあり得ます。
 ガラスでけがをした人が、実は小さい皮膚の刺創が腕頭動脈まで達していてショックになっている症例や、カテーテル挿入時に誤って腕頭動脈を穿刺してカニュレーションしてしまうといった事例を経験したことがあります。
 この場合は骨を外さないと腕頭動脈には到達できないので、右頸部から第二肋間に向かうコの字の皮膚切開で、逆L字型の胸骨部分切開を行うトラップドアアプローチが最もMinimally Invasiveな方法です。この部分だけの為にFull Sternotomyを行う必要はありませんが、他に副損傷がある可能性が否定できない場合は、Full Sternotomyで縦隔内を観察するほうが良い場合もあります。
 正確にはオリジナルのトラップドア法は、第4肋間に向かい、肋間筋とそれに沿った皮膚も切開していく方法になるので、第2肋間に向かう方法はその修正法といえるかもしれません。
 またもう少し低侵襲な方法としてTransmanubrial Approachがあり、これは胸骨柄から第一肋間に向かい切開で、第一肋軟骨を外すことで視野が改善し、より低侵襲ですが、若干視野の制限がある可能性があります。Transmanubrial Approachのほうが有名で、こちらを第一選択にしている施設も少なくないと思いますが、胸骨部分切開の大動脈弁置換で慣れている当施設ではトラップドアのほうが馴染みやすいと感じます。
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COVID-19に伴う低酸素血症の原因としての静脈血栓症の可能性

2020-12-14 08:29:08 | 心臓病の治療
 猛威を振るう新型コロナウィルスの病態として、特に重症化の指標として低酸素血症があり、これに対する酸素需要が多くなると重症と判定され、前後区でも現在500人以上の人が集中治療室で管理されています。特に神奈川県では軽症と判断され病院ではなく宿泊施設に滞在中の50代の患者さんが、急に亡くなったとの報道がなされ、衝撃的でした。この患者さん、報道によると、亡くなる当日の経皮的酸素飽和度は90%以下だったそうで、既に呼吸不全としては重症の部類に入っていたと考えられます。
 通常なら呼吸が苦しければ、それに対して自分で助けを呼ぶなりできるところを、突然亡くなって発見されるという状況としては、助けを呼ぶことが出来ないまま亡くなったと考えられます。この病態としてCOVID-19特有の血栓傾向から静脈血栓症を経て肺塞栓に至った可能性が最も考えられるのではないかと思われます。
 通常COVID-19の病態として、肺炎が重症化して酸素需要が発生することが知られていますが、その肺炎の家庭で微小循環内で血栓形成が関与しているとの報告もあり、また下肢などに静脈血栓症も増加するのではないか、との予想から全国的に血管外科学会として今後COVID-19に伴う静脈血栓症の実態調査が行われる予定で、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科も参加することにしています。
 現在も増え続けるCOVID-19ですが、一日も早く終息して平和な日常が戻ることを祈ります。
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高齢者の医療費⇒2割?

2020-12-10 05:53:30 | 心臓病の治療
 これだけ医療費が増加し、筆者が学生時代、年間の社会保障費が30兆円と言われていたのが、今はなんと43兆円だとか。これ、誰が負担するんですか?もちろん、利用者が負担しないと国が滅んでしまいます。残念ながら国家予算の4割も医療福祉に回してしまっては、国の発展性がその分、損なわれてしまうのは間違いありません。この失われた20年の間に、日本が他の国に後れをとってきているのは、政策的な面が影響しているのも事実です。医療福祉は残念ながら高齢者にそのほとんどを使っていることを考えると、後ろ向きのお金の使い方と言わざるを得ません。大部分が1割、一部の所得のある人が2割という数字が妥当かどうかはわかりませんが、こうした増額をするか、経済の萎縮をきたす消費税の20%以上への増額をするかどちらかと考えると仕方ありません。たとえ嫌われても必要な政策を実行していくのは政治の責任でもありますが、今後高齢者がさらに増えていくことを考えるとさらに自己負担の増額が必要になることは当然のことです。その分、同時に高額な薬剤や無駄な処方を制限する無駄の抑制も重要です。個人としても、より安価な医療で済むような努力が一人ひとり必要ですが、どうしても日本人の感覚として、「一人の命は地球より重い」といった間違った考えが浸透してしまっていて、常に理想的な医療をしなければならないという姿勢がしみついていて、費用対効果という言葉を忘れがちなのも事実です。国力に合わせた医療提供、というのも現実的であることを、この新型コロナウィルスのパンデミックで他の国の医療体制をみて学ぶ面があります。
 国によっては、新型コロナウィルスが重症化した場合に人工呼吸器は65歳以上には装着しないという国もありますし、一定の年齢になると人工透析は自費で行うという国もあります。
 限られた福祉の資源は、投票権を持っているからという理由で高齢者に多くが向けられていますが、やはり国の発展の為には子供の教育や人口増加の施策に向けたほうがいいと思います。
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