横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

僧帽弁閉鎖不全症の手術のタイミング

2018-11-30 06:54:02 | 心臓病の治療
僧帽弁閉鎖不全症の手術タイミングについて

僧帽弁閉鎖不全症の原因は、変性疾患(粘液変性やリウマチ性変化)による腱索断裂・変性、左房や左室拡大による弁輪拡大、感染性心内膜炎による弁破壊、急性心筋梗塞による乳頭筋断裂などがあります。

刻々と病態が悪化する為緊急手術の対象となるのは、急性心筋梗塞による乳頭筋断裂や感染性心内膜炎です。タイミングを逸すると救命できなくなる可能性が高くなります。急性期を無事に乗り切って安定した状態まで持っていければ、定時手術で対応することも可能ですが、多くは救命のための緊急手術となります。

また、変性疾患や弁輪拡大によるものの多くは病態が安定した状態での手術が多くの場合可能です。胸水や浮腫が落ち着いて、栄養状態や免疫の状態が安定した時点での手術が望ましいといえます。急に発生した腱索断裂では、突然発生する肺水腫となり気管内挿管など必要となることがあります。この場合でも多くは急性期の内科的管理で乗り切ると、人工呼吸器から離脱し、安定した状態での予定手術をすることが多くの場合は可能です。人工呼吸器から離脱できない、もしくは、血行動態が維持できないという場合は緊急手術を決断する必要がありますが、稀です。よって、逆流の原因が何か特定することが、治療方針を決定することで非常に重要となります。

急性心不全の時期を乗り切った状態では、利尿剤の内服などで安定した状態を維持することが可能ですが、手術のタイミングや治療方針について残念ながら検討されることなく漫然と利尿薬の内服を継続されている症例も少なくありません。そうしている中で、僧帽弁逆流が多い症例では左室・左房の拡大進行、肺高血圧、心房細動と進行し、心不全を繰り返して利尿剤による内科的治療が限界になった時点で外科治療にコンサルトされるという事態が未だに稀ですが見られます。こうした状態になってからの手術では、手術のリスクが上昇する、術後の心機能の回復が望めないなど、せっかくの手術の成果を十分得られなくなってしまう危険があります。その意味で、出来るだけ早期に外科医に相談してもらいたい、と常日頃実感しています。利尿剤がないと、心不全症状が出現する場合は明らかに手術治療を検討する必要があります。

その意味で、安定した状態での手術を検討するタイミングとして
① 利尿剤継続が必要
② 心房細動の出現
③ 心拡大の進行傾向(単純レントゲン、心エコーでの計測)
④ 浮腫、呼吸困難などの自覚症状
などです。外科医が判断してまだ手術するタイミングではない、と判断する場合も少なくありませんが、その場合でも6-12ヶ月ごとに検査をして進行の傾向がないか、経過観察している症例も多く抱えています。数年経過観察して、ようやく進行の傾向がみられ、手術に至った症例もありますし、まだ悪化傾向無いのでそのまま観察を継続している症例もあります。
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医師の休暇・時間外勤務

2018-11-23 09:43:19 | 心臓病の治療
 病気に休日はありません。その疾患と戦う医療では24時間 365日営業が基本です。しかしながら、働き方改革が話題となる現在では、働きすぎる傾向がある医師に、労働時間を抑制するような動きが進んでいます。心臓血管外科医を志す医師の修業時代は当然のことながら、他の医師以上に圧倒的に病院内に滞在する時間が長いといえます。筆者も心臓血管外科に入局して徐々に自分の出来る仕事も増えてくるとますます院内に滞在する時間が長くなり、ほとんど合宿しているような状況で、最大一か月で26日間泊まり込んだこともありました。だいたい月の10~15日はほとんどの医局員が病院に泊まり込んでいました。このころの時間外勤務はどのくらいになるのでしょうか。このころは、時間外勤務という概念が希薄だったので、ちゃんと計算したことはありませんでした。それでいて、夏休みが2週間認められていたので、それを心のよりどころに頑張っているのでした。ある日、症例数が多くなってきて、夏休み期間中に手術を組むことが難しくなってくると、教授が夏休みは一週間でいいのではないか、と言い出したことがありましたが、この時は講師であった先輩医師が大激怒して強硬に反対し、その後も2週間の夏休みが認められて現在に続いています。横須賀市立うわまち病院のように少人数で1チームしかない施設では残念ながら、2週間も休んでしまうと、売り上げが4~5%も下がってしまうので現実的には無理です。3日間の夏季休暇に有給休暇や祝日、土日の休日を組み合わせて1週間程度のお休みをもらうようにしています。筆者の場合は、必ず祝日と組み合わせてとって手術日程に極力影響が出ないように設定する為、どうしても旅費が高い時期になってしまいます。

 医局員が派遣されている他病院で、心臓血管外科医が毎月250~300時間近く時間外手当を申請している、として院長から指摘され、100時間以内に減らすように指導されたことがありました。300時間というと、週に75時間、一日10時間の時間外労働をしていることがあります。もちろん深夜の長時間の緊急手術などは徹夜で労働することもあるので10時間以上の時間外労働となることもありますが、一日は24時間しかないので、8時間労働+10時間の時間外労働となると、睡眠時間は最大6時間しかとれず、不正に請求していたもの、と思います。月に100時間の時間外勤務でも、毎日4時間近い時間外労働が必要になりますが、こんなに時間外労働が必要な職場というのは、症例が多くて忙しい、という以上に手術時間が長く、合併症が多い、ということになり、その対処に時間がとられている、ということを表しています。筆者が月に26日間病院に泊まり込んだのも、術後の心不全の為、病院初の補助人工心臓の装着が必要になり、その管理と合併症対策につきっきりになったためでもあります。手術が速く、合併症がなければ、術後も手がかからないので、時間外に働く必要はありません。緊急手術にしても、手術が速ければそれだけ、時間外の労働も短くなります。手術を速くして、次の症例にも対応する、というのが理想です。そうしたスマートに働く医師になりたいものです。

 横須賀市立うわまち病院では、最近はMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery =小開胸の心臓手術)症例が多い為、ますます術後の状態が安定し回復も速く合併症も少ないので定時であがれることが多くなっています。もちろん、オンコールや当直もありますが、それ以外のスタッフは早ければ5時ぴったりにあがっています。筆者の場合は、書類仕事などの臨床以外の仕事も多い為、5時ぴったりに毎日上がれるわけではありませんが、それでも雑用を後回しにしてしまえば、早くあがれます。緊急手術には基本すべて対応しているため、電話連絡が常にとれるような体制にはしていますが、その分、休めるときには休むように意識的にしています。
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急性大動脈解離手術における送血部位

2018-11-21 06:46:17 | 心臓病の治療
急性大動脈解離は分枝の血流障害などが発生しやすい為に送血部位の工夫が必要です。送血部位によってMalperfusionが発生する危険があります。実際の選択しうる送血部位は
①上行大動脈
②心尖部
③腋窩動脈
④大腿動脈
あたりです。

一般に最も多く使われるのは、腋窩動脈と大腿動脈です。腋窩動脈は弓部大動脈以下が順行性であるのに対し、大腿動脈送血では、生理的に逆行性に送血することになり、この逆行性送血が血流障害の原因となることがあるため、ガイドラインでは腋窩動脈からの送血が推奨されています。しかしながら、CT画像から慎重に送血部位を選択することで、Malperfusionを回避することが可能です。
横須賀市立うわまち病院では、現在最も多い送血部位は、上行大動脈と大腿動脈からの送血で、どちらが確実に安全に送血可能かどうかを判別して決定していますが、それがリスクがあるという症例では、腋窩動脈もしくは心尖部送血を選択しています。よって、過去10年間で100例ほどの急性大動脈解離手術を実施してきましたが、最も多いのは心尖部送血、続いて大腿動脈送血、最近は上行大動脈送血が多く、腋窩動脈は少ないです。
 腋窩動脈送血を実施していない理由は、腋窩動脈に人工血管を縫着するのに時間がかかり、手術時間が約1時間長くなるからです。ほとんどの症例が時間外に行う緊急手術である急性大動脈解離では、より短時間で手術を終える必要があり、最も短時間で救命できる手段として送血部位を選択しています。
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神奈川心臓血管外科研究会「低侵襲手術」

2018-11-20 06:14:23 | 心臓病の治療
 神奈川県内の心臓血管外科の研究会が今月30日、横浜で行われます。4大学を中心に県内の主な心臓血管外科施設からの発表演題と、今年は、東京ベイ医療センターの田畑実部長から完全内視鏡下弁膜症手術についての講演がありました。今年の演題募集のテーマは「低侵襲手術」ということで、7施設からの発表がありますが、今回は5演題がステントグラフトやTAVIに関する発表で、小開胸の弁膜症手術に関係する発表するのは2演題だけでした。低侵襲手術といえば、大動脈ステントグラフト手術、TAVI、Mitraclipなどカテーテル治療や、人工心肺非使用の冠動脈バイパス術などの他に、小切開の心臓手術など対象になります。

 横須賀市立うわまち病院からは、低侵襲手術全般に関して、弁膜症手術、冠動脈バイパス術、心臓腫瘍、血栓除去や左心耳閉鎖など対応する低侵襲手術の紹介を行ました。手術動画を短く編集してプレゼンテーションしましたが、幅広く心臓手術についてMICSを適用しているので、反響が大きかったですが、とくに大動脈弁置換のステーンヘンジテクニックによる小開胸手術や、左小開胸の人工心肺非使用冠動脈バイパス手術は、県内では他施設で行っているところがまだあまりない為、反響が大きかったように感じました。
 発表への質問として、ストーンヘンジテクニックの大動脈弁置換術において心筋保護液が注入しにくくなることはないか(冠動脈が変形して灌流不全にならないのか)というご質問を頂きましたが、現在までの経験ではまだ発生しておらず、おそらく視野としても正中切開に非常に近いので心配ないであろうと、回答しました。また、左開胸だけで冠動脈バイパスすべて可能か、というご質問に対して、かなりの部分が可能であるが、確実に成功する症例を選んで行っている旨、返答しました。また、新しい治療に積極的に挑戦している、感染のリスクが少ないので、今後症例が増えていくであろう、などというコメントを頂きました。

 東京ベイ市川浦安医療センター心臓血管外科部長の田畑実先生のMICSに関するレクチャーでは、完全鏡視下手術に向けてステップアップしていく指南的な内容でかなり刺激を受けました。田畑先生は、横須賀市立うわまち病院と同じ地域医療振興協会のグループ病院であり、当心臓血管外科グループの自治医大さいたま医療センターでMICSを開始する際にも最初にご指導いただいた先生です。また、地域医療振興協会のグループ施設の中で唯一TAVIの認定施設で、またTAVIのプロクターをしている、低侵襲治療の先駆者的存在であります。また、この業界きっての、かなりのイケメンドクターです。

 他施設からの発表としては
①外傷による大動脈損傷に対する胸部大動脈ステントグラフト留置術:湘南鎌倉総合病院
②右鎖骨下動脈起始異常(Kommerell憩室)を伴う胸部大動脈瘤に対し胸部ステントグラフト内挿術を行った1例
③TAVI(経腋窩動脈カテーテル大動脈弁留置術)における局所麻酔手術(神経ブロックによる腋窩動脈人工血管縫着による手技操作と鎮静による治療)
④僧帽弁前尖に対するLoundry Rope Procedureによる人工腱索縫着(僧帽弁形成術)

この中で、Loundry Rope Procedureは、人工腱索の長さを弁輪の高さに合わせることを目的とした長さ調節方法で、多く行われている、必要な人工腱索の長さを計測して、それにあわせたループを作成して縫着する個別測定の方法に比較して、決まった僧帽弁輪の高さに合わせるため、個別の人工腱索の長さ調整が不要という意味で、簡便確実な方法といえます。この応用として、横須賀市立うわまち病院で多く採用している(神奈川県内で最も多く使用し、おそくら国内の使用件数が上位に入る)人工弁輪(MEMO 3D)において、このLoundry Ropeにかわる基準となる糸が最初から人工弁輪に装着されており、後尖側の高さに人工腱索の長さを合わせる方法と同じコンセプトです。僧帽弁形成は、術者によっていろいろ好みがあり、どの方法がベスト、とは決められませんが、結果的に逆流が制御されて、それが長期間長持ちするのであれば、どの方法でもいいと思います。講演された田畑実先生も、講演の中で、自分の得意な、慣れた方法で行うのが一番で、特にMICS(小開胸手術)においては、短時間でシンプルな方法で行う事がベストである、と話されておりました。

 今回のテーマでは、県内で実施されている低侵襲心臓手術として、TAVI、ステントグラフト、小開胸の弁膜症手術や冠動脈バイパス術など、低侵襲手術全般について網羅されたような内容でそれぞれの施設から発表があり、それぞれの得意分野はあるとしても、全体を一つのチーム、施設として考えると、神奈川県は総合的にレベルの高い心臓手術を提供している地域と結論できると思います。今回の当番幹事は横浜市立大学の益田教授でしたが、非常にタイムリーなトピックを選択し、非常にまとまった有意義な研究会となりました。神奈川県内の4つの医科大学に加えて、自治医科大学付属さいたま医療センターの関連・元関連である、横須賀市立うわまち病院、横浜市立みなと赤十字病院、湘南鎌倉総合病院が演題を提出し、5大学病院連携の会のような感じでもある、と思いました。
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受動喫煙

2018-11-18 10:43:36 | 心臓病の治療
 毎年の日本国内での受動喫煙による死亡者数は15000人にも上るそうです。先進国ではWHOの勧告指導に従って飲食店や屋内では全面禁煙が行われるところが多く、すでに49か国で喫煙室を残さない全面禁煙になっており、心筋梗塞や脳梗塞、喘息による入院が最大39%減少しているそうです。受動喫煙に関して世界で初めて論文を書いたのは、平山雄という日本人だそうです。

 日本は、受動喫煙に対する対策は世界最低レベルとWHOから酷評されているそうです。特にオリンピック開催まで罰則規定を含めた強制力のある法律を制定して禁煙を進めるようにWHOからも提言されています。
 国会でも議論になっているようですが、国会議員の中にも禁煙を進めることに反対する議員もいてなかなか進んでいません。

 そうはいっても、列車の中や映画館、駅構内など禁煙のスペースは広がってきています。飲食店も禁煙のお店のほうが今はお客さんが入りやすいし、ホテルも禁煙室から埋まっていきます。少しずつは進んでいると思います。

なかなか日本人のマナーの悪さは、いろいろなところで最近話題ですが、人が見ていなければ何やっても構わない、というような心理が強く働く国民性も関係しているのかもしれません。
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心臓手術後の大網充填術を行った患者さんのその後

2018-11-17 13:22:53 | 心臓病の治療
 胸骨骨髄炎や縦隔炎に対して、感染の制御および閉創目的に大網充填術を行い、感染が終息したあと、その後はどうなっているか。

 退院して外来通院されている患者さんの創部をみると、創は残りますが、血流が改善するためか、創部の癒合が悪いという患者さんはほとんどいません。大網自体に血流があり、そこから周囲に血流を供給するというよりも、皮膚や組織にかかる緊張が除かれていることが状態を良くする理由かもしれません。こうした患者さんは日常生活に何の支障もなく生活を送っています。

 大網を胸骨の間に設置するため、胸骨が若干動揺しますが、それによって呼吸が抑制されるという症例は稀です。しかしながら、もともとFrail(フレイル)な症例(虚弱で体力がない高齢患者)では、もともと呼吸の状態がぎりぎりであり、開創している状態から大網を充填して閉創したことをきっかけに呼吸する力が低下して長期間人工呼吸器の補助を必要になった患者さんを経験したことがあります。この人工呼吸器からの離脱には数カ月を要しましたが、幸い最終的には少しずつ呼吸筋が回復したのか、人工呼吸器離脱できました。この場合は長期の人工呼吸管理のために気管切開が必要になります。


 
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急性大動脈解離の発症は朝に多いのか?Chronological Medicineは現代社会に当てはまるのか?

2018-11-16 06:03:06 | 心臓病の治療
 Chronological Medicine=時間医学は、生体の日内変動と病気の発症や、治療効果が最も高い時間帯が存在することを応用するものです。
 
 朝起きて、食事をして、日中働き、夕方に仕事を終えて、夜に就眠。こうしたサイクルを人間は毎日繰り返していく中で、このサイクルに最も適応するように体のホルモンや循環なども変動しています。その代表の一つが血圧の日内変動で、就眠中は血圧も心拍数も低く、目覚めた直後が一日で血圧が最も上昇するモーニングサージがあり、そのあと徐々に安定する。日本人の場合は、二峰性のパターンをとることが多く、夕方から夜にかけてもう一つのピークがあるといわれています。欧米の生活パターンでは、血圧のモーニングサージがあり、そのあとは安定して別のピークはない一峰生であると大学の授業で勉強しました。
 それに比例して、心筋梗塞や脳卒中(くも膜下出血や脳出血など血圧に関係する急性脳疾患)は朝に発症することが多い、と言われ、また脳梗塞は夜に作られる(就眠中に血圧が低下して脳灌流も低下してる上、就眠中の水分無摂取による脱水傾向が関与)とも言われています。

 それでは、心臓血管外科で扱う急性疾患も日内変動や実際の行動と関係あるのでしょうか?以前、急性大動脈解離の発症時刻を100例ほど調べたところ、血圧の日内変動と同じように朝と夜のピークがあり、日内変動に一致するのではないか、という仮説で、日本胸部外科学会の総会に発表演題として応募したことがありましたが、残念ながら採択されず却下されました。症例数が少なかったせいか、採択する委員の先生には興味を持たれなかったのかもしれません。腹部大動脈瘤破裂で同様に調べたところ、こちらは症例数が少ないせいか、バラバラでした。それから10年以上してから、たしか300例ほどの症例を発症時刻、転帰、気温、気圧なども含めてまとめて発表、論文にもしているのを見たことがあります。ここではやはり寒い時期に多い事や、気圧の変動と関係があるのでは?と推測されていました。血圧が上昇する時間帯は明らかに循環器救急疾患の発症リスクが高まるタイミングであることは間違いないでしょう。なので、こうした時間帯は血圧の自己測定を繰り返したり、リラックスする時間を設けるなど、体を防御的な行動をとるよう心がけるタイミングでもあると思います。

 たしかに、血圧サージの時間帯に発症していると思われる急性大動脈解離の症例も多く見受けますが、日常診療をしていて感じるのは、あまり関係ないのではないか、ということです。これは現代人の生活パターンが多様で、覚醒したり活動している時間帯がばらばらであることが原因であるかもしれません。24時間オープンのお店も多い中、24時間働いている人が存在し、また、そこを利用している人も数多くいます。血圧サージの時間帯がバラバラなのかもしれません。また、入浴中に発症したり、ジムでベンチプレスをしている時に発症、ゴルフ中にグリーンの上で発症したり、警察の取り調べ中に発症した、という患者さんもいて、血圧変動と関係あると思われるひともいます。しかし、その一方で、就眠中に胸痛で目覚めた、とか、知り合いと会話中に突然意識消失した、などの安静中の発症も少なからずいます。

 急性大動脈解離の発症には血圧のサージだけでなく、平均血圧の上昇や血管の脆弱性の問題など、瞬間的な血圧上昇以外のファクターも発症に関与するのかもしれません。

 明らかと思われるのは、発症する日は、各地で同時多発的に発症するということです。これはやはり天気や気圧などの天候要因がやはり強く関与している為と思われます。
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NCD Feedback 医療の質プロジェクト

2018-11-14 17:56:27 | 心臓病の治療
 現在は国内のほとんどの心臓血管外科施設が参加して、詳細な手術の情報を学会のデータベースに登録するようになっています。そのデータベース事業が始まって10年以上がたち、データの蓄積から、新しい知見が得られたり、全国平均の成績なども評価可能となりました。
 このデータベースを利用して、各施設の成績が、全国平均よりも優れているのか、またはその逆か、なども計算できるようになりました。しかしながら、ハイリスクを多く扱う施設ではどうしても成績が悪くなる傾向にあるため、この術前のリスク因子も計算した上での予測値を算出することが重要になります。
 また患者一人一人の手術結果予想(死亡率や合併症の発生率など)もこのデータベースに患者情報をインプットすることにより計算できるようになっています。

 さて、こうしたデータベースの新たな試みとして、Feedback機能が加わり、各施設の状況をデータベース事業に報告し、それと施設の手術成績からアドバイザーが改善点などについてアドバイスしてくれるシステムが始まるようです。そのアドバイスに基づいた診療計画をたてて実行し、成績が向上したかどうかと評価するようなシステムになります。
 
 せっかく国を挙げてのデータベース事業なので、国全体の手術成績が向上することが目的でしょうから、総論としては賛成です。しかしながら、そうした事業に参加することで増加する事務仕事の量が増加することに関しては仕事が増える一方、といった印象です。
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心臓血管外科ウィンターセミナー2019

2018-11-13 19:44:18 | 心臓病の治療
http://www.winter-seminar33.com/index.html

心臓血管外科ウィンターセミナー2019は、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科が当番幹事となっております。約20年ぶりの当番幹事です。前回は、越後湯沢で開催した時で、秋田のへき地勤務中だったので、雪国から雪国という感じで参加したことを記憶しております。
今回は北海道で、移動が少したいへんですが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科スタッフも医局員として、いろいろ雑事もあるため、予定手術は入れずに参加予定です。この間は緊急手術の受け入れも困難となってしまいますが、こうした時には、周辺の医療機関へ、事前に連絡しております。
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関東手術手技研究会

2018-11-11 05:04:56 | 心臓病の治療
 11月10日 関東手術手技研究会が都内で開かれました。毎年開かれる研究会で、心臓血管外科手術のなかでも、特にその道のプロが、専門医向けに講演するかなりニッチな、専門性の高い研究会で100名以上の参加者がありました。
 今回のテーマは、一針から学ぶ でした

内容として
① 冠動脈バイパス術  心拍動下冠動脈バイパス術は麻酔科とのコラボ手術である 
② 僧帽弁形成術    運針 完璧な僧帽弁形成で長期の逆流再発がない手術を行うには
③ Nowood手術の工夫  手術死亡率がこの20年で大幅に改善している
④ 大動脈(基部)手術における止血剤の使用方法
⑤ 大動脈弁形成
⑥ 左室形成術の治療成績
⑦ 弓部大動脈置換術の手術手技

について、その道の第一人者から、非常にわかりやすいビデオで、ニッチな部分のレクチャーがありました。
流れるようなプロの手術は、スムーズに短時間で終わり、またビデオは編集されていることもあり、見ていると、だれでも簡単にできるのではないか、と錯覚をおぼえるほどです。美しい手術は見てて飽きません。特に手技上、新しく導入したいというほどの技術はありませんでしたが、大動脈弁形成は将来どのくらいまで普遍化できるのか、普及するのか、生体弁置換よりも成績が上回ることができるのか、という疑問と将来の期待があります。

大動脈弁形成術は、まだ大動脈弁閉鎖不全症における実施率は全国の統計でも5%以下です。普及しない理由として
①生体弁置換のほうが長期成績が良い(形成術のほうは逆流再発率や、逆流遺残率が高く、いまだ道半ばですが、うまくいくと長期的にも安定している症例も多いようです)
②時間がかかり、リスク上昇
③大動脈弁閉鎖不全症の割合は狭窄症に対して小さいため、適応になる疾患は中小規模病院では少ない
④人工弁を使用しないため、スポンサーが付きにくく、学会などでの宣伝がしにくい(これは自己心膜による再建手術も同様と思います)
など考えられます
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社会問題としての処方箋薬物の薬物依存

2018-11-10 12:37:35 | その他
 昨日、おとといと、たまたま連続して聞いた話。

 アメリカでは、術後の疼痛や慢性の疼痛に容易にオキシコンチンという麻薬性鎮痛薬を処方されることが多く、若年者のこの処方箋薬物に対する依存が増えていて社会問題になっているという、というアメリカ人の話。高校生などでこの薬物依存による死亡者も身近に出ているらしいのですが、処方箋薬物のため、あまりニュースなどでは問題になっていないといいます。不用意に、そして不必要な量のオキシコンチンを処方する医師が少なくなく、それを転売したり、盗難して売買する事例も数多くあるといいます。日本では癌患者の疼痛管理に使用される以外は、処方されることはなく、これを悪用して薬物依存が健常者に発症するそいう意識は日本には、もしくは日本人の医師にはありません。ストリートでDrug Dealerから麻薬を買うのであれば、映画やドラマで見るような感じで想像もできますが、病院で処方される薬物で、実際に薬物依存が発生して多数の死亡者も出ている、というのは日本では想像できません。

 また次に聞いたのは南アフリカ出身の人の話で、南アフリカでは、医師が容易に「リタリン(メチルフェニデート)」という薬物を処方し、乱用している実態があるといいます。日本ではナルコレプシーなどの睡眠発作が起こるような病態に対してのみ、精神科領域で限定的に処方されるのに対して、南アフリカでは学生の試験勉強はリタリンなしでもできない、とも言っていました。リタリンはカフェインとアンフェタミンの中間の覚醒作用があり、依存性はアンフェタミンほどではないにしても、依存性があるので、リタリンの中毒がたくさん発生しているといいます。病院で簡単に処方してもらえるので、学生の間でも蔓延しているそうです。一方、ヘロイン、コカインなどの麻薬はその辺で路上で簡単に購入できるそうです。

 また、オーストラリアでは、タバコの値段が高騰し、ひと箱30~40ドルと、日本の10倍近い値段で売られているそうです。たばこ税をあげて、国民に吸わせないような政策だそうで、それによって疾病患者が減少すれば、医療費の抑制にもつながる理にかなった政策と思います。しかしながら、オーストラリアでは、タバコが高いためにそれよりも安価に購入できる覚せい剤アイス(アンフェタミン)を使用する人が非常に増えているそうです。そのために錯乱状態に陥った人が殺人を犯すという事例が後をたたないそうです。アンフェタミンは日本人が開発した薬物だそうで、旧ドイツ軍で最初に採用され、その後旧日本軍が軍用に製造して兵士が使用していたことから一般化し、戦後も市販されていたそうですが、現在は禁止薬物になっています。

 海外ではこうした話題はかなり身近な話なのだそうですが、日本では一時、ハルシオンがそれに近い扱いを受けていた時代もありましたが、それほど乱用するような文化ではないところが、日本は世界一安全な国、といえる所以でもあるとおもいます。
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第3回 心不全パンデミック講演会(小開胸大動脈弁置換術)

2018-11-08 17:16:45 | 弁膜症



今年から始まった心不全パンデミック講演会、第3回になる次回2019年3月の内容で、小開胸の大動脈弁置換術について講演させていただきます。横須賀市立うわまち病院で行っているStonehenge Techniqueは、神奈川県内ではまだ実施している施設がほとんどなく、この術式の導入によって合併症なく、回復が速いことを実感しているため、その新しい手術方法の紹介をする予定です。横須賀市立うわまち病院では、小開胸大動脈弁置換術は、大動脈弁置換術における標準手術としています。

 しかしならが、小開胸で大動脈弁置換術行うための条件として、
① 第4肋間から大動脈弁までの距離<15cm
② 上行大動脈の性状が良好で、安全に大動脈遮断が可能
③ 左室の壁運動が保存されている(左室駆出率<50%  左室拡張末期径<55mm)
④ 過去に右開胸手術の既往がない
⑤ 左心耳切除を同時に行う必要がある(左心耳縫縮でもよい症例は可)
⑥ 左室流出路心筋切除を併施する必要がある
⑦ 肺機能が悪く片肺換気に耐えられない
⑧ 上行大動脈径>45mmの拡張症例
⑨ 冠動脈バイパス術や胸部大動脈手術の同時手術が必要
など

 特に小開胸で積極的に実施したい条件として
① ストロイド内服中、糖尿病患者など易感染性素因を持っている
② 大動脈の性状が良好
③ 高齢でADLが低下している

実際に最近の症例で、小開胸手術とせず、従来の胸骨正中切開を行った症例は以下の通り
① 右肺の術後で癒着の危険がある
② 上行大動脈の性状不良で遮断位置の工夫が必要で、かつ、場合によっては上行大動脈置換併施の必要があった
大動脈弁置換のみの場合は、胸骨部分切開でこれも約8cm以下の皮膚切開で最近はおこなっています。
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上大静脈の切除・人工血管置換術

2018-11-07 10:53:14 | その他
 上大静脈を切除または人工血管置換する必要のある疾患、心臓血管外科医にとっては珍しい手術となりますが、主に肺癌や縦隔腫瘍による上大静脈への直接浸潤がある場合に適応となります。

 切除の仕方として、部分切除を行い残った静脈壁を縫合して血流を維持する方法と、完全に人工血管置換する必要があります。人工血管置換には主にゴアテックスを素材にした人工血管を使用することが多いです。大静脈は低速系の血管なので血栓閉塞をしやすいといわれており、その予防のために抗凝固療法を継続する場合が多いです。
 過去に自分が経験した症例では、切除部分の上下に脱血管を挿入して連結し、大静脈遮断と同時に連結した脱血管をシャントのルートとして使用して上半身の鬱血を防ぐ方法を採用しています。一説では単純遮断でも十分問題なく手術できるとも言われていますが、万が一大出血した場合などの対処も含めてシャントのルートがある方が安心して手術操作をすることを可能にするにが最大のメリットです。

 上大静脈への直接浸潤が悪化すると、上大静脈が閉塞して、上半身が浮腫になる、上大静脈症候群を呈する場合があります。この予防のためにも手術による人工血管置換術は有効です。
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人工弁縫着に関して糸結びをする順番(大動脈弁・僧帽弁)

2018-11-06 18:49:22 | 弁膜症
大動脈弁における、Supra-Annular Positionに対して行う人工弁縫着
 これは特に胸骨正中切開によるアプローチにおいてはLCC⇒RCC⇒NCCのNadir(英和辞典によると、ネイダー、もしくはネイディア、と発音します Nadirとは(人生の)どん底という意味だそうです)から結紮していきます(Stonehenge法による右小開胸アプローチでは最も遠いRCCから始めて、LCC、NCCの順にNadirから結紮します)。深いところを最初に人工弁輪のカフと縫着させて、あとは順番に交連に向かって上がっていく方向に結紮します。これが一般的な方法です。これを逆に、交連部から結紮して、最後にNadirを結紮するには交連とNadirの高低差を最後に弁輪を大動脈側に引き上げて人工弁に逢着するため、弁輪が非生理的に持ち上げられて冠動脈閉塞や組織のカッティングによる人工弁周囲逆流のリスクが高くなります。
 Intra-annular positionも同様に、Nadirから結紮していくべきではないか、と最近思います。過去に何度か、人工弁縫着直後に右冠動脈の入口部が閉塞して冠動脈バイパス術をその場で追加した経験があります。これはいずれも機械弁によって発生していましたが、機械弁の弁輪は完全にフラットなので、生理的な弁輪の形態に全く追従しないことが関与しています。
 上記マットレス縫合ではなく、単結節で縫合する場合もNadirから結紮する術者が多いように思います。

僧帽弁における結紮の順番は、1/3周ずつ、尖の中心P2からP1~前交連側に向かって結紮した後、P2からP3~後交連側に向かって結紮した後、最後は前交連から前尖側と後交連に向かって結紮します。こうした順番にする理由は、左室破裂は必ず、中隔の対側で最も左室自由壁が大きく動く部位に発生しやすいからです。過去に自分の目で見た、もしくは耳で聞いた左室破裂の症例は全て、P1領域、すなわち後尖の中心よりやや外側で、左室に向かった8時の方向の弁輪直下の筋肉が裂けて発生します。この最も可動性に富む部位の心筋に過度なストレスが、収縮時にかかることが左室破裂の原因であることは明らかです。よって、この破裂しやすい部位を最初に人工弁とゆがみやストレスの無い位置に最初に固定することが、この部位の心筋に過剰なストレスを与えないことにつながります。

 こうした理論のもと、結紮の順番を決めている外科医は他にいないかもしれませんが、横須賀市立うわまち病院では、この方法で教育しているので、そのうち一般化するかもしれません。

(自分が教育を受けた頃は、Nadirを最後に結紮するように指導されましたが、冠動脈閉塞、組織のカッティングによる弁周囲逆流の経験から、現在の方法に変更しています)
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Avalus

2018-11-05 23:24:41 | 弁膜症
http://www.medtronic.com/us-en/healthcare-professionals/products/cardiovascular/heart-valves-surgical/avalus-bioprostheses.html

新しい人工弁がMedtronicから発売されました。Medtronicの人工弁というと、豚弁のMosaicでしたが、あたらしく牛弁を製作しました。弁尖の辺縁にかかるストレスが、ステントの柔らかさにより低減し、より長期間の使用に耐えうる構造になっているといわれています。弁口面積もMagana弁よりも大きいというのがメリットです。将来のTAV-IN―SAV(Vaile in Valveテクニック)を念頭に、ステントの基礎部分が固くなっている構造です。

実際に弁輪部分のステントが非常に堅いのでTAV-IN-SAVには適しているのでしょうが、自己の弁輪に対する追従性が悪くフィッティングが悪いという危険性があります。これにより、バルサルバ洞が狭い、ST接合部が狭い症例には入れにくく、最悪、弁輪が整理的な位置から変形して、それによって冠動脈入口部が変形したことにより、冠動脈閉塞が起こるリスクがあります。冠動脈口が大動脈弁輪より近く、かつ、バルサルバ洞が小さい狭小弁輪にはこのリスクがあります。また、これも糸結びの順番などにも影響されるため、結ぶ順番が悪くて、不運が重なると冠動脈閉塞が起こる、ということかもしれません。

この新しい人工弁の説明会が昨日都内で開催されました。全国から心臓血管外科の部長クラスが150人ほど集まりました。

企業のほうからの説明会ではどうしてもNegativeな側面が出てきませんが、勉強になりました。人工弁の業界もいろいろと変化がものすごい勢いで起きています。
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