横須賀うわまち病院心臓血管外科

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小開胸大動脈弁置換術の臨床経験「MICS-AVR」:第3回心不全パンデミック講演会

2020-01-29 13:42:04 | 弁膜症
高齢者の心臓疾患が増加するなか、低侵襲な心臓手術「MICS」の需要が高まっている
 心不全パンデミックといわれるように、高齢化に伴い心不全の患者さんが激増しています。同時に高齢者に対する心臓手術も増加しています。実際、当院では心臓血管外科で開心術を行う患者さんの30%以上が80歳以上の高齢者です。
 特に、大動脈弁狭窄症は高齢者数に比例して増加する特徴があります。そのため手術の対象患者さんは今後も増加し続け、年齢もますます高齢化していくと考えられます。そこで、「MICS(低侵襲心臓手術)」が、近年徐々に広まりつつあります。MICS(ミックス)とは、「Minimally Invasive Cardiac Surgery」の略で低侵襲心臓手術という意味で

横須賀市立うわまち病院におけるMICS
 当院ではMICSが適応となる患者さんに対しては、以下の手術をMICSで行っています。
大動脈弁置換術
僧帽弁形成術/置換術
三尖弁形成術
冠動脈バイパス術
心内腫瘍・血栓切除術
左心耳切除術
メイズ手術(肺静脈隔離術)
 多くの病院では、冠動脈バイパス術は胸骨正中切開で行われることが多いですが、当院では左小開胸のMICSで行っており、3枝病変まで対応しています。また大動脈弁と僧帽弁疾患の同時手術にもMICSで対応しています。

 2018年に当院で行った全110例の心臓手術のうち41例(37%)はMICSで行っており、大動脈弁置換術は40%、僧帽弁置換術は66%、僧帽弁形成術は57%がMICSによる手術でした。

横須賀市立うわまち病院におけるMICS-AVR−ストーンヘンジテクニック
 それでは、当院におけるMICS-AVRについてご説明します。MICS-AVRとは、小開胸大動脈弁置換術*の略です。
 当院では「ストーンヘンジテクニック」という方法を用いてMICS-AVRを実施しています。術野が、イギリスにあるストーンヘンジという遺跡に似ていることから、このような名称で呼ばれています。
大動脈弁置換術…大動脈弁狭窄症(弁が狭くなること)や大動脈弁閉鎖不全症(弁が閉じにくくなること)に対し、壊れた弁を人工弁に置き換える手術

 ストーンヘンジテクニックは、心膜を糸で吊り上げて、心臓を右胸壁方向へ引き寄せる方法です。大動脈弁はMICSの切開創からは約12〜15cm離れており、そのままでは大動脈弁に手が届きません。そのため、柄の長い特殊な持針器や鑷子
せっし
を用いて行われることが多いです。
 しかし、ストーンヘンジテクニックで心臓を引き寄せることで、そのような特殊な機器を使用する必要がなく、胸骨正中切開と同じようにMICS-AVRを行うことが可能です。
 またMICS-AVRでは、血流が漏れないように糸でしっかりと結ぶことが重要ですが、通常の方法ではノットプッシャーと呼ばれる機器で間接的に糸を結ぶため、感覚が分かりづらいことがあります。しかしストーンヘンジテクニックは、手で直接糸を結ぶことができます。MICS専門の手術器具なくても、糸結びをしっかりとできる点は、大きな特徴といえます。
 右小開胸が難しい場合には、胸骨部分切開のMICS-AVRを行います。最近では、大動脈弁狭窄症の90歳以上の症例に対してもMICS-AVRを行っており、術後およそ1週間後にはご自身で立つことができるまでに回復されています。
 これから先、高齢化がさらに進んでいくことによって、治療法はどんどん低侵襲化していくと考えられます。そのなかで、カテーテル治療であるTAVIが進化していく一方、MICSも今後さらに進化していくことでしょう。
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心不全に対する外科的治療の新たな動向:第1回心不全パンデミック講演会要旨

2020-01-29 13:39:05 | 心臓病の治療
進歩する心不全の「外科的治療」

 心臓血管外科の診療における手術の約半数は、「心不全」に対するものといえます。
 心不全の主な手術としては、虚血性心疾患の手術(冠動脈バイパス術、左室形成術、心筋梗塞合併症手術)、弁膜症手術、先天性心疾患の手術などがあります。
 虚血性心疾患の手術方法は、21世紀に入ってから進歩し、現在日本では人工心肺を使用しない「心拍動下冠動脈バイパス術(オフポンプ CABG)」が主流になっています。オフポンプ CABGは人工心肺を使用しないため、患者さんへの負担の少なさや、治療費の削減などに貢献しているといえます。
 また、手術手法も進歩しています。たとえば「左小開胸の冠動脈バイパス術」は、胸骨正中切開(胸の真ん中を縦に切開する方法)を行わないため、縦隔炎※6のリスクを抑えることや、早期に社会復帰ができることなどが期待されます。また弁膜症の新たな手術方法として「右小開胸での僧帽弁形成術」もあり、早期の社会復帰を目指せる手法と考えられています。当院では患者さんの状態に応じてよりよい治療を提供できるよう、こうした手術手法の検討も行います。

外科治療のこれからの課題とは
 心不全の外科手術における課題のひとつは「難治性で、治療法が心臓移植のみと考えられる方」への治療です。法律の改正によって移植数は増加していますが、現在でも移植の申請数が臓器提供数を上回っている状況は変わりません。
 近年海外では、心臓移植に代わる治療法として、長期の在宅治療を目的とした人工心臓治療(Destination Therapy:DT )が注目されるようになってきました。日本でも導入が目指されています。こうした新たな補助人工心臓の登場が心臓移植の対象となる患者さんにとって福音となることが望まれます。

※6 縦隔炎(じゅうかくえん):心臓の手術などの後に生じる感染性合併症のひとつ。手術部位の周囲に感染をおこして縦隔(じゅうかく:左右の肺のあいだの領域のこと)に膿(うみ)が溜まる症状のこと
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武漢:ブカンではなく、ウーハンではないの?

2020-01-29 13:22:06 | その他
 日本語における外国の名称の発音はその土地の発音に近いものをカタカナ表記して発音することが一般的です。これはその国、国民の発音に経緯を払って尊重する姿勢があるため、と考えられます。
 たとえば、北京はペキン、上海はシャンハイ、香港はホンコンなどですし、Firenzeはフローレンスではなくフィレンツェ、Romaはロームではなくローマ、Veneziaはベニスではなくベネチアなど。
 今話題の中国の重工業都市、武漢に関しては、地理の授業で「ウーハン」と習いましたし、中学、高校の授業で使用した地図帳にも「ウーハン」を記載されていました。これって最初にニュースで報道されたまま伝播して、そのまま定着してしまうよろしくない日本特有の現象でしょうか。

 他に間違ったまま定着しつつあるものでは、僧帽弁用のカテーテル治療で使用するMitraclipを、実際にはミトラクリップが発音すべきところを、誰が間違ったのか、マイトラクリップと呼び始め、販売している業者のパンフレットにも残念なことに「マイトラクリップ」と記載されてしまっています。

 他に、携帯電話を、ケータイと呼ぶのもものすごくおかしいのに、言葉が一人歩きしてしまっている現象、日本語ではよくあることです。

 ブカンで統一されたら、他の都市、チンタオ(青島)はセイトウ、ナンキン(南京)はナンキョウとかになりますかね。成都はたしか地図帳ではチョンツーとかかれていましたが、「セイト」と発音されているのを聞いたことがあります。いずれにしろ、言葉は生き物ですので、定着してしまうと生き続けてしまうもののようです。
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横須賀を舞台とした病院ドラマ

2020-01-25 16:50:22 | 心臓病の治療


横須賀を舞台として、海の見える街にある病院を舞台に医療ドラマがNHKによって製作されるよていです。次週、写真を撮影した地上100メートルのビルの屋上から横須賀を一望したシーンを撮影予定です。他にも庶民的な?若松マーケット等が撮影に使われるようです。貫地谷しほりさんが女医さんとして主演するラブストーリーとのことです。

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鮟鱇ラーメン

2020-01-25 08:13:51 | 日記




懐石料理メインの料亭 くら馬がプロデュースする高級ラーメン店、麺くら馬、前回の秋のトリュフラーメンに続いて、この冬の限定ラーメンは、鮟鱇ラーメンです。濃厚スープにあん肝がたっぷり溶け混んでいてDHAたっぷりの絶品です。昨年の冬はすっぽんラーメンでしたが、鮟鱇ラーメンもかなりうまいです。

これを食べるためにわざわざ遠出をする価値がある、これはまさに★★★。
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やがら

2020-01-25 08:03:30 | 日記






やがらってお魚、ご存じですか?槍のようなゴボウのような細長い魚です。細長いと行っても鰻や穴子のようにクネクネ曲がることなく、基本的に一本の棒のようにまっすぐな姿勢でものすごく速いスピードで泳ぐことができます。ダイビング中に海中で見たときはまるで矢が飛んでいるような速さで泳いでました。

めったにお魚やさんに並ぶことはないので、たまたま見つけたので買ってみました。横須賀ではあまりとれるものではなく、主に九州や西日本で食されている魚だと思います。

お刺身は脂が乗っていてしかも歯応えがよく、まるでクエの刺身のようでした。また、塩焼きも上品で絶品。初めて食べるの食感で、懐石料理で出したら、そのお店、★がとれます!細長くて食べるところあまりないのかと外見では思いましたが、十分楽しめるボリュームがありました。

まだまだ美味しい魚、たくさんあります。魚を食べて健康になりましょう✨
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日本における急性大動脈解離の緊急手術の成績は世界一!?

2020-01-23 09:37:36 | 大動脈疾患
 European Journal of Cardiothoracic Surgery doi:10.1093/ejcts/ezz323
 Patient trends and outcomes of surgery for type A acute aortic dissection in Japan/-
によると、日本の心臓血管外科データベースを利用した2008年から2015年の8年間に手術を実施された急性大動脈解離11000例以上の解析結果が報告されています。
 これによると、11843例の解析を行い、上行大動脈置換術の30日死亡率は7.6%、弓部大動脈置換術のは9.5%といずれも10%を切っており、特に2008年から2009年の成績と2014年から2015年の成績を弓部大動脈置換術で比較すると12.7%から9.5%と有意に改善しております。上行大動脈置換術においてはこの年代による死亡率の差は8.4%と8.5%と差はありませんでした。
 海外のデータベースを利用した成績調査では15-20%の死亡率の報告があり、それに比較すると日本国内の成績がきわめて優秀といえます。これは日本の心臓血管外科医の技術が素晴らしい、ということもさることながら、日本の救急医療体制、CTの普及率など社会的な基盤が整備されていることも関係していると思います。

 この中で、80歳以上の患者さんが12%から20%と増加し、また特に腎障害(Cr>2)を有する患者さんが有意に増加しているにもかかわらず、成績が向上している点が素晴らしいと思います。
 オープンステントが商業ベースで使用できるようになったのが2014年なので、この研究対象期間の後の調査をすると更に成績が向上している可能性があります。

 ちなみに横須賀市立うわまち病院心臓血管外科における急性大動脈解離の手術死亡率は、この3年間においては3/30と3%となっております。
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ドクターG:内科は診断学、外科は治療学

2020-01-23 09:22:54 | 心臓病の治療
 NHKの人気番組だったドクターG、録画してあったものを視聴しました。一つは、いろいろな愁訴の患者さんを身体所見、病歴から診断するまさに、総合医の診断能力が試されるような内容。腰痛で受診した患者さんが最終的に、パーキンソン病だったという結論。門外漢の外科医としては、最後の答えを聞いても全く理解できない、というか、納得できない内容でした。しかし、診断を突き詰めてようやく診断がつく得意なケースではあっても、そこまで執念深く診察することに内科医の醍醐味があるのだ、とも思いました。医師国家試験を受験して間もない研修医の頭の中にはまだフレッシュな知識がたくさん詰まっていて、二十年以上名前を聞いたことのない病名がたくさんぽんぽんと出てくるところにはさすがに年齢を感じました。
 さて、その次回は、三大疾患シリーズ、で不安定狭心症の症例に対して心臓外科医がナビゲーターとして出てきて解説する構図でした。内容は3年前の番組とはいえ、専門医から見ると最良とはいえないし間違いの多いものでしたが、唯一、正しいと思えたことは、その医師が「医師は診断して終わりではない、そこからどう治療していくかだ」「患者さんが家に帰って手術して良かったと思って初めて手術は成功したといえる」といい、そこからその患者さんの手術について詳しい解説をしていく、というものでした。最近の医療ドラマはかなり洗練されて専門医も楽しめるような内容になっているものばかりなので、NHKとしては、もうちょっとひねった内容の濃いものにしてもらいたかったです。

 内科医は診断名を当ててそれで終わり、そういう内容の番組が多いドクターGでしたが、珍しく治療の実際を魅せようとする姿勢は斬新ではあったと思います。
 内科は診断学、外科医は治療学。学生時代は診断するプロセスをあまり考えないですぐ手術をしようとする外科のことを低く見るような大学教育を受けましたが、その患者さんによって微妙な調整を必要とする外科はまさに治療学なんだということは、外科医になって初めてわかったことでした。
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弓部大動脈置換術におけるShaggy Aorta Syndromeに対するBrain Isolation Technique

2020-01-20 23:22:34 | 大動脈疾患
 弓部大動脈瘤のにおいて粥状硬化の著しい症例=Shaggy aortaでは、特に脳梗塞のリスクが高くなります。これは大動脈の操作において大動脈壁からはがれた可動性の粥腫が脳に塞栓を起こすためで、人工心肺を回して大動脈内の血流パターンが変わった瞬間に起こる可能性や性状の悪い頸部分枝にカニューレを挿入する操作などでも起こります。
 これを可能な限り回避する方法の一つがBrain Isolation Techniqueです。これは、大動脈を介して弓部分枝に人工心肺中に血流がいかないようにする方法で、具体的には両側腋窩動脈から送血し、同時に左総頚動脈は人工心肺開始と同時に遮断して、遮断部位の遠位側を切開してこの切開孔から選択的脳還流を行う方法です。この方法では脳還流するための操作を、より性状の良好な部位を操作することも予防に繋がっています。両側腋窩動脈を露出して人工血管を縫着するなど手技や回路が複雑になり、手術時間もシンプルな弓部置換に比較して2時間近く長くかかりますが、より安全な方法を選択することが結果的に早く終わり早期に退院することにもつながります。

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ミシュランの★獲得

2020-01-20 07:40:31 | その他



日本橋からほど近い兜町の証券取引所の向かいにあるフレンチのガストロノミー、アサヒナガストロノーム。筆者と同姓同名のシェフが料理長をつとめるこのレストラン、開店して一年で早くもミシュランの★獲得しました。料理長によると今年はさらに上の★を目指しているそうで、ますますの活躍を期待してます。オーナーシェフのアサヒナさんも筆者と同い年で親しみやすいのですが、常連客を集めたパーティーなどに時々参加させてもらってますが、あまり有名になるとちょっと行きにくくなるかも。
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魚を食べると頭が良くなる?

2020-01-19 08:25:15 | 心臓病の治療


 横須賀は海に三方を囲まれているので、比較的多くの種類の魚が日常的に食べることができます。これは埼玉との大きな違いかもしれません。横須賀でとれるおいしい魚は?と地元の人に質問すると、鯵や鯖、という答えが返ってきます。ちょっと日常魚過ぎて残念な答えに聞こえてしまいますが、たしかに新鮮でおいしいです。筆者が思うそれ以上に横須賀でとれるおいしい魚は、なんといっても、カマス、太刀魚、ホウボウでしょう。これはほとんどさいたまのスーパーでは見ることはありません。おとなりの三浦に行くとなんといってもマグロでしょうか。今年の正月は連日大トロ三昧でしたが、こうした魚がDHAなどの良質の油を体内に多く蓄積しているのは、魚の体がこれらの油を作るのではなく、食べているものに含まれているのが蓄積していっている、と最近見たテレビ番組で言っていました。そしてこうした良質の油はかつては多くの生物が体内で作っていたのが、食事で多くとることが出来るために体内生産を放棄して外から摂取しなければならない体に進化した、ということでした。

 こうした良質の油は動脈硬化を予防する、と言われているので横須賀の人は動脈硬化が起こらないか、というと全くそうではないことは不思議なところです。
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大動脈カンファレンス

2020-01-19 08:17:20 | 大動脈疾患
 大動脈外科におけるカンファレンスが、二か月に一回程度の頻度で行われているので可能な限り筆者は参加させていただいております。大動脈手術件数日本一のハイボリュームセンターで行われているカンファレンスだけあって症例も豊富で、提示される症例すべて、とても勉強になります。若手中心で運営されている施設だけあって、参加者の中で筆者がおそらく最高齢ということもあり、参加する方として恐縮するところもあり、またざっくばらんなディスカッションが行える場所として有意義です。最近横須賀市立うわまち病院で経験した難しい症例と同じような病態の治療報告があったりして共有できるところもまた通常の学会とも違って有意義です。
 胸部外科学会の地方会と重なることが多いのでその場合は出席できないことがありますが、可能な限り参加して日常の苦労などを共有できる場でもあるので可能な限り今後も参加したいと思います。
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腎動脈再建または腎動脈上遮断する腹部大動脈瘤の腎保護

2020-01-17 07:02:19 | 大動脈疾患
 傍腎動脈腹部大動脈瘤は通常の腎動脈下腹部大動脈瘤と比較して格段に手術難易度が上昇します。その理由として術野が深くて操作しにくい、血流遮断中の腎保護が必要という点があります。
 腎保護に関しては、主に
①冷却したリンゲル液で還流する
②腋窩動脈などに吻合した人工血管から直接分枝還流する
③PCPSや人工心肺を回してその側鎖や別回路から選択的腎還流する
という方法があります。

 比較的短時間で腎動脈遮断が済むと予測される場合(腎動脈上遮断して腎動脈の別個再建は行わない場合など)は冷却したリンゲル液(5℃)で還流するだけで十分な場合が多く、横須賀市立うわまち病院でも多くの症例で行ってきました。
 腋窩動脈に人工血管を縫着して還流する方法は、前任地の自治医科大学附属さいたま医療センターで多く行われていましたが、人工心肺の運転になれている筆者としては同じ選択的腎還流でもなんらかの循環補助を使用しながら行うPCPSを使用した還流を行ってきました。PCPSスタイルでは、大腿動静脈からの部分体外循環を行うことで腸骨動脈領域を介して下半身の循環維持しながら大動脈の操作ができるメリットがあります。しかしながら出血した血液は血液回収装置で洗浄赤血球として返血されるため大量出血した場合は凝固因子が欠乏してしまいます。
 大量出血が予想される場合は、やはり出血した血液を即座に返血できる人工心肺を利用した選択的還流にメリットがあります。ヘパリン量が多く使用されるため止血困難に陥る可能性がありますが、中枢側吻合が脆弱な部位で行うなど吻合に不確定要素がある症例や吻合に時間がかかると予想される症例においては最適な手段となります。この人工心肺を使用した症例でしか救命できない症例もあります。人工心肺を使用すると脱血管さえ入っていれば、静脈側に直接返血出来るので、この返血回路があるだけで相当出血の対応にはメリットがあります。いわゆるサッカー回しのような状態です。筆者もこの人工心肺によって救われた症例を経験しています。
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腹部大動脈瘤術後の十二指腸穿孔

2020-01-16 02:02:06 | 大動脈疾患
 腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後しばらくして十二指腸穿孔を起こすことがあります。
 これは十二指腸壁が人工血管に接している場合、長期間の人工血管の拍動刺激により小腸壁に穿孔を起こすもので、これにより人工血管感染、人工血管吻合部仮性動脈瘤(破裂)などを引き起こし、死亡率の高い病態です。
 こうした状態の予防の為、人工血管置換術後は動脈瘤壁をラッピングして人工血管と小腸壁の間にクッションになるものを留置します。このクッションの目的で大網を間に充填している施設もあると聞きます。まれですがラッピングした大動脈瘤壁の拍動刺激で十二指腸穿孔を起こすこともあります。
 治療はまず、十二指腸穿孔部は通常直接閉鎖して大網充填します。人工血管を除去して同じ部位に再度人工血管を吻合留置する方法と、人工血管を除去して大動脈は閉鎖し非解剖学的バイパス術(両腋窩ー大腿動脈バイパス)を行う方法、人工血管は除去せず大網充填を行う方法などがあります。
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回旋枝領域の急性心筋梗塞はPunched Out様の左室心筋断裂によるBlowout破裂しやすい

2020-01-13 09:43:56 | 心臓病の治療
 急性心筋梗塞後に発症する左室破裂は未だに死亡率の高い病態で、救命のための緊急手術の死亡率は全国統計でも50%近くに上ります。
 特に左室破裂にはじわじわ出血するWoozing Typeと、拍動性に出血するBlowout Typeがあり、特に止血に難渋したり死亡率が高いのはBlowout Typeと考えられます。
 これはまだ一般には知られていないかもしれませんが、支配する冠動脈領域によって破裂の仕方が違う場合が多く、特に回旋枝領域の急性心筋梗塞、その中でも#11の閉塞により側壁が広範囲に梗塞を起こした症例では、Blowout破裂が多い現実があります。この特徴的なエコー所見として、すり鉢状の深掘れの心筋の欠損・断裂所見を認め、ほとんど心外膜一枚で塞がれているような所見では、Blowout破裂が発生します。前壁梗塞による広範囲なThiningとは違い、深堀れ潰瘍の周辺の心筋の壁厚は保存されていることが多くなっています。こうしたBlowout破裂の外科手術は、前壁梗塞のWoozing破裂とは全く違い、タコシールなど貼付して圧迫するなどの姑息的な手術では再破裂のリスクがあるので、基本的に左室形成のLinear Closureのような潰瘍部閉鎖する手術が必要です。
 筆者は幸い今までのBlowout破裂の手術症例はほぼ全例救命できていますが、手術中の出血の対処などその場の判断が救命を左右するような重症の症例が多いのも事実です。
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