横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

バソプレシン受容体拮抗薬の心臓血管外科領域における今後の汎用性

2018-04-30 08:23:55 | 心臓病の治療
 心臓血管外科手術の術後は体重が平均でも3~5kg増加し、浮腫が起きやすくなります。術中の循環維持の為、多めに輸液が入ることに加えて、人工心肺による非日常の循環が、血管の透過性を亢進させ、血管内から血管外へ水分が抜け落ちていきやすくなります。そのため、肺がむくんで(肺の間質浮腫、肺水腫や胸水貯留が起こる)呼吸機能が悪くなったり、下腿などにむくみ(浮腫)が出やすくなります。それに加えて、血管内は脱水に傾くため、腎血流が低下して尿も出にくくなるという悪循環が起き、より回復に時間がかかることになります。また手術侵襲や薬剤による腎機能へのダメージも回復を遅くする理由の一つになります。特に、腎機能の指標である血清クレアチニン値が上昇する症例は、その後の死亡率が高いとも言われています。
 一般にこうした水分貯留による浮腫などには、利尿剤が使用され、尿中へより水分を多く排泄して改善を期待することになります。
 利尿剤は主に腎臓の尿細管に作用して水分や電解質(ナトリウムやカリウムなど)を再吸収させることを防ぐことによって水分を排泄する効果を期待します。利尿剤でもっとも多く使用されているのはフロセミドなどのループ利尿剤ですが、こちらの薬剤は安価で効果も大きいのですが、電解質も一緒に排泄するので電解質の異常が来やすい、腎臓にダメージを与える可能性がある。電解質の異常から血清浸透圧を低下させ血管内の水分は排泄するが血管外の水分はなかなか排泄させないために血管内脱水を引き起こして腎機能の悪化とともに浮腫が改善しないという症例もあります。
 一方新しい水利尿薬とも言われる、バソプレシン受容体拮抗薬は水の再吸収を集合管でブロックすることにより、水分のみを体外に排泄する効果があり、利尿効果も大きく、電解質の排泄がないために電解質異常が来にくく、血管内のナトリウム濃度=浸透圧が上昇して、血管外の水分を血管内に引き込んで浮腫を改善しやすい効果があるとも言われています。血管内脱水が来にくいことから腎機能の悪化を起こしにくいともいわれており、特に心臓血管外科手術後の周術期管理には活躍が期待できる薬剤です。血清ナトリウムが上昇する可能性があるので、最初から血清ナトリウムが高めの患者さんには使えませんが、先週行われた都内での大規模なセミナーでも、より副作用が現実では少ない、ということが期待され、特に心不全パンデミックとも言われ、今後ますます心不全患者さんが爆発的に増加する時代においては、汎用されていく薬剤と思われます。

 昔は存在しなかった新薬が開発されることで、手術後の管理も改善され結果的に患者さんの治療に役立つ、ということが、時代とともに進んでいることをこうしたことで実感することが多いのも心臓血管外科などより先進的な医療を実践しているものとしては実感することですが、こうした新しい治療方法もいち早く取り入れて良好な成績を目指すのも医師としての務めであると思います。



以下、ウィキペディアより

2010年10月に厚生労働省に「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不充分な心不全における体液貯留」について承認[2]された後、2013年9月に「肝硬変における体液貯留」について[3]、2014年3月に「腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の進行抑制」について[4]それぞれ追加承認を取得した。

米国では、2009年5月に低ナトリウム血症について承認された[5]後、多発性嚢胞腎について優先審査品目に指定されている[6]。

カナダでは2015年2月、ADPKDの治療薬としての使用が承認された[7]。同月、欧州で欧州医薬品委員会がADPKDの治療薬としての承認を勧告し[8]、5月に欧州委員会が承認した[9]。

臨床試験[編集]

2004年の臨床試験で、低血圧や低カリウム血症のない心不全患者に対して従来の利尿薬と併用された場合に、トルバプタンは水分の排出を増加させ、血中ナトリウム濃度を改善し、腎機能障害を起こさない事が示された[10]。2012年に公表された臨床試験(TEMPO 3:4 ClinicalTrials.gov登録番号:NCT00428948)の結果、主要評価項目ならびに副次的評価項目が達成された。トルバプタンを平均1日投与量95mgで3年以上投与すると、腎容積の増大が偽薬と比べて50%抑制(ト群:2.80%/年、偽群:5.51%/年、p<0.001)され、腎機能低下が約30%抑えられた(クレアチニン低下量 ト群:2.61mg/mL/年、偽群:3.81mg/mL/年、p<0.001)[11]。

禁忌[編集]

トルバプタンは以下の患者には禁忌である[12]。
トルバプタンまたは類似化合物に過敏症の既往のある患者
無尿の患者(心不全または肝硬変患者に用いる場合)
口渇を感じない患者
水分摂取が困難な患者
高ナトリウム血症の患者
重篤な腎機能障害(eGFR 15mL/min/1.73m2未満)のある患者(嚢胞腎患者に用いる場合)
慢性肝炎、薬剤性肝機能障害等の肝機能障害(嚢胞腎患者に用いる場合)
適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者(心不全または肝硬変患者に用いる場合)
妊婦または妊娠している可能性のある婦人

副作用[編集]

添付文書に記載されている重大な副作用は、腎不全、血栓塞栓症、高ナトリウム血症、肝機能障害、ショック、アナフィラキシー、過度の血圧低下、心室細動、心室頻拍、肝性脳症、汎血球減少、血小板減少である。

米国FDAはトルバプタンに肝毒性があり肝機能障害を引き起こす可能性があるとして、トルバプタンを30日間を超えて投与すべきでない事、および肝障害のある患者に投与すべきでない事を決定した[13
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心臓血管外科手術のリスク・合併症の発生について

2018-04-29 07:40:45 | 心臓病の治療
心臓血管外科の手術治療は、劇的に病気に苦しむ人を救ったり、今失いかけている命を死の淵から救ったりすることもあるドラマティックな臨床現場であるためドラマの題材にもなりやすいと思います。
しかしながら、荒療治ともいえる心臓血管外科の手術には必ず、リスクも伴います。心臓を止めない他の診療科の手術に比較してその危険性が大きいのも事実です。

一般的に心停止を伴う心臓血管外科手術におけるリスク、およびその対策は

①出血 ヘパリンという血液を凝固させない薬剤を使用する、また人工心肺中に凝固因子が失われる、抗血小板薬を内服している患者さんが多い、出血する部位は圧の高い動脈や壁が薄くて組織が裂けやすい静脈や右心系など止血が難しい組織を扱うなどの理由から、術中の出血も多くなりやすく、止血が困難な場合も多い。術後の出血も血圧の変動などをきっかけに急に増加することもあり、手術後の出血にも油断できない。術中の凝固の状態を血液検査などで把握し、凝固因子や血小板、ヘマトクリット値が不足・低下している場合は早期に補充する、手術の止血剤をその組織、出血パターンに合わせて駆使する、手術の出血予防・止血テクニックを駆使する、確実に止血が得られるまで手術を終了しない、出血しにくい人工血管などのデバイスを選択する、などの注意が必要です。一般に術後に出血の為に再手術を必要とする頻度は約1%ですが、その手術ないようによってその頻度も左右されます。

②脳梗塞 一定時間の循環停止(脳血流も一時停止)、アテロームなど血管の組織正常が悪い部位からの塞栓症、術中に混入する空気の泡による塞栓症、低血圧、高頻度に合併する脳血管や頸動脈の異常などによって、脳梗塞を発生する可能性があります。一般に1%前後の発生率ですが、胸部大動脈手術の場合は特に高頻度となります。術前の動脈の性状や脳内ネットワークの評価、安全な人工心肺からの送血部位の選択、術中の低体温、十分な心内空気の除去および経食道エコーでの空気残留の観察、経皮的脳酸素飽和度モニターでの観察等の予防策が重要です。実際は脳梗塞が発生したかどうかは術中はわからず、術後に覚醒不良、麻痺やけいれんの出現などで初めて診断されます。発生が疑われた場合は、CTによる脳内出血との鑑別、MRI、MRAによる病変の評価などを行い、ダメージが最小限となるような管理と早期のリハビリテーションが重要になります。

③心不全、不整脈などの心臓のトラブル  もともと低下している心臓を心停止させて治療することでさらに心筋へのダメージが大きくなり心機能が悪化する、治療がうまくいかない可能性(たとえば人工弁の周囲逆流の発生や、弁形成術における逆流残存、冠動脈バイパスの閉塞)、手術侵襲や術後の循環不安定による不整脈の出現など。心筋のダメージによるLOS(低拍出症候群)の発生頻度は約2%、また心房細動などなんらかの不整脈が発生する頻度その病態にあわせた循環管理が必要です。手術がうまくいっていないことが判明した場合はより早期に再手術や追加治療が必要になることがあります。一時的に経皮的心肺補助(PCPS)や大動脈内バルーンポンプ(IABP)による機械的循環補助が必要になることがあります。回復が認められない場合は、補助人工心臓(VAD)の装着や心臓移植の検討が必要になることがあります。

④感染症 特に人工心肺を使用した手術は免疫力の低下を引き起こすといわれ、他の手術よりも手術部位感染や肺炎などの感染症が発生しやすいといわれています。また胸骨を離断した場合は、胸骨の骨髄炎のリスクがあり、特に冠動脈バイパス術では内胸動脈を採取してバイパス血管として使用するため、胸骨の血流低下が起こることが関与しているといわれています。両側の内胸動脈の採取はそのリスクを増加させるという可能性がありますが、学会での報告などでは有意差がないという報告が多いです。特に心臓血管外科の患者さんは糖尿病や高齢者など感染症を発生しやすい人が多いことも大きな原因となっています。適切な抗菌薬の投与、病院をあげての感染対策、早期の発見と対処、手術時間の短縮などの対策が重要です。近年は陰圧吸引療法など発生した場合の対策も発達してきておりますが、感染症の発生自体はおそらくいろいろな対策を講じているにもかかわらず、私の知る限りこの20年以上減少していないと思われます。これはより高齢者や重症患者さんの手術が増えていることも関係していると思われますが、種々の対策の以前に患者さんの因子が大きく左右するため、手術手技や抗菌薬の使用方法だけでは解決しないものであるからと思われます。一般に1~2%の頻度で何らかの手術部位感染が発生するといわれています。一度発生した場合は、早期の洗浄・ドレナージなどの外科的対応、陰圧吸引療法の開始、培養による菌種の同定、栄養管理、リハビリテーションの推進など行ったうえで、場合によっては大網充填や大胸筋充填などの創閉鎖のための手術が必要になります。

⑤臓器血流障害 血管は全身につながっていること、また動脈硬化を合併している患者さんが多いことなどから、手術操作部位以外の臓器血流が低下または途絶することによる合併症が発生することがあります。脳梗塞がその中で最も高頻度で、また重篤な合併症でもありますが、他に四肢動脈の血流障害が塞栓症によって起こったり、また原因は不明ですが腸管の血流障害による腸管壊死(NOMI Non-Occlusive Mesenteric Ischemia 非閉塞性腸管虚血)や、脊髄虚血による対麻痺など重篤なものもあるため重要です。術中の全身循環の維持管理が重要になるとともに、リスクの高い患者さんには特に注意が必要です。NOMIは発生の予測は難しく、診断された時点で手遅れになることも多い為、高齢で動脈硬化が強く、腎機能が悪化している患者さんなどハイリスクグループには術中からのプロスタグランジンの投与や頻回の乳酸測定、異常値をみたら直ちに腹部血管造影と血管拡張薬の持続動注療法を開始する、積極的に試験開腹するなどの積極的な対策が重要です。また脊髄虚血は下行~胸腹部大動脈の広範囲大動脈手術の1~5%に発生するといわれています。腹部大動脈瘤の手術でも1/500の頻度で発生するといわれています。脊髄ドレナージや循環管理などで対処が推奨されていますが、一度発生すると重篤な対麻痺が後遺症で残ってしまう可能性があります。

⑥肺炎、腎不全、肝障害、消化管出血 廃用による体力の低下など 全身へのダメージの大きい手術の場合は、手術部位とは直接関係ないようにみえる多臓器に障害が発生する可能性があり、全身の管理が重要です。

医療の発達とともにこれら手術に関連する合併症やリスクが低下したり対策、対処方法が改善してきたりしてはいますが、決してゼロにはなりません。手術のメリットも大きいのは事実ですが、その一方、リスクも十分あるということも重要なことと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

広範囲胸部大動脈瘤に対する外科治療:ALPSアプローチ

2018-04-26 21:44:49 | 心臓病の治療
 広範囲胸部大動脈瘤に対する手術では、通常の型にはまった術式に加えてアプローチや手順に工夫が必要な場合があります。上行~弓部~下行大動脈に至る広範囲胸部大動脈瘤に対しては、通常の胸骨正中切開や側方開胸だけでは、置換範囲の大動脈をすべて露出することは出来ないため、アプローチに工夫が必要になります。
 ALPSアプローチもそのひとつです。ALPS(アルプス)とは、Antero-Lateral thoracotomy with Partial Sternotomyの略で、左前側方開胸+胸骨部分切開によるアプローチで、上行大動脈から弓部大動脈、そして横隔膜付近までの下行大動脈を同一視野に露出することが出来るアプローチ方法です。このアプローチが必要な症例は多くはありませんが、この方法でしか救えない患者さんがいるのも事実です。弓部の大動脈瘤と、下行大動脈の解離の合併など、弓部大動脈と下行大動脈を同時に手術することが必要、かつステントグラフトでは対応困難な症例が適応です。筆者はこれまで、広範囲胸部大動脈瘤にはこの方法を多用してきました。また永久気管瘻がある患者さんに対する弓部大動脈置換術や冠動脈バイパス術、弁膜症手術に対してもこの方法は有効です。下行大動脈の操作が可能になるにもかかわらず、上行大動脈への送血管留置、上行大動脈遮断、心筋保護液注入、右房からの脱血管挿入、右上肺静脈からの左房左室ベント留置など、胸骨正中切開のアプローチで可能な人工心肺に関する処置がほとんどすべて可能です。
 手術が必要な患者さんの病態は一人一人違うので、その症例にあった手術方法など常に工夫してまた最適なアプローチや手順を選択していく必要があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

血栓閉塞型Stanford A型急性大動脈解離に対する保存的治療

2018-04-23 17:13:21 | 心臓病の治療
 急性大動脈解離は上行大動脈に解離がおよびStanford A型と、上行大動脈に解離が及ばないB型に大別され、その治療方針はA型は緊急手術、B型は保存的治療と一般に言われています。
 
 A型急性大動脈解離の中でも、上行大動脈の拡大が無く(<5cm)、偽腔が造影CTで血栓閉塞しているように造影されず、かつ偽腔の暑さが11mm以下と薄い症例に関しては直ぐに緊急手術を行わなくとも予後が悪くないと言われています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、上記に当てはまる症例の場合は、直ぐに緊急手術を行わずにICUに入室させて厳重に降圧管理を行うなど、保存的に治療を行います。

 経過観察しているうちに、大動脈の拡大、心嚢液の出現、偽腔に造影剤が入るようになって血栓閉塞型では無くなる、臓器の血流障害が出現する、などの新たな病態に進展した場合は出来るだけ速やかに手術治療を検討することになります。なので、血栓閉塞型といっても油断せず、かなり厳重に観察する必要がありますが、明らかに手術しないで済むほうが、患者さんにとっては楽で、生存率も上がるものと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しい心不全の分類と心不全パンデミックに対する医療面での社会的対応

2018-04-22 07:59:10 | 心臓病の治療
日本では高齢者の増加による心不全の増加が社会問題になるといわれています。すでに国内に100万人以上の心不全患者さんがおり、人口が減少するにもかかわらず2035年くらいまでは増加するといわれています。
そこで、心不全をより循環器の専門でない人にもわかりやすく、取り扱いやすくするために新しいガイドラインでは心不全の分類を変えて治療薬の観点から変更しています。

① 左室駆出率が低下した心不全  Heart Failure with Reduced Ejection Fraction = HFrEF ヘフレフ  EF(左室駆出率)40%以下
② 左室駆出率が維持された心不全 Heart Failure with Preserved Ejection Fraction = HFpEF ヘフペフ  EF       40%以上
 心筋の元気さが残っているのか、落ちているのかで心臓の病気を分類する考え方のようです。ヘフレフとかヘフペフとか、最初は、いまはやりのモフモフとかフワトロとかと同じ擬態語かと思ってしまいました。

 ヘフヘフなのかヘフペフなのか、心臓血管外科医としては一見とっつきにくく、しかも言いにくい。確かに病態を反映するけど、外科治療の選択肢としては、たとえば弁膜症なのか、虚血なのか、それとも心筋疾患なのか、という病気としての疾患概念が非常に重要であるため診断名が気になるところです。学生のころから、心不全は病名ではなく、病態を表す言葉だ、と指導されてきました。最近は循環器内科の先生たちも、患者さんに遭遇すると、「HEpEF CS1で利尿剤を投与して軽快しました(CS1とは肺水腫の病遺体を呈している心不全、だそうです。CS=Clinical Scenariohaは患者さんの病態をあらわす身体所見で分類しています)」などとカンファレンスで言っていて、意味が分からなかったりしておりましたが、これは病名や心不全の原因の診断よりも、心不全の病態が一時的に改善すればそれでよい、その後再入院しなければ一時的にはそれでよい、という概念からきているように感じました。患者の数が今後増加するので、すべての心不全患者に診断をつけることはせず、水際で利尿剤で制御したりして、入院を抑制し、根治治療にもっていく患者さんの割合を減らしてパンデミックに対応するということなのだ、と昨日の都内でのトリバプタンの講演会を聞いていて思いました。
 心不全が今後爆発的に増加することに対して、インフルエンザや新しい感染症が大流行するときの医療の社会的対応と同じように、質以上に数・面で取り組むための対応といえますが、「大動脈弁狭窄症で左室収縮が低下し、肺水腫で入院しました」などと病名を先に言ってほしい心臓血管外科専門医にはちょっと寂しくも感じますが、今後25年は患者さんが増加し続ける意味ではまだまだ社会に求められる点が多いというのも事実かと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

完全鏡視下僧帽弁形成術(第一回鏡視下MICSセミナー)

2018-04-21 13:07:36 | 心臓病の治療
4/20 名古屋で行われた鏡視下MICSセミナーを受講しました。4月から横須賀市立うわまち病院でも右小開胸の内視鏡補助下弁膜症手術が施設認定され保険の加算算定がされることになりました(算定要件としては適合した内視鏡システムがあること、10年以上および5年以上心臓血管外科の経験のある医師が常勤でいること、経食道心エコーが年間100件以上行われていることなどがあります)。それに呼応するように同時期に名古屋で第一回鏡視下MICSセミナーが名古屋で行われ、参加してきました。内視鏡補助下と完全鏡視下では、内視鏡の位置づけに違いがありますが、より小さい創部での手術が可能になります。特に3Dカメラを用いて手術することにより、実際の組織を臨場感をもって観察できることが最大のメリットです。残念ながら今回の加算算定の機種のなかに三次元カメラのシステムが入っていないらしいですが、今後の流れとしては三次元画像をみながら手術をする時代にどんどんシフトしていくものと思われます。
 有機ELテレビの三次元画像もかなりきれいでした。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科の概要

2018-04-19 04:57:17 | 医療

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科は2009年より開設され、神奈川県横須賀、三浦地区における成人の心臓血管疾患に対して、外科治療を中心とする診療を行ってまいりました。
5名体制で、24時間緊急症例にも対応しております。また救命救急センターと連携し、ドクターカーで紹介もとの医療機関に患者様のお迎えに伺う体制を整えております。循環器科を中心とする院内の診療科と密接に連携し、患者様の病態に最も適切な治療方針を検討して方針を決定しております。
外来は火曜、金曜の週2日で、月曜、水曜、木曜は手術日としております。

2017年の手術件数は、383件で、スタッフの入れ替えなど体制を一新してからは、開設依頼最も多い件数となっており、前年に比較して100件以上増加しました(図1)。そのうちわけは、心臓胸部大血管手術133例、腹部大動脈瘤37例、末梢動脈手術23例、下肢静脈瘤手術118例となっております(図1)。
静脈瘤手術は血管内レーザー焼灼術を導入してからは日帰り手術が可能となり、横須賀・三浦地区唯一の治療施設として大幅に手術件数が増加しています。透析センター開設に伴い、シャント造設手術も増加しています(図2)。

地域における心臓血管疾患すべてに対応しているため、疾患のバリエーションが多くなっておりますが、特に近年は患者様の高齢化がすすみ、80歳以上の方も増えており、90歳以上の患者様に対しても疾患、病態によっては対応しております。

主な対象疾患として、
A.虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞、心筋梗塞後合併症)
B.心臓弁膜症(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁疾患など)
C.大動脈疾患(胸・腹部大動脈瘤、大動脈解離、大動脈ステントグラフト手術)
D.成人の先天性心疾患
E.末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)
F.静脈疾患(下肢静脈瘤レーザー治療など)
G.透析用シャント造設、経皮的シャント血管形成術

などの手術治療を担当します。

https://www.jadecomhp-uwamachi.jp/patient/shinryolist/cardiova/
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

成人で遭遇する最も多い先天性心疾患=大動脈弁二尖弁

2018-04-18 06:10:01 | 心臓病の治療
 教科書的には先天性心疾患で最も多いのは、小児科領域では心室中隔欠損症、成人では心房中隔切開欠損症と言われています。実際に手術治療に至るものでは心房中隔欠損症でしょうか。近年は超音波検査で発見されたりで小児期に発見されることが多くなり、成人の心房中隔欠損症に遭遇することは少なくなりました。

 成人の心臓血管外科診療をしていて最も多く遭遇するのは大動脈弁二尖弁による大動脈弁狭窄症です。人口の1%に大動脈弁二尖弁が見つかるとも言われています。
 大動脈弁二尖弁(Bicuspid aortic valve = BAVということもありますが、バルーンカテーテルによる大動脈弁形成治療:Baloon Aortic Valvuloplastyと混同しやすいでしょうか)は、文字通り、通常は三尖で形成される大動脈弁が発生の過程で二尖しかない形態異常です。これにはいくつかの形状の違いによるタイプがあります。全くの二等分されたような形態であったり、一見三尖に見えますが、そのうちの二尖が癒合したような形態のものもあります。二尖が癒合している場合、その癒合したラインは飛行した丘状だったりしますが、この部分を縫線=Rapheと呼んだりします。
 三尖から二尖に変形していることで、無症状の方もたくさんいますが、経時的変化も加わり、大動脈弁口の開閉や閉鎖に異常が生じ、弁口が狭くなり大動脈弁狭窄症になったり、合わさりが悪くなって大動脈弁閉鎖不全症になりやすくなります。その両者、狭窄症兼閉鎖不全症となることもあります。現在の大動脈弁狭窄症の一番の原因は加齢により弁尖が硬化することで、65歳以上になって発症することが多いのですが、二尖弁の場合は三尖の人に比較してより早期に発症することが多いです。65歳未満で大動脈弁狭窄症になる患者さんの多くは二尖弁のことも少なくありません。
 大動脈弁は上行大動脈の組織と連続しており、心臓の組織の特徴より大動脈の組織の特徴が強いといわれており、大動脈の動脈硬化と大動脈弁尖の動脈硬化の変化は同時に起こったり、また二尖弁の患者さんは上行大動脈の異常が起こりやすいとも言われています。大動脈弁狭窄症の場合は、狭い大動脈弁口を血流が高速で通過する為、その高速の血流が上行大動脈にあたって、大動脈が拡大しやすい(狭窄後拡張Poststenotic Dilatation)と言われています。また大動脈弁閉鎖不全症の患者さんも上行大動脈が拡大していることが多いです。しかし、二尖弁の場合は有意に三尖と比較して上行大動脈が拡大している症例が多く、大動脈解離を発生する可能性も高いといわれており、これは上行大動脈の組織性状が二尖弁の場合は先天的に異常になっており、有意に嚢胞性中膜壊死の頻度が高くなっているそうです。

 基本的に二尖弁の治療は人工弁と置換することになりますが、上行大動脈が拡大している場合は、同時に上行大動脈置換術を併施する必要があります。何センチ以上になったら人工血管置換を併施するかは議論となるところですが、一般に三尖の症例では5cm以上で同時手術をするところを、二尖弁の場合は、4.5cm以上、症例によっては4cm以上の症例では同時手術を行います。手術部位が増えることで若干の手術時間の延長(約30分)とリスクの上昇の可能性があるので、その辺を考慮したうえでの手術術式の検討が必要です。拡大した上行大動脈は術中に大動脈解離を発生する危険性も高い為、手術操作には非常に注意する必要があります。

 最近は大動脈弁形成術を積極的に行っている施設もありますが、二尖弁の形成は一般に困難です。大動脈弁閉鎖不全症が病態の中心である若い症例に対しては、不均等に分かれている二尖を完全に前後もしくは左右に均等な二尖に変形させて基部再建する方法が行われたりしますが、将来的に再発や狭窄症への進展が見られた場合は再手術が必要になることを前提にした手術といえます。弁形成術の一種である自己心膜を使用した弁再建術(OZAKI手術=AV Neo)での対応も可能で、今後長期に自己心膜が生体弁以上に安定していることが証明されれば広まっていく術式と考えられます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しい心・血管修復パッチ ⇒左室形成術への期待

2018-04-15 17:45:57 | 心臓病の治療
心・血管修復パッ チOFT-G1(仮称)

帝人株式会社
吸収性合成高分子糸、非吸収性合成高分子
糸、架橋ゼラチン膜から構成される心・血管
修復パッチである。
心血管系の外科手術における血流の修正、
血液流路の確保および周辺組織の構築・再
建に使用される。


新しい製品が市場に出ると、また手術の幅が広がり、手術の質の向上につながるものと思います。主に小児の肺動脈狭窄の拡張などに使用すると思われますが、今まで人工血管などで代用していた左室形成で使用するパッチで使用してはどうでしょうか?伸縮性のあるパッチを左室の壁に使用することで形成術後の心機能が改善するということは期待できないでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

虚血性心筋症に対する最新の治療

2018-04-14 13:36:01 | 心臓病の治療
 虚血性心筋症 すなわち冠動脈からの血流障害が原因で左室心筋の収縮が悪くなり心不全を呈する病態。これに対する治療としては、治療は限られており、カテーテル治療や冠動脈バイパス術によって血流を改善することができれば、心筋の収縮が改善し、心不全の改善が期待できます。
 しかし、問題になるのはこうした血行再建術が困難な患者さんです。

 これに関していくつか可能性のある治療として、
①TMR Transmyocardial Laser Revasculization :レーザー照射によって心筋に穴をあけて、その穴に内膜が張って新しい血管が新生されるという治療が一時注目され、保険適応にもなりました。もともと、実験的に心筋に針を刺すと、その刺した穴が新たな血管として発達することから始まった治療です。10年以上前に注目を浴びましたが、最近はその治療を行っているという話をめっきりきかなくなりました。

②心筋細胞シート : 世界で初めて日本から発信される先進治療。大阪大学が主導になり、2014年より保険適応となった治療で、骨格筋の細胞を培養してシート状にして、心臓表面に数枚貼り付けることで心筋収縮力が改善することを期待する治療。拡張型心筋症は反応しないNon-Responderが多いため、より効果の期待できる虚血性心筋症が現在の保険適応の治療対象。バイパス手術や僧帽弁形成など可能な治療をすべて行ってもなお、心不全が持続する重症の患者さんが対象。テルモの施設で細胞培養して、実施施設でシート状に細胞の調整を行った後に移植。移植された細胞シートが生存している間に、この細胞から産生されるサイトカインが血管新生や心筋収縮の回復を促すと考えれています。
 最近大阪大学では骨格筋ではなく、iPS細胞を使用した心筋シートを使用した治療を倫理委員会を通過させ、年内にも実際の患者さんに治療開始となることが期待されています。骨格筋細胞よりiPS心筋細胞のほうがより心筋細胞としての機能を有しており生着期間延長と効果の延長が期待されています。

③超音波治療 : 東北大学が細胞に超音波を当てると血管新生作用があること発見し、それを心筋の血管新生に応用するという臨床治験中の治療。装置が安価で効果が立証されれば、お近くのクリニックなど、どこでも手軽に治療が可能になることが期待できる。現在東北大学や都内の大学病院などで治験進行中。2020年までの治験の結果によっては、その次に保険適応になる可能性あり。

既存のベータ遮断薬療法やACE阻害剤、ARB、抗アルドステロン薬に加えて最新の治療を組み合わせることで効果の相乗効果が期待できます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドクターズファイル

2018-04-12 16:59:59 | 心臓病の治療
https://hospitalsfile.doctorsfile.jp/h/1041643/ft/

心臓血管外科

心臓血管外科部長
安達 晃一先生
1994年自治医科大学医学部卒業。大学病院や総合病院の内科・外科治療に従事した後、心臓血管外科部長などを歴任。2016年から現職。日本外科学会外科専門医、日本心臓血管外科学会心臓血管外科専門医。

24時間の急患受け入れや緊急手術にも対応している
難易度の高い治療までカバーし地域の心臓疾患患者に対応

地域の医療機関や同院での診断で、外科手術が必要とされた成人の心臓疾患に対応。狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患、心臓弁膜症、大動脈疾患、成人の先天性心疾患のほか、閉塞性動脈硬化症や下肢静脈瘤も同科で担当する。また救急科と連携し、救急患者の心臓疾患に24時間対応する。
平成28年1〜12月に251件の手術を行った同科だが、平成29年は約380件に増え、特に心臓胸部大血管手術は約1.5倍になったと安達晃一先生。
「平均寿命が延びて手術が必要な方が増え、また当科で難しい手術を行う環境などが整ったためです。90歳以上でも、体力など条件次第で心臓手術は可能です」
安達先生自身も豊富な心臓手術の経験を同院で生かしながら、患者の体への負担を軽減するよう心がけているという。「例えば胸部や腹部の大動脈手術では、傷を極力小さくするステントグラフト手術も選択できます。また下肢静脈瘤も、傷が目立たずより体への負担も少ないレーザー治療が可能です」
疾患の早期発見にも力を入れ、高血圧や脂質異常症、糖尿病など心臓疾患のリスクのある患者には検査を勧めている。
「手術で患者さんに元気を取り戻していただくのが当科の目標。可能なら早めに手術を受けていただきたいと思います」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房内血栓症の手術適応

2018-04-12 06:56:21 | 心臓病の治療
 特に心房細動の患者さんにおいて最も問題になるのは、心房壁の調律的収縮が無くなることによって、心房内の血液がよどみ、心房内に血栓ができてしまうことがあり、その血栓がはがれて全身に血栓塞栓症を起こすことがある、ということです。

 血栓ができないように、そのリスクにあわせて抗凝固療法を行う事により、血栓塞栓症のリスクは大幅に軽減することができます。今まではワーファリンが唯一の治療薬でしたが、最近は第X凝固因子を阻害する薬剤(Xa阻害剤)が出現してからはより、心房細動に対する抗凝固療法が一般化してきたように思います。新しい抗凝固薬という意味で、NOAC(New Oral Anti- Coagulant)としばらく呼ばれてきましたが、時間も経過したので、最近はDOAC(Direct OralAnti- Coagulant)と呼ばれるようになってきました。まだ非弁膜症性の心房細動にのみの適応とはなりますが、現在はワーファリンよりもこちらを選択されることが多いようです。

 さて、心房内にエコーや造影CTで血栓がみられた場合、どうするか。やはり基本的に壁に固着しているような血栓はそう簡単にははがれないので(手術で摘出する場合も、一塊に簡単にとれるような感じではなく、ちぎりながら削り取っていく必要があります)、抗凝固療法を開始してそこに新たな血栓が付着することや、血栓が増大することを予防すると同時に自然に血栓が溶けて無くなっていくことを期待します。
 手術適応となるのは、
①可動性の血栓があり、はがれやすいと考えられるもの
②弁膜症などの手術が必要な場合、同時に行う事が可能な場合
です。

手術中に注意が必要なのは、血栓を取りこぼしががないようにすべて回収すること、操作によって血栓を意図していない瞬間にはがれさせることがないように、最新の注意を払う事、特に左房左室ベントは盲目的に挿入せず、大動脈遮断して左房切開してから直視下に留置すること、などです。

新たな血栓が再度できないように、最も血栓ができやすい左心耳は切除するか縫縮するこが一般的です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大動脈解離の危険因子

2018-04-10 22:25:34 | 心臓病の治療
 急性大動脈解離の危険因子は、
① 高血圧
② 遺伝子異常・体質
③ 喫煙
④ 大動脈の拡大・大動脈弁が二尖弁
などが挙げられています。

高血圧によって引き起こされる病態として、脳においては脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害、心臓においては高血圧性心疾患、動脈硬化に伴う大動脈弁狭窄症、大動脈瘤、冠動脈疾患、閉塞性動脈硬化症、腎障害など様々です。また突然発症する急性の疾患として脳出血や大動脈瘤破裂に並んで一番注意する必要のある者の一つとして大動脈解離があります。高血圧は遺伝的体質の問題、動脈硬化に伴うもの、腎障害に伴うもの、塩分の過剰摂取による体液貯留にともなうもの、など様々な原因、因子があります。血圧の管理をすることは、こうした高血圧に関連した疾患を予防するとともに、大動脈解離の予防や、発症後の解離性大動脈瘤の形成の予防にもつながります。

遺伝子異常で有名なのは、マルファン症候群と呼ばれる体形の異常を伴った遺伝子異常の患者さんに発症するものや、その亜型であるLoeys–Dietz症候群があります。しかしながら典型的にこうした診断基準委に満たさない患者さんでも細身の体型、比較的高身長の患者さんに発症することがあり、不全型の遺伝異常の存在も疑われています。こうした遺伝子異常がなくとも、親子、兄弟で同じ病気を発生することをしばしば経験します。現代の研究ではマルファン症候群の原因として、染色体9番の短腕に異常が見つかっており、この遺伝子が賛成するフィブリリンという蛋白の異常が関係あるとも言われています。こうした遺伝子の関連がはっきりすれば、これを応用したiPS細胞治療が将来的に可能になるかもしれません。

喫煙はあきらかな危険因子とは言われていないかもしれませんが、明らかに若い男性の大動脈解離の患者さんはかなり頻度で喫煙者です。喫煙と大動脈疾患、動脈硬化性疾患などは深い関係にあるといわれており、大動脈解離の予防、治療には禁煙が必須になります。

大動脈弁が三尖ではなく二尖弁の患者さんには、大動脈解離が発生しやすいといわれています。特に大動脈がもともと拡大しているひと、大動脈基部に向かって洋ナシ状に拡大しているひとは発症しやすいといわれています。

治療としてはこうした危険因子の制御を念頭に入れた治療が必要です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

急性大動脈解離の病態

2018-04-07 11:30:51 | 心臓病の治療
急性大動脈解離 大動脈疾患の中でも突然死を起こすことのある疾患です。

 前触れなく突然大動脈の内膜に亀裂が入り、その亀裂から血液が大動脈壁の内膜と外膜の間を裂くように入り込み、最初の裂け目(エントリー)から上下方向にその裂け目が連続し、偽腔を形成します。避けて偽腔を形成した大動脈壁は弱くなって、大動脈圧に負けて拡大し、拡大した外膜が破裂して出血します。
 破裂して出血した血液が、心臓を包む膜(心膜)の中に貯留すると、心臓の動くが妨げられる心タンポナーデとなり、血圧低下からショックとなり、死亡する可能性が高くなります。この大動脈解離の病態の中で、死因の一位は心タンポナーデであり、死亡原因の7割とも入れています。
 そのため、上行大動脈に解離が及んでいるもの(Stanford A型)と及んでいないもの(Stanford B型)で分類しており、A型は上行大動脈の破裂が直接心タンポナーデに直結するために死亡率が高く、緊急手術の適応といわれています。一方、Stanford B型では心タンポナーデになる可能性は少ないため、緊急手術は行わず、薬物療法などの保存的治療の対象になります。

 上記の破裂以外に大事な病態として、大動脈の解離が心臓の近くのバルサルバ洞(大動脈基部)に及んだ場合、大動脈弁が変形して大動脈弁逆流を起こすことがあります。急性の大動脈弁逆流の発生は、急性心不全の原因となります。この程度がひどいと突然死の危険が高くなります。Stanford A型の場合は、上記の心タンポナーデと同時に大動脈弁逆流の有無は治療する上で非常に大事な情報となります。

 続いて大事な病態として、大動脈の分枝の閉塞による臓器血流障害(Malperfusion = マルパーフュージョン)があります。大動脈の分枝には冠動脈、頸動脈、腹部臓器を環流する動脈など多くの枝があります。解離によりこの分枝が閉塞した場合、たとえば、冠動脈が閉塞すると急性心筋梗塞、頸動脈が閉塞すると脳梗塞や意識消失、腹部分枝が閉塞すると腸管壊死、腎動脈が閉塞すると腎不全、下肢につながる腸骨動脈が閉塞すると下肢の壊疽などが起きます。分枝の閉塞は約1割の患者さんに発症するといわれ、脳虚血による意識障害で発生する人も全体の一割といわれています。

 また、次の病態として、大動脈解離に由来する全身の炎症反応(全身性炎症反応症候群 = SIRS:Systemic Inflammatory Responce Syndrome)があります。これにより原因不明の高熱が持続したり、炎症由来物質(サイトカイン)が肺に障害を与えて呼吸不全を起こしたりすることもあります。

こうした病態を理解して、その病態に個別に適切に対処することが救命率を向上することにつながります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心筋梗塞の機械的合併症② 心室中隔穿孔の治療

2018-04-04 15:49:41 | 心臓病の治療
 心筋梗塞の機械的合併症の中でも最も死亡率の高いのが心室中隔穿孔です。

 突然左心室と右心室が交通して、左心室の血液が大量に大動脈より圧の低い右心室に入り込んでしまうため(左右シャント)、急に心不全が進行します。特に急性心筋梗塞では、穿孔部位の周囲は壊死した心筋であるため非常にもろく、小さい穴が防波堤の決壊みたいにどんどんおおきくなって経時的に重症になっていくため、最初は大丈夫と思っても、直ぐに重症化してしまうリスクがあります。

 救命のためには穿孔した穴をふさぐ外科的手術しか基本的にはありません。多くの場合、心原性ショックになっていたり、重症の心不全を呈しているため術前の状態としては不良なことが一般的です。

 手術は通常、人工心肺を使用して心停止下に左室を切開して、穿孔部位の周囲に牛(自己)心膜パッチをあてる手術が一般的です。穴に直接パッチを縫着して閉鎖する術式はDaggett手術と呼びますが、心筋梗塞発症時の心筋は非常に脆く裂け安いのでこの術式では救命率が低く、その後に提唱されたExclusion Technique(David-Komeda手術)は、穿孔部から離れたできるだけ正常の心筋に心膜パッチを固定し、しかもこのパッチを左室の中の機能的な左室側と中隔の側の左室とに隔壁を作るのに使います。これによってパッチの右室側は、圧は右室圧になり、心筋の切開縫合部にかかる圧も小さくなり出血量も少なくて済みます。
 最近は穴の両側にパッチを貼るDouble Patch法や、右室、右房のアプローチでの閉鎖する方法もあります。二重にパッチをあてる方法は、残存シャントの可能性が少なくなり、また中隔の針孔により組織のカッティングのリスクも軽減されます。小さい穴の向こう側にパッチをあてるのは難しいのですが、いくつかのコツ、テクニックを駆使すれば可能です。
 左室切開する方法は、心膜による隔壁によって左室の機能的内腔が小さくなって、循環としては拡張障害を呈する可能性があります。右室や右房の切開ではそうした拡張障害など左室切開した後遺症がないのがメリットです。右房アプローチは右冠動脈の領域の梗塞で、三尖弁に近い高位の梗塞の場合に適応になりますが、適応できる症例は少なく経験した医師も少ないと思います。筆者は右房アプローチでダブルパッチ法で救命した経験がありますが、これは心室を切開しない画期的な手術法なので、中隔の高位に穴がある症例は、一度右房切開して右房から穴の位置を確認する意味があると思います。また、このような高位の中隔に穴がある穿孔に対して左室側からパッチをあてて閉鎖すると三尖弁の腱索に縫合糸がひっかかり、術中、術後に三尖弁逆流を呈し、三尖弁の修復が必要になる可能性があります。

 最近はカテーテルによって運ばれたデバイスにより穿孔部を閉鎖するのに成功した報告もあり、次第に低侵襲な報告へ行くと考えられます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする