横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心臓血管外科のチーム力

2018-10-31 17:57:48 | 心臓病の治療
 心臓血管外科の診療は、チーム医療といわれています。特に最近は、ハートチームといい、循環器内科、心臓血管外科、麻酔科、集中治療部、看護師、薬剤師、リハビリ担当者、栄養士など病院の総合力をあげて治療にあたる体制をいいます。
 特に、TAVIなどにおいては、チームにおいて診断、治療方針などを決定していくプロセスが重要視されています。

 心臓血管外科のチーム力としては、手術中に一人の術者がすべての内容に責任を持つのは当然ですが、手術に参加する一人ひとりのメンバーの能力が手術の結果を左右する重要なファクターになっているとき、初めて実感されるものです。特に重症の症例や、予想外の事態に陥ったとき、急変などで手が足りないときなどは、その実力が試されるときです。

 以前、小開胸での大動脈弁置換手術中、思わぬ部位から出血し、その出血の制御に術者が手を取られて離せないときに、第一助手、第二助手が大腿動静脈から直ちに送脱血管を挿入して人工心肺を装着し、それによって出血のコントロールができて事なきを得たことがありました。最近は毎週、小開胸の心臓手術をしているので、一人ひとりの役割分担も習熟されているので、スムースに対処可能となってきました。心臓血管外科チームとしての能力が充実してきた、と感じた瞬間でした。

 冠動脈バイパス術では、心臓を脱転して心拍動下にバイパス血管を吻合する為、その間の循環動態が不安定になりやすくなります。この辺の、循環管理を上手に行いながら、術後管理もやりやすいような輸液量などで手術を終えること、これは外科医と麻酔科医とのチーム力がものをいう手術です。

 胸部大動脈瘤手術など、複雑な人工心肺回路で、手順が多く、温度管理が重要な手術では、その手術の進行にあわせて適切に温度管理をするなど、外科医と人工心肺技師のチーム力がものをいいます。

 手術全般において、手術室内を手術が滞ることなくスムースに進行するように、全てをオーガナイズしているのはナースです。事前に使用する器材、針糸などを確認の上、流れを止めることなく手術が進む、こうして気持ちよく手術できる環境を作るのも、ナースを中心とした手術室にいるスタッフ全員のチーム力です。

 またICUスタッフ、病棟スタッフ、リハビリ担当者、栄養士、事務職員、薬剤師、ソーシャルワーカーなど全員が一人の患者さんを中心に、ベストな治療と、その流れをスムースに進めていくこと、いい治療には病院全体のチーム力が必要です。
 たくさんのスタッフに支えられて成り立つ心臓血管外科の診療ですので、感謝とコラボレーションの気持ちを忘れずに日々診療にあたっていくことが大切と考えております。

 
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低侵襲心臓手術・小開胸心臓手術のリスク

2018-10-30 17:27:05 | 心臓病の治療
 MICS = Minimally Invasive Cardiac Surgery
 最近注目の低侵襲心臓手術ですが、患者さんのご家族に、そのリスクは?という質問をあらためてされました。
 
 低侵襲だからリスクが少ない、というのはもちろん合理的ですが、メリットばかりが強調される懸念があるのも事実です。

 右小開胸の弁膜症手術において、胸骨正中切開と比較した場合のリスクは
① 片肺換気で手術するため術中の低酸素血症が起きやすい・術後の無気肺や再膨張性肺水腫のリスク
② 肺が癒着していると手術が出来ない可能性があり、また癒着しているかどうかは術前検査ではわからない
③ 肺損傷のリスク
④ 視野が悪く、出血した場合は、止血が困難
⑤ 術野が遠く、専用の器具を手が届かないところで操作するので手技が難しくなり時間もかかる
⑥ 肋間神経痛が遷延する可能性
⑥ 大動脈遮断の位置が限られる・術中の表在エコーでの遮断部位の評価が出来ない
などです。

 考えうる内容として、このくらいの説明をした時点で、「聞かなければよかった。これ以上聞きたくない。」と言われてしまいました。幸い、その質問した患者さんは何のトラブルもなく予定通りの手術(僧帽弁形成+メイズ手術)を3時間50分で終え、術後の経過も良好です。

 低侵襲手術なので、トラブルの発生によって過大侵襲になっては意味がありません。絶対にうまくいく、と判断した症例を選んで実施しているため、そうしたトラブルには幸い過去見舞われたことはありませんが、常に想定しておく必要があると思います。

 
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出血に対する下行大動脈遮断

2018-10-27 19:20:36 | 心臓病の治療
 ドラマなどでは出血性ショックに対して下行大動脈を遮断して、下半身への血流を少なくする分、冠動脈や脳への血流を優先することで救命を試みる、というシーンが見られます。
 しかしながら、実際にそれで救命できた患者さんはどれだけいるのか、きわめて疑問です。

 大動脈遮断を最も多く経験する心臓血管外科医としての常識として、大動脈遮断して、その次の治療手技に直ちに移行しなければ救命は不可能です。心臓血管外科領域で有効な可能性があるのは、腹部大動脈瘤破裂に対する止血です。腹部が血腫で覆われ通常の大動脈瘤の上流の大動脈を遮断することが困難な場合は、短時間にアクセス可能なのは左開胸して下行大動脈を遮断し(経験上、最短2分で遮断した症例があります)、それで出血をコントロールしておいて、短時間のうちに(可能なら10分以内)大動脈瘤のネック(直上部)を遮断かけ直すことで救命の可能性が出てきます。できれば下行大動脈の遮断時間は30分以内でないと、脊髄虚血などおこるので救命の意味が無くなります。最近は同様の遮断方法として、左上腕動脈からバルーンカテーテルを挿入して、血管内治療として大動脈遮断する方法を推奨している施設もあります。

 ドラマでは多発外傷による出血性ショックに対して行ったりしていますが、また、救急医でこうした症例にやりたがる医師もいますが、遮断したあとの、止血、血行再建などにつなげる目処がないと意味がありません。特に大動脈遮断などしたことない医師がやるべきではありません。

腹部外傷において出血の一時的制御の為に大動脈遮断を置く場合は、基本的には小網をあけて、腹腔動脈上の腹部大動脈を遮断し、出血の制御ができ次第、遮断解除する必要があります。その操作は通常、手術台の上でないと困難です。救急部に手術室の設備があったりハイブリッド機能があったりする施設も最近は見られますが、残念ながらそこに手術室スタッフや手術器具を常備していないためいちいち手術室から道具を持ってきて、また足りないものは手術室から補充するなど有効に機能できない環境が多いのも事実です。結局、ハイブリッド手術室の完備した救急センターを持つ前任地でも、日ごろ心臓手術をしている手術室に患者さんを運んでから処置をするのが最も救命の可能性が高いので、そのような体制としています。それでも手術室まで搬送するのが間に合わないから、という理由で開胸したがる医師もいるようですが、慣れない医師が開胸して遮断するのにかかる時間より、明らかに手術室へ搬送する時間の方が短いです。筆者も過去になんどか、救急室で、開胸したり心嚢を開放した症例がありますが、救命できた経験はありません。

 手術室に搬入して、手術台の上で開胸したり、心嚢を開放した症例に関しては、全て救命できています。手術台の上で、最初に下行大動脈を遮断した症例は、脊髄虚血による対麻痺になった症例、術後の多臓器不全で最終的に失った症例、限局的な下行大動脈遮断部位の解離を発症した症例などありますが、おおむね救命できています。しかしながら、ここ10年近く左開胸して先に下行大動脈を遮断する必要のあった症例はなく、それよりも腹部大動脈瘤破裂でも、開腹し短時間に瘤の上流で遮断できることがおおく、この方が確実に合併症なく救命できます。

 なので、ドラマで派手に開胸して下行大動脈遮断するシーンに憧れて救急医を目指す医師が実際に増えていること自体は歓迎すべきことかもしれませんが、こうした手技に関しての素人が決して行うべきではないと思います。



実際の救急の現場での下行大動脈を遮断を行って救命できた症例は10%だそうです。バルーンによる大動脈遮断のほうが、救命率が高いようですが(36%)、この中には完全に閉鎖されずに下半身の血流が残っていることで救命された症例が含まれているために救命率が若干高いのかもしれません。

以下、関連記事  https://www.m3.com/academy-flash-report/articles/10532?refererType=open

重症外傷患者の蘇生処置としてREBOAは、ACCと比較して入院死亡率を有意に低下:日本全国コホート研究
2016年11月14日配信

 心停止を起こし得るような重症体幹外傷を有する患者に対して、大動脈遮断による蘇生処置の一つとして大動脈クランプ術(Aortic Cross Clamping:ACC)が古くから用いられているが、その有効性については依然として議論の余地がある。その一方で、大動脈内バルーン遮断(Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta:REBOA)は腹部大動脈瘤破裂、消化管出血、分娩時出血などによる出血性ショックに対して有効であることがわかっている。そこで、筑波メディカルセンター病院 救急診療科の阿部智一氏らは、日本人重症外傷患者における蘇生処置としてのREBOAの有効性をACCと比較検討し、その結果を、11月12日の「蘇生科学シンポジウム」の中で発表した。阿部氏は、REBOAがACCと比較して院内死亡率を有意に低下させ、重症外傷患者の蘇生処置としてACCに代わり得る可能性があると解説した。

 本研究は、2004年~2013年における日本の全国外傷登録データ(日本外傷データバンク)をもとにした、レトロスペクティブな検討である。対象は、REBOAまたはACCのいずれかにより蘇生処置を受けた成人患者とし、救急搬入時に心肺停止の患者または解剖学的外傷スコア(abbreviated injury scale:AIS)6の患者は除外した。主要評価項目は院内死亡率とした。
 対象患者は全903例であり、REBOAを受けた患者(REBOA群)は636例、ACCを受けた患者(ACC群)は267例だった。両群とも鈍的腹部外傷患者が9割以上を占めた。また、頭部外傷重症度(glasgow coma scale:GCS)はREBOA群10、ACC群5でACC群でより重症患者の割合が多かった(p<0.001)。外傷重症度スコア(revised trauma score:RTS)はREBOA群5.2で、ACC群4.2と比較して有意に高かった(p<0.001)。さらに、予測生存率もREBOA群0.43で、ACC群0.27と比較して有意に高かった(p<0.001)。
 開胸患者の割合は、ACC群60%に対してREBOA群11%で有意に低く、動脈塞栓術(TAE)実施患者の割合は、ACC群6.7%に対してREBOA群24%と有意に高率だった(いずれもp<0.0001)。
 主要評価項目である院内死亡率は、ACC群90%に対してREBOA群は67%と有意に低かった(p<0.0001)。副次評価項目の救急診療部(ED)死亡率もREBOA群で有意に低率であり、ACC群49%に対してREBOA群22%だった(p<0.0001)。これらの結果は、RTS、解剖学的重症度(injury severity score:ISS)、外傷予測生存率(trauma and injury severity score: TRISS)で調整後も同様の傾向を示した。
 さらに、二次解析として傾向スコアを用いて後背景因子を調整したコホート304例(各群152例)においても比較検討した。その結果、院内死亡率、ED死亡率ともにREBOA群で低く(オッズ比はそれぞれ0.261、0.182)、REBOA群では胸部AISスコアがより軽度であった(3.8 vs. 4.2、p<0.001)。
 最後に、阿部氏は「今回の結果は、REBOAが血管内デバイスであり、重症体幹外傷患者に対して、低侵襲性かつ低外傷性な処置が可能なために得られた」と述べ、「開胸の必要がなければ患者の死亡率は低下し得る。」と結論付けた。
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うわまち病院建て替えについての説明会

2018-10-26 06:04:53 | 心臓病の治療
健康部長


うわまち病院移転建て替えについての
説明会を開催します

うわまち病院の建て替えについては、現地での建替えを断念し、移転建て替えを行う方針決定をした旨の発表を本年8月に行ないましたが、本決定に至った経緯等についての市民説明会を開催します。



日時

場所

第1回 10月28日(日)
15:00〜16:30 うわまち病院南館5階 総合リハビリテーションセンター
第2回 10月29日(月)
18:30〜20:00 ウェルシティ市民プラザ3階 第一研修室

(第1回、第2回とも同一内容で行いますが、場所が異なりますのでご注意くださ い。)



◾内容
(1)うわまち病院建替え方針決定までの経緯等の説明
(2)質疑



◾申込み
事前申し込みは不要です。 当日、直接会場にお越しください。



◾その他
駐車場の台数に限りがあるため、なるべく公共交通機関のご利用をお願いします。 駐車場の利用は有料となります。

※移転先及びうわまち病院の跡地利用については現在検討中である為、本説明会での説明は行ないません


残念ながら都合があわず、一横須賀市民として出席することはかなりませんでしたが、内容的にこれからどうしていくのか、という最も気になることは説明会の内容には入っていないようなので、今後の動向を見守りたいと思います。
 しかしながら、上町商店街としては、現地での立替を主張しており、拡幅にも協力の意向を示されていると聞きました。移転の反対運動も起こっているとのことで、まだ今後どうなるかは見守っていく必要があります。
 早期に病院立替は必要ですが、今後の10年、20年先を考えると、現在の場所以上に好立地のロケーションはありません。
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国民保護研修会

2018-10-26 05:39:01 | その他
 医療は患者さんの命を守るために遂行するミッションですが、そのミッションも病院の施設や、医療器具、薬剤、そしてそれを駆使する医療スタッフなど総合的にすべてそろって初めて実施可能です。しかしながら、それを根底から脅かす事態があるとすると、巨大災害やテロリズムや戦争行為による攻撃などでしょうか。そうした緊急事態に対処することも普段から想定して準備しておくことが国家として重要です。2020年に行われる東京オリンピックなど海外から多くの外国人が来日するイベント時には特にテロ行為などが発生する危険が高く、今から準備をしておく必要があります。国際平和が強調される昨今では、平和の祭典であるオリンピックゲーム中に戦争行為をしかける国家はありませんが、テロ行為が起こる可能性は十分にありえます。

 10/26 本日 神奈川県の国民保護研修会が開催されます。これは2016年に施行された国民保護法をもとに、そうした大災害やテロ、戦争行為が国民に被害が及ぶことを現場で最小化するための行動指針などを学ぶ目的で開催されます。行政、消防、警察、自衛隊、海上保安庁、医療関係者など100名が参加予定です。筆者も災害拠点病院の一員として病院を代表して参加しました。

 現在の世界のテロ情勢や、CBRNE(シーバーンと呼んでいます)についての基礎知識、万が一テロが発生した場合に被害を最小限にするための対処をするための研修会です。CBRNE=Chemical, Biologocal, Radiologocal, Nuclear, Explosive Weapon いわゆるテロなどに使用される攻撃武器です。最近はそうした武器がなくとも新たな武器として、車両やナイフなどを使用したテロが起こる状況が昨年から増加しています。また、訓練を受けたテロ組織が国内に潜入してくるというよりも、Home Grown terorristのほうが脅威といわれています。爆弾の作り方もネットで公開されていて、実際にそれでつくられた爆弾をボストンマラソンなどで使用された事例もあります。

残念ながら、急性大動脈解離の緊急手術対応のため、横須賀に急行しなければならず、途中退席となりました。心タンポナーデショックできわめて重症の患者さんでしたが、無事に手術は終了し、救命されました。途中退席になったのは非常に残念でしたが、それでも一人の命がそのおかげで助けることが出来たのは、心臓血管外科医としての本懐を遂げた、と思って自分では納得しています。その後も講演会の演者で横浜に戻ったので、その日は横須賀ー横浜をタクシーで一往復半しました。
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やはり病気の最も多いのは内科

2018-10-25 17:54:13 | 心臓病の治療
 心臓血管外科は範囲の狭い領域に対する疾患を治療対象にしています。その代わり、一つの疾患を治療するのに深い知識と、複雑な治療プロセスが必要になることが多いです。

 一方、心臓血管外科が扱う病気を紹介してくれるのは主に内科医です。内科の医師は、幅広く、そして数多くの患者さんと疾患に接し、その中から適切に治療先を紹介したりしています。なので、病院にとって、内科医や救急医は、基本中の基本です。内科医の活躍なしに心臓血管外科の発展はありません。
 
その意味で、心臓血管外科医も内科の勉強もしますし、内科医にも心臓血管外科のことを知ってもらうべくコミュニケーションをとる必要があります。

また個人的に頼まれたときは、心臓血管外科とは無関係の疾患も診察し、診断がついてから専門家に紹介したりしています。
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MICS-CABG 低侵襲冠動脈バイパスの新しいスタビライザー:テンタクルズNeo

2018-10-23 06:59:54 | 心臓病の治療
 人工心肺非使用冠動脈バイパス術=Off Pump Coronary Artery Bypass Grafting =OPCABにおいて、心臓を脱転する際のポジショナーの一つにテンタクルズがあります。これは、Japan Original、東京医科歯科大学教授の荒井教授が開発した画期的なデバイスです。従来のポジショナーは心尖部に吸引する吸盤を装着して、そこを視点に心尖部を持ち上げて脱転するのに対して、テンタクルズは3つの吸盤がついたポジショナーを自在に操ることによって、より三次元的な心臓のポジショニングを可能にすることで画期的です。

 今回の胸部外科学会では、このMICS-CABG用に改良した、テンタクルズNeoを紹介されました。国内で最もMICS-CABGの経験のある、坂口太一先生(兵庫医大教授)が実際の臨床使用について報告されておりましたが、このテンタクルズは、左小開胸の手術において最も威力を発揮できる商品で、改良されたNeoは、より吸盤部分が小さく、さらに牽引する方向について、またポートから挿入することを想定されて設計されているところが素晴らしいです。

 先日、神奈川県内のNOの研究会で坂口教授が講演にいらしたときに、NOではなくMICS-CABGについて懇親会でいろいろ質問させていただく機会がありましたが、坂口先生はMICS-CABGをすでに150例以上も経験されているそうで、まさに国内のMICS-CABGの第一人者の一人です。横須賀市立うわまち病院は先日の学会の会場でのアンケートによると関東では最も多くMICS-CABGを行っている施設の一つとなっているようでしたが、今後専用のデバイスなどを導入予定で、より左小開胸の症例は増加していくものと思います。この中で、テンタクルズNeoが活躍する場も増加していくものと思います。

 小開胸の弁膜症手術のように、左開胸のCABGの手術加算が認められるようになれば、さらに低侵襲の手術が普及して、合併症なく安全に治療が受けられる患者さんが増えると期待しています。
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心臓血管外科手術後の疼痛とその対策②

2018-10-22 10:45:55 | 心臓病の治療
 最近増加している小開胸の心臓手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)では、特に開胸操作による肋間神経の障害により、術後の疼痛はそのままですと、胸骨正中切開の従来の手術術式よりも術後の疼痛が強くなってしまう可能性があります。胸骨正中切開は、皮膚も骨も正中部でおそらく神経も血流もあまり発達していない部位を手術するため、感染や創部の治癒に問題が起きやすい反面、疼痛も少ない傾向にあるからです。血流と神経支配が密集している部位ほど、キズの治りもいいけど、痛みも強く感じるのだと思います。

 この小開胸の心臓手術においては、肋間神経ブロックの実施範囲を従来よりも広範囲に行うことによって、術後の疼痛が明らかに軽減している、と特に最近感じています。逆に小範囲の神経ブロックで終えた患者さんが疼痛を自覚している印象があります。実際には切離した肋間に加えてその上下の肋間も追加して冷凍凝固装置で神経ブロックすると疼痛が少ないようです。
 神経ブロックしたために、痛みは感じなくてもその分、近く鈍麻した異常な感覚を自覚する人もいます。


 冷凍凝固以外の方法としては、局所麻酔薬の肋間神経周囲への局所注射を行っている場合もあります。

 冷凍凝固装置に代わる方法として、液体窒素による神経ブロックや、ドライアイスの使用を検討しています。
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食欲の秋・美食の秋・美食学=ガストロノミー

2018-10-20 13:38:43 | 心臓病の治療


 心臓血管外科で扱う疾患には、生活習慣病が多いので、治療や予防が食事に直結します。
 今は、食欲の秋、世の中にはおいしいものが氾濫しています。この誘惑は何物にもまして強いものがあります。人生の幸せの一つがおいしいものを食べること、といって反対する人はいないと思います。まさに、葛藤の秋であります。

 ガストロノミー = 日本語では「美食学の追求」という意味合いでしょうか。日本料理やフランス料理では美食の追求が、まさに美食道として確立されれいます。これに加えて美味しい=健康的と100%イコールであればなんの迷いもないのですが・・・。

 患者さんには、食べ物を控えるように、といっておきながら、手本になることははっきりいって「無理」ですね。

 美食学 というより、満腹学に陥りやすい気がします。

https://asahinagastronome.com/youtube-movie-asahina-gastronome-vol-1-is-uploaded/

https://asahinagastronome.com/ おすすめのガストロノミー
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癌関連凝固障害・静脈血栓症

2018-10-17 23:03:33 | 心臓病の治療
 癌細胞が賛成するいろいろなサイトカインや蛋白などによって、凝固活性が上昇し、血栓ができやすくなる状態ができるそうです。
 一般に癌患者さんの死因の半数以上は癌そのものが進展したことによる腫瘍死ですが、死因の第2位は静脈血栓に起因する凝固異常(9%)だそうです。また、逆に静脈血栓症をみたとき、それをきっかけに癌が見つかる可能性も、静脈血栓症がない人に比べて有意に高いそうです。静脈血栓症を前触れなく発症した時は悪性腫瘍がないか、検索する必要があるそうです。
 癌患者は静脈血栓症を発症しやすい為、また、癌の治療行為そのものが静脈血栓症を起こしやすい状態を作るため、癌患者さんには抗凝固療法による静脈血栓症予防が重要と言われています。
 海外では低分子ヘパリンの皮下注が有効と、ガイドラインでも推奨されていますが、日本国内においては、静脈血栓予防に低分子ヘパリンは保険適応となっていないため、ワーファリンやXa阻害剤(DOAC)の考慮が必要となります。また、抗凝固療法中の出血イベントも癌患者では有意に高い為、その管理には慎重さが必要となります。

 心臓血管外科医は癌患者の治療に直接かかわることは少ないのですが、静脈血栓症を診療することは少なくありません。最近はXa阻害剤の普及により一般内科の医師も診療する機会が増えていると思います。血栓症の陰には悪性疾患が潜んでいないか、その考えで診療にあたる必要があります。
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腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤の人工血管置換術のアプローチ:後腹膜アプローチ

2018-10-17 06:08:08 | 心臓病の治療
 腹部大動脈瘤、腸骨動脈瘤の人工血管置換術のアプローチには、通常の腹部正中切開によるアプローチと、腹部斜切開から後腹膜経由で到達するアプローチの二種類があります。
 腹部正中切開のメリットは視野がよいこと。腹部大動脈瘤の手術では最も多く用いられるアプローチ。視野が良好です。非常に低い頻度ですが、癒着による腸閉塞が起こる危険があります。また腸管の蠕動抑制により食事の開始を遅らせる必要があります。術後の呼吸抑制による肺炎のリスクも若干ながらあります。術中の不感蒸泄もあります。
 一方、後腹膜アプローチでは開腹しない=腸管を露出させない、ことにより開腹のデメリットがありません。食事も術直後から開始でき、呼吸障害や腸閉塞のリスクもありません。斜切開だけでなく、正中切開から後腹膜アプローチに到達する方法もあります。デメリットはより腎動脈に近い操作が必要な時には視野が不良であること、対側の内外腸骨動脈には到達が困難であることです。一方片側の腸骨動脈領域には到達が症例によっては腹部正中切開よりも良好です。
 どのアプローチがベターかは、患者さんの病変によって違うので症例ごとに検討しますが、一般に腸骨動脈瘤が後腹膜アプローチの対象になることが多いです。
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医学部入試の不正?二浪以上、女子受験者を区別するのは不正なのか?⇒男女平等の世界を目指す

2018-10-16 06:35:00 | 心臓病の治療
 某大学医学部の入学試験で、女子の受験者が合格しづらいように操作している、または最近になってあらたに二浪以上の受験生が同様に合格しづらいように操作している、という報道がされ、大学側も報道陣に謝罪しているようですが、これは不正と言っていいのか?正しくは不正として片づけてしまっていいのか?という問題があります。社会的な機能を考えると、女医をたくさん作ると、皮膚科や眼科などマイナー診療科に進む医師が増えて、外科やもちろん心臓血管外科医などの時間も拘束され体力も要求される診療科に進む医師が減ってしまう、という社会的事情を心配したり、二浪以上の受験者を合格させると現役の受験生に比べて成績が振るわず、ついてけない学生が多くなる、という不安があるため、こうした差別というか、区別が慣例的に起こってきたのは事実です。自分が受験した30年前は女性の医学部学生の比率は2割前後で、特に女性が少ない医学部でしたが、女性は結婚して途中で業務から離脱してしまう、結婚して他県にミッションを放棄していってしまう、などの懸念から入学試験の段階でハードルを設けていると聞かされていました。その当時は誰もが納得のいく説明と思っていました。また残念ながら自治医大では各県によって医師が派遣される部署が決まるため、臨床の現場を経験することが難しい都道府県もあり、そうした県の採用学生が圧倒的に女性が多い、という現実もありました。その都道府県出身の女性は卒業後はOLになった、と言っていました(医療行政に派遣されたので臨床で患者さんに接する仕事ではない、という意味です)。性別の区別関係なく、一人の医師を育成するのに何億も税金が投入されている、ときくと、定年まで医師として社会に貢献すべきで、他の男性が医師になりたいのを押しのけて合格して医師となった女性には決して、途中で専業主婦になったりすることなく人生を医師として全うする義務があります。今までそうした女性医師が、女性の社会的地位を低めてしまった面もあると思います。

 たしかに受験要綱に、募集人数の記載はあっても、もともと男女の区別で合格人数を最初から提示していないので、公正な受験と言えないのは事実でしょう。
 自衛隊の隊員も最近は可能な限り男女の区別なく採用され、男性しか行っていなかった業務にも女性が進出してきています。それには男性以上の努力と能力が必要なことは間違いなく、そうした先進した女性の活躍のおかげで女性の社会的地位が徐々に繋がっていくのだと思います。

 現在の医療事情を鑑みると、女性医師の活躍は目覚ましいもので、最も男性的と思われる心臓血管外科でも女性医師が徐々に増加していき、男性以上のスキルを持つ女性医師が実際に存在するのも事実です。今後、女性の心臓外科教授や部長など、女性医師の管理職も今後出現していくと思いますが、それにはまだ時間がかかると思います。やはりこのフィールドにおいても、男性以上に活躍する女性が牽引してその同等に、もしくは同等以上に扱われる権利を勝ち取っていく、という事実は今後も変わりません。それ以上に男性医師も競争を頑張っていますから、少なくともそれを凌駕する必要があります。残念ながら途中で投げ出してしまう、突然前触れなく仕事をやめてしまう、というような女性医師も時々みられ、女性はやっぱり・・・と思う事もありますが、同様のことは男性の医師も時々あるので、実は性別は関係ないと思います。


 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科においても5名のスタッフのうち、2名の女性医師がチームを構成していますが、男性と同等、もしくは同等以上に働いています。
 また内科や麻酔科、救命センター、集中治療部などにも女性医師が複数名いて、男性と全く同等に働いています。女性だから、どうこうと懸念する心配のいらない時代になってきたとも思います。
 こうした周辺状況を考えると、男性と女性、全く区別せずに業務が遂行されている為、最初の入り口である医学部受験で男女区別する必要はないと思います。その代り、自治医大のように若い時期の一定期間、へき地勤務を経験するミッションがあるのは、結婚・出産のライフステージと重なってしまうデメリットがあるのは事実です。それを懸念して採用を控えている、という現実があるのも事実ですし、あえて女性の受験生が少ないのかもしれません。男女平等に扱われるのには、それなりの犠牲が必要になってくる場合もあり、犠牲を払わずに業務を継続していける環境作りが次に目指すステージだと思います。
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MICS(右小開胸)での大動脈弁+僧帽弁の二弁手術

2018-10-14 11:17:03 | 心臓病の治療
 MICSが今年から保険の加算が認められるようになり、今後神奈川県内でも活発に行われるようになると思います。
 横須賀市立うわまち病院でも、安全に実施可能な症例では右小開胸の弁膜症手術を採用しているので、今年の僧帽弁および大動脈弁の単弁手術はほぼ全てに右小開胸手術を採用しています。
 また、肺静脈隔離術や左心耳の縫縮など不整脈手術の一部にも右小開胸で対応しています。
 
 では、大動脈弁と僧帽弁の同時手術はどうか、というと、当院ではやや創を大きくすることで(8⇒10cm)右小開胸の手術で症例によっては対応します。まだ症例は少ないですが、この方法だと、術後の回復も他のMICS同様に早く、実施した患者さんも退院してすぐに仕事に復帰可能となっています。他の施設でもまだ大動脈弁+僧帽弁の同時手術はほぼ行われていないようです。

 安全に確実に実施可能ということが、必要ですが、可能な症例には適応を広げていく予定です。
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医療の本懐とはなにか=治療を放棄しないこと・高齢だからと言う理由だけで治療を断らないこと

2018-10-11 22:57:50 | 心臓病の治療
 医療とは、病気を治すこと、苦痛を和らげること、これが癒しというものと考えます。

 哲学的なことを時間をかけて考える余裕というか、プロセスに時間をかけることはあまり心臓血管外科医はありませんが、患者さんが助けてほしい、苦痛を取ってほしいという要望にダイレクトに応答する反射神経のようなプロセスは、通常の心臓血管外科医なら持ち合わせていると信じています。

 建前はそうでも、実情はそうもいかない現状もあります。90代の急性大動脈解離が搬送され、緊急手術が可能な病院へ依頼しても、高齢、という理由だけで、治療の適応がないといって断られてしまう、こうした事実があります。また、術後の合併症で、もしかしたら他の診療科の応援がほしいと思っても、同じように高齢という理由だけで、それ以上の治療適応がない、と言われてしまう事もあります。この一週間で二度もそのような反応を目の当たりにして、世の中は残念な医者が多い、と思わざるを得ませんが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、基本的に医療の本懐は患者の苦痛を和らげることを本懐としているため決して年齢だけを基準にそのような対応はしていないつもりです。それを具現化する証拠として、90代の症例の緊急手術を何例も受け入れています。
 とはいえ、高頻度に、高齢という理由だけで治療を放棄してしまう現実を目の当たりにすることが非常に残念に思います。

 なぜ、治療途中で、DNAR(Do Not Attempt to Recuscitate = 心臓が止まっても蘇生しません=この患者さんに対して救命措置はしません)の承諾書を家族を説得してまでサインさせるのか、理解できません。まだ診断もついていない救急患者に対して、まず最初に蘇生不要の同意書のサインを強要する救急医も見てきました。その後に急性大動脈解離と診断がついて、それで心臓血管外科が要請されて緊急手術で救命する、こうした現状があるのも事実です。

 もちろん、十分な検討の上、それ以上の治療は行わない、という判断をするのも妥当な事例もありますが、それでも患者さんの苦痛や不安を取り除く努力を最後まで続けることが、医療の本懐だとおもいます。

 最近は緩和医療という言葉や専用のセクションも出来ているのも事実ですが、全ての医療スタッフに行きわたっているとは言えない現状があるのも事実です。緩和医療に携わっている部署だけでしか通用しない現状があるのかもしれません。

 すべての医療者は、患者さんの苦痛を緩和する、病気を治す、困っている人を助ける、それを医療の本懐とする。そうした行為によって患者さんやそのご家族に喜んでもらう、ということを最大の喜びにしているのが医療者のはずです。こうした基本を忘れないでもらいたいと個人的に思いますし、自分も常にそうありたいと思います。
 
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僧帽弁再形成術:日本胸部外科学会総会

2018-10-10 06:13:07 | 心臓病の治療
 今年の日本胸部外科学会総会は東京、品川で開催されました。昨年は札幌で行われ、手術の合間をぬって日帰りで札幌往復するのはなかなかきついものがありました。横須賀から品川までは電車で乗り換えなし、Door to doorで1時間です。京成線の停電や京浜東北線の火災の影響で一日はひどい目にあいましたが、開催4日間のうち、珍しく3日間、会場に足を運ぶことが出来ました。一日は緊急手術の為、卒後教育セミナー、安全講習会は参加できませんでした。また、指導医講習会もスケジュールが合わず、出席できませんでした。心臓血管外科専門医の更新にはこうした、学会出席、卒後教育セミナー、安全講習会の参加が必要で、また、指導医講習も今後必要と言われております。臨床に忙しいから、という理由で学会に出席できなくなると、専門医が維持できなくなる、こうした事例もあると聞いたことがあります。

 さて、今回は横須賀市立うわまち病院心臓血管外科からは「僧帽弁再形成術の経験」について口演しました。前任地での僧帽弁再形成が成功した16例中4例のうち、筆者の執刀症例が3例であったため、うわまち病院の症例を含めて筆者の執刀経験をまとめたところ、7例の僧帽弁形成術後の再手術中、最初の1例を除いて、残りの通算6例で再形成術が成功している。僧帽弁再形成には、僧帽弁逆流再発のメカニズムの詳細な分析と、その病変に適した手技で形成に挑戦することが成功のカギである、という内容で発表しました。
 会場からは、ただでさえ危険性のある弁膜症再手術で再度形成に挑戦する意味があるのか、というような指摘もありましたが、筆者が考えるに、明らかに僧帽弁形成の方が弁置換を行うよりも術後の生命予後が良好であることは一般に言われていることであり、しかも、再形成のほうが、弁置換よりも手術の手技上の危険性は少ないと考えています。しかも手術時間は再形成する場合も、弁置換とする場合もほぼ変わりはありません。
 再形成におけるほとんどの症例で、人工弁輪の再縫着をしていますが、初回手術の症例よりもサイズの小さい人工弁輪を縫着する症例もあります。最近は、小さい人工弁輪を縫着した為に、運動時などに相対的な僧房弁狭窄症を呈する術後症例があり、運動対応能の低下や心房細動の発生率が上昇する、などとする報告もあり、より大きめの人工弁輪を選択するべきと言われてきております。しかしながら、僧帽弁逆流を停止させることが手術の目的であり、確実な逆流の制御に最も適したサイズの人工弁輪を縫着することが最も重要です。小さめの人工弁輪を縫着した症例の中で、左房―左室間の圧格差が有意に上昇した症例はないので、臨床的に問題はないと考えます。
 施設によってはほとんどの初回手術症例をMICS、いわゆる小開胸の手術で行い、逆流が再発した症例にはすべて人工弁置換しているという発表をしているところもありました。弁置換よりも弁形成がより低侵襲である、という概念からすると、二回目の手術も可能な症例は弁形成を試みる価値があると思います。

 僧帽弁形成術後に逆流が再発する原因として、人工腱索が伸びきってしまう、という事例が各施設で経験されており、現在使用しているゴアテックス(ePTFE)の糸の性能の限界か、という意見もありましたが、これはより複数の人工腱索を使用して、一本一本の人工腱索にかかる緊張を減らす、そして、一本に変化が起きても他の人工腱索でささえることで、逆流再発をしにくい環境を初回手術でつくることが重要と考えます。
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