横須賀うわまち病院心臓血管外科

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心タンポナーデに心臓マッサージは無効であり、肝破裂を起こすことがあります

2023-11-03 10:26:42 | 心臓病の治療
カテーテルアブレーション中に心嚢内出血し、心臓マッサージをしたところ肝臓から出血して死亡した事例があるとネットの記事で拝見しました。

心タンポナーデに心臓マッサージは無効であることは心肺蘇生の授業などで勉強しているはずですし、ドレナージが必要であることは他のコメント頂いた先生たちに同感で、全く正しいです。ただあまり知られていないこととして、心タンポナーデの状態で強力に心臓マッサージすると、静脈圧が急激に胸骨圧迫時に上昇して、この上昇した静脈圧で肝破裂を起こすことがあります。おそらくこの症例も、同様のメカニズムで発生した肝損傷です。その場合は通常のドレナージだけでは救命できず、直接肝臓を修復する手術が必要になります。肝静脈経由の出血のため、通常の肝損傷の時に行う肝動脈の閉鎖目的のプリングル法は無効で、直接肝破裂部を縫合閉鎖するなどの処置が救命には必要で、経験のある外傷外科医や肝臓外科医の力が必要です。筆者は、心筋梗塞の左室破裂で同様の肝破裂の経験があり、開胸での心臓のBlow Out破裂の止血に加えて、肝破裂部位を肝臓外科医が止血して救命した経験があり、それ以来同様の症例を数例経験し救命しております。

  対策としては、①心タンポナーデに胸骨圧迫による心臓マッサージは無効であり、ドレナージが優先されるべきであることを知ること ②穿刺によるドレナージは、心嚢液が凝結して血餅になってしまうと向こうのため、剣状突起下もしくは左開胸での心膜切開からのドレナージが必要で、それでも出血が続く場合は胸骨正中切開による止血が必要であることを知ること(だいたい右房、右室、肺動脈からの出血で左開胸では止血が困難な可能性があります)、③心タンポナーデに心臓マッサージをすると、瞬間的な圧迫による静脈圧上昇が肝破裂を起こすことがあることを知ること です。臨床の現場知識としては重要なことですので、できればすべての医師に周知してほしいです。
コメント
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